はじめての交流その2
「長、ただいま戻りました」
「うむ……そちらは?」
「そのことでお話がありまして、少々お時間よろしいでしょうか?」
「構わん、ノリス。話してみよ」
「じゃ、話すよ。この子、旅の途中で親とはぐれてしまったらしくて、一人でこの辺をウロウロしてたのよ。で、さすがに放ってはおけなくて保護したんだけど……暫くの間、ここにおいてあげてもいい?」
「滞留させても良い。ただし、条件としてノリス、お前が彼女の面倒をみよ。少しでも集落に不利益があると判断したら、すぐに出て行ってもらうぞ。それと……儂に会う際は家族といえど、最後まで礼節を保て、周りに示しがつかんぞ」
「はい、分かりました……でも、今回は結構頑張ったほうだと私は思うんだけどな」
リアムはこの時はじめて人間にも呼称があるのだと知った。保護してくれたこの人間はノリスというらしい。そして、二人の会話を聞く限り、眼前にいる人間はノリスの親族なのだろう。不満げでありながらも名を呼ばれ嬉しそうに話すノリスを見たことで、久しく自分の名前を呼ばれていないことに気がついた。おもちは鳴き声やジェスチャーで意思疎通をとってはくれるが、言語を発することはできない。もどかしいと一度も感じたことはないし、それが当たり前だと思っていた。ただお母さんが家にいた時は何かにつけて名前を呼んでくれていた。のちに彼女はそのことが起因となり、ノリスにリアムと呼んで欲しいけど、人間に気安く呼ばれたくないというツンデレな葛藤に悩まされることとなる。
長からの滞在許可も無事得られたリアムは、またノリスに手を引かれ部屋をあとにした。ノリスにアパートの内部構造について説明を受けながら、あちこち連れまわされること数時間。その度、出会った住民に自己紹介もしなければならなかった。横坑から下山という過酷な道のりを踏破しても、疲れ知らずだったが、数十人に慣れない挨拶をしていくのは非常に堪えた。
リアムは最後に案内されたノリスの部屋にたどり着くと、糸の切れた操り人形のようにペタッとその場に座り込んだ。
「で、ここが私の部屋よ。ささ中に入って、自分の部屋だと思って気楽にしてもらっていいからね。って、あんた大丈夫?」
「――問題ない」
「そうだよな……親とはぐれて心細いのに、私ったら一気に終わらせようとして、ごめんな。なんか口にできるのをもらってくるから、あんたはここで休んでな」
ノリスはそう言い残し部屋を出て行った。部屋にひとりっきりとなったリアムは首だけを動かし周囲を見回した。あの長の親族とは到底思えないほど、室内は荷物に溢れていた。しかも、その大半が野草採取に使用していた背負い籠。一階には倉庫部屋があり、そこに背負い籠も保管しているため、この部屋にわざわざ背負い籠を置く必要はない気がする。家具は極端に少なく、燭台とベッドが一つあるだけだった。ベッドはレンガを長方形に組んだものに毛布を敷いただけ、寝慣れていない人は体がバキバキになるだろう。
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