顔馴染みの行商人その7
「本来なら親父が言うべきなんだけど、あーなってしまってるからさ。イデアさん、今日は本当にありがとう。それと銃口を向けたことを謝罪します、ごめんなさい」
「私の身なりを見て警戒しない方はいらっしゃいませんよ。ですので、謝罪する必要はありません。それに夕食に関しましても、私が好きでやっているだけですし……」
「ご馳走もそうだけど、それだけじゃなくて、何て言えばいいのか考えがまとまらないけどさ。本当に僕たちも集落のみんなもイデアさんに感謝してるんだ。だからさ、集落を代表しては……ちょっと言い過ぎだけど、本当に、ありがとうございました」
「では、場所を貸していただいた謝礼として受け取っていただけませんでしょうか。そうしていただけますと、私も助かるのですがどうでしょうか?」
「――レイ。こうなった時のイデアは頑固、絶対に考えを曲げない、面倒」
「言い方が少し気になりますが、リアム様の仰る通りです。私はこう見えても頑固ですよ。それにライ様もそろそろ限界のようですが?」
レイはその問いにどう答えるべきか悩んだが、妹が頬っぺたをパンパンに膨らませて、こっちを凝視しているのが視界に入った瞬間、イデアの提案を受け入れることにした。
食事がはじまるとすぐに兄妹は口いっぱいに料理を放り込んでは、まだ飲み込めていないのにもう次の料理に手を伸ばす。
リアムは兄妹の食欲に驚き手が止まる。隣席からは「食べないの?」と「食べてあげる!」の声が交互に聞こえるたびに、料理が消失するという奇術が、料理がなくなるまで続いた。大量にあった料理の八割は兄妹の糧となった。ただそれよりも一番の衝撃だったのが、イデアがガスマスクをしたまま食事をしていたことだろうか。
夜明け前、静寂のなかでリアムは目を覚ました。昨日はみんな夜遅くまで起きていたこともあって、暴食兄妹はまだ夢の中だ。イデアがいないのはいいとして、泥のように眠っていたはずのダートがいない。そのことが少しだけ気になりつつも、おもちに小声で話しかけた。すると、テーブルに置かれた白衣の胸ポケットから気だるそうにモゾモゾと這い出てきた。
「ダートが起床――稀有。まずは身支度。出発の準備しないと、おもちもそろそろ起きろ。昨日の会話もどうせ聞こえてるんやろ?」
「チュ~」
「よく寝たちゃうねん」
「チュ、チュー?」
「出立っていうわりには、まだベッドで寝てるじゃないかって?」
「――仕方ないやんか。リアムがいま起きたらライを起こしてしまう」
リアムは自分に抱き着くライに視線を向けそう告げた。当初は苦痛で仕方なかった抱き枕化も、今では日常の出来事であり、前ほどの嫌悪感はなくなっていた。だからこそ、今現在どう対応すればいいのか判断に困っている。拘束を解除することは容易いが、両手足でガッチリと固定されているため、少しでも動けば振動が伝わり起こしてしまうかもしれない。
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