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Unhappiness  作者: 三千
7/16

空虚


「……そ、壮絶だね」


Cさんは最初、驚いたような顔をしたり、眉をひそめたりして聞いていたけれど、次第に神妙な顔つきになり、そして最後にはほうっと嘆息の息をついた。


「自分で言うのもなんだけど完全にこれ修羅場だよね修羅場!」

「だね」


二杯目のコーヒーを喉に流し込むと、私はトイレに立った。


これでお互いに自己紹介という行為は終わった。鏡の前で手を洗う。濡れた手でストレートボブの髪を撫でると、映っている自分が別人のように見えた。


女は髪型で印象が変わるらしい。けれど、私はこのかたずっと同じ髪型だ。少し安めの美容院でカットだけをしてもらっている。


これが最後になるのだったら、前回行った時にトリートメントくらいしておけば良かったなあ。


私が席に戻ると、Cさんは少し和らいでいた。なんだかすっきりしたというような表情にも見える。


お互いに人間関係は希薄で悩みを打ち明ける相手もおらず、相談する家族もいない。それがマッチングアプリ登録への背中を押した。


二人向き合う。


鬱積したものを吐き出したのもあってか、初対面よりは印象も軽くなっていた。


「でも……本当に……これでいいんだろうか」


Cさんがそう呟くのを聞いて、溜め息をひとつ吐いた。まくれ上がっていたスカートの裾をそっと直す。


曖昧なCさんの言葉に、私は続けて言った。


「お互いにひどく不幸だったね。だからこれで良いんだよ。これから先の長い時間、ずっとずっと我慢して生きる方が辛いと思うよ」

「それもそうだね」


少しの間。息遣い。


「……生きるのってこんなに辛いものなのかな。みんなこんなに辛い思いをしながら、生きているのかな」  


本音。


「……本当にそう」


二杯目に注文したコーンスープに、Cさんが口をつける。いや、そのコーンスープはもう、冷めてるでしょ。それくらい長く長く、私たちはいろんな話をしたから。


「僕たち、これからどうなるんだろう」


ぬるくなったスープなんて、もう人を温めることも癒すこともできないんだな。


スープの役割りなんて、ちまちま考えていると自分の中心が空っぽになりかねないので、私はそこで考えるのをやめた。


限界だろうか。もうそろそろ去った方が良いのかも知れない。役立たずなスープはここに置き去りにして。


私は手を伸ばした。透明な筒に立てかけてあった注文伝票を取ろうとして、Cさんに横取りされる。


「僕が払うよ」

「え、いいの? ……ありがとう」


さっきから店員に、何度もちらちらと見られている気がしている。調理場とホールを隔てる暖簾をかき分けて届く視線は、ひじょーに不快だ。


「そろそろ出よ」

「うん」


Cさんに対して感じていた苛立ちは、もう今は、蟻が一匹這い上がってくる程度のものに過ぎなくなっていた。


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