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自我の芽生えその1

 人里離れた山岳奥地にある廃村。住民がいなくなり手入れのされていない家屋が軒を連ねる。その中に一軒だけ異質な民家があった。絵本に出てくるような赤い屋根と煙突が特徴的な家。器材が散乱した作業机に一万冊の本がぎっしり収納された巨大な本棚、革張りの硬いソファー、溢れんばかりの衣類がかかったハンガーラックなどが壁を這う様に配置されている。本棚と作業机はL字のように置かれ、その二つの間には一畳ほどの隙間がある。人ひとりが入れそうな楕円体の形をした機械が、その隙間を埋めるように設置されている。他にも煙突はあるのに肝心の暖炉が無いなど、童心に思い出すような外観に反して、室内はどこか歪で殺風景な印象を与える。


 そんな場所でソレは生まれた。元は豆粒ほどの大きさだったソレはすくすく成長し、数日でフラスコよりも大きくなり、数か月後には可憐な少女に進化を遂げていた。ソレがはじめて自分という存在を認識したのは、フラスコの中でプカプカと浮いている時だった。

 お母さんとガラス越しに目が合ったのを今でもハッキリと覚えている。あの優しく微笑み語りかけてくれたお母さんの声も顔も。記憶として残ってはいるが、人のように夢を見たことは一度もなかった。なのに、あの日はなぜかそんな懐かしい夢を見た。


 通常の人間とは違った方法で生まれた少女は月に一度、培養液に満たされたメンテナンスポッドに入って検査を受ける。その間は意識を失い休眠状態にはいる。

 メンテナンスポッドの下部に接続された床下へと伸びたパイプに培養液が排出される。多数のノズルから精製水が噴霧され、体に付いた培養器が洗い流される。洗浄が終わると、装置内に発生した温風によって濡れた体は乾かされる。そして最後に密閉された透明な上げ蓋が開くことで、検査は終わり少女は眠りから目覚める。


「――創造主?」


 覚醒時はいつも創造主が傍らにいて「おはよう」と声をかけてくれる。今回の定期検査もそうだと思っていたが、目覚めても創造主の声が聞こえなかった。メンテナンスポッドから出て周囲を見渡すがやはり見当たらない。創造主を探すことも大事だが、まずは着替えることにした。水着姿のままで創造主に会うと良くないことが起きると、少女はこの一年間で学習していた。

 不在ということはもちろん着替えも用意されていない。ドア付近にあるハンガーラックに向かうと、そこから適当に衣服を選び水着の上から着た。水着姿じゃなければセーフであろうという少女なりの考えだった。だが、後にこの考えを改めることになる。自分のフェチを詰め込んだ愛娘に対する愛情が底の見えない深淵だったことを。

最後まで読んでくれてありがとうございます。ブックマークや高評価もしていだけますと、作者のトラが飛び跳ねて喜びます。


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