アルファーの絶望
マルボークの冒険者ギルドに行くと、仲間はあっさり見つかった。
クロスボウの使い手フォックスは、物静かだが明るくノリのいい男だった。
「俺の石弓でお前らの足りないものが埋められるなら」
と、謙遜したような物言いだがフォックスの加入でパーティーの連携は目覚ましく向上した。
例の難敵”雷撃アリーマー”には、アルファーに注意が行くように走らせ、追ってきたらフォックスの立ち位置に誘導して交錯ぎわに矢を放つという攻略法を編み出した。
戦術の選択肢の拡大は戦力の消耗を抑え継戦力を増す。
「だんだんと余裕をもって奥へ進めるようになってきたね」
「うん。魔力の消費も抑えられてます」
「なあ、狙ってみないか?未踏破エリア」
「おお?やっちゃう?」
「賛成!」
「いや、行ってもいいとは思うが確認しておきたいことがある」
「どうした?フォックス」
「アルファー、お前だ」
「なんだ?」
「お前は引き際を見誤ることなく決断できるか?その決断は全員の命に関わるぞ」
「わかってるさ『まだいける』と思ったところが引き際だ」
「それならいい」
アルファーのパーティーは、順調に迷宮を進む。
ベースキャンプの村で最新の地図を買っていた。未踏破エリアまでの半分進んだ感じだろうか。
全体の消耗を抑えるという選択は前衛の負担を強いる。アルファーは戦闘のたびに走りっぱなしだし、ブラボーも攻撃を受ける回数が多い。フォックスは気づかってアルファーに聞く。
「普段なら撤退を考えるくらいの戦闘回数だが、大丈夫か?」
「問題ない。行こう」
そろそろアルファーのパーティーにとっての未踏破エリアに踏み入る。初見の魔物が出てきても不思議ではない。
「こっからが踏ん張りどころだな。気合入れていこう」
(・・・そういう感覚抜きで挑めるようでないと。さてどうなるやら)
フォックスは、アルファーの心持ちに違和感があるようだ。
少し歩くと戦闘域が開く。
「来たな。新顔だ」
初見の魔物が出た。が、それは”ひとつ目”の亜種のように見えた。だがそれは元の”ひとつ目”より圧倒的に大きかった。
「でかいな、4メートルってとこか?」
「でかい分動きが遅いってのはあるかもしれんが、無暗に突っ込むなよ。相手は新顔だ」
「判ってるさ」
アルファーは先行し過ぎないよう、ブラボーと歩調を合わせて間を詰める。
空振りになる間合いで突きを入れて牽制する。魔物はそれを手で払おうとした。その動きは”ひとつ目”より速い。
「ちっ、”デカ目”のくせに速いな。ブラボー!後ろに回るから受けてくれ!」
アルファーは少し距離を取ってから背後に回る動きをする。チャーリーとフォックスも射線を取るための動きを取った。それぞれがブラボーを挟んで斜め後ろの位置を取るのが理想だ。
アルファー命名の”デカ目”は、大きく振りかぶってブラボーにこぶしをぶつけた。ブラボーは鋼鉄の盾で防ぐ。
さすがに痛かったらしい。殴った手を押さえてうめいている。いち早くポジションを取ったフォックスは隙アリと見て矢を放つ。肩口に命中するも浅い。ダメージは小さそうだ。
ここで”デカ目”は驚くべき動きをする。跳んだ。並のジャンプではない。自身の身長と同じくらいの跳躍を見せた。ジャンプした”デカ目”はブラボーを胸元から両足で蹴りおろし、そのまま馬乗りになった。”デカ目”はブラボーを殴り放題になった。ブラボーは両手が足で封じられて抵抗できない。
チャーリーは”デカ目”に銃を向けた。距離は5メートル。いつもの発砲距離よりは遠いが、十分に当たる距離だと思った。
「馬鹿野郎!!そこから撃つな!!」
と、フォックスは止めるがーーー。
ドォォォン!!
発砲音が鳴った。
戦闘で銃器を扱うものは、敵味方の位置を常に頭に入れておかねばならない。
それを怠るものは銃器を扱う資格がない。
銃が生まれた近世でも、現代でも、未来でも。
たとえ、異世界でも。
チャーリーが放った弾丸はダイアナに命中した。
一瞬の出来事だったが、一部始終を見ていたアルファーは絶望した。
プロットに沿った最終的な位置関係になるための戦闘の展開を考えるのが難しくて楽しいです。