はじめての外出その3
リアムは希少な石をベルトポーチに仕舞うと、灯篭を背にし未知の世界に目を向けた。外界は山中とはまた違う様相を呈していた。雪が積もっていないどころか、その奥に隠れていた花のひとひらすらも存在しない荒れ果てた大地が広がっていた。草木は生えてはいるが、どれもこれも弱々しく今にも枯れ果てそうだ。芝生と呼べるような場所もなく、芝草が点々と生えているだけだった。
リアムは目を細め遠方を眺めながら、目的地についておもちに相談することにした。
「で、お母さんはどこに行ったと思う?」
「チュウ」
「俺に聞くな、ね。じゃ~、まずはどこに行くべきだと思う?」
「チュチュー!」
「とりあえずまずは道沿いに降ろうって? この先に道なんてあったっけ?」
リアムの惚けた問いにおもちは彼女の頭上から「チュウ……」とため息まじりに鳴くと、前足を前方に伸ばし地面を見澄ますように助言した。足元を注視しながら歩いていると、途中から地面の色が異なっている箇所を見つけた。横幅0.5メートルほどの狭いアスファルトで舗装された道。そこから数キロに渡って、また歩き続けることになる。最初はアスファルトの上を歩いていたリアムだったが、途中からそこを歩くことをやめていた。補修されずに放置された道はひび割れ、瓦礫も散乱していて歩きづらい。なので、道としてではなく道しるべとして活用することにした。
下山したのはいいが道もそこで終わっていて、次どこに向かうべきかでリアムは頭を悩ませていた。
「道はここで終わり。さて、どうしようかな――うん、あれは何?」
リアムは遠目に何かが蠢いているのに気づいた。目を凝らし観察すると、人間が野草を引き抜いては、背負い籠に放り込んでいた。他にも人間が数人いて、それぞれが別の場所で同様の行為をしていた。
「ねぇおもち――あれって何をしてるん?」
「チュチュチュ!」
「えっ、冗談やんね。あんな草を食べるとか正気じゃなくない?」
「チュウ~?」
「気になるなら行ってみれば――そうしようかな、もしかしたらお母さんのことも何か知っているかもしれないし、リアムも人間というのがどんな生物なのか気になるし!」
リアムは意気揚々と人間たちがいる場所に向かって移動を開始した。彼女としては何気なく挨拶をしたつもりだったが、声掛けされた人間はビクッと肩を震わせ悲鳴を上げた。思いもしなかったその反応に彼女もまた困惑し動揺した。
人間からしてみれば、自分たちしかいないはずなのに、背後から急に幼げな少女の声が聞こえたのだ。日も落ちはじめた逢魔が時、幽霊的な現象に出くわしてしまったのかと、怖れてしまうのも仕方ない。その人間だけ特に集団から離れた位置にいたことも、恐怖を倍増させた要因の一つだろう。
最後まで読んでくれてありがとうございます。ブックマークや高評価もしていだけますと、作者のトラが飛び跳ねて喜びます。




