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05 精霊と透明魔力の聖女。


 花咲きタバコ。

 キセルの中にある茶葉を詰め込み、火も点さずに吸って、煙を吐けば花びらのように舞う。

 茶葉は、何かの刺激で幻想の花煙を出す草。基本的に甘い。

 精霊が始めて、妖精が他種族に広めて、今では主流のタバコとなった。

 精霊樹の化身・精霊エネルフォレは、その花咲きタバコを吹かせて、暇を持て余していた。

 他の葉を混ぜることで、味も色も変わる。

 その日は、華やかな甘さと、真っ赤な花びらが溢れるような煙を吹いていた。


 よく覚えている。

 それは、運命の日。

 リヴィア・ヴァルキュールと出逢った日だからだ。


 薔薇のように優雅な赤い花びらが、溢れるように舞う煙を眺めた。

 その煙が消えたあと、エネルフォレが目にしたのは幼い女の子だ。

 まるで花煙から現れたのではないかと、錯覚するほどに唐突に現れた。

 漆黒の長い髪が、花の形をとったルビーがついたカチューシャで、額をさらけ出していたせいかもしれない。

 髪とお揃いの漆黒の瞳は、爛々と輝いていた。

 エネルフォレを真っ直ぐに見つめたその幼い女の子にーーーー。

 エネルフォレは、一目惚れをしたのだ。


「ーーーーと、いうわけで我とリヴィは運命の出逢いを果たしたのだ」


 いきなり語り出したエネルフォレの話を、パーティ『白銀の刃』は聞いていた。

 正しくは、本能的に傅いたアルティフィアとアイシュエンゼに従って、バンとキリナも座り込んで耳を傾けたのだ。

 話を聞いて知る。本能は正しかった。

 エネルフォレは、精霊樹の化身。

 世界全ての魔力の根源である精霊樹。

 精霊樹の森の管理者。

 彼なしでは、魔力の回復も困難になると言い伝えがある存在。

 魔力を得て生まれた者は、精霊樹エネルフォレの祝福を受けたとされるのだ。

 神に等しい存在。

 低姿勢で話を聞くのは、至極当然のことだ。

 エネルフォレも気を良くして、そうリヴィアとの出逢いを話したのだ。


「さて、次はそなた達の番だ。我が愛しいリヴィアとの出逢いを聞かせてくれるか?」


 エネルフォレは微笑んでいるが、返答次第では魔力を奪われるかもしれない。

 言葉を選ぶべきだと、ひしひしと感じるアルティフィアとアイシュエンゼは息を呑んだ。


「……昨日のことです。オレが、いえ私が、ギルドマスターと話しているリヴィア様を見かけたので、パーティの回復役として臨時で入らないかと話しかけたのです」

「おかしな話だ。リヴィは『勇敢なる剣』のパーティメンバーのはずだろう?」

「は、はい……」


 エネルフォレの膝に座らされているリヴィアは、明後日の方向に目をやっていた。

 そのパーティをクビになったとは、言えなかったことは明白。

 話してもいいものなのか。

 かと言って、嘘は言えない。


「実は……」

「そのパーティはクビにされましたっ!!」


 アルティフィアが言う前に、リヴィアが、わっと打ち明けた。


「なんだと?」

「役立たずだとクビにされました! 私のせいなんです! 期待を裏切ってしまったのです! ううっ!」


 リヴィアは、恥ずかしさで顔を覆う。


「言えなかった……自立したいって言って離れてもらったのに、パーティをクビにされたなんて……エネル達にも、お母様とお父様に会わせる顔がないわ!」

「よしよし、リヴィア。愛しい愛しいリヴィよ」


 頭を撫でてあやすエネルフォレは、意外にも冷静に見えた。


「そんなことを言うでない。会えないとつらい」


 優しく見つめているエネルフォレ。

 溺愛。その言葉がぴったりだろう。

 愛しいリヴィ。そう連呼する様子からして、リヴィアを大事に想っていることは明らか。

 そんなリヴィアを役立たずだとクビにしたパーティに、激怒しなくてよかった。

 この精霊樹の化身が激怒したら、手に負えない。

 アルティフィアは、内心でホッとした。


「ところでそのパーティはどこにいるのだ? 抹消……いや、今まで世話になった礼を言いに行きたい」


 にっこりと笑みを貼り付けて、エネルフォレは尋ねる。


 ーー激怒してた!!


 リヴィアに悟られないために、表に出していなかっただけだ。


「ううん……そんなことしなくていいよ……」


 エネルフォレの怒りに全然気付いていないリヴィアは、首を左右に振る。


「発言失礼します、精霊樹様。リヴィア様の言う通り、お礼を言わなくても大丈夫かと。すでにリヴィア様の不在で不調を感じて混乱までしておりました。そのうち自滅……いえ、リヴィア様の存在にありがたさを実感してくれるでしょう。お手を汚して抹消、いえお礼を言うなんて、とてももったいないです」


 アイシュエンゼは、物騒な言葉を混ぜつつ、笑顔で言い切った。


「ふむ……しかしなぁ」


 それでは怒りが収まらないのか、エネルフォレは迷う素振りを見せる。


「それで、そなた達は新たなパーティメンバーで間違いないか?」

「いえ、正しくは臨時のパーティメンバーです。冒険者ギルドの責任者ギルドマスターが、私達に預けると決めたので、預かることになりました。リヴィア様のお力を利用する輩から守るために一時的の処置です」

「ふむ、なるほど臨時の仲間か」


 吟味するような視線でエネルフォレが、アルティフィア達を見た。


「とても優しい方々です」


 リヴィアはそう微笑んで言うが、半信半疑な目を向け続けるエネルフォレ。

 リヴィアが、誰かを悪く言うことはないのだ。


「今日は仕事に行くのか?」

「はい」

「そうか。では同行させてもらう。構わないな?」

「っ、もちろんです」


 気を取り直して笑いかけるエネルフォレに、逆らえるわけもなくアルティフィアは頷く。


「冒険者パーティー『白銀の刃』のリーダーを務めるアルティフィアと申します」

「アイシュエンゼと申します。お会い出来て、誠に光栄です」

「えっと、オレっちはバン!」

「アタシは、キリナです」


 名乗りを聞いて、エネルフォレは首を傾げた。


「家名は持っていないのか?」

「……それは」


 躊躇を見せるのはアルティフィア。


「わたし達は」

「孤児なんだ!」


 アイシュエンゼより先に、バンが答えた。


「全員がか?」

「えっと、それは……」


 バンは、言葉に詰まる。


「オレだけは違います」


 バンが視線を向けたアルティフィアはそう答えた。


「理由があって、家名は……使わないことにしているのです」

「ふむ……」


 それを聞くなり、エネルフォレはアルティフィアに向かって手を翳す。

 緊張が走った。

 何かされる。機嫌を損ねたのだろうか。


「ほーう……面白い」


 にやりと、エネルフォレが笑みを吊り上げる。


「エネル。理由があって伏せているのに、勝手に調べちゃいけません。めっ!」


 黙って見守っていたリヴィアが、自分を乗せたエネルフォレを振り返って叱りつけた。

 その叱り方、見たことがある。

 フェンリル相手にもしていた。


「すまぬ。しかし俄然、新しいパーティに興味を持った。さぁ、行こう」


 しゅんとした顔を見せたのは一瞬。

 エネルフォレは、リヴィアとともに立ち上がった。


「では改めまして、私と魔法主従契約を結んでいる精霊樹エネルフォレです」

「ちなみに、我の方が従者だ。我とリヴィは、愛で結ばれている! 割り込めると思うなよ!」

「そういうのいいから」


 やっぱり、とんでもない方と魔法主従契約を結んでいた、とアイシュエンゼは思う。


 ーー他の魔法契約者も、こんな風に溺愛してるのかしら。


 気持ちはわかる。

 リヴィアは、特別な少女だ。

 アイシュエンゼは、尊敬の眼差しをリヴィアに注ぐ。




 ◆◇◆



「ごめんなさい、アルティさん」

「何がだ?」


 冒険者ギルド会館で、仕事をもらったあと、すぐに出発。 

 目的地に行くまでの道で、私はアルティさんに謝る。


「エネルフォレが、勝手にあなたを調べたことです……理由があるって言ったのに」

「……どうやって、何を、調べたんだ?」

「魔力です。例えば、私の魔力をエネルフォレが調べれば、大聖女であるお母様と大魔法使いのお父様の魔力を受け継いでいるとわかります。私はお母様とよく似た魔力だそうです。エネルフォレは、魔力の源の精霊樹。暇潰しと言ってましたが、過去の偉人や英雄の魔力を把握しているんですよ。あと……色んな種族の王族の魔力も把握しています」

「そう、か……」


 私の話になんとか相槌を打つアルティさんの横顔は、苦しそうに歪んだ。

 知られたくないのだろう。

 ダークエルフの王族は、滅んだ。そう聞いている。

 多分、アルティさんは……。


「……本当に、ごめんなさい」

「……謝らなくていい」


 スッと先を進むアルティさんを、私は追うことなく、後ろで話し込んでいるエネルフォレとアイシュさんと並んだ。


「リヴィア様! あの愚か者達が、補助魔法をかけてもらっていたことに気付かなかったわけがわかりました!!」

「愚か者?」

「『勇敢なる(つるぎ)』のことです」


 キリッとした目付きで、アイシュさんは言う。


「リヴィア様は、あの大聖女様の魔力を強く受け継いでいて、その魔力は透明な水のように清らか。目に見えないも当然だったのですね!」


 そう言えば、昔にエネルフォレにそんなことを言われた気がする。

 澄んだ水のように清らかな魔力だ、と。

 お母様によく似ているということだから、とっても嬉しかった記憶がある。


「リヴィの魔力なら、気付かれずに治癒魔法や補助魔法をかけられるだろう。しかし、毎回毎回一緒に戦って気付かぬなんて、とんだ愚か者達だな」


 はぁーと重たいため息を吐くエネルフォレ。


「そんな者達に愛しいリヴィを預けていたなんて! 不覚だ!! 許しておくれ!! リヴィ!!」


 次の瞬間には、がばっと羽交い絞めにされた。


「二度と同じ過ちは犯さん! このパーティを見定めてやる!」

「エネル! 本当に『白銀の刃』の皆さんはいい人達だから!」

「アルティよ、先ずはリヴィの補助魔法なしで戦え!」

「エネルってば!」


 勝手に決めるエネルフォレに、アルティさんは平然と言葉を返す。


「はい。今回の魔物なら、補助魔法は必要ないでしょう」

「わ、私の役目は……」

「回復をしてくれればいい」


 必要ない、と聞きショックを受ける私に向かって、アルティさんは苦そうな笑みを向けた。



 

仕事の〆切ぐやばいため、しばらく更新お休みします。。・゜・(*/□\*)・゜・。

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[一言] 面白い!! 連載とっても楽しみにしてます!!
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