アルファーの帰還
アルファーは思い出していた。
街道のパトロールをしていた頃、何度か銃使いの女と組んだことがある。
その女のことを、アルファーは評価していなかった。
アルファーが率先して魔物と戦っていても、自分の足元を撃つばかりでまともな援護をしていなかった。そのことを直接訴えると
「援護してほしかったら、まっすぐに突っ込む前に進路の取り方を考えてよ。そうすれば、その槍は今の3倍の働きをするわ」
あの頃は彼女の言い分が分からなかったが、その真意が今になってやっと理解できた。
銃は味方に当ててしまうリスクを最大限意識しないと大変なことになる。
チャーリーが持っていた銃はライフリングの無い滑空銃で、ライフリングのある銃に比べて弾速が遅い。それゆえに貫通力が弱く命中した対象により大きな損傷を与える。こと、被弾した箇所のダメージは現代の銃と比べ物にならない。その悲惨さを伝える文書が日本の戦国時代に書かれているくらいだ。
ダイアナの状態も見るに堪えないものになっている。
胸部に受けた弾は肋骨を折り肺に達した。弾は抜けていない。衝撃のまま後ろに倒れ大量の血を吐いている。被弾箇所からも大量に出血している。
「ダイアナ!ダイアナ!」
近くにいたエミリーが駆け寄る・
「エミリー・・・痛いよ・・・熱いよ・・・」
「しゃべらないで!今すぐ治癒を・・・!」
「だめ・・・もう助からない・・・」
「あきらめない!!」
「死にたくないよ・・・エミリー・・・」
「ダイアナ!」
エミリーは必死で治癒魔法をかけるが効果は出ない。どうにもならない状態なのは明らかだった。
「エミリー・・・お願い・・・楽にして」
「いやあぁぁぁ!!」
残された3人は全く動けずにいた。
”デカ目”はぐったりしているブラボーをまだ殴り続けている。恐らく頭蓋骨は粉々だろう。こちらも助かりそうにない。
「お前が・・・お前がダイアナを!!」
エミリーは正気を失っている。ゆらりと立ち上がると、アルファーの方に歩いてきた。手には「く」の字型の刀身を持った短剣を持っている。刀身は血で濡れていた。
「お前が!お前が!」
違う。ターゲットはチャーリーだった。エミリーはチャーリー目掛けて駆けると、動揺して棒立ちのままの彼に斬りつけた。何度も。何度も。
チャーリーはほとんど抵抗もしないまま倒れた。その直後、エミリーの喉が矢で貫かれた。フォックスが撃ったのだ。
「もう終わりだ。このパーティーは」
「こいつを殺さないと『戦闘域』が閉じないぞ。お前が終わらせろ。アルファー」
アルファーは、いまだにブラボーを殴り続けている”デカ目”の頸動脈を槍で叩きつけて切り裂いた。
「2人でいけるか分からんが、とにかく撤退だ」
「ああ・・・」
「今は生き残ることだけ考えろ」
「なあ、俺はどこで間違えた?」
「・・・間違っちゃいないさ。運が悪かっただけだ」
アルファーとフォックスは、なんとかベースキャンプの村に帰還した。
マルボークまで行くと、アルファーは
「俺は故郷に帰る事にする。もう冒険者はこりごりだ。お前はどうする?」
「さあな。城壁の工事で常に人手不足のようだ。日雇いで食い繋ぎながら次のスカウトを待つさ」
「そうか、長生きしろよ」
「お互いにな」
1人の冒険者の旅がここに終わる。
主人公がアルファーの時点でお気づきの方もいるかと思いますが
アルファー:A ブラボー:B チャーリー:C ダイアナ:D エミリー:E フォックス:F
で、彼らがモブであることの符丁になっています。
実は3話を書き始めるまでは全滅ルートでした。フォックスを描いているうちに「この常に冷静でいられる男がここで死ぬのは違う」と、生き残る選択をしました。でも彼が1人で帰ると物語が〆られないのでアルファーを連れて帰ってもらうことに。
「異世界の冒険者は最底辺職かもしれない」は、ここで完結です。ご愛読ありがとうございました。
引き続き「異世界のガンガールは引き金を引かない」をお楽しみ頂けると幸いです。