はじめての旅支度その1
桜色の髪をなびかせながら少女は、鼻歌まじりでハンガーラックから服を引っ張り出しては「これじゃない」と投げ捨てる。
床には大量のハンガーのかかった衣類が散乱、足の踏み場もないとは正にこのこと。ならば、こういう色鮮やかな絨毯だと思い込み、一歩踏み込むのもいいだろう。そんな狂った考えが頭を過るたびに、おもちは自分の頬を叩いて正気に戻していた。
あの時、あんなことを言わなければと、今頃になって後悔し始めた。一日中寝て過ごしたい彼にとって、家の外に出るということがどれほど面倒なことか。しかし、創造主からリアムを任された以上、常に傍にいなければならない。彼女を成長させるという一点においては、一人旅させるのも悪くないが、見守れなくなるため本末転倒。というか、本から得た知識だけで実践経験はゼロ、そして外に出たこともなく、話し相手は喋るハムスターだけ。そんな彼女を野に放ったら、どうなるか想像するだけで恐ろしい。でも、寝ていたいし動きたくない、何か名案はないものか。
リアムはハンガーラックに隣接するソファーの上で、真ん丸にうずくまっているハムスターが、そんなことを考えているとは露知らず、まだどの服を着るか決められずにいた。だが、進展もありハンガーラックと三時間にらめっこしたことで、何とか候補を三つまでに絞り込めた。これだと決めて服を手にとっても、他の服に目がいってしまい、気づけばそっちを手にとっているという無限ループ。このままだと一生決められそうにないと思ったリアムは、決定権をおもちに委ねることにした。
「こっちかそれとも、あっちか、いやこれも捨てがたい――悩ましい。おもちはこの三つのなかだとどれがいいと思う?」
リアムは返事もないままに三枚をソファーに横並びで広げていった。選びに選んだ三枚のはずなのだが、おもちの反応があまり良くない。それぞれの服を確かめると、首を傾げながら移動し最後は一番左の服の上で停止した。
「チュ……」
「これでいいじゃんって、何?」
「チュ~」
「一緒じゃないよ、ほら見てここ! 全然ちゃうこと書いとるやろ!」
リアムは声を荒げソファーを指差した。服は全て白無地のTシャツで、前面にそれぞれ別の文字が印字されている。一枚目には『昼行灯』と二枚目には『凡愚』そして三枚目には『雑草魂』と書かれていた。ついでに言うと、なぜか責められている彼が選んだものは一枚目の昼行灯である。文字の重要性について彼女は一人語りをしながら、三枚目のTシャツを拾い上げ、筆書きされた雑草魂の文字を見入った。
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