顔馴染みの行商人その2
先行するダートについて行くと、防扉の前には人間が集まっていた。監視塔を見上げると、見張りに代わってレイの姿があった。彼の手には小銃が握られ、その銃口は防扉に向けられていた。来訪者が招かざる者だった場合、即座に対応するためだろう。
リアムたちが来たことに気づいた住民は彼らを呼び寄せると、自分たちは後方に下がって様子を窺うのだった。
「リアム、このあとはお前に任せてもいいか。準備ができたら言ってくれ、お前のタイミングで扉を開ける」
ダートは少し緊張気味にそう言うと、閂に手をかけリアムに視線を移す。
リアムは秒で「うん、いいよ。じゃ開扉」と快諾すると、ダートは「俺がまだ準備できてねぇよ!」と反論しつつも、閂を一気に引き抜いた。
「おい、そこの商人。手のひらが見えるように両手を上げて、ゆっくりと入ってこい!」
「分かりました。ですが……私は貴方に言われた通り両手を上げておかないといけないので、扉を開けるどころか触ることさえができないのですが?」
「お前の知り合いは礼儀正しいっていうか、肝が据わっているというか。つうことだからよ、悪いがリアム扉を開けてやってくれ」
リアムは頷くと防扉に体重を乗せて押し開けていった。ズズズと重々しい音とともに振動が両手から伝わってくる。元々は数枚の板を重ねただけの見るからに低品質な防扉だった。それが今では匠の仕事によって、前よりも数倍分厚くなった金属製の防扉に改良されていた。ただその分、重量が増加したことによる弊害で、今までは一人で楽々と開閉できていたものが、二人がかりじゃないと開閉できなくなってしまった。防壁も全て木製から金属製に改良済みと言いたいのところだが、こっちは材料が足りず外側に金属板を張りつけただけのハリボテ仕様。
扉の先には異様な出で立ちをした商人がダートの指示に従い大人しく待っていた。商人は扉が開き切ったことを確認すると、リアムに歩み寄り話しかける。
「どうもありがとうございます。リアム様、大変助かりました。それにしても案の定といいますか、やはりまだここにいらしたんのですね」
「――肯定する。次どこに行けばいいか分からない。おもちも寝てばっかりで全然起きない――だから、イデアが来るのをここで待ってた」
「ふむ……そうでしたか。リアム様のご期待に沿えるかどうか分かりませんが、お母様のことでまた新しい情報を入手いたしました。ただ……そのお話はまた後でいたしましょう。まずは集落の皆様にご挨拶をしなければなりませんので」
「分かった――挨拶は大事。人間関係を円滑に進めるためにも重要」
「えぇ、まあそういうことです」
イデアはそう言うと、及び腰になっている住民一人一人に近づき声をかけていく。その異様な出で立ちからは想像できない物腰柔らかな言動に、挨拶された住民は困惑しながらも友好的な態度を示していった。例外として監視塔から見下ろし照準を頭部に向けるレイ、リアムの背後に隠れてその様子を注視し続けていたライ、この兄妹だけはそういった態度を取ることはなかった。
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