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ジャンクと麻薬

○ ジャンクと麻薬


 私は、ここしばらく家事に掃除、洗濯……さらには自分でご飯を用意するという重労働でへとへとになっていた。

 ここにきて、ようやく美空先輩の言っていたことを理解できた。確かにこれはがんばらないといけない。

 ……それと、ジャンクフードのありがたみも理解できる。あれは手軽でそして、おいしい。ここ三日間くらい、ハンバーガーしか食べていないような気がする。


「ふっ、やっぱり大変だろう。一人暮らしというものは」

「ええ。なんとかなるだろうとは思ってましたけど、ここまで大変だとは……」


 そして今日も、美空先輩と昼食を食べている。

 ここ数日の接触の影響なのか……最近、白崎くんや峰崎さんが関わってくることが目に見えて減っていった気がする。

 さすがに『そこにいたから殴られたりする』っていうポジションは変わっていないけど……こう、陰湿な虐めをしようって雰囲気はなくなっていった。……美空先輩は自覚はないんだろうけど。

 だからこそ、物凄く感謝している。

 自覚がないからこそ、見返りを求めていないという意思を感じられて……僕になにも求めてこないと安心できる。


「けど、きちんと食べているのか? 最近顔色が悪いが……」

「あー、まあ……」

「……まさかとは思うが、カップ麺とかジャンクフードで済ませているのではないだろうな?」

「……」


 まさにその通りすぎて、なにも返す言葉がなかった。というよりも一人暮らしの苦労が分かるということは、美空先輩も一人暮らしをしているのだろうか?

 美空先輩は呆れたと、ため息を吐いていた。


「はぁ……いいか。いまはよくとも、いずれ体を壊すし……おいしいかもしれないが、過ぎれば毒になるんだぞ」

「……そうですね。美空先輩の言う通りです……僕、今日から頑張って自炊しようと思います」

「うむ。ならば、私も手助けをしてやろう……今日、未央の家に行ってもいいか?」

「――へっ?」


 なんて言われてしまうものだから、……変な声をあげてしまうのだった。そして美空先輩の言っていたことを呑み込むまでに数十秒ほど時間を費やして……僕は驚いてしまうのだった。とても驚いて、思わず机をたたいて先輩に詰め寄ってしまうくらいには驚いてしまう。


「え、ええっと……え? それっていいんですか?」

「ああ。むしろ、なんでも頼ってくれと言ったのにまったくなにも言って来ない後輩にかっこいいところを見せるいい機会だ」

「う……でも、それは……恐れ多くて」

「そうか。ならば、いまからでも距離を詰めていこう。そうすれば遠慮なんてしないだろう……そうだな、試しに名前で呼んでみてはくれないか?」

「え、そのー……下の名前ですよね?」

「むしろそれ以外になにがあるというのだ? そもそも私はあまり名字で呼ばれることを好んでいないので、そちらのほうがしっくりくるのだが」


 なんて言われてしまえば、これから名字で呼びづらくなってしまうではないか。……ああ、でもほんとうに誰かを名前で呼ぶなんて久しぶりのことで……口が回りらない。

 すると、少しだけ残念そうに美空先輩は視線を落として、


「まあ無理に、とは言うまい。そのうちでも構わないさ」

「う~そう言われると、なんだかなあ……」


 人を殺したときにはまったく湧いてこなかった罪悪感が芽生えてしまって……なんとも言えない気持ちになってしまう。

 けれどそう思ったからといってすぐに名前呼びできるはずもなく――二人の間にしばしの沈黙が漂ってしまう。


「ま、その話はまた今度としよう。……それより、今日は家に行ってもいいのかな?」

「え、はい……何をするつもりなのかは知りませんけど」

「ははは。なに、すこし手本を見せてやろうと思ってな」

「……?」


 美空先輩はそういうと、楽しみにしているがいいといって……昼食を食べ進めていくのだった。

 ならば、僕はそういうことなら楽しみにしておこうと思いいくら食べても食べ飽きないハンバーガーを食べて……やっぱりおいしいなと思うのだった。


***


「さて、ここか」

『うむ。そこにやつはいないが――そのお仲間はおるはずじゃ』

「了解です」


 僕は学校帰りに……いつもとは違う、入り組んだ路地裏にきていた。

 汚いし、臭いしでほんとうならきたくはないけど……ここに目的があるのだから仕方ない。帰ったら《浄罪》できれいにすればいい。


 ちなみに今日の神の奇蹟(オラクル)は《保管》に《浄罪》……それに《治癒》だ。《滅心》はなくても問題ないので、外すことで余った二つのポイントを《治癒》に当てはめて安全性を増すことにした。

 今後はこのセットが基本になるだろう。


「ここを右に――っと」


 入り組んでいるとは言ったものの、経路はすでにネメシア様が割り出しているため迷うことはなく……無事に目的地までくることができた。



「へへっ、は、はやくソレをくれよぉ……」

「まあ待て。その前に金だ」

「も、もちろんだ。……ほら、十万円」

「ああ……よし、ちょうどだな。持ってていいぞ」

「へ、へへへへっ」


 そこに広がっているのは、二人の男の怪しい取引現場だった。片方はおそらくお金が入った茶封筒で、もう片方の男はきっと違法な薬物が詰まった小包を渡して……去っていく。

 僕は、彼の客が去っていくまで待ち伏せて……一人になったタイミングでネメシア様に人避けと防音の結界を張ってもらいます。


「ん? 何だ嬢ちゃん。嬢ちゃんもイケる口かい?」

「いえ、すこしお訊ねしたいことがあって」

「ちっ、なんだ客じゃないなら帰ってくれ」


 お金を落としていかないとわかると態度を急変。……わかりやすすぎですね。

 僕は《保管》から、家にしまわれっぱなしになっていたサバイバルナイフを腿あたりに突き刺すと……男は悶えて、うずくまります。

 ……おそらく父の趣味であるキャンプ道具の一品だと思われますが……長年使っている形跡がなかったので僕が使ってもいだろうと判断し持ち去ったものです。


「ぎ、ぎやああああ!?」

「さて、……改めて言いますが、お訊ねしたいことがあります」

「な、なんだお前……どこからナイフを――ッッ!?」

「質問以外に口を開くことは許しません。……次は目をほじくりますよ?」

「ひっ」


 今度は腕に突き刺して、目玉のほうへとナイフの切っ先を突き付ける。

 すると、男はこくこくと頷いて……僕は質問をしていく。


「――次山という名前に心当たりは?」

「えっと、俺と同じ麻薬売買をしてて……た、たしか高校生だったような?」

「じゃあ、どこで麻薬を売っているかわかりますか?」

「し、知らね――~~?! こ、高校から離れたところ……それも深夜だと思う!!」

「……これで、十分ですか?」

『うむ。それだけの情報があれば絞り込めるじゃろ』

「では――最期に、あなたはこんなことをして罪悪感はありましたか?」


 男は僕の質問に、少し間を空けて……こう答えました。


「そ、そりゃ……バカな奴らが落ちていく様が見もの――」

「さようなら」


 ナイフを男の頸動脈目掛けて、一突き……それだけで人は死ねます。……別に麻薬を売って人生を狂わせているから……なんて理由で殺したわけじゃありません。

 ただ――次殺す相手に加担していたから……それだけです。

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