00.プロローグ
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俺は死んだ。そして気付けば宇宙にいた。
俺が死んだのは学校で、今も制服姿のまま宇宙にいる。
あんまりにも唐突で、何を言っているのかわからないと思う。でも仕方ない。俺にだって何がどうなっているかわからないんだから。
だけど今のこの状況からはそう説明せざるを得ない。
辺り一面は闇で、無数のきらめきが瞬いている。それで俺の最後の記憶は、寒くて体の感覚が無くなっていって、意識も薄れていくところだ。
いや、そもそもここは宇宙なんだろうか。意外とここが死後の世界ってやつなのかもしれない。
そう思えば死後の世界ってのも悪くないもんだ。浮いてんのか立ってんのかもよくわかんないけど、少なくとも景色だけは最高である。
でも別にこんなところに来たかったわけでもない。
俺が死んでしまったのは、いや、この表現は正しくないな。
俺が自分の手で自分の下らない人生を終わらせたのは、別に壮大な景色が見たかったわけじゃないんだ。
死ねば何もかもが終わると思っていた。
神様なんて信じちゃいないし、天国だとか地獄だとか、魂だって信じてない。
イギリスの有名な物理学者も言っていた。人間の死は「壊れたコンピューター」と同じだって。
俺にとって“死”っていうのは、眠ることと大した差がない事なんだ。起きるか、もう二度と起きないかの違いだけで。
だけどそんなに簡単に終わらせてはくれないみたいだ。
理由はわかっている。
多分ここはちゃんとした死後の世界じゃない。俺は誰かにここに連れてこられたんだ。
誰っていうのは、ほら、アレだ。今目の前にいる、正気を疑うような恰好をした女にだ。
マイクロビキニの上にスケスケの前垂れを腰に巻いた褐色の肌の妖艶な美女。きっと『アラビア 踊り子』で検索したら、同じような格好のもうちょっとだけ露出の低い女性の画像が出てくるだろう。
間違いなく俺はこいつに連れてこられた。
俺はこいつと会っている。俺が死んだ前日に。
今思えば初めて会った時からおかしかったんだ。だってこいつは今の格好そのままで町中を堂々と歩いていた。こんな歩く公然猥褻罪みたいなのがいたら、即通報案件のはずなのに、警察が駆け付けるということもなければ、俺以外誰も気に留めていないようだった。
いや、待てよ。
あの時と今で彼女の格好に相違もある。
まず耳だ。
今は彼女の耳が見えている。あの時はよく覚えてないけど、耳はなかったはずだ。少なくとも猫耳は。
それにあのふさふさの尻尾も生えていなかった。
確かにあの時の俺の精神状態は普通とは言えなかったかもしれないけど、それでもあんなものがあれば気付いたはずだ。
そうか、俺はこの人外の猫女に謀られたんだ。
わかってみれば、確かに悔しいっていう気持ちもあるけど、そりゃそうだよなっていう気持ちの方が強い。
俺はこんな女の力に縋って、五人も殺し、自分も殺したんだから。
彼女は俺を、ニタニタと厭な笑みを浮かべて見つめている。
「やぁ、君ってばまんまと騙されたニャア」
ああ、やっぱりそうだった。