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ことりは大切なひとのもとへ

 そもそもわたしは、メロディが逃げたその現場にはいなかった。そらに『ベランダに出ようと思って窓を開けたら、餌をやった時にちゃんとかごを閉められてなかったらしく、メロディが逃げ出してしまった』と説明されただけで。つまり、そらが自分の意思でメロディを放し、わたしに嘘をついてそれを隠すこともできたわけだ。

 でも、どうしてそらはそうしてまで、メロディを放したのだろう。小鳥を外に放つ危険性については、そらも知っていたはずなのに。


「……月葉が就活で出かけてた日に、わたし、部屋の中にメロディを出したんだ。鳥かごの中じゃ狭すぎないかな、って思って」

 メロディを鳥かごに戻し、料理を作り終えて、朝食を食べているときのこと。

 そらはゆっくりと、メロディを逃がした理由を話してくれた。

「そしたら、メロディが突然、窓に突進し始めて。それを見た時、気づいたんだよ。外に行きたがってるんだ、って。だから……危険なのは知ってたけど、放しちゃったんだ」

 ふと、フレンチトーストを切っていたそらの手が止まる。

「もしかしたら、わたしのやっていることは、元の飼い主がやったことと同じかもしれない。けれど……わたしにはメロディの気持ちを縛れないって、そう思って」

 メロディの楽しげな鳴き声が、室内で軽やかに響き渡る。

「そうだったんだ……教えてくれて、ありがとう」

「……怒らないんだね、月葉」

 肩を縮めて、こちらをそっと見上げながら呟くそら。その頰は、少しだけ濡れている。

 わたしも手を止めて、そらの涙をぬぐいながらそっと微笑んだ。

「怒らないよ。そらなりにちゃんと考えて、行動してたんだから。怒る理由なんてどこにもないよ」

 だから、もう泣かないで。そう言えば、そらは少しだけ驚いたように目を見開いてから、ゆっくりと口角をあげる。

「ありがとう、月葉」

 笑いながら、そらは大粒の涙をこぼし続けていた。


 食事を終えて、片付けて。

 自室に戻り、あの紙を取り出してみた。

 留学について書かれた、A4の紙。主張の少ないそらが、わざわざわたしに問いかけてまで探していたもの。

『わたしには、メロディの気持ちを縛れないって、そう思って』

 そらの言葉が、蘇る。

「わたしも……そらの気持ちは縛れないな」

 ちょっと寂しい思いはするかもしれない。でも、独りになるわけじゃない。そして、どれだけ遠くに行ったって、そらはちゃんと帰ってくるのだ。わたしのもとに。

 ついさっき、メロディがこの場所へと戻ってきたように。

 それに、遠く離れていても言葉を交わすことはできる。それこそ、普段のようにメールをするとか。時差はあるかもしれないけど、距離はかなりあるけれど、想いを伝えあうことはできるのだ。

 だから、きっと大丈夫。

 紙を手にしたまま、わたしはそらのいるリビングへ向かう。


「ねえ、そら……話があるんだけど、いいかな」


《了》

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