再会
第一話 再会
「ユイキ! ユイキ! 待ってるからね!」
「誰? 君は? 待って……。」
「夢……?」
「ピピピピッピピピピ」
毎朝変わらず目覚ましが鳴り響く。寝起きは誰もが嫌な物だ。
目覚ましを止め、そんな朝に感じる重い身体を起こし、鼓膜奥深くに鳴響いていた目覚ましの音が、余韻として残る。
でも今日はいつもの朝には足りない音というより、声が聞こえてこなかった。
いつもであれば、先にその声で起こされ、身体を起こした後に目覚ましが鳴ると言ったルーティンだった。
しかし今日はその声がしていなかった。
そう、唯一の家族であった雑種犬、メス犬のルナが俺のベッドのすぐ横下で安らかに眠っているではないか。
「ルナ! ルナ! 」
反応がなかった。原因は不明だが天に召されてしまっていた。
俺は今年で三十三歳になる、湊ユイキ。情けない自宅警備員とでも言っておこう。
幼い頃に親父が不倫で離婚。母と妹と雑種犬のルナと俺との4人暮らしだったのだが、今から二年前に母と妹は交通事故で他界。
残された俺とルナで、母の死亡保険や残してくれていたお金が尽きる後の事も考えず、それを資金にただ同じ日々を過ごしていた。
今日、唯一の家族であったルナも他界し、とうとう俺は本当の一人になってしまったと言うことだ。
「はぁ……。にしてもさっきの夢はいったい。」
俺はとりあえずペットの埋葬屋に予約を入れ、値は跳ね上がるが、個別で埋葬をしてもらう事にした。
骨になったルナを見下ろす。そして俺は骨壷にルナのお骨を入れていく。
「なんだ? すみません。これって……。」
俺は骨ではない赤く輝く直径五ミリ程しかないルビーのようなものを掴んだ。
「ユイキ、、、」
またあの夢で聞いた声と、次は女性のようなシルエットが、カラフルな水面が揺れるような、モワモワした感じのその奥に揺れて見えた。
「ルナちゃんが誤って飲み込んだものか、何か身につけていたものかでしょうか? もし宜しければ別の物にお取りしましょうか?」
そう係の方が言ってくれたのでお願いすることにした。
俺には趣味もあった。
アニメが好きで、中でも中野李沙と言う声優の大ファンでもあった。
ルナを埋葬したその夜、中野李沙死去とスマートフォンの画面に映し出された。
死因はファンに刺されるという、なくも無い内容であった。
またこの世界は俺から大切なものを奪っていった。
この先、何を目的に何を楽しみに生きていけばいいのかわからない。母が残していってくれたお金もいつまで持つかは時間の問題。
小学生の頃、万引きをした友達を切っ掛けに、張本人には犯人としてでっちあげられ、また違う友達だったと思っていた奴には、俺と仲が良かった女の子に嘘偽りを吹き込んで仲を裂かれ、その二人はグルになって性的暴行を受けたと訴えられる始末。そのお陰で誰の信用も得られず学校の教師からも嫌われてしまう始末の不登校だった俺は、人間不信でもあり鬱と言われればそうかもしれない。
今更外に出て人生逆転なんて夢物語。
そんな気力もあるわけなかった。
そんなマイナス思考な俺は、電気も付けず、月の光から微かに俺の瞳に映るルナの骨壷を見つめながら、涙を浮かべそう心の中で語っていた。
その後も俺はいつもと変わらずベッドに横たわり眠りにつく。
また何かが聞こえてくる……
「これからがユイキの人生の始まりね。ルナは本当にユイキが大好きね。」
「うん!ユイキは次の世界で最強になるんだ!」
「またお兄ちゃんに会える!また家族4人で過ごせるんだね!」
俺はまたよくわからん夢?を見せられていた。
「ワンワン!ワンワン!」
「お兄ちゃん!起きて!はーやーくー!ママが朝ごはん呼んでるよー!」
毎朝当たり前に聞いていたルナの鳴き声。それにお母さんが?妹、美咲の声?それに続き不思議に思った事は、夢の中では感じられなかった匂いや、一つ一つに触れている感覚、部屋の温度。
「ルナ……。美咲……?」
「そうよ!何言ってんの!お兄ちゃん!」
俺は死んだのか?夢でない事は自然と察する事はできた。
俺は身体を起こした。確かに俺とは真逆な社交的なな振る舞いに、可愛らしい声、服装は異世界美少女の様なものを身に纏っている。
さっきまで聞こえていたルナの姿が見当たらないが、今は美咲の後を歩いていく事に、と言うより俺の腕にしがみついている、金髪で身長は俺の30センチくらい低く、異世界転生した後に出会う、美少女アニメキャラのような、もう一人の女の子は一体誰だ?俺はその女の子に声をかけた。
「あの。誰ですか?」
「お兄ちゃん、その子はルナよ!」
そう美咲が口にすると、その女の子はニヒっと俺を見て微笑んだ。
「ルナ、なのか?本当に……。」
「うん!ユイキの夢の中でずっと呼んでいたんだよ。それに、赤い石が何よりの証拠かな。私も持っているよ。これはこの世界と地球を繋ぐ大切な石なの。」
俺はそれをルナから聞いて確信した。
確かにルナが他界した日、目を覚ます前に見た夢で呼ばれた声。そして火葬した際に赤い石を見た時に見えた女性の様なシルエット。そう、まさにこの子だと。
それにしても俺は未だ頭の中がぐちゃぐちゃで、とにかく美咲の後をついていく他になはかった。
「美咲ー!ユイキ起きたー?」
「うんママ!お兄ちゃん起こしてきたよ!」
俺は信じられなかった。亡くなったはずの妹、美咲と母さんが目の前で生きている。それに、人間の姿とは言え、埋葬したばかりのルナまでも。本当に信じられなかった。
「母さん……。凄く会いたかった。美咲、ルナ。つかこれどーなってんのおおおお!!!!」
「いったたたたた……。ここどこなの?」