『されど運命は回る』~俺の罪~
お久しぶりですが、少しは頑張ったつもりです。楽しんでもらえれば幸いです。
~アッ君~
「………………………泣いてるの」
喉がからからする、魔力が失われていく。俺の下にそんなに大きくはない水溜り。それは赤いが、間違いなく俺のだ。どうして?なんで…涙が出るんだ。
俺たちにとって涙とは、自分の力そのものだ。涙を流すことはすなわち自分の命を削っているのと同じ。だから悪魔は涙を流さない、それ以前に、悪魔に泣くという概念はないのだから。
それでも現に俺は泣いている、俺が涙を流したのはこれで2回目だ。
「アッ君…。」
「っ!」
美琴の困惑したような声と、鳴海の息を呑む音が聞こえる。
「これが……涙?」
「違う………のかな?」
きっと彼らにとって、悪魔の涙など伝説か何かだと思われているのだろう。実際、悪魔が人前で泣くなんて、きっとないのではないだろうか。いや、たしかどこかの書物に悪魔の涙のことが書かれていた、誰か見たものがいたのであろう。
この気持ちは何なんだろう。信じてるって言われて、俺は………何を思ったんだ。
わからない
こんな気持ち知らない
わからない
どうしてこんなにも
涙があふれるのだろう
「アッ君」
美琴の声で俺はハッとした。どれくらい意識が飛んでいたのだろう。かなり力が減っている。俺の下には赤い水溜りができていた。
「少し出かけてくる」
俺は美琴に返事することなくその場を去った。
~鳴海~
あいつ、なんなのよ。
美琴にパートナーができたと聞いてはじめは驚いた私だけど、本当に嬉しかった。
いつも契約がうまくいかず、自分には力がないとはかない笑顔を見せていた美琴。そんな彼女は、やはり天使たちにも相手にされず、契約なんてもう無理かもとなかばあきらめかけていた頃だった。
しかし、その契約者が悪魔だと聞いたとき、私は絶望した。なぜ、よりにもよって美琴の契約者が悪魔なのだ。
悪魔…なんて忌々しい響きなのだろう。悪魔のせいで、一体何人の人間が死んだかわからない。いや、死んだだけじゃない、あいつらと契約した人間はみんな体と命、そして心を食われていった。
あの世に行くことも叶わず、跡形もなく。
そんな悪魔と、美琴が契約した。
美琴が奪われる…
そう思った。
私は絶対認めない、あんな血も涙もないような存在。いくら美琴に危害を加えないと主張したところで、所詮は悪魔、いつ裏切るかわからない。
この前だってそう、ケンちゃんが人質に取られたとき。あいつは来なかった。きっと、影で笑って言ったに決まっている。いいざまだと、ケンちゃんが苦しむのを見て、喜んでいたのだ。
あんな奴らに心はない。そう思っていたのに。
ポチャンッ
私は見てしまった。悪魔の涙を。
赤かった。底なしに赤くて、でも…とても悲しい色に見えた。
そのあと、しばらくジッとしていた悪魔は、ひとことだけ「少し出かけてくる」たったそれだけの言葉を残しそのばを去った。そのすぐ後を美琴が心配そうに追うのを眺めた後、仕方なしに私もあの悪魔を探すために走り出した。
~アッ君~
涙を流すなど、俺はどうかしてしまったのだろうか?長い間……いや、ほんの十数年前か、人間にしてみれば長い時間だが、俺にとってはさほど長い時間ではない。それくらい前に流したきりだったのに。
あの日のことは、忘れることはない。俺が悪魔であって悪魔でなくなった日のこと。
彼女は今頃何をしているのだろうか、あの日、俺が彼女に押し付けたもの、それはきっと彼女の重荷になっているに違いない。きっと彼女は、真実を知らないのだろうな。きっと、どっちの俺も恨んでいるのだろうな。それでも俺は……彼女に生きてほしかった。彼女にとって重荷だったとしても、俺にとっては最後の贈り物だったんだ、二度と会えるなんて思えないから、俺は罪人で、本当ならあの日に死んでいたんだ。でも……結局は俺のエゴだったんだ。ただ、彼女が死んだら、俺が悲しいから、俺の荷物をしょってもらってでも、生にしがみ付かせたかった。ただそれだけのことだったんだ。