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王都のはずれの神殿の地下で

「この世界には聖女など必要ないのだよ」


 そう言ってわたしを見下ろして笑うのは、この大陸で1番の影響力を持つ神殿の大神官、サルジオ様です。


 わたしを聖女として任命した、女神様の敬虔な僕であるはずの大神官様の言葉に、わたしは言葉を失いました。

 なぜ?

 必要ないならなぜわたしはここにいるの?

 混乱するわたしにサルジオ大神官様は続けます。


「何が女神の愛を届けるだ。女神の恩寵を受け取るのも、民を支配するのもこんな小娘にやらせていい事ではない。だが顔だけは美しい。美しいものを壊すのは強者の特権だ。あれは非常に心地よい。実に癒される……」


 まるで何かを思い出すようなうっとりした表情を浮かべ、そして地べたに座らされたわたしにかがみ込むようにしてニタリと笑いました。


「お前も同じようにしてやろう。その体を存分に堪能した後、爪を剥がし、手足を折り、気を失うまで打ちすえ、あらゆる器具を使って悲鳴を上げさせてやろう。気が狂って神を呪うようになるまで仕上がれば、体を癒して民の前で処刑を行う」


「ひっ……」


 ガタガタ震えるわたしから離れると、サルジオ大神官様はそばにいた若い神官様に命じました。


「これから自分が何をされるのか、ひとつひとつじっくりと説明してやれ」


「はい、大神官様」


 そのとき、この地下の重い金属の扉がノックされ、男の声が響きます。


『大神官様、ライが先ほど息を引き取りました』


「そうか! やっと死んだか! はは、ははは! 見ろ! 女神などいない! 何が女神だ! 何が愛し子だ!」


 ライ様?

 それは確か、神の愛し子と呼ばれる若い神官様のお名前です。

 神に愛されすぎて、若くして亡くなったと聞かされていたのに……。


 大神官様は声を上げて笑い続け、その笑いがひとしきりおさまるとわたしの方を見ました。


「次はお前の番だ、聖女」


 その言葉を最後に、わたしの意識は遠のいていきました。












 目を覚ますと、柔らかなベッドの中でした。


 さっきまで、暗い地下室の冷たい床に跪いていたはずなのに。


 夢だったのだろうか、とわたしはベッドから出ようとして、体がまだ震えている事に気がつきました。

 恐ろしい、恐ろしい夢でした。


 わたしが13歳の成人の儀で聖女に選ばれ、神殿に入り、そして様々な悪い事が起きて、偽聖女として神殿の地下で異端審問にかけられる夢……。


 夢は拷問にかけられる前に終わりましたが、あのまま続いていたらと思うと恐ろしくてたまりません。


 わたしが恐怖に震えてベッドから出られずにいると、乳母のアンナがノックをして入ってきました。

 夢の中で最後に見た記憶よりもずっと若い様子です。


「失礼します……、あら、お嬢様。おはようございます、もう起きていらしたんですね」


「ええ……おはよう、アンナ」


「1人で起きられるようになるなんて、アンナは嬉しゅうございますよ。さあ、今日は早めにお支度をして旦那様や皆様を驚かせてやりましょう」


 アンナの暖かい笑顔に、冷え切っていた手足に血が通い出したようで、わたしの震えはおさまりはじめていました。











 夢の中ではこの先の13歳の成人の儀のあと17歳になって異端審問にかけられるまでの日々の生活をずっと見続けていたようなのですが、今のわたしはたったの5歳。

 成人の儀はまだ先です。


 あまりに生々しい夢で、こうして今、子どもの姿で家族と平和に過ごしていてもなんだか現実感がありません。

 それに何より、夢の中で学んだこと、考えたことが全て現在のわたしのものになっています。

 これはどういう事なのでしょう? あれは夢ではなかったと、やはりそういう事なのでしょうか。

 まるでやり直しをしているような、不思議な気分です。


 少しお腹周りの大きな、商会長の父。

 子どもが4人もいるのに若々しくて美しい母。

 母と同じ柔らかな栗色の目と青い瞳の姉。

 早くから父について仕事を学んでいる兄。

 最近おしゃべりの多くなった、わたしより3つ下の弟。


 穏やかな、かわりのない毎日。


 夢の中の事を何もかも細部まで覚えているわけではないのですが、特別な事があった日の事ははっきり覚えていますし、ふとした事を「ああそういえば」と思い出す事もあります。

 まるで夢をなぞるように進んでいく日々。


 そしてその度に恐ろしくなるのです。


 このまま行けば、また成人の儀でわたしは聖女に選ばれるのではないか、と……。










 そんなある日、王都の神殿でサルジオ大神官様がお亡くなりになったという報せが街を駆け巡りました。

 そしてその次に大神官に任命されたのは、神の愛し子としてその名を広く国外にも知られているライ神官様であると。


 わたしは驚きました。


 夢の中でライ神官様は、わたしが聖女となって1年ほどたった頃、病で亡くなってしまった方です。


 成人の儀まであと1年。


 ここまで、わたしの知る限り夢と変わった出来事はありませんでした。

 少なくともわたしの周囲では。

 子どものわたしの耳に入ってくるような出来事は、家族や親戚、あるいは今回のような大きな出来事のみではありますが、例えば姉の婚約者に愛人がいる事や、兄の婚約者になる予定の方が猫を被っているだけで性格の悪い、お金遣いの荒い人である事などは夢の中と同じでそのままでした。

 もちろん、それで我が家に不幸が降りかかる事は阻止させていただきました。


 ですが、こんな大きな出来事はなかったはずなのです。


 やはりあれはただの夢だったのだろうか、と腑に落ちないものを感じているわたしに、大神官様のお招きがあると使者がやって参りました。


 やはり、何事か夢とは違う状況のようです。











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