はじめての交流その1
「ごめんごめん。私たち以外に人がいるなんて思わなかったから、ちょっと大げさに驚いちゃったわ」
「――問題ない」
「なら、よかった。それで、あんたはどうしてこんなところをウロウロしてるの? 親御さんは?」
「――捜索中」
「捜索中ってことは、あんた親とはぐれたのか……どこ行こうとしてたのかって覚えてる?」
「――不明」
「不明って、あんたそれも分からないってことか……もうそろそろ日も落ちて暗くなっちゃうし、とりあえず一旦、私らの集落においでよ。詳しい話はそこで聞くから、それでいい?」
「――了解した」
息巻いて人間に近づいたリアムだったが、いざ会話がはじまるとすぐに生活環境による弊害が生じた。相手の顔を見るどころか、常に視線を下ろし足元を見続け、言葉も単調と最初期の彼女に戻っていた。その振る舞いが迷子になったんだという誤解を招く結果となったが、そのおかげで特に策を練らなくても、集落と呼ばれる人間が生活する場所に、保護された少女として堂々と迎え入れてもらえるのだから、人間との初交流としては案外悪くないんじゃないだろうか。
人間に手を引かれ集落に向かうリアムは、いつの間にか胸ポケットに戻っていたおもちから助言を受けた。普通の人間はハムスターと会話することはできない。なので、目立たないようにするためにも、滞在中は理解していないように装えというものだった。
「ここが私らの集落よ。みんなにあなたのことを説明するわ……の前に、まずは長に会いにいきましょうか。さぁこっちよ!」
リアムが案内された集落は、幾重にも重ねた強固なレンガ塀に囲まれた建造物が、一棟だけある異様な場所だった。建造物は三階建てのアパートで、堀と同じくレンガ造りとなっていたが、門や扉は施錠されておらず通りたい放題。一応、門番らしき人間もいたが、非力な人間の子供が一人だけだった。外観は窓の役割として正方形にくり抜いた隙間が印象的な長方形の建造物。内観は一階ごとに四部屋あり、その全てが窓有りの角部屋になるように作られていた。そのため廊下は十字となっていて、ドアが取り付けられていない壁側のデッドスペースに階段が設置されていた。また各部屋は一室だけ除いて他は全て閉まっていた。
リアムは三階にあるその一室に招かれた。部屋の内装は至ってシンプル、正面奥に戸棚付きの机が一つあるだけだった。そんな生活感のない部屋に白髪の人間が一人、ドアを背にして窓から景色を眺めていた。
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