はじめての外出その2
このトンネルもお母さんが一人で掘削して作ったものらしく、照明に関しても舗装道路と同様の仕組みになっている。なので、暗闇に恐怖さえ抱かなければ問題なく通過できるというわけだ。幸い、リアムは視界不良なため移動しずらいと思っただけで、暗闇に対しての恐怖心は皆無。何の迷いもなくドンドンと奥へと進んで行った。高さ1.6メートル、横幅0.8メートルしかない狭い空間。おもちの話では、お母さんはここをバイクで速度を落とさずに突っ切っていたらしい。家に来るまで箱に詰められていたのに、どうして知っているのだろう。
そんな疑念が生じたが、軽く触れただけでポロポロと崩れ落ちる壁によって、すぐに頭から消えた。壁はコンクリートとかで補強された形跡はあるが、経年劣化でその体をなしていなかった。壁に手が触れないように真ん中を歩いていると、出口に出会うよりも先に行き止まりを迎えた。
「行き止まり。途中に分かれ道もなかったし、お母さんはどうやってここを通ったんだろう?」
「チュ、チュー!」
「この灯篭に持ってきた石を置けばいいんやね」
リアムはおもちの指示に従い、ベルトポーチから三センチほどの小石を取り出し火袋に置いた。すると、前方の壁がゴゴゴと地響きを鳴らし動き始めた。隠し扉が開き切ったところで、忘れずに小石を回収して、数キロと続いた横坑を抜けた。隠し扉が閉じ切ると完全に山の一部となった。近くで見ても触れても本物の山肌にしか思えない完璧な偽装。外側にも同じ石造りの灯篭が配置されていたが、雨風にさらされ続けたことで、内側とは比べられないほど朽ち果てていた。宝珠や笠は破損し原型を留めておらず、火袋にはその砕けた破片が散乱している。
破片を手で払い火袋に小石を置いてみると、起動はしたが少々反応が鈍い。リアムは腰を屈め光り輝く小石を観察した。内側の灯篭に置いた時と輝き方は一緒で特に変化なし。なのに、これほど動きに差があるということは、この石が問題ではなくて灯篭のほうに問題があるようだ。寿命が尽きようとしているわけだが、その時はまたお母さんに直してもらえばいい。
この小石は魔宝石と呼ばれるお母さんが開発したエネルギーの結晶体。見た目は宝石と見間違えるほど、豪奢に煌めく鉱石。使用方法はバッテリーと酷似しており、機械の動力部に設置することで、蓄積したエネルギーを変換し機械を動かす。使用するにつれて徐々に輝きを失っていき、エネルギーが枯渇すると、灰色の石ころとなり軽く握っただけで簡単に砕け散るほど脆くなる。再充填はできないため収集家じゃない限りは使い捨てが基本となる。エネルギー量は大きさに比例するため巨大であればあるほどエネルギー量も多い。また魔宝石には様々な色があり、その色合いによって同サイズだったとしてもエネルギー量は異なる。サイズと同様に色も濃ければ濃いほどエネルギーの純度が高くなり、変換効率も向上し使用時のエネルギーロスを抑えることができる。
リアムの魔宝石はバイオレットサファイアのような深い赤紫色をしている。これはおもちが長旅になったとしても、これ一個で済むようにと精選した最高品質の魔宝石だ。
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