掃除と散らかる心
激しい雨音が聞こえる。梅雨入りした、とラジオのニュースでやっていたっけな、なんて思わずにはいられない。就活も終わったしバイトを再開しようかと考えていたところなのに、音が集中力を削いでいく。
はあ、と思わずため息をついた時、目線が下がって床のほこりが目に入った。そういえばここ最近、就活で忙しかったこともあって、ずっと掃除をしていなかった。そらには「共用部分は私が掃除するよ、家にいる時間も長いんだし」と言っていたのに。
――仕方がない。
重い腰を上げ、物置から掃除機を引っ張り出す。とりあえず、一番広いリビングから取りかかることにして、電源を入れた。あまり気は向いていなかったけれど、好きな曲を口ずさんで気分をあげれば、だんだん乗り気になってきた。一通り綺麗にできたらダイニングキッチン、その次に廊下、そしてわたしの部屋。その流れでつい、そらの部屋も掃除機をかけようとしてしまったが、すぐにやめた。勝手に個人スペースに入られたら、相手が恋人とはいえ、あまりいい気分にはならないだろう。それに、そらは綺麗好きだし、わたしが掃除機をかけなくとも大丈夫だ。きっと。
うんうん、とそらの部屋の前で一人頷いて、掃除機をしまおうとした時、気がついた。
床と扉の隙間からわずかに覗いている、白い紙に。
「……なんだろ、これ」
慌てたかなにかで落としてしまったものが、扉に挟まっているのだろうか? なんだか、そららしくないなあ。
たいして深く考えずに拾い上げて、なんの気なしに目を通して。
――頭を殴られたような衝撃に襲われた。
それは、三か月間の留学案内だった。留学先は、そらの大学と提携している(らしい)海外大学。費用や申し込み締め切りといった重要事項には、丁寧に定規を使ったかのようにまっすぐにマーカーが引いてある。
定規で線を引くのは、そらの癖。だから、多分この線は、そら本人が書いたもの。
これって、つまり。
そらは……留学したがっている?
そんな憶測が、じんわりと頭に、心に、染みわたっていく。
そして、理解した瞬間、思わず顔をゆがめていた。
胸が、ナイフで刺されたような痛みに襲われる。
強く握りしめ過ぎたのか、紙がクシャリと音を立てた。
心臓の鼓動が、なんだか激しい。
いくら深呼吸しても、思考がまとまらない。いや、自分が今、なにを考えているのかが分からない。
どうしよう。
どうしたらいい?
訳が分からないまま、わたしはその紙を自室に持ち帰り、机の中にしまい込んだ。