顔馴染みの行商人その1
散々言っているが、こんな辺鄙な土地に来る人はそうそういない。そのため監視塔などが無くても支障がないかもしれない。実際、リアム以外数十年と人が来なかったわけだし、住民が楽観的になるのも仕方がない。ただ一つ言えることがあるとすれば、少女が一人でここに来たという事実だけだ。それはつまり今後も誰かが訪れる可能性が出てきたということ。そのことに気づき危惧したのは住民のなかでは、レイただ一人だけだった。遊び半分で監視塔に上り、代わり映えのしない景色を堪能しては時間を潰す大人たち。自分の父親もそのどうしようもない集団の一員。そんな状況をどうにか打開できないかと、少年は今日も頭を悩ませながら彼らのもとに向かった。
レイが用意してくれた昼食を二人で食べていると、彼が駆けていった方角から数人の騒ぎ声が聞こえた。しかし、二人は特にそのことを気にする様子もなく、黙々と食事を続けている。監視塔ができてからというもの、見張りと称して酒を持ち寄りどんちゃん騒ぎをする大人を数多く見てきた。ここ最近は我慢の限界に達したレイの一喝によって、酒を持ち込む輩は一人もいなかった。きっと、その効果が切れただけだろうと二人はそう思っていた。だが、息を切らし家に戻って来たダートを見た瞬間、その予想は外れていたことを知る。
「はあはあ……リアム、お前がここにいないかって変なやつが尋ねて来たぞ」
「リアムに――あ~、その人。今から戦場でも行くんじゃないかって感じの服装してた?」
「してた、マジでしてた。ハンドガンにアサルトライフル、大量のマガジン。腰には手榴弾までぶら下げていたぞ」
「そっか、承知した。で、集落には入れたの?」
「いやまだだ。あんな武装したやつをホイホイと集落に迎えられるわけないだろ。つうか、マジでアレは本当にお前の知り合いなのか?」
「うん、一応は――この集落を教えてくれたのもその人。外見は不審者そのものだけど、融通の利くいい商人だよ、たぶん」
「……商人、アレが? マジで?」
「――肯定、マジで」
状況を伝えたダートはてっきりこの後すぐにリアムが行動してくれるものだと思っていた。だが、彼女は食事を続け一向に席を立とうとしない。その隣では娘のライが一心不乱にジャガイモを頬張り続けている。ライはともかく自分を訪ねてきた人物をほったらかして、食事を続行するその図太い神経。一瞬、その神経を疑い非難しそうになったが、すぐに考えを改める。そういった屈強な精神力を持ち合わせていないと、一人旅などできるはずもない。自分にそう言い聞かせ、二人の食事が終わるその時を静かに待ち続けた。
それから数分後、リアムとライは両手を合わせ「ごちそうさまでした」と食事終了を告げた。
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