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美空真央という人

ネメシアの一人称を儂から妾に変更

○ 美空真央という人


 ――あれから一週間は経過しようとしている。

 あの二人は失踪扱いとなっており、事件性がどうたらこうたらでしばらくは短縮日課となって学校が早く終わるようになった。

 そのおかげで、絡まれることも少なく――むしろ、ピリピリとした空気で僕に構っている余裕はなくなっているように感じられる。


 そして、僕が疑われているということもない。

 というよりも、正直どうやって? という意見のほうが多いらしく、その内迷宮入りするだろうとネメシア様は言っていた。





「――ということでして、最近は不可解な事件も多いので、皆さん寄り道はせず真っすぐ帰るように」


 そんな担任のありがたい言葉によって、僕は絡まれるということもなくなり、一人の家に帰るとすぐにネメシア様の神殿に向かうようにしている。

 理由はもちろん……暇だからだ。


「なんじゃ、また来たのか。よし、今日はなにをする?」

「そうですね……トランプはどうです?」

「ほほう……いいじゃろう!!」


 ここは地上と時間の流れが違う。

 なので、たまに勉強したり復讐の計画を立てるのにすごく役に立つのだ。もちろん、色んな神の奇蹟(オラクル)の練習も怠ってはいない。

 ……まあ、《誘惑》や《幻覚》なんて相手がいなければ意味のないものは練習できないが。


「で、最近はどうじゃ?」

「そうですね……変わった事件が多いそうです」

「ほほう?」

「なんでも焼死体とか、やたらと爛れたドロドロ死体だったり……あと、地面がものすごくえぐれていたり、なんて感じで猟奇殺人とか怖いですね~」

「……お主がそれを言えるかのう……」


 なんて茶化してはくるが、ほんとうに不思議すぎて……気になってくる。

 いったいどういう方法を取ったら、そんな殺し方(・・・)ができるのだろう。

 《保管》に薬品の瓶でも入れればできるかもしれないけど……せいぜい、顔を溶かすことくらいしかできない。

 全身を溶かすほどの毒薬なんて、そもそも手に入れられる気がしない。


「ふむ……まあ、今のところ障害でないなら放っておけばよいじゃろ」

「それもそうですね。……あ、僕の勝ちです」

「ぬうう~~……もう一度じゃ!」

「はいはい」


***


「すまないが、ここに黒髪赤目の小柄な子はいるだろうか?」


 その人は突然やってきた。

 一目見ただけでわかる、綺麗な銀髪。炎のように揺らめいている蒼い瞳。少し変わった話方。……そのすべてが彼女という人物を物語っている。


 ――どうして、こうなったのだろう。


 ネメシア様との話し合いで、しばらくは派手に動かないほうがいいだろうという結論のもとでおとなしく過ごしていたはずだったのに……僕はなぜか、学校で知らない人はいないほどの有名人――美空真央先輩とお昼ご飯を食べている。


 ほんとうなら、目立ちたくないのに……こんな有名人と仲良くお昼を食べているなんて噂されれば……動きづらくなる。


(まさかそれを狙っている? いいや、それは彼女が僕を復讐者と知っているということになる。それはありえない……のか?)


 いずれにしろ、ここで下手を打つことはできない。


「――君は」

「はい? なんですか美空先輩」

「君は、虐められているそうだな」

「……世間一般でいう虐めの基準が分からないので、何とも言えませんが……僕から見たら、確かに虐められていますね」


 いきなりどうしたのだろう?

 まさか、僕に興味を示しているとか? ……そんなことないはずだ。だって、美空先輩と会ったのはついこの前の購買でのやり取りが初めてだ。


「あの怪我のことが気になったのでな、少し調べさてもらった」

「……そういうことですか」

「うむ、それでどうしても不可解なことがあるのだ」

「なんでしょう?」


 美空先輩はそうして、一息置いてこう告げる。



「……どうして、そうまでされてここに通う? 逃げ、という手段だってあるだろう?」



 …………


「それは、……言えません」

「そうか。少し踏み込み過ぎたな」


 確かに、そうだ。

 今の質問は、いきなりすぎるし……ちょっと考えれば家庭に事情とか、そういう想像ができる。

 でも、それでも美空先輩が訊ねてきた。

 ……不思議と、あまり不快ではなかった。

 裏表がないせいだろうか? それとも、この人にはそうさせる何かがあるのかもしれない。


「さて、せっかくの学食なんだ。楽しく食べようか」

「……そうですね」


 そういって、ハンバーガーを口に含むと、ケチャップと肉の味が口の中に広がって、それだけで幸せだった。

 ……甘いものはしばらくはごめんだ。

 だって、あれ以上の甘味なんて……知らないから。


「ああ、それと」

「ん? なんれふ?」

「困ったことがあれば、ぜひ私を頼ってくれ。ちょっとしたお詫びだと思ってくれて構わない」


 そういって、彼女は清々しい笑顔を浮かべて……僕にそう言い放つのだった。



「ところで、君の名前はなんというのだ?」

「えっと……黒井未央ですね」

「では未央と。……それだけだけで足りるのか?」

「はい? ……ああ、そうですね」


 そうか……と、不思議そうに首を傾げている美空先輩を見ていると、あっという間に平らげてしまった。

 ちなみに、美空先輩の昼食はかつ丼セットという……なんともがつがつした食べ物だった。

 それを事もなさげに食べてしまうから、余計に驚いてしまった。


「ん? どうかしたのか?」

「いえ、とくには」

「そうか……それにしても、未央との食事は気が楽でいいな」

「――っ!? ぶふっ」


 なんてことを素面で言ってくる美空先輩に、水を吹いてしまう。

 一緒に居て、気が楽なんて言われたこともなくて……うっかりやってしまった。


 え、なんだろ……すごく顔が熱い。

 恥ずかしさと、うれしさ? だろうか……ともかく、色んなものがごちゃまぜになって顔から火が吹きそう。

 ……あまり使いたくはなかったけど、ここまで感情が乱れるとさすがに落ち着かないといけないので《滅心》を使っていく。すると、たちまち心は朝の水面のように穏やかになっていく。


「大丈夫か!?」

「……はい。まあ、一応」


 濡れたところを拭いて、とりあえず汚したところはきれいにしておく。

 心配そうに見つめてくる美空先輩の顔が、なぜか今はまともに見れそうになかった。……きっと、変なこと言われたせいだ。


 とりあえずそう思うことにしておくのだった。

日間44位!!

ありがとうございます!!!!!!!

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