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私はヒューチャートラベラーです。

作者: 日下千尋

私と一緒に未来を冒険してみませんか?


1、バレンタインデーの出来事

 

 節分が終わって街ではバレンタイン一色になっていて、石川町駅から少し離れた元町商店街の一角にある洋菓子専門店では、すでにチョコレートの取り合いの戦争になっていました。

 私は特に渡す相手がいなかったので、正直どうでもいいと思っていたのですが、一応友達や家族くらいには渡しておこうと思ったので、店の中に立ち寄って辺りを見渡してみたら、そこには知っている人たち数人を見かけました。

 そして棚を見渡すと多種多様なチョコレートがあり、一口サイズの詰め合わせのものから冗談タイプのユニークなものまで、たくさん並んでいました。

 私は気になっていろいろと手に取って見ると、麻雀牌の形や小さな瓶に入っている栄養剤の形をした黄色いチョコレートなどがあったので、最近は面白いデザインがたくさんあるんだなと思いました。

 私が葉巻の形をしたチョコレートが入っている箱を手に取った瞬間、後ろから肩をポンと叩いて冗談交じりで「お客さん、まだ未成年でしょ?タバコや葉巻は二十歳になってからにしてくれる?」と言ってきた人がいました。

 私はそっと振り向いてみると、それは保育園の時からの幼馴染で、同じクラスの木村恵奈さんでした。

「あれ、恵奈もチョコを買いに来たの?」

「そうだよ。」

「渡す相手はいるの?」

「うん。」

「マジ!?もしかして、彼氏とか?」

「違うわよ。父さんと弟、あと信行くん。」

「信行くんって、同じ保育園だった神田信行くん?」

「そうだよ。」

「恵奈、あんた正気?あんなのにチョコ渡す必要ないって。渡すなら駄菓子屋で売っている10円チョコで充分よ。小学校の時、女子に嫌われるランキング1位だったじゃん。しかも家はボロアパートだし、しょっちゅう汚らしい格好していたし。」

「未来、それは言い過ぎよ。」

「なんで?本当のことじゃん。」

「確かに小学校までは嫌われていたけど、今は女子の注目ランキング1位になっているわよ。」

「マジ?そんなことってあるの?」

「未来のデータが古すぎるだけ。」

 私は恵奈の言葉に対して正直納得いきませんでした。

「恵奈、信行が小学校の時に呼ばれていたあだ名って覚えている?」

「ええ、知っているわよ。『プー田』でしょ?でも、それは過去の呼び名だよ。今は何て呼ばれているか分かる?」

「わからないわよ。」

「じゃあ教えてあげる。信行くん、今では『プリンス信行』って呼ばれているんだよ。しかも女子からの支持率100%。」

「だって女子だけじゃなくて、男子にもからかわれていたじゃん。グループ分けと言ったらいつも仲間外れにされていて、遠足もグループから外されて先生と一緒だったじゃん。恵奈、覚えている?4年生の時、図工の時間に教壇に置いてあったみんなの作品を壊した時の話。」

「ええ、覚えているわよ。」

「あの時、男子に集団でボコられて、さらに女子も止めないどころか一緒に応援していたんだよ。」

「それが原因で信行くん、家を引っ越して転校したんだよね。」

「私、信行くんがいなくなって、せいせいしたよ。」

「じゃあ、なんで4年生の時にクラス全員でいじめられていた『プー田くん』が中学に入って『プリンス信行』と呼ばれるようになって、女子の注目の的になったのか教えてあげる。それは、彼が本牧西(ほんもくにし)中学のサッカー部のエースになったからなんだよ。」

「またまたあ。本牧西って偏差値も高くて、サッカーの名門校で有名なんだよ。あの『プー田』が入れるわけないじゃん。」

 その時、数人の女の子が私と恵奈の方に鋭い目線を向けてきました。

「未来、信行くんの悪口はこの辺にした方がいいよ。」

「そうだね。」

 私と恵奈はチョコを買って家に帰ることにしました。


 ここで簡単に私の自己紹介をさせて頂きます。

 私の名前は鏡未来(みらい)、13歳で中学1年生。自宅はJR根岸線の石川町駅から徒歩15分のところにあります。

 学校は自宅から自転車で10分のところにある私立「港の丘女子中学」にかよっています。

 坂道がきついので、入学祝で両親から買ってもらったロードバイクを使って通学をしています。

 元々は近所の公立中学へ行く予定だったのですが、保育園の時からの幼馴染である木村恵奈が港の丘女子中学へ行くと聞いたので、一緒に勉強して行くことにしました。

 制服は海と空をイメージした感じになっていて、上は水色と白のセーラー服、下は水色と紺のチェック柄のスカートです。

 家族は父さんが検察官、母さんが税理士をやっていますので、休日を除けば夕食はほとんど1人です。


 それではお話を戻すことにします。

 店を出て、私と恵奈はロードバイクに乗って家に帰ろうとした時でした。

「ちょっとあんたたち、この制服、港の丘女子だよね?」

 後ろを振り向いたら、見慣れない学校の制服の女の子が数人立っていました。

 紺のブレザー、胸には青いリボン、紺と緑のチェック柄のスカート、黒いルーズソックス、明からに私立ぽい感じでした。

「未来、この子たち本牧西の生徒だよ。」

「マジ!?」

「なに2人でブツブツ言ってるのよ。」

 茶髪の女の子が少しいらだった感じで私に言ってきました。

「あの、あなたたちは?」

「私ら、本牧西で『プリンス信行様を見守る会』を結成しているの。ちなみに私がその会長をやっているの。今、店の中で話していた内容って本当なんだろうな。」

「話していた内容って言うと?」

「小学校の時に信行様をいたぶっていた話のこと。」

「私たちは見ていただけで、実際はやっていなかったわよ。」

 恵奈も私の言っていたことに黙ってうなずいていました。

「言い方を変えれば、見ていただけで止めたり先生にチクりも入れなかったんしょ?」

「・・・・。」

 私は彼女の言葉に何も言い返せませんでした。

「私たち、正直怖かったの。あの時信行くんを助けていたら、今度は自分がいじめのターゲットにされるかと思って・・・。」

「うわあ出たよ、いい子ちゃんが。こうやって自分たちだけいい子ちゃんになっていれば助かると思っているんだよね。」

 今度は助けに出た恵奈がターゲットにされました。

「あんたたち、集団でいたぶられた人間の気持ちってわかる?信行様ってかわいそうだよね。助けて欲しくても誰にも助けてもらいないんだから。」

「あなたたちが、信行くんをかばいたい気持ちはわかるわよ。でも、信行くんだって悪いんだよ。」

「何が悪いのか言ってごらんなさい。」

「みんなが図工の時間に作った作品を壊したんだから。」

「それが本当なら、なんで先生にチクり入れなかったの?おかしいでしょ?それとも正義の鉄槌(てっつい)をいれたつもり?」

「・・・・」

「じゃあ、いいこと教えてあげる。あんたたちがやってきたことは、ただの『リンチ』だよ。集団で1人の弱い男子をいたぶるなんて最低よね。図工の作品を壊されたくらいで半殺しにするんだから恐ろしいよ。」

「よその学校の人間が知った風な言い方をしないでよ。勝手に人の会話を盗み聞きして、その上好き勝手なことを言って、正義の味方になったつもり?ふざけないでよ。よく知りもしないで、話を聞いただけで偉そうなことを言わないで。」

 私は今までためていた怒りを、その場でぶちまけてしまいました。

「ま、いいわ。あんたたちの言うように私は小学校の時、彼とは別の学校だったから、これ以上のことは何も言わないよ。でもあんたたちがしてきたことは決して許されることではないわ。」

「じゃあ、私たちにどうしろって言うの?信行くんに謝れって言うの?それとも『仕返し』と言う形で、あなたたちの仲間にいたぶられればいいの?」

「どちらも求めない。その代わり二度と信行様に近寄らないでちょうだい。」

「私たち女子校にかよっているんだから、信行くんには近寄らないよ。」

「それでいいわ。じゃあ、私たちこの辺で失礼するね。時間をとらせて悪かったわね。」

「あの、せめて名前を聞いてもいい?」

「名前?あなたたちに名乗る必要なんてないわ。」

 女の子たちはそう言って、いなくなってしまいました。

 

 私と恵奈はそのままロードバイクを手で押して家に帰ることにしました。

「このチョコ、どうする?さっきの女の子から『信行くんに近寄るな』って言われたんでしょ?」

 私は恵奈にさりげなく聞いてみました。

「あとで、こっそり渡すよ。」

「その方がいいかもね。」

「まさか、『信行くんを見守る会』を結成していたなんて思わなかったよ。それに私らは『もう近寄るな』って言われたしね。」

「当然だよ。私ら4年生の時、ひどいことをしたんだから。」

「明日チョコを渡して、すべて水に流してもらおうか。」

「でも、どうやって渡すの?さっきの女の子から『二度と近寄るな』って言われたばかりじゃん。」

「うん・・・。」

 恵奈は少し考えました。

「どこかで時間を作ってもらう?」

「でも、どうやって?電話番号知っているの?信行くん、引っ越したから新しい住所も家の電話番号も変わったし、私ら知らないんだよ。携帯の番号だって聞いてないし・・・。」

「当時担任だった橘先生に聞いてみる?」

「あの先生、口が堅そうだから簡単に教えてくれそうにないよ。」

「でも一応聞いてみたっていいんじゃない?」

「まだいるかなあ。」

「いると思うよ。」

 恵奈はロードバイクにまたがって小学校へ向かったので、私もすぐに追いかけました。

「あ、待って。」

 

 小学校に着いてから私と恵奈はロードバイクを職員用の玄関の入口近くに止めて、来客用のスリッパに履き替えて職員室へ向かいました。

「こんにちは、ご無沙汰しています。」

 私と恵奈は職員室の中へ入っていきました。

「こんにちは、2人とも久しぶりだね。元気った?」

 最初に声をかけたのは、田中信夫先生でした。

「田中先生、ご無沙汰しています。お元気でしたか?」

「元気だったよ。実はね先生、来月の終わりに定年退職をすることになったんだよ。」

「現役生活、お疲れ様でした。やめられたあとはどうされるのですか?やはり奥さんと一緒に旅行へ行かれるのですか?」

「まあね。実は世界一周旅行してみようと思うんだよ。」

「いいねですね。是非楽しんできてください。」

 私と田中先生が話に夢中になっている時、横から恵奈が割って入ってきました。

「あの、すみません。今日橘陽子先生はいますか?」

 恵奈は少し遠慮がちで田中先生に聞いてきました。

「橘先生?確かいると思ったけど・・・。ちょっと待ってくれる?今放送で呼ぶから。」

 田中先生は職員室の隣にある放送室に行って橘先生を呼びました。

「今、橘先生を呼んできたから、すぐに来ると思うよ。」

「ありがとうございます。」

「ところで、今日は橘先生に何の用なんだ?」

「久しぶりなので、少しお話をしてみたいと思いましたので・・・。」

「そうなんだね。」

 私と田中先生が話をしていたら職員室のドアが勢いよく開き、橘陽子先生が入ってきました。

「今、放送で呼ばれたんだけど・・・。」

 橘陽子先生は少し息を切らした状態でやってきました。

「橘先生、また走ってきたのかね?」

「すみません、ちょっと急いできたので。」

「児童たちが見ているんだから、気を付けてくれないか。」

「気をつけます。それで、私に用がある人って・・・。」

 橘陽子先生は田中先生に注意をされたあと、あたりをキョロキョロと見渡しました。

「私たちです。橘先生ご無沙汰しています。」

 恵奈はすぐに橘陽子先生のところへ向かいました。

「木村さんと鏡さん、お久しぶり。これって、港の丘女子中学の制服だよね?とても可愛いわよ。」

「ありがとうございます。」

「それで、私に何の用で来たの?」

「先生に単刀直入に伺います。神田信行くんの連絡先を教えてもらえませんか?個人情報なので、断られる覚悟は出来ております。」

 恵奈が真顔で聞いてきたので、橘陽子先生は少しびっくりした表情を見せていました。

「逆に聞くけど、あなたが神田君の個人情報を聞き出してどうされるのですか?」

「実はもう一度会って謝りたいのです。」

「謝るって何を?」

「4年生の時、神田君が私たちの図工の作品を壊してしまって、それを男子全員がいたぶっていた時、私たち女子が助けも止めもしないで、それどころか一緒に男子を応援してしまったことを、謝りたいと思っているのです。」

「今さら4年生の時のことを持ち掛けてもねえ・・・。」

「お願いします。」

 恵奈は橘陽子先生の前で深く頭を下げました。

「申し訳ないけど、私も神田君の連絡先を知らないの。それに仮に知っていても私の口から教えることは出来ないわ。」

「そうですよね。」

「だから諦めてくれる?」

「わかりました。ありがとうございます。」

「実は転校する前に神田君のお母さんが『警察に被害届を出さない代わりに、うちの子をよその学校へ転校させます。今後はおたくの生徒を近寄らせないでください。』と強く言ってきたの。」

「そうなんですね。」

「仮にあなたたちが会ってもいい顔をしないと思うよ。」

「わかりました。それでは私たち失礼します。」

「わざわざ、来てもらって悪いわね。」

 そのまま私と恵奈はロードバイクに乗って家に帰ることにしました。


 そしてバレンタイン当日、女子校へかよっている私たちには憧れの男子にチョコを渡すなんて縁遠いものでしたが、一部ではよその学校の男子や自分の幼馴染に渡す人など何人かいました。

 教室の片隅では私と恵奈が信行くんにチョコを渡すか否かを考えていました。

「恵奈、どうする?」

「何が?」

「信行くんにチョコを渡す?」

「私、あきらめるよ。もう当時の信行くんじゃないんだよ。今は本牧西の星になったんだよ。今さら渡しに行ったところで相手にされそうにもないし、この間だって『二度と近寄るな』って言われたから。」

「だったらばれないように変装していけばいいんじゃない?演劇部から衣装やウィッグを借りて行けば、ばれないと思うから。」

 放課後になり、私と恵奈は演劇部の部室へ向かおうとした時でした。

 廊下で同じラスの矢野さんと森さんが妙な噂話をささやいていました。

「ねえねえ、知ってる?この近くで深夜に見慣れない路線バスが走っていると言う噂。」

「見慣れない路線バス?」

「うん、黄色と白の路線バス。それも行き先が何も書いてないの。」

「さあ。それって、学校か幼稚園の送迎バスってことはない?」

「それなら朝とか夕方に走っているはずよ。」

「それもそうかあ。」

 私はどうしても気になったので、2人に聞いてみました。

「立ち聞きするつもりはなかったんだけど、どうしても気になったから少し聞かせてもらったの。深夜の路線バスってどこへ行くの?」

 私は矢野さんに聞いてみました。

「あくまでも噂話なんだけど、そのバスに乗った人は別の世界に行って戻って来なくなったみたいなの。すでによその学校の人もそれに乗って戻って来なくなったから、両親が警察に捜索願を出したみたいなの。」

「そうなんだね。あとで詳しく聞かせてくれる?」

「いいよ。」

「ありがとう、私このあと用事があるから。」

 

 私と恵奈は一度矢野さんたちと別れたあと、演劇部の部室に入って薄紫色のベストとスカートの制服に着替えて、ミルクティー色のショートウィッグを被り、バスに乗って本牧西中学へ向かいました。

 グランドへ行くと、キャーキャーと言う女の子たちの黄色い声が聞こえてきたので、覗いてみたらサッカーの練習風景が見えました。

 笛が鳴り、一度休憩になったので、私はマネージャーと思われる人に信行くんを呼んでもらうよう頼みました。

「あの、すみません。神田信行くんを呼んでもらえますか?」

「神田君ね。ちょっと待ってもらえる?」

 マネージャーはすぐ信行くんのところへ行って、私と恵奈の所へ来るよう言いました。

「あの、連れてきました。」

「ありがとう、ちょっとだけ借りてもいいですか?」

「ええ。」

 私と恵奈は校舎の裏側に信行くんを連れて話をすることにしました。

「君たち誰?」

「覚えてない?」

「私、4年生の時に同じクラスだった木村恵奈。今さらこんなことを言えた義理じゃないけど、今日どうしても謝りに来たの。」

「お前たち二人して毛染めして、何を謝りに来たんだよ。」

「この格好には理由があるの。」

「理由ってなんだよ。」

「先日、あなたの学校の女子から『二度と近寄るな』って言われたから、変装してきたの。」

「で?変装したらばれないとでも思ったわけ?」

「・・・・。」

「その格好で4年生の時、俺にリンチしたことを謝り来たって言うのか?」

「もちろん、許してほしいとは思っていない。それと今日バレンタインだから、チョコを持ってきたの。無理にとな言わない。よかったら食べてほしいの。」

「それで、俺の機嫌を直せたとでも思ったわけ?」

「そんなことは思っていない・・・。」

「あの時、俺がどんな思いをしたか分かっているのか?男子全員から蹴る殴るの暴行を加えられる中、誰か1人先生を呼ぶのかと思えば女子は見て見ぬふりをする。それどころか応援までする始末。本当に最低なクラスだったよ。鏡、お前もグルだったよな?」

「・・・・。」

 私は何も言えない状態でいました。

 その時、恵奈は地面に両手をついて土下座を始めました。

「本当にごめんなさい。」

「あの時、味わった俺の痛みと苦しみはこんなものじゃないんだよ!」

「わかっています。」

「本当は今すぐ、お前たちにも俺と同じように殴ってやりたいけど、お前たちの二の舞になりたくないから、今回は木村の土下座に免じて勘弁してやる。お前たちが用意したチョコはありがたく受け取っておくから。」

「本当にごめんなさい。」

「わかったなら、早くいなくなれ!」

 私と恵奈は信行くんに強く言われたあと、そのままバスに乗って学校へ戻り、制服に着替えてロードバイクに乗って家に帰ることにしたのですが、その帰り道、恵奈は信行くんに言われた一言がこたえたのか、ロードバイクを押しながら泣き続けていました。



2、行き先のない路線バスの行方


 泥沼のバレンタインデーの次の日、教室に入ると恵奈が自分の席で落ち込んでいました。

「おはよう恵奈。もしかして昨日のこと、まだ気にしてた?」

「うん、まさか信行くんからあんな言い方をされるなんて思わなかったよ。しかも、本牧西の女子から『二度と信行くんに近寄るな』って言われたし・・・。」

「あれはショックだったよね。しかも彼女の言葉を無視して会いに行ったら、今度は信行くん本人からきつい言い方をされるなんて思わなかったよ。」

「仕方ないよ。私たちの方が悪かったんだから。」

「そうだよね。4年生の時のあのやり方は最低だと自分で思っていたよ。でも、チョコを渡せただけでもよかったんじゃない?」

「そうよね。」

 恵奈は少し元気を取り戻したような感じで返事をしました。

「実はクラスのボスと言われた佐伯雄一郎っていたでしょ?」

「うん。」

「彼の近所に住んでいた榎本真由美から聞いたんだけど、そのあとおばさんと一緒に菓子折りを持って家まで土下座しに行ったみたいなの。おばさんは泣きながら信行くん本人と両親に謝り通しだったみたいなの。」

「そんなことがあったんだね。」

「じゃあ、この話は終わりにしよ。」


 午前中の授業が終わって教室で弁当を広げている時、またしても矢野さんと森さんが深夜の路線バスの話をしていたので、私と恵奈は弁当を食べながら聞いていたら今度は本牧西の女子の1人が行方不明になったという情報が聞こえてきました。

 弁当を食べ終えて私と恵奈は矢野さんと森さんから詳しく聞かせてもらうことにしました。

「矢野さん、今の話なんだけど詳しく聞かせてくれる?」

「いいよ。」

 私は矢野さんの席の近くで行方不明になった人の話を聞くことにしました。

「実は私と彼女、同じ塾へかよっていて、その帰り道に塾の近くのバス停で最終バスを待っていたら黄色と白のバスがやってきたんだけど、彼女は何のためらいもなく乗っていってしまったの。」

「矢野さんは乗らなかったの?」

「私は行き先のない夜のバスに恐怖を感じてしまって、そのまま親に迎えを頼んで車で家に帰ったの。」

「そうだったんだね。彼女の名前、なんていうの?」

「彼女って?」

「本牧西の女子の名前。」

「鏡さんがそれを聞いてどうするの?」

「私、彼女を連れ戻してくる。」

「えー!やめておきな。どんな場所か分からないんだよ。」

「でも、死の世界じゃないってことは確かなんでしょ?」

「確かにそうだけど・・・。」

「仮にそうだったとしても自殺をするほどバカじゃないから。そういえば例の黄色と白のバスって学習塾の前から発車しているの?」

「わからない。偶然見かけただけだから。」

「そうなんだね。ちなみに見かけた時間って夜の10時くらい?」

「たぶん・・・。」

「ねえ、もう一度聞きたいけど、彼女の名前を教えてくれる?」

「いいわ。彼女、多田綾子って言うの。でも、くれぐれも無茶だけはしないでよね。」

「うん、わかった。ありがとう。」

 私は自分の席に戻って、午後の授業の準備にかかりました。


 放課後になって私が帰りの準備をしていたら、恵奈がやってきました。

「ねえ、本当に行くの?」

「うん。」

「やめた方がいいよ。」

「でも、行方不明者だっているんだよ。」

「そうだけどさあ、私たちが行方不明者になったら意味がないよ。」

 恵奈の意見ももっともでした。

 例の黄色と白のバスの行き先が死の世界だったらと思うと、正直ぞっとしました。

 帰り道、私と恵奈がロードバイクで走っていたら、後ろから見慣れないバスがやってきて、猛スピードで私と恵奈をよけて通過していきました。

「今のって、噂の黄色と白の路線バス?」

 私はロードバイクを止めて恵奈に確認をとるように聞きました。

「たぶん・・・」

「話だと夜中近くに走っていたはずだよね?」

「うん・・・。」

 私と恵奈は走り去る黄色と白のバスを呆然とした顔で見送ってしまいました。

「なんで夕方近くに走っているの?」

「私にも分からない。」

 私と恵奈は混乱しながら家に帰ることにしました。


 そして翌日の昼休み、私と恵奈は帰り道に例の黄色と白のバスが走っていたことを矢野さんに話しました。

「鏡さん、それ間違いない?」

「うん、私と恵奈がロードバイクで家に向かっている時に見かけたの。」

「それが本当なら乗ってみる価値がありそうだよ。」

「そうだね。放課後、バス停で待ってみる?」

「うん。」

「あ、そうそう。私の下の名前、真紀だから、今度から『真紀』って呼んで。」

「うん、わかった。」

 矢野さんは私と恵奈に下の名前で呼ぶように言いました。


 その日の午後は歴史の時間でしたが、武内春子先生が説明しながら黒板に白チョークで書いているころ、私は黄色と白のバスのことで頭がいっぱいでした。

 黄色と白の路線バスの行方や時間のことをノートに書いていたら、気がついた時には教科書を読みながら先生が私の席にやってきました。

「鏡さーん、ノートに熱心に何を書いているのですか?」

 先生は私のノートを取り上げるなり、書いてある内容を読み上げました。

「なになに、黄色と白の謎の路線バス。深夜だけでなく夕方の時間帯にも現れた。行き先不明。今日の放課後乗ってみる価値がある。」

 それを聞いたみんなは、いっせいに笑い出しました。

「先生、勘弁してください。」

「鏡さん、私の授業ってそんなに退屈だった?悪かったわね。次回は鏡さんが夢中になれるような授業にするよ。では、鏡さんに問題を出そうかな。」

「えー!」

「落書きが出来るほど余裕があるんでしょ?じゃあ、問題を出すよ。」

「先生、本当に勘弁してください。」

「私の話を聞かないで落書きをしていた自分が悪い。言うなれば自業自得でしょ?じゃあ、今から問題を出すね。14世紀、イタリアのルネサンス時代に発明されたものを3つ答えてくれる?」

「えー!」

 私は教科書をパラパラとめくっていきました。

「未来、113ページの終わりの部分だよ。」

「木村さん、余計な口出しをしないでちょうだい。」

 恵奈が教えようとしたとたん、先生は注意に入りました。

「羅針盤、火薬、印刷術です。」

「正解!鏡さん、木村さんに感謝しなさいよ。」

「はーい。」

「それと、あとで職員室へ来るように。」


 放課後になって私は職員室へ行き、武内先生の席へ向かいました。

「失礼しまーす、武内先生はいますか?」

「鏡さん、来たね。この原稿用紙に今日の授業の反省文を書いてくること。」

「わかりました。次から気をつけます。」

 私は武内先生から原稿用紙を受け取ったあと、職員室を出ました。

 校門へ行くと恵奈と真紀が待っていました。

「お疲れ、じゃあ行こうか。」

 真紀が私と恵奈を連れてバス停に行こうとしたら、私はふと何かを思い出したかのように、真紀に言いました。

「私と恵奈はロードバイクで来たから一度家に戻ってからにしない?」

「私も今日チャリだよ。」

「真紀は家どこ?」

「私は外人墓地の近く。」

「私と恵奈は元町商店街の裏側だよ。」

「じゃあ、チャリを置いたら石川町の駅前で待ち合わせね。」

 さらに私は武内先生に渡された原稿用紙のことも真紀に言いました。

「ごめん、もう一つ思い出したんだけど・・・。」

「今度は何?」

 真紀は少し呆れた顔で返事をしました。

「さっき職員室で反省文を書くための原稿用紙を渡されたんだけど・・・。」

「そんなの明日にすればいいじゃん。明日歴史の授業ないんだから。」

「そうだね。」

「じゃあ、各自チャリンコを置いたら、石川町の駅前で待ち合わせね。」

 私たちは一度家に戻った後、ロードバイクを家に置いて恵奈と一緒に歩いて石川町の駅前に行くことにしました。

 駅前に着くと、まだ真紀が来ていませんでした。

「矢野さん、来ていないね。」

 恵奈が一言呟きました。

「たぶん、準備に時間がかかっていると思うんだよ。」

 私はスマホの画面を見ながら返事をしました。

「そういえば、真紀の連絡先って知っる?」

 さらに私は恵奈に真紀の連絡先を知っているかどうかを聞きました。

「知らない。」

 恵奈がそう返事したとたん、真紀が駆け足で私のところにやってきました。

「ごめーん、待った?」

「ううん、大丈夫だよ。じゃあバス停に行こうか。」

 3人でバス停に着いたあと、しばらくバスを待つことにしたのですが、来るバスは普通の路線バスばかりで、黄色と白の行き先のないバスは来ませんでした。

 待つこと30分、まだ太陽が出ている時間帯にも関わらず、遠くの方から真っ白いライトを点灯させながら1台の車がやってきました。

 よく見ると、噂の黄色と白の行き先のない路線バスでしたので、私はとっさに左手を挙げてタクシーのように止めました。

「未来、タクシーじゃないんだから。」

「だって、通過されたら困るから。」

 恵奈が横から突っ込んできました。

 バスはウインカーを出して私たちがいるバス停に止まり、扉を開けました。

 中へ入ってみると、料金箱がないことに気がついたので、私は運転手に値段を聞きました。

「運転手さん、値段はいくらになりますか?」

「お金はいらないよ。」

 運転手さんは低い声で一言返事をしました。

「ところで、このバスはどこへ行くのですか?」

「700年後の未来だよ。」

 え、ここは突っ込むところ?私は心の中でそう呟きました。

「ありがとうございます。」

 私たちはとりあえず一言お礼を言って一番後ろの座席に座ったあと、最近の運転手は冗談を言うのがうまいんだなと心の中で呟きました。

 バスは坂東橋から首都高速に入って狩場(かりば)方面へと向かい、そのままバスとは思えないような猛スピードで加速していきました。

 このまま私たちをどこまで連れていくのか、まったく見当もつきませんでした。

 この先って確か横浜横須賀道路か保土ヶ谷バイパスのはず。しかし、バスはスピードを緩めることもなく、私たちの知らない真っ暗なトンネルの中を走っていきましたが、そのあとバスの中に眠気を誘うような甘い香りが漂ってきて、そのまま深い眠りに入ってしまいました。

 目が覚めたころ、バスは濃い霧の中に止まっていました。私は窓から見慣れない景色に疑問を感じたので運転手に場所を聞こうとしましたが、すでに運転席どころか、どこを探しても見当たりませんでした。

 私は、まだ眠っている恵奈と真紀を起こしてバスを降りることにしました。


 バスを降りて15分、私は濃い霧の中をゆっくりと歩いていきましたが、私たち以外まだ誰とも会っていないことに驚きました。

 さらに驚いたことに持っていたスマホが圏外になっていたことでした。

 「誰も住んでいない田舎に連れてこられたのかな。」と思って、湿った草の上をゆっくりと歩いていきました。

 しばらく歩いていくと、きれいに舗装された道路に出られましたが、スマホは相変わらず圏外でした。

「ねえ未来、私のスマホ圏外になっているよ。」

 真紀が不満をこぼすような感じで私に言ってきました。

「私のスマホも圏外だよ。」

 今度は恵奈までが言ってきました。

「とにかく、スマホがつながる場所まで行こう。」

 私はその一言を最後に、しばらく無言のまま歩いていったら、一枚のさびた案内標識を見て気がつきました。

 それは書いてある行き先に<伊勢佐木町>とか<桜木町>って書いてあったことだったので、これって明らかに私たちの地元だと思いました。

 一つ考えられるのはパラレルワールドに連れてこられたことだけでした。

 とにかく行方不明になった運転手を見つけ出して、きちんと説明してもらおうと思いました。

「未来、これってどういうこと?」

 恵奈はびっくりした表情で私に聞いてきました。

「私にも分からない。」

「未来、今気がついたけど、車が一台も通っていなかったよね?」

 今度は真紀が車が一台も通っていないことに驚いていました。

 人も車もいない、この寂しい街が本当に自分の住んでいる場所なのか。私はそのことに強く疑問を感じました。

 明らかに別世界としか言いようがありませんでした。

 しかも、周りの建物を見渡しても看板などが見当たらなかったので、まるで街全体が死んでいるように思えました。

 どうなっているの?とにかく立ってじっとしていても始まらないから、手掛かりになるようなものを見つけよう。私はそう思って歩くことにしました。

「未来、やみくもに探し回っても見つからないから、運転手がいそうな場所から行ってみない?」

 恵奈が私に提案をしてきました。

「そうよね、それも一理あるから、まずはどこから行く?」

「関内の駅は?」

「そこから行ってみようか。」

 まず私たちは関内駅に向かうことにしたのですが、いつもと見慣れた風景とは違っていました。

 最初に気がついたのは横浜スタジアムがないことでした。

「恵奈、変なことを聞くけど、横浜スタジアムってこの辺だったよね?」

「そうよ。」

「それがないの。」

「えー!?そんなバカな話があるの?」

「じゃあ、見てきたら?」

 恵奈と真紀は私に言われて横浜スタジアムの方に目を向けたら、そこは大きな墓地になっていました。

「ねえ未来、横浜スタジアムがお墓に変わっているよ。」

 恵奈は目を点にさせながら、私に言いました。

「正直何がなんだか本当に分からない。」

 私は頭を抱えながらつぶやきました。

「お墓に行けば、何か手掛かりがつかめるはずよ。」

 真紀は私と恵奈に言いましたので、3人でお墓の中へ入ったのですが、昼間でも正直居心地がいいとは思えませんでした。

 シンプルな位牌型から十字架まで様々なお墓が立てられていました。

「へえ、結構いろんなお墓があるんだね。」

 私は少し感心したような言い方をしてお墓を見て歩いていったら、奥の方へ行くと一風変わったお墓を見かけました。

 他のお墓は石で出来ているのに、一部では透明なアクリル板で出来たお墓を見かけました。

 そこには白い文字で戒名やら俗名などが書かれている中、思わず目を疑いたくなるような文字を見かけました。

 私は大声で恵奈と真紀を呼びました。

「恵奈ー、真紀ー、ちょっと来てよ。」

「どうしたの?大声出して。」

「ちょっと見てよ。この人が死んだ年。」

 恵奈はトートバックから眼鏡を取り出してアクリル板に書かれている白い文字を読み上げました。

「え!?何!?どういうこと!?この人って2130年5月10日に亡くなっているわよ。」

「だって、今は2022年2月だよね?」

 真紀も驚いていました。

 さらに他の人のお墓も見て歩きました。

「この人なんか、2260年に亡くなっているわよ。」

「だいたい今は何年なの?」

 恵奈は私に聞いてきました。

「少なくとも2022年でないことは確かなはず。」

 私はバケツを持った年老いたお墓の管理人に聞いてみました。

「こんにちは、お忙しい中すみません。ちょっとおかしなことを聞きますが、今は何年何月ですか?」

「本当におかしなことを聞くんだね。今は2722年3月だよ。」

「おじいさん、本当ですか?」

「疑うなら、新聞を見てみるかい?」

 お墓の管理人は手に持っている新聞紙を私たちに見せました。

「確かに2722年になっている。」

 やはり、運転手が言っていた行き先は冗談ではなく、本当だったんだと私は思いました。

 さらに一面記事には<人口減少により、コンビニサービス終了>と書かれていました。

「どうだい、気がすんだか?」

「はい、ありがとうございました。」

 私たちはお墓の管理人に新聞紙を渡して、そのままお墓をあとにしました。

「私たち、未来へタイムスリップしたんだね。」

 私は1人ボソっと呟きました。

「これからどうする?運転手を探さないとまずいんじゃないの?」

 恵奈は私と真紀に聞きました。

「運転手もそうだけどさあ、本牧西の多田綾子を見つける方が先なんじゃない?」

 真紀は恵奈の意見に反論しました。

「そうよね。ここにいてもしょうがないし、自分の家に行ってみる?」

「それもアリだけど、さっきのお墓を見たら私らの家なんてないんじゃないの?」

 私が自分の家に行こうとしたら、恵奈に止められました。

 太陽も傾きかけていたので、今夜寝どまりする場所を探すことにしました。



3、変わり果てた地元での宿探し


 お墓を出てから30分、人という人にすれ違うことがなかったので、まるで過疎化した集落の中を歩いているような気分でした。

 私たちの時代は結構栄えていたのに、いつの間にかこうなったんだろう。私は1人心の中で呟きながら歩いていました。

「そういえば、さっきおじいさんが持っていた新聞記事にコンビニが無くなるようなことが書いてあったけど、自販機はまだあるの?」

「知らないわよ、私この時代の人間じゃないんだから。」

 疲れがたまっているせいか恵奈は私の問いかけに、不機嫌な態度で返事をしました。

「恵奈、私何か怒らせるようなことを言った?」

「別に。ちょっと疲れているだけ。」

「こういうのって、八つ当たりって言うんじゃない?」

「2人とも、ちょっと抑えて。」

 私と恵奈がけんかになりそうだったので、真紀はすぐに止めに入りました。


 さらに歩き通していると、私たちは空腹を促し始めたので、食べ物のお店がないかを探しました。

 コンビがなくても喫茶店くらいはあるはず。

 私たちは関内駅の周辺を歩き回りまわっていたら、少し違和感を覚え始めました。

 それは駅周辺の構造がまったく別物に変わっていたことです。

 周辺のビルが解体され、代わりに自由広場が設けられていたり、その一角には地下に通じる階段があったので、私たちは降りてみることにしました。

 中はところどころにオレンジ色の電灯が灯されて少し薄暗い感じがしたので、まるでRPGのダンジョンの中を歩いているような気分でした。

 少し歩いていくと、黄色い看板が見えてきて、そこには<軽食うみかぜ>と青い文字で書かれたお店がありました。

 空腹の私たちには願ったりかなったりの状態でしたので、早速扉を開けて中へ入ってみました。

「こんにちはー、誰かいますかー?」

 私は大きい声で何度か店の人を呼びましたが、誰も返事がありませんでした。

 誰もいない店なのかと思って、私はもう一度大きい声で店の人を呼びました。

 すると、店の奥から水色のエプロンをした20歳代くらいの若い女性がやってきました。

「いらっしゃーい、奥のテーブルへどうぞ。」

 女性は少し大き目のコップに入った水と、おしぼりを用意してテーブルに置きました。

「ご注文はお決まりですか?」

「それではアイスコーヒーとホットドッグを3つずつください。」

「承知しました。」

 女性が店の奥で準備しているころ、私たちは多田綾子の行方について探すことにしました。

「真紀、何か心当たりない?」

 私は真紀に多田綾子が行きそうな場所を聞き出すことにしました。

「正直、分からない。仮に知っていたとしてもこの時代となると、地形とかって変わっていそうだから、正直見つけるのは難しいと思うよ。それに人も少ないっていうレベルじゃないじゃなん。」

「確かにそうだよね。写真とかってないの?」

「ちょっと待って。」

 真紀はスマホを取り出して、写真を探し出しました。

「あった、この子よ。」

「あー、知ってる!この子、元町商店街で私と恵奈にイチャモンつけた人よ。」

「イチャモン?何かあったの?」

「うん、ちょっとね。」

「そうなんだ。」

 真紀は少し不思議がっていました。

 その時、店の女性が人数分のアイスコーヒーとホットドッグを運んできました。

「お待たせしました。どうぞごゆっくり。」

 私たちは出されたものを平らげて、レジで会計を済ませようとした時でした。

「お客様、お代は結構ですので。」

「どうしてですか?」

「実はこのお店、たたむことになったのです。」

「その理由って、やはり異常なほど人が少なくなったのが原因なんですか?」

「はい、これ以上やっていけなくなりました。」

「この理由がいったい何だったのか、教えてもらえますか?」

 彼女は少し考え込みました。

「何か、答えられない理由でもあるのですか?」

「・・・・。」

「未来、何か事情があるみたいだから、無理して聞かない方がいいよ。」

 横にいた恵奈が注意に入ってきました。

「すみません、無理に聞き出したみたいで。」

 私は店の人に一言謝りました。

「いいの、別に隠すつもりはなかったから。実は今から2年前、『世界最終戦争』と言われる大規模な戦争が世界各国で発生したのです。日本の自衛隊が国防軍として参加している中、私の父と兄も自衛隊と一緒に国防軍として戦争に参加したのですが、敵の攻撃によってこの世を去ってしまったのです。その一方、姉と母も敵の空爆の被害に遭って同じ年に亡くなりました。」

「そうなんですね。いくつか気になったのですが、ご家族がお亡くなりになって、あなただけが生きていらっしゃる理由は何ですか?」

「今いる地下を避難シェルターとして使われていたからなんです。」

「地下を避難場所にしておきながら、お母さんとお姉さんがお亡くなりなった理由は何ですか?」

「未来、バイトの面接官じゃないんだから、この辺にしておきなさい。」

 恵奈は私の質問が気になって止めに入りました。

「いいのです、構いません。」

 店の女性はそのまま話を続けました。

「母と姉が死んだ理由は、急に家に忘れ物をしたからと言って、取に行ったのです。」

「2人で?」

「姉は母が行くのを必死で止めました。しかし、母は姉の言葉など耳一つ貸さず戦火の中を1人走って行ったので、姉もそのあとをついていったのです。」

「そんな過去があったのですね。」

「なんだか悪いことを聞いちゃいました。」

「いいの、気にしないで。あとよかったらこのパン、持ち帰ってくれる?非常食として残しておいたけど、食べることが無くなったから。」

「いいのですか?ありがとうございます。あと、もう一つ伺いたいのですが、この辺で寝どまり出来る場所ってありますか?ホテルとかマンション、なんでもいいのですが・・・。」

「そうねえ、確かこの地下の出口に廃業したビジネスホテルがあったような気がした。あと、古いマンションも見かけたような気がしたけど・・・。」

「本当ですか?ありがとうございます。」

 私たちはパンを受け取った後、再び薄暗い地下道をゆっくりと歩いていきました。

「この地下道、どこまで続くの?もう20分以上歩いているよ。」

「もう少し、我慢しなさいよ。」

 恵奈が不満をこぼし始めたので、私は我慢するように言いました。

 さらに歩いていくと上り階段が見えてきたので、ゆっくりと上がっていきました。

 出口には重たい鉄の扉があって、私はゆっくりと開けていきました。

 長い間、地下にいたせいか地上の明るさがまぶしく感じて、私は反射的に目を閉じてしまいました。

「まぶしい!」

 日没前なのに、なぜか私は思わず声を上げてしまいました。

「とにかく、今夜寝る場所を探そう。」

 真紀は私と恵奈に寝どまりする場所を探すよう言いました。


 地下を出てから歩いて40分、辿り着いた場所は<横浜縦貫鉄道・新伊勢佐木町駅>と書かれた看板でした。

「700年も経てば、こんな駅も出来上がるんだね。」

 私は少し関心したように言いました。

「そんなことより、今夜の宿を探そう。」

「はーい。」

 私たちが探して辿り着いた場所は、今にも消えかかりそうなビジネスホテルの看板の灯りでした。

 入り口には<ビジネスホテル・伊勢佐木町>と書かれていました。中へ入ってみるとフロントに貼り紙があり、そこには<当ホテルには従業員がおりません。お好きな部屋をご自由に使ってください。>と書かれていました。

 私はフロントにあるルームキーを3部屋分取り出して恵奈と真紀に渡して最上階の部屋へ向かいました。

 部屋の中へ入ってみると、ベッドと椅子が置いてあるシンプルな構造でしたが、よく見るとベッドはくたびれていたり、椅子も少し傷みかかっていました。

 窓の外を見ると電気のついている建物が少なく、寂しい感じでしたが、その代わり空を見上げると、宝石を散りばめたような綺麗な星が見えました。

 散々歩き疲れたから今日は早めに寝ようと思って、ベッドに入ろうとした瞬間、ドアをノックする音が聞こえました。

 私は覗き穴からそっと覗いてみると、そこにはパンを持った恵奈がいました。

「ちょっとだけいい?」

「恵奈、どうしたの?」

「これ、未来の分。さっきの軽食屋さんでもらったパン。」

「ありがとう。真紀の分は?」

「さっき渡しに行ったら、すでにベッドで爆睡していたから、テーブルの上に置いてきた。」

「そうなんだ。今日たくさん歩いたから疲れたんでしょ?」

「明日はどこを歩くの?」

「まだ分からない。それより気になっていたけど、このホテルの近くに駅があったでしょ?そこから電車に乗ってみない?」

「それもいいかもしれないね。じゃあ、私ももう少ししたら寝るね。」

「うん、お休み。」

 私はそのままベッドに入って寝てしまいました。


 次の日、私は日が昇る前に目が覚めました。

 テーブルの上に置いてあるスマホの時計を見たらまだ5時を回ったばかりでした。

 もう少し寝るか、それともそのまま起きるか迷った末、もう少し寝ることにしました。

 再び目が覚めた時には6時でしたので、私はそのまま起きて窓の景色を眺めることにしました。

 相変わらず、まるで街全体が死んだように静かでした。

 ちょうど空腹を促したので、私は昨日もらったパンを食べることにしました。

 さすがにパンだけだときつかったので、私は下の階まで降りて自動販売機を探すことにしたのですが、どこを探しても見当たりませんでした。

 仕方がないので、部屋に戻って洗面所にあるコップに水を入れて飲むことにしたのですが、カルキの独特の匂いがなかったので驚きました。

 再びスマホの時計を見たらまだ7時30分。恵奈と真紀を起こすべきか。それとも自分から起きてくるのを待つべきか。

 その時、隣の部屋のドアが開く音がしたので、私もドアを開けて廊下に出てみると、恵奈がいました。

「あ、未来おはよう。」

「おはよう恵奈。そういえば真紀は?」

「まだ寝ていると思うの。」

「じゃあ、起こそうか。」

 私と恵奈は真紀の部屋のドアを数回ノックしました。しかし、反応がなかったので2人で部屋に入ってみましたが、部屋中どこを探しても見当たりませんでした。

「あれ、真紀?」

 私はそう言いながら探しました。

 その時、後ろからドアが開く音がして、真紀が入ってきました。

「あれ、2人ともいたんだね。」

「真紀、もう起きていたの?」

 私は驚いて、思わず指を刺してしまいました。

「実は昨日もらったパンを食べたら、喉が渇いて自販機を探しに外まで行ってきたんだよ。そしたら、見当たらないから仕方なしに戻ってきたの。」

「そうなんだよね。だから私洗面所の水を飲んでみたの。そしたら意外とおいしかったよ。カルキの匂いもしなかったし。」

「マジ!?」

「うん。」

 真紀は私に言われて、すぐに洗面所にあるコップに水を入れて飲んでみました。

「本当だ、美味しい!」

「でしょ?」

 そのあと、真紀は水を2杯飲んで戻ってきたので、今後のことについて皆で話すことにしました。


「このあとの予定なんだけど、この近くに駅があるから、そこから電車に乗ってどこかへ行ってみない?」

 私はみんなに提案してみました。

「いいけど、どこにする?」

 恵奈が聞いてきました。

「山下公園は?」

「その電車って山下公園の近くを通るの?」

 真紀が私の言ったことに疑問を感じました。

「わからない。でも駅には<横浜縦貫鉄道>って書いてあったわよ。」

「だからと言ってその近くを通るという保証はないんじゃない?」

「確かにそうだけど・・・。」

「とりあえず、行ってみる?」

「そうだね。」

「そういえば、今夜もここのホテルにする?」

 恵奈は何かを思い出したかのように言ってきました。

「そういえば、そうだったね。どうせ利用客は私らだけだし、鍵を持って移動しない?」

「それもそうだね。」

「でも万が一のこともあるから、一応戻した方がいいんじゃない?」

 真紀は鍵を一度フロントへ戻すことを勧めてきたので、私たちは1階に降りてフロントに鍵を戻して出ようとした時でした。

「ねえ、2人とも待ってくれる?」

 恵奈は私と真紀を引き留めてホテルの地下へ行くよう促しました。

「恵奈、どうしたの?」

 私は恵奈の突然の行動に驚いて、あとをついていきました。

 私たちは薄暗い地下に向かう階段をゆっくり降りていくと、その先には少し大き目の鉄の扉があって、そこには<食料貯蔵庫>と書かれていたので、3人でゆっくり扉を開けていきました。

 すると扉の先には少し薄明かりの蛍光灯がともされた部屋になっていて、鉄の棚や山積みになっている段ボールが置いてありました。

 私たちは思わずテンションが上がって、棚や段ボールの中を見ていきました。

 缶詰やペットボトルのお茶、チョコレート、ビスケット、レトルト食品などがたくさん置いてあったので、恵奈は一つずつマジマジと見ていきました。

「ねえ、これって全部非常食じゃない?」

「本当だ。」

 私もチョコレートのパッケージを見て気がつきました。

「しかも、チョコはチョコでもココアパウダーのかかったクッキーだよ。しかもパッケージには<非常用>って書いてある。」

 そのあと、真紀はパッケージから一つ取り出して食べました。

「非常食って言うわりには、思ったほどまずくはなかったわよ。」

 私も恵奈も真紀から一つずつもらって食べました。

「本当だ。結構おいしい。」

 私が2つめを取ろうとした瞬間、恵奈は私の手を叩きました。

「いったーい。」

「少しは遠慮しなさい。」

「いいじゃない、こんなにたくさんあるんだし。」

「そうだけど、私が言うのは『あとのことも考えなさい』って言っているの。」

「ちぇっ、恵奈のケチ。」

「ケチで結構です。」

 そのあと、私たちは貯蔵庫から少し食べ物と飲み物を持って、ホテルの外に出ました。外は昨日とは違い、空一面が灰色に染められたように雲が広がっていて、気温も少し低めでした。

 私たちはそのまま新伊勢佐木町の駅へと向かうことにしました。

 駅は地下になっていたので、エレベータかエスカレータを使おうと思ったのですが、どういうわけか作動しておらず、長くて暗い階段をゆっくり降りていきました。

「ねえ恵奈、この長い階段どこまで続くの?ずっと歩かされているんだけど・・・。」

「私に言わないでよ。」

「どこかで休憩とらない?」

「休んでどうするの?とにかく歩くわよ。」

 恵奈は私の意見などお構いなしに、スタスタと歩いていきました。

「ねえ真紀、恵奈の下半身、化け物みたいだよ。」

「確かにこの階段、長すぎるわよね。」

 やっと券売機に着いた時には体力がヘロヘロになっていました。

 しかし、券売機も自動改札機も作動しておらず、事務所には駅員もいませんでした。

「真紀、恵奈、ここの駅無人になっているよ。しかもただで乗れるみたい。」

「田舎の駅じゃないんだから。」

 恵奈はそう言って駅の事務所の中へ入っていき、誰か1人くらいいるだろうと思って念入りに探し回りました。

 事務所から出た恵奈は「ここの駅、やっぱ誰もいないわよ。」と私と真紀に言いました。

「どうせ防犯カメラもないんだし、ただで乗る?」

 私は真紀と恵奈に言いました。

「仕方ないわね。無賃乗車って好きじゃないけど、そうするより他はないわよね。」

 真紀は渋々と賛成しました。

 私は時刻表と路線図で次に乗る電車を恵奈と真紀に伝えました。

「あと2分したら新横浜行きが来るから、それで山下公園西の駅まで行こう。」

 私が恵奈と真紀に言ったあと2人が了解したので、私たちは2分後の電車に乗って山下公園に向かうことにしました。



4、電車に揺られて山下公園へ


 電車に乗り始めてからというもの、景色のない暗いトンネルをゆっくりと走って行きました。

 走っても走っても、暗闇の中をひたすら走っていくばかりでした。

 電車は当然のことだが無人運転でしたので、車掌も運転手もいませんでした。

 唯一、退屈しのぎになるものと言えば、ドアの上に表示されている停車駅の案内表示だけでした。

 しかし、進行方向の矢印と停車駅を見続けていても最後は飽きてしまう。

 用意したスマホは言うまでもなく圏外のため使えませんでした。

「あー、もう退屈ー!」

 今まで静かにしていた恵奈が、退屈の限界にきて大声を上げてしまいました。

「恵奈、もうじき着くから静かにして。」

「もうじきって、どれくらい?この退屈なトンネルはどこまで続くの?」

 恵奈は私に不満をぶつけてきました。

「今、新山下の駅を出たから次が山下公園西の駅だよ。とにかく座ってじっとしていなさい。」

 私は落ち着かない子供を叱る親のように、恵奈に注意をしました。

「スマホは使えない、窓の外はトンネルだし、それでじっとしている方がどうかしているよ。」

 確かに恵奈の言っていることも一理ありました。

 たった一駅がこんなに退屈するなんて正直思いもしませんでした。

 スマホが使えて当たり前、景色が見られて当たり前の時代からやってきた私たちから見たら、この時代は退屈かつ地獄そのものでした。

「これも昨日聞いた戦争の話と関係しているのかな。」

「昨日の聞いた戦争って言うと?」

 突然、真紀が口を出してきたので、私は思わず聞き返しました。

「ほら、昨日軽食屋さんが言っていた世界最終戦争のこと。」

「ああ、確かにそんなことを言っていたよね。そうなると、電車を地下にしたのは戦争に巻き込まれないようにするため?」

「その可能性は充分に高い。」

 私は2年前に発生した「世界最終戦争」のことが知りたくなってきました。しかし、今は本牧西中学の多田綾子っていう面倒な女の子を探すのが先決でした。

 電車は山下公園西駅に着いたので、私たちは地上へ向かうことにしたのですが、あの長ったらしい階段を上がっていくとなると、正直おっくうになってきました。

 無人改札を出て、地上へ向かおうと思ったのですが、ハイキングコースよりもすごい急斜面な上り階段があったので驚きました。

「あれを上るの?」

 恵奈は不満たっぷりに私に言ってきました。

「仕方ないでしょ、それしか方法がないんだから。」

 少し離れた場所で真紀がエレベータらしきものを見つけて、「ねえ、これまだ動くかもしれないよ。」と言ってきました。

 私と恵奈が行ってみると、これはよく工事作業員が使っているゴンドラタイプの小型のエレベータでした。

「これ、ボタンで動く小型のエレベータだよね?」

「そうだよ。」

 私は少し不安そうに真紀に聞きました。

「動くの?」

「さあ。」

 今度は恵奈までが不安そうな顔をして聞いてきました。

 真紀が緑色の上昇ボタンを押したら、エレベータはゆっくりと地上に向かって上昇して行きました。

 しかし、頼りなさそうな扉だったので、いつ外れてもおかしくない状態でした。

「真紀、ちょっと怖いんだけど・・・。」

「大丈夫、もうじき地上に到着するから。」

 真紀は怖がっていた私に安心させるように言ってきました。

 確かにエレベータは少しずつ地上に近づいていきました。

 地上へ着くとエレベータは自動停止し、私たちはそのまま山下公園へと歩いていきました。


 山下公園に着いて最初に目にしたのは、その一角の港に停泊している大きな軍艦でした。

「真紀、恵奈、ちょっと見て。大きな軍艦が()まっている。」

「本当だ。」

 恵奈はそう言って近くに行って写真を撮ろうとした時でした。

「未来、ちょっと見てよ。辺り一面武器や戦車があるよ。」

 武器や戦車、そして港に停泊している軍艦、明らかに「世界最終戦争」の爪痕って感じでした。

 真紀は足元に置いてある手榴弾を手に取って眺めていました。

「これ、本物だよ。」

 真紀は少し興奮気味で言ってきました。

「真紀、危ないから置いてよ。」

「大丈夫よ。私たち以外誰もいないことだし。ちょっと試しに投げてみるよ。」

 真紀はそう言って道路にめがけて手榴弾を一つ投げてみたら、ものすごい勢いで爆発しました。

「すごい威力だね。」

 真紀は自分が投げた手榴弾の爆発の勢いに驚いていました。さらに足元のショットガンを拾って持ち帰ろうとしたので、私は置いていくように言いました。

「真紀、危ないから置いて行って。」

「いいじゃない。一丁だけなら。」

「ちゃんと扱えるの?縁日の射的で使う鉄砲とはわけが違うんだよ。」

「大丈夫だって。」

「間違っても元の時代に持ち帰らないでよね。持ち帰った時点で警察に捕まるんだよ。」

「それまでには、ちゃんと捨てておくから。」

 私は真紀のやっていることに不安でたまりませんでした。


 その一方、恵奈は軍艦の中に入って、食料品をトートバッグいっぱいに入れて私たちのところにやってきました。

「未来ー、真紀ー、軍艦の厨房へ行ったらパンとか肉の缶詰がたくさんあったよ。」

 私は呆れて言葉を失ってしまいました。

「恵奈、これ全部持ち帰るの?」

「だってさ、コンビニもスーパーもファミレスもないんだよ。」

「確かにそうだけど・・・。」

「まだ、残っているから取ってきたら?」

「ホテルにも食べ物があるんだよ。」

「そうだけどさあ、確かホテルって肉の缶詰ってなかったはずだから。」

「確かにそうよね。」

 私と真紀は恵奈に案内してもらって軍艦の厨房へと向かいました。

 中へ入ってみると、軍艦の中は迷路になっていて自分がどこを歩いているのか分かりませんでした。

 恵奈は慣れた感じの足取りでどんどんと前へ進んで行ったので、私と真紀はついていくだけで精一杯でした。

「ここが厨房だよ。」

 恵奈はそう言って扉を開けて中へと入っていったので、私と真紀もあとに続いて中へ入ってみると、自宅の台所の何十倍もあるような広さだったので、驚きました。

「ここに食べ物があるよ。」

 恵奈は棚から缶詰やパン、レトルト食品などを調理台の上にいくつか置きました。

「これ、持ち帰って平気なの?」

「うん、どうせこの軍艦も誰もいないし。」

「賞味期限とかって平気なの?特にパンが気になる。」

 私はパンを手に取って眺めてみましたが、案の定カビが生えていました。

「恵奈このパン、カビが生えているよ。」

「え、マジ!?」

 恵奈は私に言われてトートバッグからパンを取り出して眺めてみました。

「本当だ。全部カビが生えている。」

 仕方がないので、パンをあきらめて缶詰とレトルト食品だけ持ち帰ることにしたのですが、一つ気になったことがありました。それはレトルト食品を食べる時の食器のことでした。

「ねえ、食器はどうする?」

「食器ならここにあるじゃん。真紀悪いんだけど、真紀が持っているリュックにお皿とスプーンを入れさせて。」

「いいよ。」

 恵奈は真紀のリュックに人数分のお皿とスプーンを入れました。


 軍艦を出たあと、真紀は落ちていたショットガンの弾を拾い上げてリュックに詰めようとしたした時でした。

「真紀、今リュックに詰めたものって何?」

「ん?ショットガンの弾だよ。」

「そんなの拾ってどうするの?」

 私は険しい表情して真紀を問い詰めました。

「どうするって、ショットガンが弾切れとなった時に補充しようかと思ってるの。」

「そうじゃなくて、ショットガンを何の目的で使うのか聞いているの。」

「そりゃあ、何かあった時に必要だから。」

「その何かって?」

「例えば魔物が誰かの部屋に夜這いしに来たときとか、たちの悪いナンパに遭遇した時に。」

「人がただでさえ少ないのに、夜這いとかナンパに遭遇する確率ってあるの?」

「確かに・・・。でも魔物に遭遇する確率があるかもしれないじゃん。」

「わかった。私の負け。持ち歩くときには気を付けてよね。あと、間違っても私たちに向けないでよね。」

「大丈夫だって。」

 私は真紀に対して少しだけ不安になりました。


 山下公園を出て、私たちはマリンタワーに上ろうとした時でした。

 いくら探してもマリンタワーが見つからないのです。

「ねえ恵奈、この近くにマリンタワーってあったよね?」

「あ、確かに言われてみれば・・・。」

 私たちがぐるぐると探し回っていたら、ちょうどベンチに座ったおじいさんに会ったので、声をかけてみようと思いました。

「こんにちは、休憩中のところ申し訳ありません。いくつかお伺いしたいことがあるので、少々お時間をちょうだいしてもいいですか?」

「ああ、いいよ。」

「ありがとうございます。」

「若い女の子を見るなんて、本当に何年ぶりなんだろう。」

 おじいさんは、軽く微笑んで私たちの話を聞いてくれることになりました。

「それで早速なんですが、こちらの写真の女の子をご存知ですか?」

 真紀はスマホを取り出して、おじいさんに多田綾子の写真を見せました。

「おお、スマホなんて随分とレトロなものを持ち歩いているんだね。ワシのご先祖様がよくそれを使って遊んでいたよ。」

「そうなんですね。」

「お嬢さんが持っているスマホは確か歴史資料館に展示してあったはずだよ。」

「その資料館ってどこにあるのですか?」

「馬車道の方にあったような・・・。そうそう、昔税資料館があったところだよ。」

「あとで行かせて頂きます。それでおじいさん、話を戻しますが、写真の女の子を見かけませんでしたか?」

「さあ、見ていなかったような気がしたよ。仮に見かけていたら、おそらく記憶に残っているはずだから。何しろここ何年かで、人口が大幅に減少してしまったからな。」

「そうなんですね。ありがとうございます。それともう一つお伺いしてもいいですか?」

「なんだね。」

「実はこの近くにマリンタワーがあったはずなんですけど・・・。ご存知ないですか?」

「マリンタワー?ああ、こんなの大昔に壊されてしまったよ。戦争が始まってから、軍事施設になってしまったけどな。」

「マリンタワーを壊された理由って、戦争と関わりがありますか?」

「いや、そんなんじゃない。他に理由があるんだよ。」

 おじいさんはポケットからタバコを一本取り出して火をつけたあと、話を続けました。

「単なる赤字だよ。客足が減って利益が減少して経営が困難になったから、解体が決定したんだよ。その原因は八景島の一角にスカイタワーという新しいタワーが出来上がったんだよ。」

「そうだったのですね。」

「しかし、世界最終戦争が始まったとたん、タワーはもちろんのこと、テーマパークまでがすべて壊されて、辺り全体が焼け野原になってしまったんだよ。」

「実は、もう一つ確認したいのですが、世界最終戦争が起きた理由って何ですか?」

「お嬢さんたちは知らないのかね?」

 真紀は少し困った表情をしました。

「実は信じてもらえないかもしれませんが、私たち2022年の過去からやってきました。」

「なるほど、そうだったんだね。どおりで見慣れない服を着たり、スマホを持ち歩いているわけだ。」

「驚かないのですか?」

 真紀はおじいさんの反応に目が点になってしまいました。

「なーに、ワシぐらい長く生きていれば、いろんな人と会ったり、経験をすればお嬢さんたちを見たところで、驚いたりはしないよ。」

 おじいさんは笑いながら私たちに言いました。

「そうなんですね。それで世界最終戦争が起きた理由を聞かせてもらえますか?」

「そうだったな。そのきっかけを作ったのはシベリア連邦共和国で、金も武力も権力もすべて自分たちが上だと威張っていたんだよ。そんな時、シベリア連邦の大統領が世界を統一して支配すると言い出したんだよ。」

「それが世界最終戦争の幕開けだったのね。」

 おじいさんは黙って首を縦に振りました。

「シベリア連邦が戦線布告をしたとたん、周辺国も黙っていられなくなり、立ち上がって戦争を始めたんだよ。日本も自衛隊だけでなく、一般の男性や女性、子どもまでが国防軍として参加するようになったんだよ。断れば当然、国から厳しい処罰を受けることになり、参加できる一般の人たちは次々と戦地へ行かされるようになったんだよ。」

「アメリカの助けってなかったのですか?」

「アメリカは自分の国を守るのに精一杯だったから、助けなんかなかったんだよ。この辺はシベリア連邦に狙われて、あっという間にこのざまになったんだよ。」

 私たちはおじいさんの話を黙って聞いていました。

「一つ気になったのですが、日本は戦争に負けたのですか?」

「ああ。見事にな。」

 おじいさんは二本目のタバコを吸い始めました。

「負けた日本は支配されなかったのですか?」

「支配するにしても、支配する人間が他の国の軍隊にやられてしまって、結局は支配されずに済んだんだよ。」

「もう一ついいですか?」

「なんだね?」

 今度は今まで黙っていた恵奈が口を出してきました。

「日本の国防軍たちはどうなったのですか?」

「ワシも詳しいことは分からないが、一説によるとシベリア連邦の捕虜にされたと言う話になっているみたいなんだよ。」

「今の言い方ですと、仮説を立てたように聞こえたのですが、テレビや新聞には報道されなかったのですか?」

「その部分は非公開になっていたので、ワシにもよくわからなかったんだよ。」

「そうなんですね。ありがとうございます。」

「大したことを教えられなくて、すまなかったな。」

「いいえ、こちらこそ。」

「友達が見つかることを祈っているよ。」

「それでは、失礼します。」

 私たちはおじいさんと別れたあと、一度ホテルへ戻ることにしました。


 ホテルへ戻るなり、私たちは山下公園の軍艦から持ってきた缶詰やレトルト食品、またホテルの地下にある食料貯蔵庫から持ってきた菓子類などを恵奈の部屋で広げて食べることにしました。

「まずはどれにする?」

 恵奈は私と真紀に聞きました。

「今日はそんなにお腹がすいてないから、塩味のヤキトリの缶詰とチョコクッキーだけにするよ。」

 私はそう言って、塩味のヤキトリの缶詰とチョコクッキーをベッドで食べることにしました。

「美味しい!ねえ恵奈と真紀、この塩味のヤキトリの缶詰、ヤバイくらいに美味しいよ。」

 恵奈と真紀は私に言われるまま、缶詰のふたを開けて食べ始めました。

「本当だ、美味しい!」

 真紀はスプーンですくいとって食べたあと、恵奈も食べて「美味しい!」と感想を言いました。

 そのあともチョコクッキーも食べて、一休みし始めました。


 一休み済んだあと、真紀は明日の予定についてみんなに話しました。

「明日なんだけど、今日おじいさんが言っていた税資料館のあとに作られた歴史資料館へ行ってみない?」

「いいけどさ、降りる駅って知っているの?」

「確か、元馬車道だったような気がしたよ。」

 私が真紀に降りる駅を確認をしたら、真紀はスマホを取り出して確認をしてくれました。

「真紀のスマホってつながるの?」

「違う。さっき電車に乗る前に路線図を写真で納めておいたの。」

「そうだったんだね。電車もいいけどさ、バスも調べた方がいいんじゃない?」

「そうよね。確かに改札までの長ったらしい階段と小さなエレベータはうんざりだよね。じゃあ、明日電車に乗る前に近くにバス停がないか調べてみようか。あと資料館の帰りに気になる場所があったら、みんなで行ってみようか。」

 真紀はそう言ってポケットにスマホをしまい込みました。

「あ、そうそう。明日は何時ごろ出発する?」

 私はみんなに確認をとりました。

「10時くらいでいいんじゃない?」

 恵奈が目の前のクッキーをつまみながら言いました。

「じゃあ、明日10時に出よ。じゃあ、そろそろ部屋に戻るね。」

「うん、おやすみ。」

 私が自分の部屋に戻ったあと、真紀も自分の部屋に戻りました。

 時計を見てもまだ8時だと言うのに、急に眠気が襲ってきたので、そのまま眠りました。



5、資料館で見たもの


 次の日、朝食を済ませて身支度をしていた時、私は急に違和感を覚え始めました。

 それはこの時代に来てから一度も着替えをしてないことでした。

 毎日同じ服でしたので、そろそろ他の服に着替えたいと思っていましたが、今はそんなぜいたくを言える立場ではありませんでした。

 その時、部屋の外でドアをノックする音が聞こえたので、ドアを開けたら恵奈と真紀がやってきました。

「おはよう、身支度終わった?」

「うん。」

 恵奈は身支度が終わったかどうかを私に確認してきました。

 私は返事をしたあと、恵奈に資料館の帰りに衣類を扱っている店に行ってもらうよう言いました。

「なるほどね。確かに同じ服ってうんざりだし、清潔感もないよね。」

 恵奈はため息交じりに言いました。

「でしょ?正直気持ち悪いものを感じるの。」

「わかった、ついでだから下着も見ていこうか。」

 恵奈は資料館の帰りにブティックや下着の店に行ってくれると言いましたので、私としては少しだけテンションが上がりました。


 ホテルを出た私たちは近くにバス停がないかを探し回りました。

「あったよー!」

 恵奈は大きい声で私と真紀を呼びました。

「恵奈、行き先はどこになっているの?」

「字がかすれてよくわからないけど、これって行き先が横浜駅だと思う・・・。あと下には歴史資料館という行き先もある。」

 恵奈は眼鏡姿でバス停のかすれた文字に目を近づけて読み上げていきました。

「恵奈、眼鏡変えたら?」

「それ以前に字がかすれて見えないの。」

 さらに時刻表を見たら、田舎並みの本数の少なさに驚きました。

「何、この本数。半端なく少ないよ。」

 恵奈は私に不満をぶつけてきました。

「仕方ないでしょ。これだけの人口になれば利用客も減るし、それに比例して本数も減るでしょ。」

「でも、電車は頻繁に動いているじゃん。今の言い方だと明らかに矛盾する形になるよ。」

「確かにそうよね。」

 恵奈の言っていることももっともだったので、そのまま納得するしかありませんでした。

「次の歴史資料館行きって、あと10分で来ると思うよ。」

 真紀はスマホの時計を見ながら私と恵奈に言いました。

 待つこと13分、銀色の車体のバスが私たちの前にやってきました。

 前扉が開き、バスに乗ろうとした瞬間、私は運転手と料金箱がないことに気がつきました。

 お金を払わなくてもいい。と判断したので、私たちは一番後ろの座席へ向かいました。

「この時代ってなんでもただなんだね。」

「そうみたいだね。」

 私の問いに恵奈は淡々と返事をしました。

 バスは電気モーターでゆっくりと走っていきました。

 車内を見渡すと私たち以外誰もいなかったので、まるで貸し切りバスに乗っているような気分でした。

 あまりの退屈に私は恵奈や真紀に世間話を持ち掛けてみましたが、2人は景色を見ることに集中していたので、私も静かに景色を見ることにしました。

 昨日乗った横浜縦貫鉄道よりかはマシか。と心の中で呟きながら私は景色を眺めていました。

 ただ景色を眺めているだけなのに、こう沈黙が続くと何だか空気が重たく感じて仕方がありませんでした。

 私たちが退屈し始めたころ、ちょうど車内のどこかにあるセンサーが反応したのか、いつの間にかバスのスピーカーからヘンデルの「調子の良い鍛冶屋」の曲がバイオリンで演奏されているのが聞こえてきたので、心も体も癒されていくような感じがしてきました。

 私はそのまま優しい音色に癒され、眠ってしまいましたが、終点に着いたことに気がつかず、私は恵奈と真紀に起こされてしまいました。

「かなり爆睡していたよ。」

 恵奈は笑いながら私に言いました。

 私は後ろの扉から降りてゆっくりと歩いていきました。

「あの優しい音色を聞かされると、眠くなるんだよね。」

「あー、わかる。確かに眠くなるよね。」

 真紀も便乗して言ったら、恵奈はクスクスと笑っていました。

「ちょっと恵奈、笑いすぎ。」

「だって、未来の寝顔を見ていたら、写真を撮りたくなったんだもん。」

「ちょっと恵奈、写真撮ってないでしょうね。」

「大丈夫よ、撮っていないから。」

「本当に?」

「本当よ。そんなに疑うなら自分で確認したら?」

 私は恵奈のスマホの画像を確認しました。

「どう?なかったでしょ?」

 私は黙って首を縦に振りました。

「疑って、ごめん。」

「いいよ、誤解されるような言い方をした私も悪いんだから。」

 私たちはそのまま資料館へと向かっていきました。


 資料館の中へ入ってみると、こじんまりとしていて、少し窮屈な感じに思えました。

 館内では女性の自動音声で「歴史資料館へようこそ。ここでは私たちのご先祖様の生活や道具などをご紹介しております。どうぞごゆっくりご覧になってください。」と流れていました。

 私たちがその「ご先祖様」なんですけどって、思わず私は突っ込みたくなりました。

 私たちは順路に沿って最初に目に飛び込んできたのは港の丘女子中学の制服を着たマネキン人形でした。

「これって私たちの学校の制服だよね。」

 私は一言、ボソっと口に出しました。

「そうだよね、この時代では私たちの学校はとっくに廃校になっているんだよ。」

 横にいた真紀も重々しく口に出して言いました。

 制服を着たマネキン人形の周りにはロープが張ってあり、そこには<これより先立ち入り禁止>と白い紙に赤い文字で書かれていました。

 制服の前には<港の丘女子中学、1990年開校、2240年人口減少により廃校>と書かれた少し大き目のプレートが置かれていました。

「うちの学校、随分長く続いていたんだね。」

 恵奈が小さく呟きました。

「それだけ歴史のある学校だったんだよ。」

 真紀も恵奈に続いて呟きました。

 その横のガラスのショーケースを見てみると、学校行事の写真も展示されていました。

 体育祭、文化祭、遠足、修学旅行などを見てると、まるで自分が卒業生になったような気分で見てしまいました。

「ねえ、この教科書懐かしいよ。」

 私は真紀の袖を軽く引っ張って言いました。

「懐かしいって、いつも授業で使っているじゃん。」

「確かにそうだけど、ガラス張りで見ると何だか懐かしく感じるの。」

「そんなもんかねえ。」

 真紀はため息交じりで返事をしました。

「見たら、きっとそういう気分になれるよ。」

「言っておくけど、元の時代に戻った時に自分の教科書を見て懐かしがらないでよね。」

「わかっているって。私もそこまでバカじゃないんだから。」

 真紀は心配そうな目線で私を見ていました。

「未来に言っておくけど、この先に展示してある体操着とブルマーを見て懐かしがったら罰金だらね。」

「えー、別にいいじゃん。」

「普段、体育の授業で着ているんだから、そういうリアクションをしない。」

「はい、分かりました。」

 私が真紀の言うことに対して渋々返事をしているころ、恵奈はスマホを取り出して写真を撮っていました。

「恵奈、さっきから何を撮っているの?」

 私は恵奈が何を撮っていたのか気になったので、聞いてみました。

「ん?気になる?」

「うん。ちょっと見せてくれる?」

 私は恵奈のスマホの画像を見てみたら、そこには制服や体操着、教科書などが写っていました。

「真紀、ちょっと見てよ。私以外でも懐かしがっていた人がいたよ。」

「誰よ?」

「恵奈だよ。制服や体操着の写真をたくさん撮っていたよ。」

「写真撮っていただけで、別に懐かしいと言うリアクションがなかったでしょ。」

 私は正直納得がいきませんでした。

 そのあと進んだのはコギャルファッションのコーナーでした。

 制服のミニスカートやルーズソックス、こげ茶のファンデーション、つけまつげ、カラーウィッグなどが赤い布がかぶせてある台の上に展示してあり、<展示品のため、お手を触れることはご遠慮ください。>と白い紙に赤い文字で書かれていました。

 さらにその隣にはパソコンやガラケー、スマホ、タブレット端末なども展示されていました。

 その奥にあるシアタールームでは、私たちが一番気にしていた世界最終戦争の映像が流れていたり、写真などがガラスのショーケースに展示されていました。

 戦争を経験したわけでもないのに、映像や写真を見るとまるで他人事とは思えない感じになってきました。

 子どもがお母さんと一緒に泣きながら走って逃げたり、よその国の兵隊が容赦なしに銃で撃ち殺しているシーンがたくさん流れてきました。

 そして映像の最後の方にはどこかの国で核爆弾を使い、巨大なきのこ雲が発生したのを見た瞬間、私は広島と長崎に投下された原子爆弾の出来事を思い出しました。

 人間はなぜ同じ過ちを二度三度繰り返して生きていくのだろうか、そしてみにくい争いによって多くの尊い命を奪ってしまう。結果的には、この時代のように人の少ない街になってしまう。

 私はこれ以上見るにたえらなくなってしまい、最後は映像から目をそらしてしまいました。

 

 資料館を出たころには私はずっと泣き通しでいました。

「未来、大丈夫?」

 恵奈は私にハンカチを差し出しました。

「うん、ありがとう。」

「あの戦争はひどかったよね。」

「なんで関係のない人たちまでが殺されたのか、正直私には分からない。」

「本当、あの戦争はひどすぎたよ。」

 今度は真紀が口をはさんできました。

「山下公園でショットガンを拾ってきた人だけには言われたくないよね。」

 恵奈は真紀にいやみをぶつけました。

「あれはさっきも言ったように、護身用として拾ってきただけだから。」

「そんなことを言って私たちをカツアゲするために用意したんでしょ?」

「そんなことないわよ。」

「言っておくけど、私たちの時代に持ち帰ったら銃刀法違反で即警察に捕まるからね。」

「それくらいわかっているわよ。」

「友達が目の前で手錠かけられるのは嫌だからね。」

「もう、わかったって。」

 真紀は少しうんざりした顔で返事をしました。

「じゃあ、気を取り直して洋服を見に行こうか。」

「そうだね。」

 そうは言ったもの、資料館の周りには店という店がありませんでした。

 かと言って、人に聞きたくても誰もいなかったので、とりあえずは駅かバス乗り場の方角へ向かうことにしました。

 その時、私はこの近くにランドマークタワーがあることを思い出し、みんなで行こうとした時でした。

「ランドマーク、見当たらないね。」

 私はボソっと一言呟きました。

「そりゃそうでしょ。あのビルだって戦争で壊されたはずだと思うよ。」

 真紀は少しあきれ顔で返事をしました。

「やっぱそうだよね。じゃあ、一度駅に向かおうか。そうすれば誰かに会えると思うし。」

 私たちが元馬車道駅まで向かった時、4歳くらいの女の子とその母親がバス停のベンチで座っているのを見かけたので、思い切って声をかけることにしました。

「あのすみません、私たちこの近くで洋服や下着などを扱っているお店を探しているのですが、ご存知ですか?」

「お店ねえ・・・。」

 私の質問に女性は少し考え込みました。

「やはり戦争でみんな焼けてしまいましたか?」

「確か、横浜駅の地下にあるお店が何件か残っていたのを覚えていたはず・・・。」

「今でもありますか?」

 その時、後ろから別の若い女性が声をかけてきました。

「あの、お取込み中のところすみません。あなたたち、お洋服を探していらっしゃるのですか?」

「はい、そうですが・・・。」

 私は思わず返事をしてしまいました。

「私、三つ子の娘がいたのですが、もういなくなってしまったので、良かったら引き取ってもらえませんか?」

「娘さん、どうされたのですか?」

「2年前の世界最終戦争で他界してしまったのです。」

「空襲って言うか、空爆に逢われたのですか?」

「いえ、主人と一緒に海兵隊に選ばれて戦死してしまいました。」

「何だか悪いことを聞いてしまいました。」

「いいの、気にしてないから。それより、私の家に来ない?駅から歩いてすぐなの。」

 私たちはそのまま女性のあとについて行くことにしました。


 着いた場所は箱型の二階建ての小さな家でした。

「さ、中へ入ってちょうだい。」

「それでは、おじゃましまーす。」

 玄関のドアを開けたその時でした。足元に段差がないことに気がついたので、靴を脱ぐ場所を聞きました。

「あ、この家は土足で入れるようになっているから。」

 私たちはそのまま、女性に言われるまま家の地下へと向かいました。照明をつけると、そこはだだっ広いクローゼットのようになっていました。

「これ全部娘たちが着ていた服なの。あなたたちのサイズにはちょうどいいと思うんだけど・・・。」

 私たちが何着か試着している時、女性は「ちょっと待ってくれる?」の一言を言い残して上の階に行って、三人分の少し大きめのキャリーバッグを用意してきました。

「お洋服や下着などはこれに入れてくれる?」

「このトランクもいいのですか?」

 私は確認するような感じで聞きました。

「いいの。どうせ残しておいても、最後はゴミになるだけだから。それに娘たちもその方がきっと喜ぶと思うの。」

「そうなんですね。分かりました。そういうことでしたら、是非喜んで頂きます。」

 私たちは可能な限り、洋服や下着などを詰めていきました。

 詰め終えたころ、私たちはブーツやパンプスがあることに気がつき、そちらも譲ってもらえないか聞いてみました。

「あの、図々しいことは承知の上なんですが、こちらの靴も譲ってもらえることは可能ですか?」

「もちろんいいですよ。」

「ありがとうございます。」

 さらに私が何か言おうとしたその時、女性は上の階から紙の手提げ袋を用意して入れてくれました。

「本当にありがとうございます。それでは私たちはこの辺で失礼させて頂きます。」

「あ、ちょっと待ってくれる?」

「なんですか?」

 私たちが帰ろうとした瞬間、女性は私たちを引き留めました。

「帰る前に、お茶でもしていかない?」

「いけません、お洋服をもらった上にお茶までご馳走になるなんて・・・。」

「長いこと話し相手もいなかったし・・・。もちろん帰りは車で送ってあげるから。」

「それでは、お言葉に甘えてそうさせて頂きます。」

 私たちは1階の居間にある大きなテーブルで紅茶とチョコクッキーでくつろぐことにしました。

「非常食で申し訳ありませんが、よかったら召し上がってください。」

「ありがとうございます。それでは、遠慮なしに頂きます。」

 恵奈がクッキーを食べている時、真紀はスマホを取り出して、女性に多田綾子の写真を見せました。

「あの、厚かましいことをお伺いしますが、今私たちこの女性を探しているのです。」

 女性は多田綾子の写真をしばらく眺めました。

「ごめんなさい、こちらの女の子は見たことがない。」

「そうなんですね。失礼しました。」

「もしかしたら、教会へ行けば何か手掛かりがつかめると思うよ。」

「本当ですか?ありがとうございます。それで、教会はどちらにありますか?」

「横浜縦貫鉄道の石川町駅か、あるいは路線バスで外人墓地北側で降りると教会が近いと思うよ。」

「ありがとうございます。」

 残った紅茶を飲み干したあと、私たちは女性にホテルまで車で送ってもらうことにしました。

 車は黒い四輪駆動のジープでしたが、電気で動いているのでとても静かでした。

「あの、突然で申し訳ないのですが、見ず知らずの私たちにここまで親切にしてくれた理由を聞かせてもらえませんか?」

 私はどうしても納得がいかなかったので、女性に聞くことにしました。

「娘たちとの約束だったの。」

「約束といいますと?」

「娘たちが戦争へ行く数日前、私に『私たちが戦争で死んだら、持っている洋服や靴を誰かに譲ってあげてほしいの。きっと必用としてくる人たちが必ず現れるから。』と言ったの。でも結局は戻ってこなくなって、気がついた時には娘は小さな骨壺に収められていたの。」

「そうだったのですね。」

「そんなことなら、最初から戦争に行くのを無理にでも反対しておけばよかった。」

「その気持ち、よくわかります。頂いたお洋服と靴は大切に使わせて頂きます。」

 会話に夢中になっていたら伊勢佐木町のホテルに着いていたので、私は荷物を降ろし、女性に一言お礼を言ってホテルの中へと入っていきました。

 私は部屋に戻るなり、そのままベッドで寝ようとしたのですが、その日はなかなか寝付けず、しばらく天井を眺めていました。



6、教会と過去のお話


 翌朝になり私たちは早速、昨日の女性から譲ってもらった洋服と靴に履き替え、教会に行く準備をしました。

 長い間クローゼットに入れていたせいか、着ている洋服には防虫剤の独特の匂いがまだ残っていました。

 その日の私は黒の長袖パーカーに、黒のショートパンツ、黒い編み上げブーツにしました。

 廊下に出ると、恵奈と真紀も昨日譲ってもらった洋服の姿になっていました。

「おはよう。お、未来今日は全体黒くしたんだね。」

「真紀は白いブラウスにピンクのジャンパースカートなんだね。」

「恵奈は空色のワンピーなんだね。可愛い!」

 私は恵奈のファッションを見るなり、抱き付いてしまいました。

「何で抱き付いたの?」

「ん?なんとなくって言うか、可愛いから。」

「私、可愛くないよ。」

「あ、せっかく可愛いワンピースを着たんだから、靴も空色のパンプスにしなきゃ。恵奈ちょっと失礼するよ。」

 私は恵奈の部屋に入って、昨日もらった空色のパンプスをクローゼットから取り出して恵奈に履かせました。

「こっちの方が絶対に可愛いって。真紀、どう思う?」

「私もこっちの方が可愛いと思うよ。」

 恵奈は少し恥ずかしそうな顔をして部屋に戻ろうとしたので、私は引き留めようとしました。

「どちらに行かれるのですか?お嬢さん。」

「やっぱ恥ずかしいから、別のにする。」

「だーめ。今日はこれでお出かけをしなさい。」

 恵奈は私に言われて、ついに観念しました。

 そのまま私たちは、ホテルを出て新伊勢佐木町駅まで向かいました。


 路線図を見るなり、私は磯子方面の電車に乗ればいいんだなと思って、反対方向の電車に乗ることにしました。

 相変わらず人の少ない電車でしたが、この人数にもいい加減慣れてしまい、私たちは座席で好き勝手にくつろいでいました。

 私はつり革をつり輪のように遊んだり、恵奈は靴を脱いで座席で足を延ばしてソファーのようにくつろぐ始末、真紀はスマホの音楽をスピーカーで聞いていました。

 言うまでもなく、このような迷惑行為は私たちの時代で同じことをしたら、他の乗客からクレームが来ることなので、読者の皆さんは絶対にまねをしないでください。

 石川町の駅に到着するので、恵奈は靴を履いて降りる準備を始めました。

 電車を降りて地上へ出ると、そこには本来あるはずのJRの駅と線路が無くなっていました。

 やはり世界最終戦争の時に空爆で壊されたのかと私は思いました。

 線路や駅の跡地にはお墓や慰霊碑などが立てられていたので、私はこの周辺には戦争の犠牲者が多く出たのかなと思いました。

 私が熱心にお墓や慰霊碑を見ていたら、恵奈が私に声をかけてきました。

「未来、熱心に慰霊碑を見ているけど、何か書いてあるの?」

「うん、戦没者の名前が多く書かれているから、ちょっと気になったの。」

「確かにそうだよね。ねえ、あっちの立て札に何か書かれていたよ。」

 私は恵奈の言葉が気になって早足で立て札に向かいました。

「ちょっと未来、待ってよ。」

 恵奈もそのあとを追うようについていきました。

 立て札を読んだら思わず目を疑いたくなるような文字が私の目に飛び込んできました。

 近づいて見るとそこには<核爆弾投下跡>と書かれていたので、私は小学校の歴史の時間に習った広島と長崎の原爆投下の恐怖を思い出しました。もしかしたら核爆弾と言ったら、それ以上の威力があると判断しました。

「へえ、ここにも原爆が投下されたんだね。」

 後ろにいた真紀が感心したような感じで立て札を読み上げていきました。

「原爆?ここには核爆弾って書いてあるわよ。」

「未来、知らないの?核爆弾と原子爆弾は呼び方が違うだけで一緒なんだよ。」

「そうだったんだ。知らなかった。」

「それにしても見事に犠牲者が多いんだね。なんでこんな場所をターゲットにしたんだろ。」

 真紀は少し疑問に感じながら私に言いました。

「確かにそうだよね。」

 さらに墓地の奥へ行くと、ショットガンが立てかけられたお墓もありました。

「真紀、この人って間違いなく戦死だよね。」

「たぶん。私、改めて戦争の恐怖を知ったよ」

「戦争から生まれるものって何もないんだよね。」

「ええ。生きるか死ぬかのどっちかだもの。」

「これじゃ、ただの命の取り合いだよ。」

 その時、真紀がまたしてもお墓に立てかけてあったショットガンに手を伸ばそうとしたので、またくすねるのではないかと目を見張りました。

 案の定、真紀はショットガンを手に取ったので、私は注意に入りました。

「まさかとは思っていたけど、やっぱりお墓のショットガンを持ち帰ろうとしたでしょ?」

「してないわよ。ちょっと手に取って眺めていただけよ。」

「本当に?」

「何よ、その疑惑に満ちた視線は。」

「この間、山下公園でショットガンを拾って帰ったから、もしやと思って確認しただけなの。」

「だから、本当に見ていただけよ。」

「じゃあ、今すぐ元に戻して。このショットガンは仏さまの物だから。」

「わかったわよ。」

 真紀は私に注意されて、渋々とお墓に戻しました。

 私と真紀が熱心に立て札と慰霊碑を見ていたら、恵奈が教会へ行くよう言いました。

「お墓や慰霊碑もいいけど、私たちの目的は教会に行くことなんだから。」

 歩きながら真紀は私たちに小言を始めました。

「わかったって、教会へ向かえばいいんでしょ?」

 真紀は恵奈をなだめるような感じで言いました。

 お墓を出てから約10分、教会が未だに見つからなかったので私は疑問に感じました。

 スマホも使えない、地図もない、頼れるのは自分の勘だけでした。

 かといって誰かに聞きたいけど、誰もいない。

 私たちの時代なら、スマホも紙の地図もなんでもそろっている便利な時代なのに、この時代は明らかに不便な時代と感じました。

 おまけに駅前には交番もない。

 この「ないない」だらけの不便な時代に私は少しイラっときました。

 幼いころ読んだ未来の世界の絵本には、なんでもそろっていて便利かつハイテクな街だと描かれていたのに、これじゃまるで不便かつローテクじゃん。

 反対に時代が退化してどうすんだ!と私は心の中で突っ込みを入れました。

 しかし、そんなことを心の中で言っても始まらなかったので、私はみんなと一緒に教会へ向かうことにしました。

 恵奈が細い上り坂を歩こうとしたら、真紀が疑惑に満ちた感じで「本当にこっちで合っているの?」と聞いてきました。

 しかし、そのあと恵奈からとんでもない言葉が出てきました。

「実は小学校の時にこの先にある教会で両親と一緒にざんげをしたことがあったの。」

「え、ざんげ!?」

 真紀は驚きのあまり大声を上げてしまいました。

「恵奈、ざんげって何をしたの?」

「実は小学校4年生の時、私たちが図工の時間で作った作品を神田信行くんっていう男子が誤って壊してしまって、それを男子みんなで怪我につながるような蹴る殴るの暴行を加えてしまったんだけど、私たち女子は見て見ぬふりをしたり応援しちゃったから・・・。それを告白するために教会でざんげしてきたの。」

「ちょっと待って、神田信行くんって本牧西のサッカー部のエースの?」

「うん。あの時はそこまで有名になるなんて思わなかったから。真紀は知っているの?」

「バレンタインデーの前日、綾子から電話がきて『港の丘女子中学の2人が小学校の時、信行様をいたぶったという話を聞いた時には、マジでむかついた。殺したい気分だったよ。』って言っていたよ。」

「本牧西の多田綾子が私たちのことをそんな風に言っていたの?」

「かなりキレていたよ。」

 恵奈は真紀の話を聞いて少しぞっとしていました。

「話戻すけどさあ、恵奈たちは信行くんがみんなの図工の作品を壊したことに対して先生にチクりを入れなかったの?」

「頭の中が怒りでいっぱいで・・・。」

「それどころじゃなかったわけなんだね。」

 恵奈は黙って首を縦に振りました。

「気持ちはわかるけど、あなたたちがしたことは『仕返し』じゃなくて、ただの『リンチ』だよ。」

「それなら多田綾子に同じことを言われた。」

「それに信行くんが男子全員にいたぶられていた時に止めもしない、先生にチクりも入れずに男子たちを応援していた。だとするとあなたたちも同罪になるよ。」

「放課後、信行くんが親の車で近くの病院に運ばれていた時、私たちは教室で先生に説教されたあと、400字詰めの原稿用紙を2枚渡されて、反省文を書かされたの。」

「そりゃ、そうなるわよね。」

「しばらくして、信行くんは私たちに謝る機会も与えず、黙って転校しちゃったの。」

「私が信行くんなら間違いなくそうすると思うよ。自分に危害を加えた人間とは関わりたくなくなるわよ。」

「バレンタイン当日、私と未来は変装して本牧西まで行って信行くんにチョコを渡すついでに謝ろうとしたの。そしたら信行くん、私たちの前で怒り出して・・・。」

「あなたたちがやっていることは、かさぶたをはがして傷口を悪化させたようなものだよ。」

「私、思わず信行くんの前で土下座をしたの。当然許してもらえないのはわかっていた。でもそれしか方法が思いつかなかったの。結局、信行くんは私と未来が用意したチョコを受け取ったあと黙っていなくなったの。」

「あなたたちに言うけど、今後は本牧西の校舎にも信行くん本人にも近寄ったらだめだよ。綾子だけじゃなくて、本牧西の女子全員を怒らせたんだから。」

「うん、わかった。」

 真紀の表情はかなり険しくなっていました。

「今の話だと多田綾子を探すのをやめて、そのまま元の時代へ戻った方がいいんじゃない?」

 私は真紀と恵奈の会話に少し疑問を持ちました。

「それは元の時代に戻ってからの話で、今は綾子を見つけることが先決よ。」

「そうだね。」

 真紀は私に少し険しい表情を見せながら言いました。

 

 坂を上がり切る手前になった時、目の前に大きな十字架のある少し古びた茶色い建物が見えました。

「あったー、教会だー!」

「ちょっと待ってー、恵奈ー。」

 恵奈はそう言って、私の呼びかけなどお構いなしに真っ先に礼拝堂へ向かいました。

 そのあと私と真紀も恵奈に続いて礼拝堂の中へ入りました。

「ごめんくださーい、神父さんかシスターさんはいらっしゃいますかー?」

 私が一言声をかけましたが、誰も返事がありませんでした。

 その時、後ろから人が入ってくる気配を感じました。

「教会に人が見えるなんて、何か月ぶりかしら。」

 後ろを振り向いたら、若いシスターが首から十字架を下げてやってきました。

「こんにちは、私たち人探しにやってきました。」

「人探し?どんな人を探しているのですか?」

 シスターは少し首をかしげながら私たちに言ってきたので、真紀はスマホを取り出して、シスターに綾子の写真を見せました。

「私たちが探しているのはこの人なんです。ご存知ありませんか?」

 シスターは少し考えました。

「ごめんなさい、ここ何日か人と会っていなかったものですから・・・。それにこの教会には、あなたたちが来る前には誰も来なかったのです。」

「そうなんですね。」

「お力になれなくて、本当にすみません。」

 シスターは申し訳なさそうな顔をして私たちに謝りました。

「いいえ、謝らないでください。私たち、他を当たりますので。」

 私たちが教会を出ようとした瞬間、シスターは私たちを引き留めようとしました。

「あの、よかったらお茶を飲んでいきませんか?美味しいお菓子もありますので。」

「せっかくのご厚意なので是非、ご馳走になります。」

 私たちは好意に甘えて、礼拝堂の裏にあるドアから家の中に入りました。

 家の中は比較的広く、シスター1人で暮らすにはちょっと広すぎるって感じに思えました。

 私たちは家の奥にある白いテーブルに案内されて、座ることにしました。

「今、お茶とお菓子を用意するから待っていてくれる?」

 シスターはそう言い残して奥の台所へ向かい、お茶の準備を始めたので、私たちも手伝おうとしました。

「私たちも何かお手伝いをします。」

「あ、大丈夫よ。向こうで休んでいてくれる?」

「ちょうど退屈をしていたものなので。」

「それなら隣の部屋に本棚があるから、そこから好きなのを読んでちょうだい。」

 私たちは本棚で面白そうな本を探していた時、一冊のアルバムを見つけたので、テーブルに戻って見ることにしました。

「これって、シスターが幼い時の写真だよね。」

 私は写真を見て一言言いました。

「だとすると、横にいるのは両親?」

 今度は恵奈が口をはさんできました。

「恵奈、これって遊園地だと思うけど、どこの遊園地だか分かる?」

「700年後の風景って、私らの時代とは違うんだから知らないわよ。」

「確かにそうだよね。」

 次のページをめくったら、今度は軍服を着たお父さんと一緒に手をつないだシスターの写真がありました。

「これって、世界最終戦争の時だよね?」

「たぶん。」

 その時、白いお盆に紅茶とお菓子を載せて運んできたシスターがやってきました。

「あらら、一番見られたくないものを見られたわね。」

「あ、ごめんなさい。勝手に見てしまって・・・。」

 私はとっさにシスターに謝りました。

「いいの。実を言うと、そろそろ燃やそうかと思っていたところだったの。」

「どうしてですか?」

「これがあると、思い出したくない過去がよみがえってしまうの。」

「もしかして、世界最終戦争のことですか?」

「その『もしかして』なの。」

 そのあと私たちはシスターの過去の話を聞くことになりました。

「このアルバムの最後を見たから分かると思うけど、父は国防軍歩兵隊として世界最終戦争に参加することになったの。父は教会の神父だったので、当然銃を扱うどころか、人を殺した経験もなかったの。そんな父が戦争の当日、不安そうな顔をして言った最後の言葉は『じゃあ、行ってくるよ』の一言だったの。私は父が無傷で戻ってくることを信じていたけど、ある日私の家に<父が網走付近でシベリア連邦共和国の歩兵隊に銃殺された>と書かれた手紙が届いたの。」

 私は紅茶を一口飲みながら話を聞いていました。

「かわいそう。」

 恵奈もティーカップを持ちながら感想を言いました。

「それで気になったのですが、お母さんはどうされたのですか?」

 今度は真紀が口をはさんできました。

「母は国防軍の研究所に連れていかれ、細菌兵器の開発をしていたの。詳しいことは分からないけど、それを開発することで多くの敵兵が病気にかかって死ぬという形になっていたの。母はそんなことも知らずに細菌兵器を作り上げていったの。しかし出来上がった直後、人を殺す細菌兵器と知った時、所長に抗議したけど、当然のことながら聞き入れてもらえず、ショックで寝込んでそのまま死んでしまい、所長は大量の細菌兵器をそのまま持って戦地へ向かったの。」

「そうだったんだね・・・。」

 私は紅茶を飲みながら聞いていきました。

「両親の遺体は骨にして教会の裏側にある庭にお墓を立てて埋めたの。」

「戦争から生まれるものって、憎しみや悲しみだけなんですね。」

 真紀も一言呟きました。

「さ、悲しい話はこの辺にしましょ。」

 シスターは無理に明るくふるまって、食器を片付けました。

「紅茶、ごちそうさまでした。」

「いいえ、こちらこそ。お友達見つかるといいですね。」

「それでは失礼します。」

 私たちはシスターにお礼を言って教会をあとにしました。



7、競泳ゴーグルを身に着けた不思議な女の子


 教会を出てから数分後、ホテルへ戻るには少し時間があったので、多田綾子を探すついでに少し散歩することにしました。

 空を見上げると少し曇っていたので、これは雨が降ってもおかしくないと思いました。

「ねえ、どうする?」

 真紀が聞いてきました。

「どうするって、何が?」

「今にも雨が降り出しそうじゃん。」

「確かに・・・。」

「このまま、ホテルまで戻る?」

「でも、向こうって空が明るくなっているよ。」

 私は港の見える丘公園の方角へ指をさしたあと、そのまま歩くことにしました。

「そういえば、さっきのシスターの話なんだけど、聞いた時改めて戦争って恐ろしいって思ったよ。」

「今さら驚くことってないじゃん。」

 真紀は恵奈の言った言葉にぶっきらぼうに返事をしました。

「確かにそうだけど・・・。なんていうか、日本が細菌兵器を開発していたなんて・・・。それもシスターのお母さんが作っていたと聞いたから・・・。」

「そうだよね。あんな恐ろし兵器を開発したと聞いたら、びっくりするよね。」

 真紀はため息交じりに返事をしました。

「私ね、戦争と言えば戦車や戦闘機、軍艦で殺し合うのかと思っていたけど、細菌兵器で人を殺すなんて思わなかったよ。」

 恵奈も声を低めて言いました。

 港の見える丘公園に着いて中へ入ってみると、少し違和感を覚え始めました。

 それは戦没者のお墓が立ててあったり、手榴弾、ライフル銃が散乱しているように置いてあり、さらに展望台へ行くと砲台が設置してあったので、私はこの光景を見て戦争の恐ろしさを改めて知りました。

「ここでも戦争をやっていたんだね。」

 私はボソっと一言呟きました。

「本当だね。」

 恵奈も私に続いて言いました。

「私、世界最終戦争の恐ろしさを改めて知ったよ。」

 真紀も砲台を見ながら言いました。

「ショットガンを拾った人が言っても説得力がないよ。」

「未来がそう言うと思ってホテルに置いてきたよ。」

「それでもお墓に置いてあったのを拾うとしたくせに。」

「それも置いてきたじゃん。」

「私が言わなければ、持ち帰ろうとしたでしょ?」

「そんなことないわよ。」

 私と真紀がもめていた時、奥の方からガサゴソという足音が聞こえました。

 真紀はとっさに足元に捨てられていたライフル銃を拾い上げ、足音が聞こえる方角へと向かったので、私と恵奈もあとに続いて向かいました。

「誰?隠れてないで、出てらっしゃい。」

 真紀はダダダ・・・とライフル銃を数発撃って威嚇しながら言いましたが、反応がありませんでした。

「出てこなければ、撃つわよ!」

 さらに真紀は少しイラだった感じで弾を数発撃ちました。

 しばらくして、ガサゴソと足音が聞こえたので、真紀は足音が聞こえる方へ銃を構えました。

 出てきたのは、まだ6歳くらいの小さな女の子でした。

 女の子はどういうわけか知りませんが、黄色い競泳ゴーグルを着けて両手を上げながら私たちの前にやってきました。

「お願い、何もしないから撃たないで。」

 女の子は泣きながら私たちに言いました。

 さすがの真紀もこれには驚いて、ライフル銃を左肩にかけて女の子が泣いているのを黙って見ていました。

「さっきはびっくりさせてごめんね。おねえちゃん、何もしないからこっちに来てくれる?」

 真紀はライフル銃を地面に置いて、女の子の目線に合わせました。

 女の子は真紀のところにゆっくりと近寄ってきました。

「まずは、お名前を教えてくれる?おねえちゃんは真紀。あなたは?」

「私はチェリー。」

「チェリー?随分と変わった名前だね。誰に付けてもらったの?」

「施設の人。」

「施設って、児童保護施設みたいな感じ?」

 チェリーは黙って首を縦に振りました。

「お父さんとお母さんは?」

「私が赤ちゃんの時にいなくなった。」

「じゃあ、お父さんとお母さんはチェリーちゃんを施設に預けてそのままいなくなったんだね。そういえば、もう一つ気になったけど何で競泳ゴーグルをつけているの?」

「私、お水の中で目を開けられないから。」

「いやいや、もうここは水の中じゃないでしょ。」

 真紀はチェリーの言ったことに突っ込みを入れました。

「本当のこと言うと、2年前に起きた世界最終戦争から目が弱くなって、ちょっとのほこりでも目が痛くなってしまう病気になったの。」

「専用の保護眼鏡ってないの?」

「うん、先生が『これを着けてるように』って私に黄色いゴーグルを渡したの。」

「先生って病院の先生?」

 真紀はチェリーに確認をとるような感じで聞きました。

「ううん、違うよ。施設の先生。」

「そうだったんだね。例えばなんだけど、それによって誰かにいじめられたりしない?」

「それは大丈夫。みんなも同じような病気になっているから、からかってくる人なんていないよ。」

「そうなんだ。」

「私の病気、もう治らないの。もしかしたら将来何も見えなくなるかもしれないんだって。」

「それは誰が言ったの?」

「お医者さんが。」

 真紀はそれを聞いて泣きそうになりました。

「そんなことは絶対にないよ。治らない病気なんてないんだから。これから先、奇跡だって起きると思うよ。」

「本当に?」

「うん!」

 真紀はチェリーに元気づけるような感じで力強く言ったあと、ポケットからスマホを取り出してチェリーに多田綾子の写真を見せました。

「チェリーちゃん、ちょっと聞きたいんだけど、この写真の女の子を見たことがある?おねえちゃんのお友達なんだけど。」

 チェリーは少し考えました。

「もしかしたら、見たことがあるかも。」

「え!?どこで見たの?」

「ここで。写真のお姉ちゃん、元気がない顔をして海を見たり、ベンチに座っていたりしたよ。」

「それで、そのあとどっちへ行ったか分かるかな?」

「たぶん、山下公園の方に行ったと思う。」

「あと、そのおねえちゃん、いつ見たの?」

「たぶん、昨日だったと思う。」

「本当に?」

「うん。」

「ありがとう。じゃあ、おねえちゃんたち行くから。」

「うん、バイバーイ。」

 私たちはチェリーに手を振って別れたあと、山下公園に向かって歩きました。


 山下公園に着いたころ時計は夕方6時近くになり、太陽も傾きかけていたので、多田綾子を探すのはやめにしようと思いました。

 公園の中は相変わらず、戦車やライフル銃、ショットガンなどが散乱していました。

「ねえ、どうする?多田綾子を探すの明日にする?」

「もう少し探そう。」

 私がホテルへ引き返そうとしたとたん、真紀はチェリーの言葉が気になって、探す気満々でいました。

「もう暗くなるし、多田綾子だってここにはいないと思うよ。チェリーちゃんが見たという情報も昨日だったわけなんだし・・・。それに明日になればまた別の情報が得られるかもしれないよ。」

「そうだよね。」

「とりあえず今日のところはホテルに戻って、明日またここに来て何か情報を仕入れたっていいんじゃない?」

 私は真紀を説得しました。

「そうだね。未来の言う通りだし、今夜はホテルに戻ってまた明日にしよ。」

 そのあと、私たちはホテルに戻って非常食のお菓子を食べながら明日の予定を組むことにしました。


 次の日、私たちは電車に乗って山下公園に向かいました。

「私は軍艦の中、未来は県庁の方へ、真紀は港の見える丘公園寄りを探して。」

 みんなそれぞれ分担して探すことにしましたが、簡単には見つかりませんでした。

 そんな時、私はチェリーのように黄色い競泳ゴーグルを身に着けた女の子を見かけたので、チェリー本人だと思って、声をかけました。

「こんにちは、もしかしてチェリーちゃん?」

「ううん、違う。私の名前はチューリップ。おねえちゃんは?」

「私は、未来って言うの。チューリップちゃんの名前って、もしかして施設の人がつけた名前なの?」

「そうよ。」

「ゴーグルを着けているのって、もしかして戦争で目が弱くなったの?」

「そうよ。おえねえちゃん、よく知っているね。」

「実は昨日チェリーちゃんから聞いたの。」

「そうなんだ。」

「ねえチューリップちゃん、この近くでおねえちゃんと同じくらいの年の女の子を見なかった?チェリーちゃんが言うには、おとといあたりに港の見える丘公園で見かけて、こっちに向かったらしいんだけど。」

「ごめん、私ここ何日か外に出ていないから分からない。」

「そうなんだね。」

「チューリップちゃんは施設ではどんな遊びをしているの?」

「すごろくや、トランプして遊んでいる。コンピュータは目が弱いからと言う理由で触らせてくれないの。」

「そうなんだね。ねえ、よかったらでいいんだけど、なんで目が弱くなったのか教えてくれる?」

「シベリア連邦が撒いた薬品が原因なの。」

「え、シベリア連邦が!?」

 私は思わず大きな声を上げてしまいました。

「防毒マスクを着けたシベリア軍が施設の中に入って、みんなの目をおかしくさせる薬をたくさん撒いたの。」

「じゃあ、子供たちだけじゃなくて大人たちも?」

 チューリップは黙って首を縦に振りました。

「ひどいことをするんだね。なんの罪のない人たちに、こんなことをするなんて。」

 その時、チューリップはゴーグルを外して泣きだしてしまいました。

「ごめんね。嫌なことを思い出させて。」

 私は持っていたハンカチでチューリップの目を拭いてあげました。

 その時、私は思わず口に手を当てたくなるようなものを見てしまいました。

 それは、チューリップの目が赤くなっていたことでした。

 私は何も言わず、チューリプの目にゴーグルを当てました。

「ねえ、今でも目が痛む?」

 私はチューリップに聞きました。

「ううん、今は大丈夫だよ。」

「本当に?」

「だって、目が真っ赤になっていたよ。」

「うん、痛いのは最初だけ。今は本当に大丈夫だよ。」

「そういえば、競泳ゴーグルの色って自分で選んでいるの?」

「そうだよ。黄色ってなんか可愛いじゃん。」

「そうだよね。」

 私は競泳ゴーグルなんて何色でも同じだと思っていたので、あまり意識はしていませんでした。しかも、水のない陸上で着けて歩いている人を見るなんて初めてだったので、正直どうコメントしたらいいか分かりませんでした。

 だからと言って、彼女の考えに水をさすようなまねもしたくなかったので、ただ相づちを打つより他はありませんでした。

 それでも我慢が出来ず、つい本音を出してしまいました。

「ねえチューリップちゃん、競泳ゴーグルをつけていて恥ずかしいとかって思ったことがない?」

「最初のころは感じていたけど、今は平気になった。それに人も少ないから。」

「他の人もゴーグルを着けて外を歩いているの?」

「うん、そうだよ。」

「そういえばチェリーちゃんから聞いたけど、お水の中で目が開けられないんだって?」

「うん。」

「じゃあ、お風呂の時もつけているの?」

「そうだよ。」

「そうなんだ、大変だね。」

 私はこれ以上聞くとかわいそうだと思って、やめることにしました。

「ねえチューリップちゃん、よかったらおねえちゃんと一緒に遊ぼうか。」

「いいよ。何をして遊ぶ?」

「かくれんぼしようか。」

「いいよ。」

「じゃあ、その前にルールを設けようか。」

「ルール?」

「そう。戦車と軍艦の中に隠れないこと。もし、そこに隠れたら失格ね。」

「うん、わかった。」

 私がチューリップとかくれんぼをしようとした時、恵奈と真紀がやってきました。

「未来、ここで遊んでいたんだね。」

 恵奈が少しいらだった感じで私に言ってきました。

「違うって、私この子から多田綾子のことについて聞いていたんだけど、そのついでに少しだけ遊ぼうって思ったの。」

「そういえば、この子って昨日会ったチェリーちゃんみたく競泳ゴーグルをしているんだね。」

 真紀がチューリップのゴーグル姿を見て驚いたように言いました。

「この子もチェリーちゃんと同じ施設にいるんだけど、シベリア兵から薬品を散布されて目がおかしくなったの。」

「それで、ゴーグルをしているんだね。」

「私、これからこの子と少しだけ遊ぶことになったの。」

「それなら私たちもまぜて。」

 真紀はそう言って、私とチューリップの遊びに加わりました。

「私も。」

 そのあと恵奈も便乗してきたので、私たちはかくれんぼして遊ぶことにしました。

「ルールなんだけど、さっきチューリップちゃんにも言ったけど、戦車や軍艦に隠れるのは禁止だから。もし隠れたら・・・、そうだね、恵奈と真紀には元の時代に戻った時にジュースとクレープのおごり、チューリップちゃんにはみんなの前でゴーグルを外してもらおうかな。」

「未来、私らはともかくとしても、チューリップちゃんに罰ゲームはかわいそうじゃない?」

 真紀が止めに入ってきました。

「じゃあ、特別ハンデとしてチューリップちゃんにはどこへ隠れても自由にするって言うのはどう?」

「それならいいんじゃない?」

 真紀は私の考えに同意しました。

「じゃあ、私が鬼になるから・・・。」

 私が鬼と決めた途端、「待って。」と恵奈がストップをかけました。

「どうしたの?恵奈。」

「鬼は私ら3人でじゃんけんで決めない?」

「そうだね。」

 私たちがじゃんけんをしようとした瞬間、チューリップが私の袖を軽くつかんで、じゃんけんに混ぜてもらうよう言いました。

「鬼を決めるじゃんけんだよ?いいの?」

 私は確認をとるような感じで言ったら、チューリップは首を縦に振りました。

 そこで私は改めて、チューリップを混ぜてじゃんけんをすることにしましたが、結果的には私が負けてしまったので鬼になりました。

 私が10数えている間、恵奈と真紀、チューリップは好きな場所へと隠れました。

「もーいーかーい。」

 私がそう言ったあと、みんなは「まーだだよ。」と返事をしました。再び「もーいーかーい。」と言ったらみんなは「もーいーよ。」と返事をしたので、私は探すことにしました。

 最初に見つけたのは戦車の下に隠れていた真紀でした。

「真紀、みーつけたー。」

「あーあ、見つかっちゃった。」

 次に見つけたのは公衆トイレの裏側に隠れていた恵奈でした。

「恵奈、みーつけたー。」

「あーあ、簡単に見つけられちゃった。」

 残りはチューリップだけでしたが、なかな見つかりませんでした。

「チューリップちゃん、どこにいるの?」

 私は大きい声でチューリップの名前を呼んで探しました。

「チューリップちゃーん、かくれんぼは終わりだよー。だから出ておいでー。」

 今度は恵奈が大きい声で呼びました。

「もしかして、戦車の中なんじゃないの?」

 真紀がもしかしたらと思って、戦車の中を探していきました。

「私と恵奈は一応念のために軍艦の中を見てくるよ。」

 私と恵奈はそう言って探し回りましたが、見つかりませんでした。

 その一方で真紀が4台あるうちの最後の1台の戦車の中を覗き込んだら、チューリップが寝ていたので、真紀はそっと抱きかかえて下に降りました。

「あ、見つかったんだね。」

 私は真紀がチューリップを抱いているの見て一安心しました。

「ところで、チューリップちゃんどうする?」

「どうするって言われても、このままにしておくわけにはいかないから、私たちで施設に送り届けた方がいいんじゃない?」

 恵奈が少し疑問に感じたように言ったので、私は施設へ送り届けるように言いました。

「でも、施設って場所わかる?」

「・・・。」

 恵奈が場所を確認したとたん、私は返事が出来なくなってしまいました。

「もしかして、途方もなく探すつもり?」

「・・・。」

 またしても返事が出来ない状態になってしまいました。

「チューリップちゃんを一度起こして、施設の場所を確認した方がいいんじゃない?」

 恵奈は真紀にチューリップを起こすように言ったその瞬間、ひよこの絵のついた白いエプロン姿に薄紫色の競泳ゴーグルを身に着けた、20歳代と思われる大人の女性がやってきました。

「あの、この辺に競泳ゴーグルを身に着けた6歳くらいの女の子を見かけませんでしたか?」

 女性は少し息を切らせながら私に尋ねてきました。

「もしかして、この子ですか?」

 真紀はチューリップを抱いて、確認させました。

「そう、この子です。」

「あの失礼ですが、あなたはどちら様ですか?」

「あ、私ですか?私は、『横浜キッズガーデン・太陽の子』の園長兼保護者をしております、花園りんごと申します。」

「りんごさんなんですね。この子たちに名前を付けていらっしゃるのは、りんごさんなんですか?」

「はい、この子たちは家庭のなんらかの事情で生まれてすぐに両親から引き離されて、私のところへやってきたのです。名前もまだなかったので、私が果物やお花の名前を付けて育てているのです。ところが2年前、知ってのとおり世界最終戦争が始まって、みんなで施設を離れて逃げようとした瞬間、防毒マスクを着けたシベリア連邦の兵隊たちが薬品を散布して、みんなの目を弱らせたの。子供たちは次々に目の痛みを訴え始め、近くの病院に連れて行ったのですが、すでに手遅れになってしまい、直す方法がないと言われたのです。先生から言われた言葉は『将来、全員失明になってしまう』と言う残酷な一言でした。唯一気休めとなるのが私や子供たちが身に着けている競泳ゴーグルだけなんです。」

 りんごさんは目に涙をためながら、悔しそうに言いましたが、私たちがそれを聞いたところで、何もしてあげることが出来ないのも事実でした。

「私、それを病院で聞かされた時、悔しくて夜も眠れなかったの。」

「その気持ちよく分かります。」

「私だけならいい。でも何でなんの罪もない子どもたちまで、こんなふうにならなきゃいけないのかって、それを思うと悔しさがにじみ出てくるの。」

「見える時にいろんなものを見せてあげてください。」

「ありがとう。」

 私が言えるのはこれが精一杯でした。

「あの、お取込み中のところ大変申し訳ありません。実は私たち人探しをしているのです。」

「人探し?どんな人ですか?」

 真紀はスマホを取り出して、りんごさんに見せました。

「あら、珍しい。今時スマホだなんて。私のご先祖様が使っていたものだわ。」

「信じてもらえないかもしれませんが、私たちあなたのご先祖様が生きていた遠い過去からやってきました。」

「遠い過去って言いますと?」

「2022年の2月からです。」

 真紀は笑われる覚悟でりんごさんに打ち明けましたが、りんごさんは特に笑うこともなく、真顔で聞く体制に入っていました。

「それで、その過去からやってきたあなたたちが、どんな人を探しているの?」

「実はこの写真の女の子です。」

 りんごさんは、スマホの画面に写っている多田綾子の写真を見つめて考えました。

「この子なら確か昨日、施設で一夜を過ごして、そのあと教会がある方へ向かったはず・・・。」

「本当ですか?」

「まだはっきりとしたことは言えないけど、私が彼女を見送った時には教会の方へ行ったのは確かだったはずです。」

「ありがとうございます。」

 私たちがチューリップとりんごさんと別れようとした瞬間、りんごさんは私たちに「何かあったら、施設に来るように」とエプロンのポケットから一枚の名刺を渡しました。

「ありがとうございます。」

 私たちは一言お礼を言ったあと、一度別れてホテルへに戻りました。



8、多田綾子を探して


 ホテルに戻ったあと、ベッドで休んでいる恵奈に向かって、私は施設に行く時ゴーグルが必用かどうかを聞きました。

「明日行くのは教会。それに私たちがゴーグルをつける必要ってあるの?」

 疲れ切った顔で恵奈は少し冷たく私に言いました。

「チェリーちゃんやチューリップちゃんたちがやっていたから私たちも必要かなって思ったの。」

「私たちは必要ないでしょ。そもそもあの子たちは戦争で目が弱くなったから着けているんでしょ?」

「そりゃ、そうだけどさ。」

「だったら、私たちに必要なし。私、疲れたからもう寝るね。」

 恵奈はそのまま眠ってしまったので、私も自分の部屋に戻って寝ることにしました。

 しかし、その日に限って眠れませんでした。

 ベッドの上から天井を眺めていても仕方がなかったので、私は窓の外から星を眺めていました。

 相変わらずきれい。私たちの時代では、こんなにきれいに見ることは不可能なほどきれいな星空でした。

 私が最後にきれいな星空を見たのは、小学校5年生の時に行った山梨でのグリーンスクールの時でした。

 当時みんなでキャンプファイアをしながら星を見たのを思い出しましたが、その時はそこまできれいではありませんでした。

 車が通ってないせいか、空気がとても澄んでいたので、そのままこの時代で暮らしてもいいかなと思いました。

 そんなことを考えているうちに眠気が襲ってきたので、再びベッドへ戻り、眠ることにしました。


 翌朝、恵奈の部屋に集まって非常用のご飯にカレーを乗せて朝食を済ませることにしました。

「今日ってどうする?」

 私は恵奈に確認をとるような感じで質問をしました。

「今日って、綾子を探すんでしょ?」

「その探す場所。」

「とりあえず、もう一度教会へ行ってみない?」

「だって、この間教会へ行ったら、シスターさんが『知らない』って返事したじゃん。」

「分からないでしょ。もしかしたら、また別の答えが出てくるかもしれないよ?」

「確かにそうかもしれないね。じゃあ、行ってみようか。」

 私がカレーを平らげて流しで食器を洗おうとした時、真紀が「待った」をかけてきました。

「ねえ教会へ行く前に、まだ行ってない場所へ行ってみない?」

「どこ?」

 私は真紀に聞きました。

「例えば中華街とか。」

「中華街も戦争で壊されているんじゃない?」

「全部でないとしても、一か所は残っているはずよ。」

「教会へ行く前に中華街へ行ってみる?」

「いいよ。」

 そのあと、身支度を済ませてホテルからバスに乗ろうとしたのですが、中華街の最寄りのバス停が見つかりませんでした。

 バス停に載っている路線図を見ていた恵奈が「この行き先のバスなら近くまで行けるよ。」と言ってきました。

「え、どこ?」

 私は恵奈に聞きました。

「この『横浜市営霊園前』って書いてあるバス停って、もしかして私たちが最初に行ったお墓なんじゃないの?」

「最初に行ったお墓って、横浜スタジアムの跡地に作られたお墓のこと?」

「たぶん・・・。」

「一応乗ってみる?」

「そうだね。『元県庁』行きのバスに乗れば大丈夫なはずだよ。」

 恵奈は少し自信なさげな顔をして言いました。

 待つこと15分、私たちは「元県庁」行きのバスに乗って「横浜市営霊園前」まで向かいました。

 バスの中は相変わらず退屈でしたので、私は小さなあくびを一回したあと、ぼんやりと窓の外を眺めていました。

 なんだか眠たくなってきたので、私は換気のために少し窓を開けました。

「暑いの?」

 隣にいた恵奈が一言私に言いました。

「ううん、そうじゃない。ちょっと眠くなったから。」

「そうなんだ。」

「寒いの?」

「そうじゃない。急に冷たい風が入ってきたから、ちょっと驚いただけ。」

「閉める?」

「そのままでも平気だよ。」

 そのまま私と恵奈は眠ってしまいました。

 「横浜市営霊園前」のバス停に着いた時、真紀は私と恵奈を起こして降りるように言いました。


 バスを降りるなり、恵奈はスマホを取り出して、帰りのバスの時刻表の写真を撮りました。

「恵奈、帰りの時刻表を撮っていたんだ。」

「うん、ホテルの前に向かうバスって少ないじゃん。だから写真を撮っておいたの。」

「さすが恵奈。ちゃんと帰りのことまで考えているんだね。」

 私は恵奈の行動を感心したように見ました。

 墓地を横切って私たちは中華街の方角へと向かいましたが、それは見事に変わり果てた光景でした。

 それは建物のがれきと更地が目立っていたことでした。

「これって、やはり戦争で?」

 私が恵奈と真紀に聞いたので、二人はそのまま何も言わず黙って首を縦に振りました。

 どこを見渡しても店が見当たりませんでした。

 奥へ進んで歩いていくと、爆発装置を仕掛けたヘルメット姿の若い男性作業員を見かけました。

「こんにちは、作業中すみません。少しだけお時間をちょうだいしてもいいですか?」

「いいけど、どうしたの?」

「実は人を探しているのです。」

 真紀はスマホを取り出して作業員に見せました。

「こちらの女性なんですが、見かけませんでしたか?」

 男性は少し考えました。

「ご存知ないですか?」

「確か見たような気がする・・・。」

「どちらですか?」

「たぶん、この近くだと思う。」

「本当ですか?」

「僕が隣の通りの建物に爆発物を仕掛けて解体をしていたら、『この辺で安く食事ができる場所がないですか?』と聞いてきたので、『この辺一帯は全部戦争で壊されてしまって、何もないんだよ』と返事したんだよ。そしたら、『わかりました、他を探します。』と言い残していなくなったんだよ。」

「そうなんですね。ちなみにどちらの方角へ行かれたか、ご存知ですか?」

「たぶん、山下公園の方角だと思うよ。」

「わかりました。ありがとうございます。」

 私たちは作業員にお礼を言ったあと、山下公園に向かいましたが、そこにはいないことがわかっていたので、そのまま元町商店街の方へ向かおうとしたその時でした。

「ねえ、この間のおねえちゃんたちだよね?」

 それは聞き覚えのある声でしたので、私は声の聞こえる方へ振り向きました。

「あ、もしかしてチェリーちゃん?」

 私は思わず声をかけました。

「そうだよ。」

「今1人なの?」

「ううん、他の人たちも一緒だよ。今日も写真のお姉ちゃんを探しているの?」

「そうだよ。」

「チェリーちゃん、今日はこの間の女の子を見なかった?」

 チェリーは私に聞かれて一瞬考えました。

「ちょっと待って。」

 チェリーは近くにいたりんごさんを呼んできました。

「こんにちは。」

 りんごさんは薄紫色の競泳ゴーグルの姿で私たちに挨拶をしました。

「りんごさん、こんにちは。」

「今日も人探しをされているの?」

「はい、今日はお目にかかりましたか?」

「実はたった少し前までいたんだけど、声をかけようとしたら、いなくなったの。」

「そうなんですね。どちらへ行かれましたか?」

「方角としては確か元町商店街だったような気がした。」

「そうだったのですね。」

「間違っていたら、ごめんね。」

「ありがとうございます。」

 私たちは、りんごさんにお礼を言ったあと元町商店街へと向かいました。


 元町商店街に行くと、驚くほど閑散としていて店などは一切やっていませんでした。

 軒並みの店はシャッターが下りていたり、更地になっている場所もありました。

 こんな場所で本当に多田綾子に会えるのかと、思わず疑問に感じました。

 原因はやはりあの戦争なのでしょうか。他に原因があるなら知ってみたいと私は思いました。

「ねえ未来、こんな場所で本当に多田綾子に会えるの?」

「私に聞かれても困るよ。」

 恵奈は私に不安そうな顔をして聞いてきました。

 その時、奥にある店のシャッターの前で杖を持ちながらタバコを吸っていたおじいさんがいたので、真紀は声をかけました。

「こんにちは、少しお時間をちょうだいてもいいですか?」

「ああ、いいよ。」

「この商店街って、いつから閑散としてしまったのですか?以前は賑やかだったのでは?」

「お嬢さん、知らないのかい?この商店街は戦争が始まる前に閉鎖したんだよ。ほとんどの人は店をたたんで戦争に協力したけど、ごく少数の店は地下に店を移して、今でも続けているはずだよ。」

「その戦争って世界最終戦争のことですか?」

「当たり前だよ、他にどんな戦争があるって言うんだね?」

「そうですよね。」

「お嬢さんはワシに何を聞きたいと言うんだね?」

 その時、真紀はスマホを取り出して、多田綾子の写真を見せました。

「おじいさん、実はこの人を探しているのです。」

 おじいさんは目が悪いのか真紀のスマホの画面を近くで見ていました。

「ご存知ありませんか?」

「ちょっと待っておくれ。」

 しばらく考えたあと、おじいさんは真紀に返事をしました。

「この女の子なら見たことがあったよ。」

「本当ですか!?」

「わしがここでタバコを吸っていたら、写真の女の子がオロオロしながら石川町の駅の方へ歩いて行ったよ。」

「それっていつの話ですか?」

「本当に少し前だったかな。」

「私たちもこの商店街を歩いてきたのですが、誰にもすれ違っていませんでした。石川町の駅へ抜けるにはこの商店街しかないはずですが・・・。」

「そう言われてもなあ。」

 おじいさんは少し困ったような顔をして、何も言えない状態になりました。

「お嬢さん、先ほどの写真の女の子とはどういう関係なんだね?」

「私、この写真の女の子とは友達なんです。それともう一つ信じてもらえないかもしれませんが、私たち21世紀から黄色と白のバスに乗ってこの時代にやってきました。しかしこの時代に着いてから、今度は運転手までが行方不明になってしまったのです。」

「それは、災難だったね。」

「はい・・・。」

「お役に立てなくて、本当にすまない。」

「いいえ、こちらこそ。とにかく石川町の駅に向かえば会えるのですね。」

「たぶんな。」

「ありがとうございます。」

 

 私たちは急ぎ足で石川町の駅へと向かいました。

 電車に乗ったらアウト。しかも厄介なことに横浜縦貫鉄道は駅員も乗務員もいないので、彼女が電車に乗る前に見つけようと急いで駅まで向かいました。

 この商店街から駅まではそんなに距離はないはず。急ぎ足で向かったけど、多田綾子らしき姿は見当たりませんでした。

「私と恵奈は地上を探すから、真紀は地下を頼む。じゃあ、10分後にこの駅の入口で。」

 一度真紀と別れて、私と恵奈は墓地の方へ向かいましたが、横浜スタジアムの跡地ほどではありませんが、それなりの面積があったので二手に分かれることにしました。

 しかし、いくら探しても多田綾子の姿は見当たりませんでした。

 ちょうど下に通じる階段を見かけたので、私はゆっくり降りていったその時でした。

 ベンチに腰掛けている私たちと同い年の女の子を見かけました。

 私はそうっと近づいて、優しく声をかけてみました。

「こんにちは。隣に座ってもいい?」

 女の子は黙って首を縦に振りました。

「人違いだったら謝るけど、あなたは本牧西中学にかよっている多田綾子さんですよね?」

 女の子は再び黙って首を縦に振った直後、私の顔をゆっくり見ました。

「あなたは港の丘女子の・・・。」

「名前、まだ言っていなかったよね?私は鏡未来。本当は会わないつもりでいたんだけど、あなたを迎えにきたの。」

「私をどこへ連れていくの?」

「決まっているじゃん、元の時代。2022年の2月に。」

「あの時、私はあなたにきついことを言ってしまった・・・。」

「ああ、あれはもう気にしてないから。それでこの時代に逃げてきたの?」

「そういうわけじゃないけど・・・。」

「じゃあ、なんでこの時代に来たの?」

「塾帰りに黄色と白のバスが来たの。それも行き先がないから、ちょっと気になって乗ってみたらこの時代に来てしまったの。」

「そうだったんだね。私、友達を待たせているから一緒に来てくれる?」

 私はそう言って、多田綾子の手首をつかんで石川町の駅へ向かいました。


 駅に着いた時にはみんなは待っていました。

「連れてきたよ。」

「未来、綾子をどこで見つけたの?」

 真紀は少し驚いた表情で私に聞きました。

「この子なら墓地の外れにいたよ。」

 真紀が多田綾子に話しかけようとした瞬間、私は止めに入りました。

「今は疲れているみたいだから、お話はあとにしてあげて。」

「うん、わかった。それよりこのあとどうする?」

「とりあえず、ホテルに戻らない?」

「そうだね。とにかくホテルへ戻ろうか。」

 私たちは、そのまま多田綾子を連れてホテルへ戻り、真紀の部屋で今までのことを話すことにしました。

 真紀は、多田綾子に警察の取り調べのように、いろいろと問い詰めていきました。

「ねえ綾子、行き先のない黄色と白のバスの情報は、誰から聞いたの?」

「誰からも聞いていない。偶然見かけたから乗ってみたの。」

「行き先がないことに不思議に思わなかった?」

「うん。」

「あ、そう。」

 真紀は少し呆れた感じで返事をしました。

「この時代に来て、最初に行った場所ってどこだったの?」

「覚えてない。とにかく変わり果てた場所を歩き通して行ったの。辺り一面にもやがかかっていて、周りに人なんかいない状態で・・・。なんていうか、その・・・、まるで浦島太郎が竜宮城から戻ってきたような感じでさまよっていったの。私が最初に目にしたのはとても広い墓地だったの。」

「その墓地って、位置的にはどのあたりだった?横浜スタジアム?それとも石川町の駅だった?」

「そこまでは覚えていないけど、たぶん横浜スタジアムの跡地だったような気がする・・・。私は墓石に彫ってある死亡年月日を見た時、自分が未来へ来たことに実感したの。驚いたのはそれだけではなかった。お店もなく、食べ物や着る洋服を探すのも一苦労だったよ。おまけにスマホも使えなし・・・。」

「そうだったんだね。寝どまりはどうしたの?」

「空き家を使って雨風をしのいでいたよ。」

「そうだったんだね。」

「私、この時代はもうこりごりだよ。人もお店もない時代なんていたくない。元の時代に戻りたい。」

「そうだね。」

「真紀、今は何年なの?」

「今は2722年3月だよ。」

「2722年!?じゃあ、私たちは700年後の未来にタイムスリップしたんだね。」

 多田綾子はムンクの叫びのような顔をしてしまいました。

「ねえ、なんで驚くの?お墓に行ってきたんでしょ?みんなの死亡年月日を見た時に自分が何年後に来たのかって知らなかったの?」

 今度は恵奈が口をはさんできました。

「恵奈、悪いけど私の話が終わるまで口を挟むのは我慢してくれる?」

「ごめん。」

「綾子、自分がこの時代に来た時にお店もなく、人もいなかったことに驚いていたかもしれないけど、その理由を教えてあげるね。」

 多田綾子は黙って首を縦に振りました。

「今から2年前に世界最終戦争が起きたの。当然、日本も自衛隊をはじめ、一般の人までが戦争に参加して戦うようになったの。結局多くの人々が滅んで今のような姿になったの。」

「そうだったんだね。」

「綾子は山下公園に行かなかった?」

「うん。」

「あそこはまだ戦争の爪痕が残っているよ。」

「そうなんだね。」

「こっちはあんたを探し回るのに苦労したよ。学校で本牧西の女子が黄色と白のバスに乗って行方不明になったと聞いたから、もしかしてと思って探しにきたんだよ。」

「そうだったんだね。本当にごめん・・・。」

「いいよ。こうやって無事に見つかったわけなんだし・・・。それに見つけたのは私じゃなくて未来なんだから。」

 恵奈は不満たっぷりに多田綾子に言いました。

「そうだったんだね。未来さん、ありがとう。」

 多田綾子はボソっと、私に一言お礼を言いました。

「ううん、見つかって何よりだよ。それと私のことは呼び捨てでいいから。」

「うん、わかった。」

「あと、バレンタインデーの時の件はチャラでいいよ。」

「うん。」

 こうして私と恵奈は多田綾子と和解が成立し、次の日には元の時代へ戻るための準備にかかることにしました。



9、黄色と白のバスを探して元の時代へ・・・。


 多田綾子が見つかった次の日、私たちは4人で真紀の部屋で非常食で朝食を済ませてから行方不明になった運転手を探しに行くことにしたのですが、ただやみくもに探しても見つからないのはわかっていたので、まずは情報収集から始めることにしました。

 最初に行ったのは「横浜キッズガーデン・太陽の子」でした。

「こんにちはー。」

 私は玄関先で大きい声で挨拶をしましたが、反応はありませんでした。

「お出かけをしているのかなあ。」

「未来、ここに呼び鈴があるよ。」

 恵奈は入口にある呼び鈴に指を刺したので、私が1回鳴らしたら奥からりんごさんが急ぎ足でやってきました。

「みんな久しぶり・・・。あっ、写真の子見つかったんだね。」

 りんごさんはにこやかな顔をして私に言いました。

「この節はご心配をおかけしてすみませんでした。連れの人は無事見つかりました。」

「そうだったんだね。」

 その時多田綾子はりんごさんが競泳ゴーグルをしていることに疑問を感じて、私の耳元でささやき始めました。

「ねえ未来、何で競泳ゴーグルをしているの?」

「あとでちゃんと説明するから。」

 その時、多田綾子のヒソヒソ声が聞こえたのか、りんごさんは競泳ゴーグルを身に着けている理由を話しました。

「あ、このゴーグル気になる?実は2年前の戦争で目が弱くなったの。私だけじゃない。ここにいる子供たちみんなもそうしているの。」

「そうだったのですね。」

「プールや海でもないのに、競泳ゴーグルなんかしているから驚いたでしょ。」

「あの、他に保護眼鏡と言うのはなかったのですか?」

「本当はそういうのがあればいいのだけど・・・。」

「それで、競泳ゴーグルを使われているのですね。」

 多田綾子は納得したような顔をして返事をしました。

「実は今日私たちがここに来たのは、他に目的があるのです。」

「その目的とは何?」

「以前お会いした時にも話しましたが、実は私たち黄色と白のバスに乗って2022年からやってきました。しかし、この時代に来た時に運転手が行方不明になってどこを探しても見つからないのです。」

「運転手さんねえ。」

 りんごさんはあごに左手を当てて少し考え込みました。

「ご存知ないですか?」

「この時代のバスや電車は無人運転が当たり前だから、運転手なんて見たことがないの。あなたたちの住んでいる時代には運転手さんがいるの?」

「運転手さんがいないと、電車もバスも動かない時代なんです。」

「そうなんだね。」

「無人運転でも構いません、黄色と白のバスが乗れる場所ってご存知ないですか?」

「そのバスも見たことがないなあ。」

「そうなんですね。」

「あなたたちが乗った黄色と白のバスはどこで降ろしてくれたの?」

「確か横浜スタジアムの跡地の近くだった気がする。」

「あの大きな墓地ね。じゃあ、そこに行ってみたら?そうしたら、また次の手がかりがつかめると思うよ。」

「そうですね。ありがとうございました。」

 私たちはりんごさんに一言お礼を言って、横浜スタジアムがあった場所へと向かいました。

 そこから歩いて15分、草原地帯に着きました。

 確かこの近くにバスが止まっているはず。そう思って探し回りましたが、バスの姿はどこにも見当たりませんでした。

「未来、もしかしたらまた別の時代へ行ったんじゃないの?」

 恵奈が少し疲れたような顔をして言いました。

「その可能性が高いわね。」

 私も立ち止まって考えました。

「とにかく他を探してみない?」

 今度は真紀が口をはさんできました。

「他ってどこ?」

 恵奈は少しいらだった顔をして言いました。

「例えば教会とか。」

「シスターさんに聞くの?」

「他に当てがあるの?」

「確かに・・・。」

「じゃあ、教会へ行ってみる?」

「そうだね。」

 私たちは探し疲れた状態で教会へ行くことへしました。


 教会へ着いて中へ入ってみたら、チェリーちゃんに会いました。

「チェリーちゃん、こんにちは。今日は遊びに来たの?」

 私はにこやかな顔をしてチェリーちゃんに声をかけました。

「うん。今日はみんなでシスターさんに遊んでもらったの。」

 チェリーちゃんは無邪気に返事をしました。

「そうなんだ。」

「うん。これから施設に帰るの。」

「じゃあ、気を付けてね。バイバーイ。」

 私はチェリーちゃんに軽く手を振って別れたあと、礼拝堂へと向かいました。

 中へ入ると、そこにはシスターがいました。

「こんにちは。」

「あら、先日の人たち。今日はどういったご用件で?」

 シスターは穏やかな表情で私たちに声をかけました。

「二つ要件がございまして・・・。一つは先日探していた人が見つかりました。」

「それはよかったです。」

「ご心配をおかけいたしました。」

 シスターは軽く微笑みました。

「もう一つは黄色と白のバスに乗れる方法を探しているのです。」

「黄色と白のバスですか?」

「ご存知ありませんか?」

「さあ、見たことがありません。どちらに行かれるバスなんですか?」

「行き先が書かれていないのですが、実はタイムマシンになっているのです。私たちはそのバスに乗って、2022年からやってきました。」

「そうなんですね。」

「信じて頂けないのは承知の上です。しかし、私たちが言っていることは事実なんです。」

 シスターは少し気難しそうな表情をして考え込みました。

「これは当てになるかどうか分かりませんが、元町商店街の外れの方に段ボールの家があるのですが、そこに何でも知っている物知りなホームレスがいるの。その人なら何か情報が得られるはずです。」

「わかりました。ありがとうございます。」

 私たちが行こうとしたら、シスターが「待ってください」と言って、私たちを呼び止めました。

「どうしたのですか?」

「相手はホームレスなので、対価としてこちらを渡してあげてください。」

 シスターはラップに包んであるロールパン2つと使い捨ての容器の中に入っている魚と野菜が入っている茶色い紙の手提げ袋を私に渡しました。

「商店街の外れにいるホームレスですね。」

「その人に尋ねれば何か情報が得られるはずよ。」

「あのホームレスのお名前は何というのですか?」

「彼はマコトさんという方です。」

「わかりました、ありがとうございます。」

 私たちはシスターにお礼を言った後、教会を出て元町商店街へと向かいました。


 商店街は相変わらず閑散としていて誰もいなかったので、本当にこんな通りにホームレスがいるのかと、思わず疑いたくなりました。

 季節外れの冷たい風が吹く中、奥へ進んで歩いていくと、小さな段ボールの家が見えました。

 近寄ってみると悪臭が漂っていますが、そこを我慢して私は声をかけることにしました。

「こんにちは、マコトさんいらっしゃいますか?」

 しかし、返事はありませんでした。

「どこへ行ったのだろう。」

 私は一言、呟きました。

「空き缶拾いに行っているんじゃない?」

 恵奈は適当な感じで返事をしました。

「じゃあ、少し待ってみる?それとも一度戻る?」

 私はみんなに確認をとるような言い方をしました。

「シスターさんからお弁当を預かったわけなんだし、戻るわけにはいかないんじゃない?それに私たちはこれから元の時代へ戻るわけなんだから、そのための情報を聞きに来たんでしょ?」

 今度は真紀が口を出してきました。

 その時、1台の自転車がヨタヨタしながら、私の方へ近寄ってきました。

「お前たち、人の家で何やっているんだ?」

 ボロを来た少し若い感じの1人のホームレスが、自転車から降りて私たちのところへやってきました。

「あの失礼ですが、あなたがマコトさんですか?」

 私は少し緊張気味でホームレスに確認をとりました。

「いかにも。」

「先ほど教会でシスターさんからあなたへのお食事を預かってきました。よかったら召し上がってください。」

 マコトさんと言う人は黙って受け取って、その場で食べ始めました。

「お食事中のところ申し訳ありませんが、一つお伺いしたいことがあるのです。」

「すまないが、食べ終わるまで待ってくれないか。」

 マコトさんはそう言って、パンや使い捨て容器に入っているおかずを黙々と食べ続けていきました。

 待つこと10分、やっと食べ終えたので、私は改めて黄色と白のバスのことを聞き出すことにしました。

「お食事も終わったことだし、今度は私の話に付き合っていただけますか?」

「それで、話ってなんだ?」

 マコトさんは湯飲み茶碗に入っている水を飲みながら私たちの話に付き合うことにしました。

「実は私たち、黄色と白のバスに乗れる方法を探しているのです。」

「ってことは、お前たちこの時代の人間じゃないってことか。」

 私はマコトさんの頭の回転の早さに驚きました。

「はい、実は私たち2022年からやってきました。」

「2022年ねえ。それで今すぐ帰りたいのか?」

「本当なら今すぐなんですが、あいにくホテルに荷物を置いたままでしたので・・・。」

「そっか。それでいつ頃帰りたいんだ?」

「明日の早朝です。」

「早朝じゃあ、答えにならねえだろ。具体的に何時かを聞いているんだよ。」

「ちょっと待って下さい。」

 私はみんなに何時にするか、確認をとりました。

「では、9時ごろお願いいたします。」

「9時でいいんだな。」

「はい。」

「それで、場所はどこにするんだ?」

「できたらホテルの玄関の前にお願いいたします。」

「ホテルの名前は?」

「ビジネスホテル・伊勢佐木町です。」

「わかった。それまでちゃんと待っていろ。俺がなんとかしてやる。」

「よろしくお願いいたします。」

 私たちはそう言って、マコトさんと別れました。


 ホテルに戻って、資料館の近くで知り合った女性から譲ってもらった着替え用の洋服や靴などをすべて一か所にまとめておきました。

 これであとは帰るだけとなったので、私は部屋を暗くする前にもう一度窓から星空を見ることにしました。

 この星空も見納めか。そう思ったとたん、なんだか元の時代へ戻るのが惜しくなりました。

 私はそのまま部屋を暗くしてスマホのアラームを7時30分にセットして寝ることにしました。


 翌朝になって私は身支度を済ませて、みんなの部屋を軽くノックしました。

 最初に起きたのは真紀、その次は多田綾子、最後が恵奈でした。

 恵奈は眠そうな顔をしながら廊下に出てきて、私に時間の確認をしました。

「おはよう、今何時なの?」

「今7時30分だよ。」

「少し早くない?」

「少しくらい早い方がいいって。それにギリで動いても乗り遅れたらアウトだし。」

「だって、ホテルの玄関から乗るんでしょ?だったら、もう少し遅くてもいいと思うんだけど。」

 恵奈は少し納得のいかない顔をして私に文句を言ったあと、しぶしぶと身支度を始めました。

 そのあと食事を済ませて、私たちは少し休憩をとることにしました。

「この非常食も今日で最後だね。」

 真紀がペットボトルの水を飲みながら、ため息交じりで言いました。

「確かにそうだよね。」

 恵奈もそのあと続くように言いました。

「あなたたち、気になっていたけど、この着替えの山どうしたの?」

 多田綾子はびっくりしたような感じで私たちの荷物を見て言いました。

「あ、これ資料館の近くで知り合った女性から譲ってもらったの。」

「いいなあ。私なんか真面目に買ったよ。」

 多田綾子は私たちが他人のお下がりをもらったのを聞いて羨ましがっていました。

「でも、買った服も結構可愛いと思うよ。」

「そう?」

「どこで買ったの?」

「横浜駅の地下で。」

「そうなんだ。あの周辺は無事だったんだ。」

「地上は戦争でやられていたけど、地下は無事だったよ。」

 私と多田綾子が会話に夢中になっていたら、真紀が立ち上がって出発を促しました。

「そろそろ時間だから、出ようか。」

 私たちがカートや手提げ袋を持って、ホテルの玄関に向かおうとした時、多田綾子は真紀の背中を見て、疑問に感じました。

「真紀、このショットガンどうしたの?」

「あ、これ?山下公園で拾ってきたの。」

「これも持って帰るの?」

「うん、記念にね。」

「私たちの時代に持ち帰ったら、すぐに警察に捕まるよ。」

「あ、そうだった。じゃあ、これは部屋に置いておくよ。」

「そうしな。」

 真紀は多田綾子に言われて、ショットガンを部屋に置いていきました。

 8時55分、ホテルの玄関には来た時に乗った黄色と白のバスが止まっていました。

 前のドアから乗ろうとしたら、運転手の顔に見覚えがあるのを感じました。

「あなた、マコトさん!」

 私は思わず指をさしました。

「騙すつもりはなかったけど、俺の本業はこっちなんだよ。」

「だって、昨日は元町商店街の片隅でホームレスやっていたじゃん。」

「あれは、なんていうかその・・・、世を忍ぶ仮の姿ってところなんだよ。気に障ったなら謝るよ。」

「マコトさんの職業って、バスの運転手なんですか?」

 今度は恵奈が聞き出しました。

「正しくは時間旅行社で勤めているんだよ。正直俺たちの職業って時と場合によっては歴史を変えてしまうから、できれば表には知られないようにしているんだよ。」

「そうなんですね。」

「わかったなら、早く乗ってくれ。」

 私たちが座席に乗ろうとした瞬間、マコトさんに「ちょっと待ってくれ」と声をかけられました。

「お金、必用なんですか?」

「いや、そうじゃない。君たちが帰るのは2022年ってわかったけど、2022年の何月何日に帰りたいんだ?」

「2022年2月16日の午後5時ごろの石川町の駅までお願いいたします。」

「了解!」

 マコトさんはそう言って、バスをゆっくり走らせていきました。

「この景色とは見納めだよね。この時代ってどうだった?」

 私は横にいた恵奈に聞きました。

「私は正直退屈だった。あと当分の間は非常食は食べたくない。」

「だよねえ・・・。」

 私は苦笑いをしながら返事をしました。

 バスは横浜スタジアムの跡地に作られた大きな墓地を過ぎたあたりから、急に速度を上げていき、それと同時に車内に眠気を誘う甘い香りが漂ってきて、私たちは眠ってしまいました。


 目が覚めたころ、バスは2022年の石川町の駅前に着いていました。

「お嬢さんたち、着いたよ。」

 マコトさんはにこやかな顔をして私たちに言ったので、そのまま一言お礼を言って別れるることにしました。

「2722年って、ちょっと退屈だけど、結構面白かったよ。」

「またこれに乗って来てくれよ。」

「じゃあ。」

「じゃあ私、こっちだから。」

 マコトさんがそのままバスを走らせていなくなったあと、多田綾子は磯子駅行きの路線バスに乗って本牧にある家に帰りました。

「私たちも帰ろうか。」

 私は恵奈と真紀に帰るよう促しました。

 

 話は一か月後に飛びます。

 今日はホワイトデーでした。

 私と恵奈がロードバイクを手で押して校門を出ようとした時、1人の男の子が白い小さな手提げ袋を持って待っていました。

「なあ、お前たちって鏡と木村だよな?」

「そうだけど・・・。」

 私は声のする方へ顔を向けたら、そこには神田信行くんがいました。

「信行くん、どうしたの?」

 私はただただ、びっくりするだけでした。

「今日って、ホワイトデーだろ。だから、お前たちにお返しを用意したんだよ。それにこの間は来てくれたのに、冷たい態度をとってしまって悪かった・・・。」

 信行くんは少し恥ずかしそうな顔をしながら言いました。

「いいの、私も信行くんの気持ちをよく知らないまま会いに行ったから・・・。4年生の時のこと、まだ気にしていたら謝るよ。」

「いいよ、もうあれは気にしてないから。それより、先月変装して俺に会いに来た理由は何だったんだ?」

「バレンタインの前日、あなたの学校にいる多田綾子さんに『二度と来るな』って言われたから・・・。」

「だからと言って、変装して来ることはないだろ。むしろ普通に学校の制服か普段着で来てほしかったよ。」

「ごめん。」

 恵奈は少し気まずそうな顔をしながら信行くんと話していました。

「それより、今日は部活はどうしたの?」

「部長に無理を言って休みませてもらった。」

「大丈夫なの?」

「ああ、大丈夫。その代わり、明日は今日の分まで頑張るって約束したから。」

「そうなんだ。」

「じゃあ俺、そろそろ帰るよ。あ、そうそう。多田綾子からお前ら二人宛てに手紙を預かってきたから。」

 信行くんはジャケットの内ポケットから手紙を取り出して渡しました。

「ありがとう。それとよかったら連絡先を交換してもいい?」

 恵奈はスマホを取り出して、信行くんと連絡先を交換し始めたので、私も便乗して連絡先を交換しました。

 

 信行くんが乗ったバスを見送ったあと、私と恵奈は家の近くの公園にあるベンチに座って手紙を広げました。

<未来と恵奈、お久しぶりです。お元気でいますか?バレンタインデーの時、あなたたち2人に冷たい態度をとってごめんなさい。それなのに2722年で行方不明になった私を探して見つけてくれた時には、正直穴があったら入りたい気分になったよ。もう少し落ち着いたら一緒に遊ぼうね。PS,連絡先を載せておくので、よかったら電話やSNSのやり取りよろしくね。>

 私と恵奈はスマホのLINEで多田綾子にメッセージを送ったあと、夕暮れ近くの公園のベンチでぼんやりと空を眺めていました。



おわり 


皆さん、いつも最後まで読んでいただき、本当にありがとうございます。

 今回は主人公の鏡未来がクラスメイトと一緒にバスの形をしたタイムマシンに乗って700年後の「未来」に行くお話を書かせて頂きました。

 もしタイムマシンがあったら、皆さんはどの時代へ行ってみたいと思いますか?

 私なら自分が生れた時代へ行って、生れた時の瞬間と感動がどういうものか見てみたいと思っています。 


 さて、皆さんが思い描かれている「未来」ってどんなものなのでしょうか。おそらく大半の人たちは、今の時代よりもハイテクで便利な時代になるのではないかと想像されているはずだと思います。

 しかし彼女たちが行った「未来」は誰もいない戦争の跡地でした。今、世界のどこかで戦争により多くの犠牲者が出ています。

 

 皆さんに質問を出します。

 将来、日本が戦争に加わることになったら、皆さんは賛成しますか?それとも反対しますか?

 戦争はゲームと違って人の命を奪い合うものですので、私は正直反対です。


 話は1話になりますが、ここではバレンタインデーのことを書かせて頂きました。

 皆さんはバレンタインデーにはどんな思い出がありますか?

 渡すとき、受け取る時、様々な思いがあるかと思います。

 中には「誰にも渡せなかった」とか「誰からももらえなかった」とか、あるいは「受け取ったけど、10円の安いチョコ1個だけだった」と言う人もいるかもしれません。


 最後になりますが、皆さんからのコメントや感想をなんでも結構ですので、お待ちしております。

 それでは、次回の作品でまたお会いしましょう。

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