第2話 討間 得ト
――――――――――――ん? ここは……
気持ちの良き風が吹き抜けていく中、ユラユラと馬車に揺られ俺は目が覚めた。
「どこだ?」
起きて辺りを見渡すと長閑な草原が広がり放牧された牛達、この世界でしか見られない草食動物達が辺りにちらほら見かけられる。
「お兄ちゃん! 目が覚めた? 大丈夫?」
横に座っていた少女が俺に話しかけてくる。
この馬車の持ち主だろうか?
「―――あぁ 大丈夫 ここは?」
「ここ? もしかして覚えてないの?」
少女が俺を心配そうに見つめていた。
俺がこの世界の住人ではないとこの子に言っても信じてはもらえないだろうな。
適当に誤魔化すか…
「うん。あんまりよく覚えてなくて… 記憶喪失かな? えーと、ここはどこか教えてくれる?」
「お兄ちゃんがいるのは馬車の上。そして、この先にあるのがアースレク大陸にあるパジェロッタ村だよ! 今はその近く」
「アースレク? …パジェロッタ?」
「そんなところから分からないの? もしかして…… この世界の名前は?」
「ゴメン 分からないみたいだ」
「えぇええ!! ホウエだよ!!」
やっぱ記憶喪失は無理がありそうか?
「大変!! あ!! お父さん! お兄ちゃんが!――――――」
――――――俺は馬車の上でまた横になり空を眺めた。
「青空……」
俺が生きていた世界と空は変わらないんだな。
成神により異世界転移した俺は、異世界ホウエの小さな村に来ていた。
俺の名は討間 得ト。(トウマ エルト)
生前、俺は心錬金術師として世界各国を転々として旅をしていた。
心錬金術師とは一般の錬金術師とは異なり、心の形を頭の中でイメージし、その物を具現化することが出来る。
簡単に見えて誰にでも出来そうなのだが違う。
例えば、絵は誰にでも書けるが有名な画家のようにキャンパスに精密で美しく表現する技術は誰にでも出来ることじゃない。
その点、世界に広まっていた錬金術は等価交換という法則により、代償との交換で同等のモノを作成することが可能だった。
俺も最初は世界に多く存在する錬金術師達の一人に過ぎず、心錬成の初歩として剣や盾など身近に存在するものを具現化させていた。
だけどある日を境に俺は、錬金術の一線を越えた。
心錬成を習得し、この力でより多くの人を救いたい。
そう思っていた。
けど錬金術師達の教団、『黒の断罪』により俺は殺された。
人の為にかけた人生。
後悔はなく、ただ、願わくば……
もう一度、誰かを救えるなら
―――と。
そうした後悔の思念・俺の魂が世界を漂っていたから、成神の強い力に引き寄せられたのだろう。
「……」
「お兄ちゃん! 家に着いたよ!」
特に行く当てがない俺は、気を失っているところを馬車まで運んでに助けてくれた少女アルの父【バルト】の家で厄介になることになった。
「すみません では お言葉に甘えて――…… お邪魔します」
これが俺の始まりだった。
後々分かることになる…… 俺は成神の駒でしかないことを―――