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06 無限魔力の聖女。



 ゲレンヘラの山にて。


 ユーラシアンのパーティ『勇敢なる(つるぎ)』はゴールドランクの依頼を遂行しようと、また山を登っていた。


 ポーションはありったけ持ってきて、十分に警戒して進んでいたのだ。

 依頼の火山鰐さえ見付ければ、倒して革を採取し、ギルドに提出すれば達成だ。


 一体の飛竜に襲われたが、速やかに退治。


 そして、火山鰐の生殖地であるマグマ溜まりに到着し、戦闘に入った。

 火山鰐は、攻撃を受ければ、マグマに入って隠れてしまう。

 その退路を断つために、魔法で岩の巨大な壁を作り出したナナコ。

 いつもなら感じない疲労を感じた。魔力の消費だ。


 ――いつもなら、これくらいで魔力の消費は感じないのに!


 ナナコは戸惑いつつも、パーティとともに戦闘を続けた。


「ユーラシアン! 首を落とせ!!」

「わかってる!!」


 盾役のオイスカーの後ろから飛び出して、剣を振り下ろしたユーラシアン。

 しかし、その剣は火山鰐の首に食い込んだだけで、切り落とせなかった。

 暴れた火山鰐の尻尾にぶち当たり、ユーラシアンが吹っ飛ばれる。

 硬い地面に転がったユーラシアンは、すぐにポーションを飲んで傷を回復した。

 激しく振られて尻尾で岩の壁にひびが入り、そして体当たりで破壊。


「ナナコ! もう一度、岩の壁を!!」

「う、うん!!」


 逃げてしまう前に、魔法で作る岩の壁を要求。

 ナナコは杖を翳して、また岩の巨大な壁を作り出す。

 力が抜けて、ナナコは膝をつく。

 ミーナが飛びかかり、ユーラシアンがつけた傷にナイフを突き立てようと飛びかかった。

 しかし、尻尾が叩き付けられる。岩の壁を飛び越えて、マグマの方へと落下した。


「「ミーナ!!」」

「っ!!」


 とっさにナナコは魔法の風で、ミーナの身体を飛ばす。

 ミーナは危機を逃れ、マグマの向こう岸に落ちた。

 よろよろしつつも、ミーナはダメージを癒すためにポーションを飲み干す。


「よくやったナナコ! !? ナナコ!?」


 ユーラシアンは、ぐったりとするナナコを呼ぶ。


「どうした!?」

「魔力がっ……もうないっ」

「はぁ!?」


 ナナコが消耗している理由を聞き、ユーラシアンは声を上げる。


「魔法使いのお前がっこんなに早く魔力切れするわけないだろ!! だいたい魔力切れを起こしたことなんてっ!!」


 ユーラシアンは言いかけたが、魔力切れを起こしたことがない。

 先日クビにしたリヴィアをパーティに入れてから――――。


 ――またか。またなのか。

 またリヴィアがいないことが、原因なのか!?


 岩の壁が破壊された音に、ハッと我に返るユーラシアン。

 火山鰐は、マグマの中に潜り込んでしまった。

 魔法使いが魔力切れでは、戦闘もままならない。


「撤退だ!!」


 またもや、撤退を強いられる。

 ミーナと合流して、魔物と遭わないように細心の注意を払って、下山したのだった。



 ◆◇◆



 今日『白銀の刃』のパーティが引き受けた討伐依頼は、迅猛竜(じんもうりゅう)の討伐だ。


 迅猛竜は、竜という名ではあるけれど空を飛ばない。しかし、二本足で素早く駆け巡る獰猛な捕食者の魔物である。凶悪な顎に囚われれば、食いちぎられること間違いなし。気を付けるのは、噛み付き攻撃だけではなく、鋭利な爪から放たれる風魔法もだ。そして、迅猛竜は群れで行動する。


 だから、パーティで対処することが必須だ。


 そんな迅猛竜の討伐なのだから、私も参戦した方がいいと思う。

 そわそわしてしまった私を、エネルフォレに宥められた。


 迅猛竜の群れ討伐なのに、私は回復役だけに集中しろと言われてしまったのだ。

 せっかくパーティで来ているのに、回復役だけを務める。

 シルバーランクの冒険者であるアルティさん達なら、十分対応は出来るとは思うけれども……。


「大丈夫ですよ、リディア様。我々にお任せを!」


 アイシュさんも、胸を叩いて見せた。


「リディアが回復してくれるなら、いくらでも戦える気がするぜ!」


 バンさんも前向きだ。


「うん! 昨日だけでもよくわかったからね! いけるよ!」


 キリナさんも明るく言い退けた。


「リディア。回復役、よろしく頼む」

「わかりました……。回復役に努めます!」


 アルティさんが改めて頼んでくれるので、私も気合いを入れ直す。


「リディは回復だけだぞ? 絶対だぞ?」

「わかったよぉ……」


 念を押すエネルフォレに、ちょっと情けない声を出してしまう。

 迅猛竜と戦う前に、アイシュさんがアルティさんとキリナさんとバンさんに身体能力向上の補助魔法をかける。そして、各々で風魔法攻撃の対処のため、魔法障壁でガードを準備した。


 私もお手伝いしたい……そわそわ。


 そんな私の頭を撫でるエネルフォレ。



 迅猛竜がいるのは、東に行った山の麓だ。


 近付いただけで、迅猛竜は獲物を察知するから、気付かれただろう。二本足で、こちらに向かってくる。

 竜という名がつくから、鱗のような肌をしていた。赤という毒々しい鮮やかな色の模様だ。

 前足も後ろ足も、大きく鋭利な爪がある。凶悪な顎に、鋭い眼差し。地上を走る竜とも呼ばれている屈強な脚で、駆けつけてきた。


 『白銀の刃』のパーティが、戦闘を開始する。


 放たれる風魔法を、魔法障壁で防いでいく。そして、遠距距離でアイシュさんが足留めをし、接近戦でバンさん、キリナさん、アルティさんが一体ずつ仕留めていった。


 魔法障壁は何度か壊されてしまっていたが、傷は瞬時に私が治癒魔法で治す。それから、各々で魔法障壁を張り直して、戦闘を続けるのだ。


 それが繰り返されると、バンさんとキリナさんが顔色を悪くし始めた。

 傷が癒えていないのかと、焦ってしまったけれど、どうやら違うようだ。


「魔力が足りなくなる! 急いで倒しちまおうぜ!!」


 バンさんが声を上げるように、バンさんとキリナさんの残りの魔力量が僅かになってきたのだろう。


「焦るな! 油断に繋がるぞ!」


 アルティさんが叱咤する。


「私が魔力を回復させます!!」

「「「「!!?」」」」


 ならば、と私は声を張り上げた。


 途端にギョッとした顔を向けられてしまうが、魔力回復をさせてもらおう。

 祈るポーズをして、バンさんとキリナさんだけではなく、アルティさんとアイシュさんの魔力も満タンに回復させた。



 ◆◇◆



 『白銀の刃』パーティの戦闘を腕組みして傍観していたエネルフォレだったが、リヴィアが魔力回復をしたことに一同が驚いたところで、鼻を高くしてドヤリと口角を上げた。


 エネルフォレは、精霊樹の化身である。

 世界全ての魔力の根源である精霊樹。

 精霊樹の森の管理者。

 彼なしでは、魔力の回復も困難になると言い伝えがある存在。


 そんなエネルフォレと魔法契約を交わしているリヴィアにとって、魔力回復という術は容易かった。


 通常、魔力回復は自然治癒と同じく自然に回復することを待つしかない。


 しかし、エネルフォレと魔法契約をしているリヴィアがいる限り、魔力は回復が出来るのだ。それも、無限に。

 エネルフォレも、これには後方彼氏面をしている。


 アイシュエンゼは、その事実に驚愕してしまうが、他にも心底驚いたことがあった。


 ――やはり、リヴィア様の魔力は透明!

 ――感じ取れないほど澄んでいる!


 リヴィアの魔力は、透明の水のよう。


 ――だから魔力回復を受けているとは気付けなかった!

 ――けれども、魔力は確かに回復している!


 アイシュエンゼは、まだ十分魔力が残っていた。僅かだったバンとキリナならば、魔力が増えたことは実感が出来ただろう。力がいきなり漲ったようなものだ。

 アイシュエンゼもまた、翌朝に目覚めた時のように魔力が満ち足りた感覚があった。

 リヴィアの透明な魔力で魔力回復を受けても、気付きにくい。


 ――『勇敢な(つるぎ)』も、魔力回復を受けても気付かないわね!


 なんて素晴らしいのかと称賛の眼差しを注ぎたいが、アイシュエンゼは戦闘に集中した。


「畳みかけるぞ!!」


 アルティフィアが、指示を飛ばす。

 そうして迅猛竜の残りを仕留めていった。全部を倒し終えて、戦闘は終わった。


「リヴィア様! すごいですわ! 治癒魔法もやはりそうですが、魔力回復もすごいです!」

「え? そうですか。それなら、エネルのおかげです。精霊樹の化身エネルフォレと魔法契約を結んでいる恩恵です」

「サラリと言いますが、先ずその魔法契約が常人には出来ませんから! 奇跡的に魔法契約出来ても、魔力回復なんて出来るかもどうか……!」


 戦闘ではなく、興奮で顔が紅潮しているアイシュエンゼは、リヴィアに駆け寄る。


「皆さん、怪我は残っていないですか? 疲れは?」

「あ、そう言えば疲れもないや!」

「戦う前より元気かも!」


 リヴィアの問いに、バンもキリナも驚きの声を上げた。


「確かにそうかもしれない……」


 しみじみとアルティフィアは、自分の手を見つめる。


「ありがとう、助かった。リヴィア」


 顔を上げて、リヴィアに感謝を伝えた。


「力がぶわーって漲った! 魔力回復も治癒魔法も助かった! ありがとう、リヴィア!」

「うんうん! ありがとう!」

「ありがとうございます。リヴィア様」

「いえ、お役に立ててよかったです!」


 満面の笑みで頷くリヴィアを見てから、アルティフィアは緊張した面持ちになって、エネルフォレに目をやる。それを見て、アイシュエンゼも息を吞んだ。


 この討伐依頼の戦闘では、エネルフォレが『白銀の刃』の実力を見定めていた。

 結果は、どうなのか。『白銀の刃』のリーダーであるアルティフィアはもちろん、全員が全力で戦った。


 エネルフォレのお眼鏡にかなったのか否か。


 エネルフォレは少し若葉色の瞳を細めて、黙って見据えていた。





 

※※※※※※※※※※※※

あとがき


四年ぶりに更新いたしました!

去年感想をくださった方々に背中を押してもらえたおかげです!

ありがとうございます。

プロットを立てずに思いつくがままに書いて投稿したので、ノンプロットなんですけれど、なんとか四年ぶりに書けましたね。書かせてくださり、ありがとうございます!

またゆっくりと一からプロットを立てて、続きを書きたいですね。

リヴィアの魔法契約相手との再会も、両親との再会もありますからね。



こちらは、宣伝。

四月頃に『執筆配信』をするVtuber準備をしています。

最初は、お題をもらってそれで短編を書く生配信をするかと。

ネタバレオッケーなら、この規格外聖女ちゃんの続きも配信中に書いたりしたらいいかなぁと思います。

リスナーさんとお喋りしながら、書き上げては、なろうに投稿したいですね。

そんな『執筆配信』が出来たらいいなぁ、と。

よかったら、チャンネル登録よろしくお願いいたします!

https://youtube.com/@mitukibenineko?si=5JmNQnEATWUfaEbo

2025/03/27

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『執筆配信』するVtuber準備中★よかったら登録ちゃんねるお願いします!174c7cbef547f76a899efa28dd6c0c32.png
― 新着の感想 ―
早めにフェンリル君も迎えに行ってあげて欲しいです
待ってましたー このまま更新されないのかなぁと寂しく思ってました 透明な魔力…ピュアなリヴィアちゃんの天然な魔力…あれ?天然なリヴィアちゃんのピュアな魔力…… ディズ○ープリンセス的なほわほわしてあっ…
更新ありがとうございます 。゜( ゜இωஇ゜)゜。 もう本当にこのお話ラブです!! 純粋培養の天然っぷり いつか私もゲンコツで 「めっ」されてみたいものです(/// ^///) 可愛いは正義 慌てずマ…
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