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次の標的、海外旅行、昼食

○ 次の標的、海外旅行、昼食


「位階をあげたいです」

「……急にどうしたのじゃ?」

「いえ、純粋に神の奇蹟(オラクル)を増やしたくて」


 あと一人殺して、魂を捧げれば位階が3になる。

 なので、ここは一人に対象を絞って……備えておきたい。いまは行方不明で学校が騒がしくなっているが……もう、二週間は経つ。

 そろそろ行動を開始してもいい頃合いだろう。

 僕も我慢はできそうにない。


「うぅむ……そうじゃのう……学校におる奴以外で、復讐したい相手はおらんのか?」

「あーそうですね……いないことも、ないですけど」


 だが、居場所は知らないし……相手にするには動機が薄い。

 ちょっと、殴られたり裸に剥かれて外を歩かされたり……それを動画にされて、白崎くんたたちに晒されたくらい――


「なんじゃ。それで充分ではないか」

「……でしたね」


 ああ、結局されたことはそれだけだったから印象が薄かった。

 それでも、充分……万死に値するのではないだろうか。いいや、値するに決まっている。だって、あれだけ恥ずかしかった。辱められた。

 ……ふと、そんなことで簡単に人を殺してもいいのか? なんて、いまさらな疑問を抱いてしまったが……本当にいまさらというやつだ。

 もう、すでに二人も殺している。

 後戻りはもうできない。


「そうじゃ。妾のほうで探しておいてやろう。……お主と関わりがある奴ならば復讐神の力で探せるやもしれん」

「……お願いします」


 なんて頼りがいのある神様なんだろう。


「さて、そろそろ戻るがよい。妾はしばらく忙しくなるのでな」

「分かりました」





 僕は自室に戻ると、ちょうど夕食の時間だったのでリビングに降りると……母と父がなにやら話し合っていた。

 深刻そうな顔をしているのでなにかあったのかと、気になったので近づいていくと、僕の存在に気が付いて顔を上げてこちらに振り返る。


「あ、もしかして邪魔だった?」

「いや……そうだな、未央にも聞いてもらいたい」

「そうね。こちらにいらっしゃい」

「……?」


 と言われるので椅子に座ると父が、少し言いづらそうにしながら言葉を零していく。……その言葉に僕は、驚きと歓喜に満ち溢れてしまうのだった。


「実はな、父さんと母さん。出張でしばらく海外に行くことになったんだ」

「……っ!? そうなの?」

「ああ。……急なことですまないんだが、しばらくお前を家に一人にすることになってしまう」

「……い、いつごろ帰ってくるの?」

「そうだな……仕事によるが、早くても来年の夏ごろだな」


 つまり……ほぼ丸々一年一人で過ごすことになる……ということになる。それは、すごく、好都合ではないだろうか? 自宅を堂々と復讐のために使えるというのは。

 それに、今の両親は……少し、違和感というか……との態度の差が激しすぎて、接し方に戸惑っていたのだ。


「ということでな、未央には迷惑かけると思うが……」

「全っ然、大丈夫だよ」

「そ、そうか。……明日からはいないから、そのつもりでな。生活費は口座に送っておくから安心してくれ」

「うん分かった」


 というわけで、私はうきうきで部屋に戻って……静かに、疑似的な一人暮らしとなることに喜ぶのだった。

 ……まあ、家事炊事を自分でしなくちゃいけないという事実にすぐに打ちのめされることになることは目に見えていたので、この喜びは長続きしないだろう。


「……それより、次の標的をどうやって殺すか、だよねえ」


 ベッドに仰向けで倒れて、天上を見上げながら僕は復讐の計画を企てる。きっと、今度も楽しくて、甘いのだろう。

 とっておきのお菓子をついつまみ食いしてしまったように、背徳感と快感が押し寄せてくるのだろう。

 でも、それにかまけてばかりではいられない。

 僕が本当に復讐するべきなのは……


「白崎くんと、峰崎さん……この元凶である二人を、いつか……この手で」


 あぁ、殺したいほどに憎い。

 でも、彼らは厄介だ。僕がいくら力を付けて、なんでもできるようになったとしよう。……でもきっと彼らは、僕を見下して、僕はそれに屈してしまう。

 結局、力があっても精神で負けてしまえばそれまでなのだ。


「だから、僕は強くならなくちゃいけない」


 神の奇蹟(オラクル)という表面的なものばかりではなく、ほんとうに心を強くしたい。それもあって、誰かを殺してより高みへと昇りたかった。

 僕が復讐を重ねるたびに、きっと『復讐者』として洗練されていく。……復讐がうまくなるには、復讐するしかない。


「あぁ、待ち遠しいな」


 ネメシア様がやつを見つけてくれるまで、待機っていうのも味気ないし……ちょっとくらいつまみ食いしてもいいだろうか?

 いや、やめておこう。

 死体を回収する手間を増やすのも申し訳がない。

 だから、ここは抑えておこう。


***


 ――今日は、親がいない。


 きっと前の僕なら、歓喜して踊りはしゃいでいたことに違いない。ストレスからの解放というのはどんなことよりもうれしいのだ。

 そんな気分のせいなのか、ちょっと今日はいつもより激しめに虐められていたが……今の僕にその程度で心折れるほどやわにはなっていない。ああ、やっぱり復讐って素晴らしい。だってこんなにも、いいことづくしなんだ。



「……未央は今日何かいいことでもあったのか? なにやら、すごく浮かれている様子だが」

「んー? そうですかね」

「ああ。見るからに浮かれているぞ」


 今日も美空先輩との昼食。

 あれ以来、毎日教室まで足を運んで僕と昼食を食べようと誘ってくるのだ。……そこまでされて断れるわけもなく、僕はせめて食堂で集合しないかと提案して……まあ、この一緒に昼食を食べる関係は続いている。


「いやー、まあ……今日から両親が海外赴任でして。それで一人暮らしみたいだなって」

「ああ。……そういうことか。まあ、そうだな」

「はい?」

「……大変だとは思うが、がんばるんだぞ」

「? それは、もちろん」


 美空先輩の言っていることが分かるまで、後少し。

 僕はこの言葉をもう少し深く受け止めるべきだったと、のちに後悔するのだった。





 ――そうして、一週間。僕は親が僕たち子どもにとってどれだけ大きな影響を与えていたかを知って……ネメシア様が次の標的を見つけるのだった。


「おい未央! ついに見つけたぞ! 次山という名前の高校生が、路地裏で麻薬売買を……って、なんじゃ。顔色が悪いぞ」

「い、いえ……ここ数日、慣れないことが多過ぎて」

「む、まあよい。それよりここじゃ。ここに、その次山というやつはいる」

「そうですか。……ああ、これはかなり準備しないといけませんね」

「うむ。気張っていこう」


 僕は次の標的――次山くんの居場所と現状を聞いて、いったいどうやって復讐してやろうかと悩むのだった。

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