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白ギャルと一緒に異世界転生  作者: サムライ熊の雨
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07.妹と一緒に稽古


 生まれ変わった俺の家だが、一応貴族であった。

 一応と言ったのは貧乏貴族だからとか、騎士とか男爵とかの貴族の末席だからというような意味ではない。むしろそういう意味ならうちは公爵家で大貴族に分類される。

 一応というのは、貴族だとか平民だとかに対する精霊人(イリス)の認識がやたら緩いからだ。


 だいたい王様がいない。この国、中央神聖国パルスニアの頂点に立つのは神様であるハイ・エルフである。といってもハイ・エルフは封印されていて、実際には耳長族(アールヴ)の神官たちがハイ・エルフの言葉を神託という形で伝えている。

 アールヴの神官たちはこの国の中央に位置する大聖殿にいて、(まつりごと)などは主にそこで行われる。

 各種族の伯爵以上の位の貴族が、大聖殿に年に何回か召集されて話し合う国会みたいなのも一応はある。なぜかその場で武闘大会みたいなのも開かれるらしいから本当に一応だ。


 地理を一応説明しておくと、この国は真ん丸な円である。外円を巨大な岩山で囲まれており、さらに魔法的な結界が施されているらしく、物理的にも魔法的にも侵入は難しいらしい。

 円の中央には大聖殿があり、各種族の里はホールケーキみたいにちょうど六等分されている。

 そこにイリスのイグニス、土精霊(ガイア)などの各種族が住んでおり、アールヴ、ドワーフなどの妖精族(エルフ)は好きな里に自由に暮らすことが許されていた。

 といっても、エルフにもイリスとの相性があるらしく、たとえばドワーフなどは俺たちイグニスか土精霊(ガイア)にその大半が居住を構えている。反対に家事が大好きという変わった種族であるブラウニーは大抵どこにでもいたりするのだが。

 ちなみに各里には自由に出入りすることができ、住むことは許されていないが、一週間くらい滞在するくらいには問題ないようだ。


 話を俺の家に戻すが、俺の家は公爵家でかなり立派な屋敷である。

 メイドや執事などの侍従は十人以上いるし、俺専属のメイドさんもいた。

 彼女の名前はアドラで、いつも鉄壁の微笑を崩さない。年齢は二十歳前後に見えるのだが、正直自信がなかった。アドラはドワーフで、アメリアの半分程度の身長しかないのだ。ちなみにちっこい以外は普通の女性だ。樽みたいな体型でもないし、髭が生えているわけでもない。むしろ可愛らしい女性である。そこのところは本当に良かったと思う。


 他にもメイドさんや執事は大勢いるが、俺がよく話すのはアドラとルイーザのメイドさんであるビビアナくらいのものだろう。

 ビビアナもアドラ同様ちっこいのだが、彼女はドワーフではない。ブラウニーである。ちゃんとブラウニーの見分け方があり、茶髪でちょっと耳が尖っているとブラウニーなのだそうだ。ちなみにビビアナは常に無表情でちょっと怖かった。


 家族にもよく話す人とそうでない人がいる。

 簡単に言うと女と男で違う。何も俺が女好きだから女とよく話して男とは話さないようにしているというわけではない。

 俺はアメリア母様、フローラ姉様、ルイーザとはよく話すけど、ブルーノ父様、クルト兄様とはあまりしゃべらないのだ。いや、クルトは無駄によく話し掛けてくるが、たいてい喧嘩を吹っ掛けられているだけなので無視している。

 父、ブルーノは眼鏡を掛けたイケメンの、見た目気難しそうな人なのだが、実際に接してみると見たままに気難しい人である。

 だがそれは俺に対してだけの態度であり、俺と話すときは必要最低限のことしか話さないうえ無表情な癖に、他の家族と話すときは楽しそうに笑顔でしゃべっている。特にスタイル抜群で美人なアメリアに対しては、もう甘々だ。見ていると砂糖を吐き出しそうになる。爆発してしまえばいいのに。


 それとうちの家長はブルーノではない。

 うちの家長はアメリアである。つまり公爵位を持っているのはアメリアなのだ。そしてブルーノはブルーノで、伯爵位を持っている。

 どういうこと? と思うのだが、要するに適当なのである。

 パルスニアで戦争が起こることなんてないし、モンスターどころか猛獣すらこの国には生息していない。

 平和で犯罪者すら存在しない。一応階級はあるが、差別も貧富の差もない。200年近く前からほとんど何も変わっていない。まるで天国のような国、それが天界とも呼ばれるここ、中央神聖国パルスニアだった。


 だが、魔神や猫耳邪神の話によれば、ハイ・エルフは嘘をついている。

 この国ができた経緯など、歴史に関して伝わっていることはほとんど嘘だというのだ。

 もしかしたらこの地上の楽園みたいな生活も、全てが嘘の上で成り立っているのかもしれない。俺はそれを心に留めておいた。


 と言っても、目下すべきことは特にない。

 ぶっちゃければ魔神も猫耳邪神もハイ・エルフも全部怪しい。

 俺はもう誰も信じないし、縋らない。

 魔神が鍛えてくれるというのなら、俺はそれを利用するだけだ。

 強くなってルイーザと俺自身を守る。今の俺がすべきことはそれだけである。


 そういうわけで、今日も今日とて俺は素振りする。

 俺の訓練は素振りと型の練習、基本の繰り返しだ。うちには木刀も剣もなかったため、拾った木の枝で。

 正直魔神以外とももっと実践的な練習がやりたいが、これしかできることがない。


 傍らでは俺の素振りをルイーザが、なぜか真剣な眼差しで見ていた。


「お兄様、その剣術は誰に教わったのですか?」


 うーん、答えづらい質問だ。

 俺の使う剣術は、確かにこの家では誰も使わないものである。しかも前世の日本でも一般的だった剣道とも違う。いや、素振り自体は剣道と変わらないのだが、型で気付かれてしまったらしい。


「……秘密」


「むぅ、恋人同士の間で隠し事を作るのはいけないことだと思います」


 おかしい、俺たちは兄妹だったはずなのだが……。


 だが説明しなくてもわかるはずだ。

 ルイーザだってあの魔神に会っているはずなのだから。

 しかし魔神の話によれば、ルイーザとは二度くらいしか会っていないらしい。生まれた時からさして苦労せずに最強の一角になると決まっているため、特に教えることがないのだそうだ。


「良かったら、教えようか?」


 ルイーザの機嫌を取るため、ダメもとで言った言葉だったが、意外にもルイーザは嬉しそうに頷いた。


「はい、お願いします!」


 だが彼女に剣術は必要なのだろうか。

 ルイーザの使う魔法は非常に強力で、魔法さえあれば怖いものなしな気がする。

 それでも教えて欲しそうだし、いいだろう。人に教えてあげられるほど修めてもいないけど、教えられる範囲で教えてあげよう。


 そうして俺たちが一緒に素振りをしていると、俺たちのいる西の庭にフローラの分霊である赤いフクロウが現れた。すぐに本人も現れる。


「あら、あなた達、剣の稽古をしているの?」


 俺はすぐにキリッとした表情を頑張って作り、頷く。


「はい、二人で素振りをしていました」


 どうも精神が肉体に引っ張られているらしい。

 フローラのことが綺麗なお姉さんに見える。いや、七年後を見越しているのだ。俺はあと二年もすれば家を出て行くのだが。


「ぎゃっ!」


 突如脳天に衝撃が走った。


「あ、お兄様ごめんなさい。手が滑りました」


 振り返るとルイーザが俺を見ていた。にこりともせずに。


「うふふ、あなた達は本当に仲が良いのね」


 そうなんでしょうか。


「ねぇ、私も混ぜてもらっていい?」


 イエスと即答したいところだが、俺はルイーザに目線でお伺いを立てた。きっと勝手にイエスと言えば、またルイーザの手が滑るに違いない。


「もちろんです。お姉様」


 意外にもルイーザは快く頷いた。

 いや、別にルイーザはフローラを嫌っているわけではないのだ。むしろ慕っているのかもしれない。


「じゃあ、ピーちゃんに持ってきてもらうわね」


 はて、ピーちゃんとは? そして何を持ってきてもらうつもりなんだ?


 しばらくすると、フローラの分霊が一振りのレイピアを咥えて飛んできた。いや、あれはエストックだろうか。

 俺は愕然とした。うちにレイピアがあったことに対してではない。

 あれだけ広い家なのだ。俺が探していなかった場所などいくらでもある。

 そんなことよりも、俺を打ち震えさせたのはあのフクロウの名前がピーちゃんだったことである。

 え、フクロウってピーとは鳴かないよね? そもそも分霊なんだから鳴かないよね? ていうかそのネーミングセンス……。


 俺がワナワナと震えているのをよそに、剣を受け取ったフローラは俺に対してその切っ先を向けてきた。フェンシングによく似た構えだ。もちろん刀身は鞘に納められたままだが。

 うん? 稽古って俺と打ち合うってことだったのか?


「さぁ、どこからでもかかってきなさい」


 悪くない。ちょうど実戦形式でやりたいと思っていたところなのだ。


 俺も木の枝を構えると、言われた通りに遠慮することなく打ち込んだ。

 俺の背では普通の木刀なら足くらいしか狙えないが、訓練用にちょっと重めの枝にしていたおかげで助かった。これなら頭まで届くだろう。


 俺はフローラの背よりも長い木の枝を真正面から振るった。


「え? ちょ、嘘でしょ!?」


 どうやら俺の動きが思ったより速かったらしい。


 フローラは俺の一撃を大きく横っ飛びで躱していた。

 しかしそれでは隙だらけだ。避けるんであればもっと最小限の動きで避けないと。


 俺は木の枝を最後まで振り切らず途中で止めると、そのまま横薙ぎに転じた。


「わわわ、ちょっと待って!」


 そんなこと言われても……もう止まれない。


 その時、フローラの分霊の赤いフクロウ、改めピーちゃんが魔法を行使した。

 火属性の中級魔法だ。

 俺とフローラの間に火の柱が立ち上り、俺の振るった木の枝が一瞬で焼き尽くされてしまった。


「姉様、それは狡いですよ」


 俺は慌てて木の枝を捨てつつ、フローラに抗議した。

 焼け死ぬかと思ったわ。


「いやいやいや、私だって結構危なかったんだよ。まさかあんな大きな木振り回すなんて思ってみなかったから。ネオって力持ちなのね」


 俺は後頭部を掻いた。

 そういえばそんなようなことを魔神にも言われた気がする。


「ふふん! お兄様はすごいんですよ」


 なぜかルイーザが自慢げだ。


「それだけの腕があれば、あと十年もすればお母様とも良い勝負ができるかもしれないわよ?」


 フローラの言葉で思い出した。

 今世の母、アメリアは武人である。


 この世界の魔法には下級(その下に生活魔法があるが)、中級、上級、特級、神級とあり、一般的なイリスは上級まで使うことができる。

 しかしアメリアは特級まで使うことができ、そのうえ白兵戦でも達人クラスの腕を持っているらしいのだ。


 パルスニアの階級制度が適当だとはいえ、アメリアは腕っぷしだけで公爵まで上り詰めた人である。

 よし、決めた。明日からアメリアに稽古をつけてもらえないか頼んでみよう。

 でも俺、あの人苦手なんだよなぁ……。


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