はじめての交流その3
静寂だった部屋にドタドタと階段を駆け上がる足音が壁や床を伝い聞こえてきた。その足音は一度目よりも少しだけ重く感じた。それから数秒後、ノリスは両手いっぱいに食べ物を抱えて部屋に入ってきた。はじめて味わう心労等でリアムは、食事を持ってきてあげると言ってくれたノリスの言葉を完全に失念していた。
「おまたせ、さあ食べよう!」
「――食事?」
「あぁ食事だ。疲れた時はいっぱい食べて寝る。そうすれば明日また動けるようになる!」
「そういうもの?」
「おっ、そういうもんよ! って、皿を持って来るのを忘れたわ……そうだ、あんた。そこの葉っぱをちょっと取ってきてくれない?」
リアムはノリスの指示に従い、大量の背負い籠の下敷きになっている葉を引っ張り出した。三十センチほどある大きな葉っぱにこの香りは、間違いなく朴葉だ。殺菌作用があるとかで旧時代に重宝したと、本に書かれていた気がする。朴葉はつい最近採取してきたようで、みずみずしく傷んでる箇所もない。ということは、あの大量の背負い籠は、それよりもあとに積み重ねられたことになる。その背負い篭に対する執念深さに驚きつつも、置き場所が決まっているのであれば、やっぱりそこに置くべきではと思うリアムであった。
「ありがとうね、じゃそこの床に葉っぱを置いてくれる?」
「――了解した」
リアムが朴葉をレンガ床に置くと、ノリスは待ってましたとばかりに両手を開放した。
「私も晩飯食べ損ねたからね。あんたもお腹減ってるだろ? 早速いただきましょう!」
人工生命体である彼女は食事をとらなくても、生命活動に支障をきたすことはない。一万冊の本を読み終えるまでの間、食事どころか水の一滴すらもとっていない。お母さんの食事も一日一錠だけ錠剤を摂取するだけだった。五感は備わってはいるが、味覚を使用するのは今日がはじめて未知の領域。
朴葉の上に置かれた食べ物はザックリと三種類に分類できた。何かの肉を乾燥させたもの、何かの穀物をこねて焼いたもの、それに今日採取していた雑草。冷え切っている上に、見た目も食欲を誘う感じではない。それを目の前の人間は美味しそうに手づかみで食べている。
「もぐもぐ……あんたも食べな? そういや、あんたの名前まだ聞いてなかったね。私の名前はノリスって言うんだ、よろしく……もぐもぐ」
「――リアム、よろしくノリス」
「やっと緊張がほぐれてきた? カタコトだったのが少しだけマシになってきてる……もぐもぐ」
「人間との会話はじめて」
「人間……あぁ親以外とってことね。なるほど、そういうことなら私が練習相手になってあげる。リアムがここにいる間は、一応私があんたの保護者になるわけだしね?」
「――感謝する」
「またあんた……リアム、カタコトに戻ってるわよ。まあ今後のことは明日考えましょう。今日はご飯を食べてさっさと寝よう。さ、食べな食べな……もぐもぐ」
「いただきます」
最後まで読んでくれてありがとうございます。ブックマークや高評価もしていだけますと、作者のトラが飛び跳ねて喜びます。




