はじめての虚言その1
ノリスと別れたリアムは彼女の言いつけに従い、地割れを沿うようにひたすら北上を続けていた。あれから日が落ちて足元が見えなくなるまで歩き続けているが、景色が一向に変化しないことに彼女は飽きはじめていた。ただ彼女の内心はそれだけではなかった。
そのことに勘付いたおもちは定位置から顔を覗かせひと鳴きした。少しでも彼女の不平不満を取り除こうとしての行動だった。はじめての人間との交流はそれほどまでにリアムにとって、とても大事なものだったということだ。創造主以外にこれほど関心を抱くとは思ってもいなかった。ノリスには感謝してもしきれない、初回としては大成功といって過言はないだろう。
「チュー!」
「暗くなってきたし、今日はここまで? リアムはまだまだ歩けるけど、足を滑らせて落ちたらそれはそれで登るの面倒やしな」
リアムはおもちの提案を受け入れると、万が一に備えて地割れから離れた。雨よけにすらならない葉が数枚、散らずに残っているだけの弱々しい木の下を今夜の寝床に選んだ。天候的にも今日は雨も降らなさそうなので、背を預けられる場所を確保できただけで十分だった。それに他の木を選んだとしても、結果は一緒で移動の手間が増えるだけだ。
朝になったら起きて歩き、夜になったら木の下で眠る。そんな日々が三日ほど続いた頃だった、リアムは長方形の建物が乱立する不思議な場所にたどり着いた。建物のほとんどが傾き崩壊し、外壁は剥がれ窓ガラスは割れていたりと、廃ビルばかりで人間が住んでいそうな雰囲気は感じられなかった。探索中は常に足元を気にしながら移動しないと、秒で瓦礫を踏んでしまうほど全面に散乱していた。
そんな空虚な空間、死に絶えたビルが連なるなかで、一つだけ明らかに他とは違うビルがあった。そのビルからは火のように揺らぐ自然な明かりではない、人工的な光が窓いっぱいに煌々と溢れ出ていた。明かりが点いているということは、そこに人間がいるはずだと思ったリアムは、明かりに群がる虫のごとく一心不乱に向かうのだった。
リアムはビル全体を把握できる距離まで近づいた。五階建てのマンションで、外壁のひび割れにはコンクリートが埋め込まれていたり、窓ガラスには透明テープが貼られていたりと、他建物と違って補修修繕した形跡があった。マンション前には棒状の鈍器を持った人間が二人いて、片方は壁にもたれかかり、もう片方はしゃがみ込んでいた。ブロック塀によって死角になっていたこともあり、まだどちらも気づいていないのか、世間話を続けていた。
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