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巻き戻ったら神官様が転職してました  作者: 昼咲月見草


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5/9

彼がした事

 しばらくして、わたしはライ大神官様に面会を申し込みました。


 いろいろと訊いてみたい事があったからです。


 ライ大神官様はお忙しいにも関わらず、笑顔でわたしを迎えてくださいました。


「よくいらしてくださいました。甘いお菓子はいかがです?」


「ありがとうございます。いただきます」


 甘いお菓子とおいしいお茶をいただきながら、どう話したものかと考えていると、ライ大神官様が小さなケーキをいくつか、わたしのお皿に取り分けてくださいました。


「どんなものが好きかわからないのでいろいろ用意してもらいました。よければお好みと、あと感想も聞かせてくださいね」


 その様子がとても嬉しそうで、わたしは歓迎してもらっているんだなあ、と温かい気持ちになります。

 聖女だった頃、神殿はいつも冷たくて厳しいばっかりの場所だったのですが。


 しばらく日頃の事や家族の事、お菓子の話などをしたあと、頃合いを見てわたしは切り出しました。


「先日、キルティアス通りへ出かけました」


「そうですか。巻き戻る前とは随分変わっていて驚かれたでしょう」


 にっこりとライ大神官様は微笑まれます。

 その微笑みをなんだか怖いものに感じてしまうのは気のせいでしょうか。


「それで、姉から『祝福』の話を聞きました。法律が変わって、神殿から祝福を受けていない建物は取り壊すようになったと」


「ええ」


「それで、あの、祝福とはなんでしょう。あれは、ライ大神官様が何か関わっているのでしょうか」


 ライ大神官様は紅茶を飲みながら答えました。


「関わっているかについてはその通りです。あれはわたしが王太子殿下にお願いして陛下に奏上していただきました」


「ですが、その頃、ライ大神官様はまだ子どもだったはずでは」


「確かに。当時わたしは10歳でしたが、巻き戻る前の記憶がありました。あなたは以前の記憶を使って何か変化を起こした事はないのですか?」


「あります。ですがそれは、身近な、わたしの行動でどうにかなるようなことばかりでした……」


 そう、わたしでもどうにかなるような事ばかり。

 国や法律、社会に関わるような大きな事は、たとえ記憶があろうともなにもできないはずです。


「記憶を持ってやり直している人間はわずかですが他にもいます」


「そうなのですか?」


「ええ。その数は多くありませんが。でないと収拾がつきませんから」


「確かに、そうですね……」


 わたしは思わず顔をしかめました。

 たくさんの人が記憶を使って自分のいいように出来事を変えてしまえるのなら、社会は大騒ぎになるかもしれません。


「最高神の愛し子、そしてその助け手として選ばれた人間のみが記憶を持っています。あなたは前最高神の愛し子ですし、わたしは現在の最高神の愛し子です。そしてわたしの助け手として、王妃と王太子の2人だけが巻き戻る前の世界の記憶を持つ事を許されました。前回、わたしが神殿に入ったのは成人の儀のときでしたが、今回は巻き戻るとほぼ同時に王太子派の貴族に引き取られ、そしてそう間をおかずに神殿に後見付きで入っています。そこで最初にやったのが『祝福』魔法を広める事なのです」


 わたしはぽかんと口を開けたままその話を聞いていました。

 ハッとその事に気がついて口元を手で隠しましたが、ライ大神官様は目を細めてわたしを優しく見つめています。

 そんなに大きく開けてはいないと思いたいところです……。


「祝福魔法は昔からあった魔法のひとつです。建物を新しく建てるとき、穢れを祓い、神に土地の使用の許可をもらい、安全と幸運を祈る。あれです」


「そうなのですか? わたしが聞いたものと少し違うような気がします」


「あれを、更に世界の意に沿うものとしたもの、と言うのが正しいでしょうね。以前この世界の最高神であった女神様は、愛を持って世界を治める方針でした。彼女は愛の神でしたから。新しい最高神は光の神です。人間は誤解しているのですが、光は愛ではありません。光は光、愛は愛、それぞれ別のものです。我が神は光でこの世を遍く照らし、人々が平和に、幸福に生きながら善良さを手に入れ、そして究極は愛を学ぶ事を願っていますが、愛でこの世を治めようとは考えていません。人々に愛を注ぐのは女神様だけで充分、と思っているのかもしれません」


 そしてにっこりと首を傾げました。


「愛をもって生きるのは、この世界の状況ではまだ難しいようですから」


 どう言っていいかわからず答えられなかったわたしに、ライ大神官様は続けました。


「祝福を義務にしたのは、サルジオ大神官に流れる資金を断ち、彼の味方をして世界を混乱に引き込む者を始末するためでした。お気づきでしたか? 人間のレベルが上がらないよう、誰かに守られなければならない幼い子どものように、能力が低いままであるように操作されていた事を」










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