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白ギャルと一緒に異世界転生  作者: サムライ熊の雨
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05.白ギャルと一緒に異世界転生


 さて、今日は生憎の雨だ。


 俺は転生後の新しい家の書庫で読書をしていた。

 とても個人の家にあるような書庫ではなく、本棚がいくつもあり、難しそうな本がたくさん並んでいる。

 その中から俺が選んで今読んでいるのは、この世界の成り立ちについて、みたいな内容の分厚い本である。

 普通二歳児はこんな本読まないのだろうが、俺は天才児ということになっているので、何とかまかり通っていた。簡単に化けの皮が剥がれそうであるが。


 俺の隣にはもう一人の天才児ということになっている者がいる。

 俺の妹、ルイーザだ。こっちの方が早く化けの皮が剝がれそうだが、彼女の魔法に関しては本当に天才なので、問題ないだろう。


 生まれてすぐに俺はルイーザが転生者だということに気付いた。というより、あの状況で転生者だと疑うなという方が難しい。

 やはり俺の睨んだ通りで、ルイーザは転生者だったのだが、向こうにも俺が転生者であることは見抜かれてしまっていた。

 まぁ、それは仕方ない。普通の赤ん坊のふりをしている方が、不利益が多い。

 ただ問題は、俺がルイーザの正体に気付いているということでも、ルイーザが俺の正体に気付いているということでもなく、俺がルイーザの正体に気付いているということを気付かれていないということだった。


「おにいたま、しっていますか。あたちたちがすんでいるこの国は、ハイエルフさまがつくったんですよ」


 だから彼女は今日も一生懸命二歳児の演技をしている。

 いやいやいや、それは無理がありませんかね、ルイーザさん。いや、瑠美奈。


「今から二百年前に起きた神魔大戦だっけ。その時に出来たらしいね」


 しかし俺はそれを指摘できず、調子を合わせてあげることにしていた。


 俺がこの世界に転生してもいいかもしれないと思ったのは、瑠美奈にまた会うことが出来るかもしれないと思ったからだ。

 だけどさ、早すぎじゃね?

 転生してから一分経たずに気付いたわ。いや、もうなんなら胎児のときから一緒にいたってことだからな。


「さすがはおにいたまです」


 ルイーザは嬉しそうにそう言って、俺に抱き着いてきた。

 彼女は生まれてからずっとこんな調子だ。俺の傍を常に離れず、やたらべたべたとくっついてくる。

 だから俺は確信できていた。


 俺たちの一週間は嘘じゃなかったんだ。


 きっかけはもしかしたら本当に罰ゲームだったのかもしれない。だけどどのタイミングかはわからないけど、彼女は俺を好きになっていてくれた。そして今もその気持ちは変わっていないのだろう。

 俺も彼女のことが好きだ。

 でもちょっとわからなかった。

 俺は瑠美奈が好きなのだろうか、それともルイーザが好きなのだろうか。

 二人は同一人物だけど、瑠美奈は彼女として、ルイーザは妹としてという意味である。

 それに彼女には訊きたいこともあった。


 俺の姉さんのことだ。なぜ姉さんはあの場にいたのか、なぜ襲われていたのか。

 でもそれを訊くのが怖い。俺たちの関係が壊れてしまいそうで。それにそれを知ったところで、俺は何も出来ないのだ。俺は死んでしまった。姉さんを残して。

 だからだろう。俺がルイーザの演技に付き合っているのは。


「ルイーザ、腕を話してくれないと本が読めないよ」


「えぇっ、はなれたくないですぅ」


「だったらほら、腕の下から抱き締めて。うん、そうそう」


 そんな風に仲良く読書をしていたのだが、突然書斎の扉が開かれた。

 ブルーノ()ではない。彼は仕事に出かけている。

 そして何となく、この無遠慮な開け方からして誰が入ってきたか察しはついていた。


「バルネオ、またルイーザと一緒にいるな」 


 俺はそれに応じることなく読書を続けた。


 俺が今読んでいるのは、この世界の種族について書かれた本である。種族の分類であれば歴史は関係ないから、誤ったことは書かれていないだろう。魔神の忠告を素直に聞くのは癪であるが。


 この世界には多数の種族がいる。

 大きく分けると、ここ中央神聖都市パルスニア、別名天界で暮らすことを許された「精霊人(イリス)」と「妖精族(エルフ)」。この国の外で暮らす最も多い種族「人族(レリクタ)」、東方大森林オルトトで暮らす「獣人族(ベスティア)」、そして地獄(インフェルノ)に封じられた「魔族(ディアボロス)」である。

 ディアボロスは悪魔とも呼ばれ、人間には勘定しないと書かれているが、これは歴史が絡んでくるから嘘かもしれない。

 ベスティアもディアボロスほどではないけど、その歴史が原因で相当毛嫌いされている。


 まぁ、今はその歴史は置いておくとして、まずは俺の種族であるイリスについてだ。

 イリスだけでも六種類もいる。

 火の精霊「イグニス」、水の精霊「オケアヌス」、電気の精霊「ケラウノス」、土の精霊「ガイア」、緑の精霊「ウィリディス」、空の精霊「ウェントス」。

 イリスには他種族にはない特徴があって、一つは分霊が出せるということである

 分霊とは俺が目覚めてすぐに見た、赤い鳥のガラス細工みたいな奴だ。あれは母アメリアの分霊で、分霊が何かと訊かれると……よくわからん。だって俺出せないんだもん。魔神のせいで。

 大人に訊いてみても、分け身だとか分身だとか、似たようなことを言われてそれ以上説明してもらえない。というより、何と説明すればいいか自分たちでもわからないみたいだ。

 なんだかはよくわからんが、何が出来るのかは知っている。

 分霊は自分の意思で自在に動かすことができ、さらに魔法を使うことができるのである。

 分霊無しでも魔法は使えるが、分霊を使えばさらに強力な魔法が使えるらしい。

 ちなみに分霊が壊されても本人が死ぬことはない。本人が死んだら分霊はやがて消えてなくなるらしいが。


 分霊が出せるようになると、各種族の特徴も出てくる。瞳の色が変化するのだ。イグニスなら赤に、オケアヌスなら深い青に、というように。

 俺たちはイグニスである。すでにルイーザの瞳は真紅で、分霊も出せた。

 通常は四歳から五歳の間に変化するらしいのだが、彼女は特別だ。

 分霊も通常はガラス細工みたいな動物とか虫とからしいのだが、彼女の分霊はリアルな蛇である。毒々しいほどの真っ赤な蛇で、大きさも変幻自在だそうだ。


「お前はすぐにいなくなるんだ。ルイーザと仲良くするな!」


 身体的な特徴と言えば、目の色が変化したり、強力な魔法が使えたり、あとは長寿だったりするくらいだが、他にも精霊人の間には摩訶不思議なしきたりがある。


 精霊人は同じ種族同士でないと一緒に暮らすことができない。

 例外はあるがたとえば、イグニスであればイグニス同士じゃないと結婚できないし、生まれてきた子がイグニスでないのなら養子に出さないといけない。

 そして生まれてきた子が自分と同じ種族なら、もう子どもが産めなくなる。

 アメリア母様は俺たちを含めて四人子どもを既に産んでいるが、今家にいる四人のうち、実の子どもは俺とルイーザだけだ。俺たちより先に産まれた二人は、すでに今いる姉と兄と交換(チェンジリング)されてしまっている。

 ルイーザがイグニスの時点で、俺がイグニスである可能性はない。だから俺が兄であり、五歳になれば俺もチェンジリングされるらしい。


「おい、聞いているのか!?」


 さっきからギャーギャー騒いでいるのも俺たちの兄弟で、三歳年上の兄、クルトである。

 イグニスだから目が赤いのだが、それ以外の特徴はアメリア母様にも、ブルーノ父様にも、もちろん俺たちにも似ていない。

 俺たちはアメリア似だ。

 ブロンドヘアーにぱっちりとした目、あと、俺はブルーノの高い鼻も少し受け継いでいる。

 前の体が嫌だったわけじゃないし、多分前世ほど背は伸びないだろうなとは思うが、これはこれで有りだと思う。

 ルイーザも、白ギャルが本当に白人になったので、気に入っていることだろう。


 俺がクルトのことを無視していると、彼はずんずんと俺たちが座って本を読んでいるソファーに近づいてきた。

 なんだろう、実力行使にでも出るつもりだろうか。

 彼の肩に赤いガラス細工のカメレオンが止まっている。無論、アレはガラス細工ではなく、彼の分霊である。何だろう、アレで俺を攻撃するつもりか?

 確かに俺には魔法が使えないし、体格も彼の方が遥かに大きい。

 だけど伊達に魔神にしごかれているわけではない。負けるつもりなんて一切ないぞ?


 だが俺の出る幕はなかった。

 ルイーザは本を読んだままなのだが、彼女の発した魔力が直ちに分霊の赤い毒々しい蛇となり、クルトのことを威嚇し始めたのである。


「クルトにいさま、わたしはネオおにいさまとほんをよんでいます」


「う、うん。でもバルネオは……」


 その瞬間だった。

 赤い蛇がルイーザの体を離れ、クルトの肩に乗っているカメレオンを噛み砕いたのだ。

 普通蛇といえば丸のみだが、ルイーザの分霊には関係ないらしい。

 その赤い蛇はそのままはクルトの体に巻きつき、クルトの眼前にぱっくりと口を開けていた。


「ひ、ひぃ……!」


 やり過ぎじゃね……? 相手は六歳の子供だよ?


「どくしょのじゃまをするなら、でていってください」


 赤い蛇がするするとクルトの体を離れて行き、ルイーザの体に巻きつく。

 クルトは泣き叫びながら走って行ってしまった。


「何アイツ、ないわー。マジないわー」


 ルイーザさんや、本性が漏れてまっせ。


 クルトが扉を出て行った後、すぐに、また足音がこちらに向かって迫ってきた。

 今度はドアがちゃんとノックされ、「入るね」という声の後ドアが開けられる。

 現れたのは、白金(プラチナブロンド)の髪を持った華奢な美少女だ。

 彼女の名前はフローラで、俺たちの一番上の兄弟だ。九個上だから、十一歳くらいだろう。たれ目気味で、温和な印象を持つ彼女であるが、今はその目をちょっと困ったようにして俺たちに向けている。


「えっと、ルイーザ。クルトに何をしたの?」


 どうやら兄弟喧嘩の調停に来たらしい。

 まぁ、喧嘩というよりはクルトが一方的にボコられただけであるが。


「フローラ姉様、どうかルイーザを叱らないで上げてください。ルイーザは僕を守るためにやり過ぎてしまったんです」


 美少女に向かって、頑張ってキリッとした顔を作って言うと、なぜかルイーザが俺を睨んで口を膨らませてきた。

 そんな顔をされたって、可愛いとしか思わないんだけど。

 でも中身は女子高生の白ギャルだ。

 いや、むしろ白ギャルが必死に二歳児の演技をしていると思うと、余計に可愛くないか?

 あ、ダメだ。自分で思ったことだけど、凄く変態っぽい。

 今のは忘れよう。


 俺はルイーザの膨らませたほっぺを、両手で挟んでむにっと潰した。


「おにいひゃま、やめへ。いがいといひゃい」


「ほら、ルイーザも反省しなさい。俺を守ってくれるのは嬉しいけど、何もされてないのにあんなことしちゃ可哀想でしょ?」


「むぅ、ごめんなさーい」


 ルイーザは言いながらそっぽを向いてしまった。

 それ、謝る人の態度違う……。

 しかしフローラは特に気にした様子もなく、微笑んでいる。ん? どちらかというと苦笑いか?


「別に私は良いのよ。私が何かされたわけじゃないし。で、結局何したの?」


「へびでアイツ、クルトにいたまのトカゲをかみくだいてから、がぶりってかみつくふりしたー」


「うーん、実際にクルトが怪我するようなことしてないし、それならいいかな?」


 フローラは「邪魔しちゃったね」と言うと、部屋を出て行った。


 それにしてもルイーザは時々本性を現してしまう時がある。困ったものだ。

 だがそれはいずれも俺に関わる時だった。

 俺がクルトに馬鹿にされたり、何かされそうになったりすると、幼児の設定を忘れてしまうのだ。

 愛されているな、とは思うし、嬉しいのだが、俺たちはいつまでも一緒にいられない。

 五歳になったら俺は養子に出されるし、七歳から通う学校で一緒になれたとしても、卒業してしまったら結局また離ればなれだ。

 精霊人の中には、天界の外で暮らす者もいる。確かにそうすれば種族関係なく一緒に過ごすこともできるが、ルイーザはそういうわけにはいかない。

 ルイーザはただのイグニスではない。

 彼女はイグニスの上位種、エル・イグニスだ。

 生まれながらに王となることを定められていた。


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