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女性の体

○ 女性の体


「やりすぎじゃ」

「……はい」


 現在――復讐を終えた僕は、神殿にやってきていた。

 傍らには死体が二つほど(あとで吸収して魂だけにするらしい)があって、神聖な神殿の空気を汚していた。


「まったく……防音を維持するこっちの身にもなってほしいわい」

「ごめんなさい……でも、楽しくて、つい」

「……まあ、いいわい。それより、位階を確認してみい」

「んーっと……おお!」



============


・黒井未央 位階2(1/2)


・ソウルポイント 1/4

 [《浄罪》]

 [《滅心》]

 [《保管》]


神の奇蹟(オラクル)

 《神具》 ポイント2

 《自傷》 ポイント2

 《治癒》 ポイント2

 《真贋》 ポイント3

 《活眼》 ポイント3

 《誘惑》 ポイント3

 《興奮》 ポイント4(対象を興奮状態にさせる)

 《幻覚》 ポイント4(幻惑を見せる)

 《鋭敏》 ポイント4(感覚が鋭くなる)


============



「おおー! 位階が2に」

「うむ。位階の数だけ殺すと、位階が上がるからの。後一人殺せば位階が3になるぞ!」


 お互いに子供のようにはしゃいでいる。まあ、新たに神の奇蹟(オラクル)を獲得することはできないけど……それでも少し、体が軽い気がする。

 これも位階の効果なのだろうか? まあ、気分がいいし気のせいでもいいけど。


「いや、気のせいではないぞ。ほんの少しじゃが、身体能力に補正がかかる」

「へぇー……じゃあたくさん殺せばいろいろできるようになりますね」

「うむ。そういうことじゃ!」


 じゃあ、さっそく次のターゲットを定めておかないと。

 ああ……誰がいいかな? 正直、この二年間にも及ぶ高校生活、ずぅっと虐められっぱなしだった。

 だから、正直復讐したい相手はたくさんいるし……いまは冬。来年になれば、受験も控えているし……なるべく迅速に行動しなければ。


「まあ、後始末は妾に任せて昼食を取るがよい。神の奇蹟(オラクル)を使うと体力をかなり消費するからの」

「そう、ですか? あまりそんな感じはしませんけど」

「それは神の奇蹟(オラクル)があまり強力ではないからじゃ。いずれかなり疲れるようになる、いまのうちに補給する癖をつけておくとよいぞ」

「分かりました」

「では、送還するからの」


 私の意識は落ちていく。

 次は、一体誰にしよう……そんなことを考えながら、私は少し血の匂いがする屋上へと帰還するのでした。


***


 屋上へ《浄罪》をかけて、私はネメシア様の助言に従って昼食を取るために購買に来ていたのだが……その途中で、白崎くん――の下っ端である、たしか田中くんと正蔵まさくらくんと鉢合わせてしまった。

 すると、ふたりはにやり、といやらしい笑みを浮かべて……私は面倒なことになった、と嘆息するのだった。


「おらっ!」

「ふぐっ」

「せいやぁ!」

「あがっ」


 私は、階段下の目立たない場所で、鉢合わせた二人に殴られていた。

 まあ、それくらいなら勘弁してあげたいのだが……どうも、さきほどのいやらしい笑顔が頭から離れなかった。

 なんだか、吐き気を催すような顔で……不思議と体を守ってしまう。


「ちっ……んだよ、無抵抗じゃないのか?」

「まぁまぁ……ここは、殴ってすっきりするだけにしとこうよ?」

「? あがっ!?」


 私は二人の会話に違和感を感じましたが……鳩尾に一撃もらってしまい、うずくまってしまう。

 正蔵くんはなんだか落ち着かない様子で、こちらを見ていますし……田中くんは田中くんで、なんだか含みのある落ち着きようですし……あぁ、ほんとうに嫌な予感しかしません。


「ほら、ぼくの友達に――がいるから――」

「おおっ、そりゃいいな! じゃあな黒井! また遊ぼうぜ(・・・・)!」


 そうして、すたすたと去っていく二人を眺めながら……僕はペッと口から血を吐き出して《浄罪》をかけ、体を綺麗にする。

 正直、あまり痛くはなかった。ダメージはあるけど、今までの所業にくらべたら楽なものだった。

 でも、……きっとこれだけでは済まないのだろう。田中くんはきっと何か企んでいる。


「それを待ってみるのも、ありですね」


 自信満々なところをへし折ってやるのもまた復讐のいいスパイスになるでしょう。

 私は、とりあえず昼食を――と思い、改めて購買に向かうのでした。


「あ……」

「ん、ああ、すまない。私はまだ悩んでいるので、君から先に選ぶといい」

「ど、どうも」


 購買の前には、ものすごい美人が並んでいた。

 あまり見かけることはなかったのだけど……この高校でこの人を知らない人はいない。


 ――美空みそら真央まお


 銀髪蒼眼のハーフで、僕よりも少し高い身長。

 プロポーションのとれたスタイルで、……整った顔立ち。告白して散っていった者たちは数知れず。


 それが、美空真央先輩という人物だった。


「あ、あの、美空先輩ですよね?」

「ああ。そうだが……それがどうかしたのか?」

「いえ、噂通りだな、と」

「そうか。それは、ありがとうと言っておこう」


 このように、不思議なしゃべり方をする。

 なんでも日本語を学ぶときに、その一環としてアニメを見ていたらしく……そこに登場するキャラに見事に影響されてしまったらしい。

 まあ、僕はカッコイイと思う。


「では、僕はこれで……」

「ああ。――っと、待ってくれ」

「はい?」


 美空先輩は決して僕を虐めるような人ではない。

 以前、不正をしていた相手をこらしめていた。……決して正義感からではなく、「自分も不正扱いを受けてしまうから」という理由でだが、それでも自ら不利益を被る人ではない。


「怪我をしているな。……保健室に行くといい」

「ああー……まあ、大丈夫ですよ」

「ん、まあ、そういうなら無理にとは言わないが……」

「では――」


 そう言って、僕は人目のなさそうなところを探しにでかけるのだった。


***


 ――家に帰る前に、少しからまれてしまったが、それ以外は無事に帰宅する。


「あ、今日母さんたちは遅くなるのか」


 机のうえに置かれたお札と置手紙の存在で僕は慣れたようにそのお金を拾い上げて、今日はどこで食べようかな……と悩む。

 とりあえず、今日は初復讐の記念としてちょっとおいしいものでも食べたいなあ。


『む、なんじゃ。お主の家族はずいぶんと冷めてるのう』

「え、まあ、二人とも忙しいし……慣れてるから平気だよ」

『そういうものかのう。……あと、こってりしたものは控えておくとよいぞ?』

「? どうして?」

『……胃もたれするからじゃ』


 あーそういえば、いまは女の子だった。

 男だった時の基準でご飯を選ぶとすぐにお腹いっぱいになりそう。……よし、とりあえず余ったら小遣いにできるし、ハンバーガーでいいかな。安上りだし。





 ――僕は今、かつてないほどの危機に直面していた。


「むむむ……」

『なんじゃ。なにを迷うことがある……ほれ、あと一歩進むだけじゃろう』

「だけど……この一線を越えたらダメな気がするんだけど」


 僕は夕食――ハンバーガーを一つだけ食べて、すこし胃が苦しくなったところで、しばらくのんびりしていた。

 しかし、そろそろあの時間(・・・・)だということに気付いて……


『いずれ訪れる一線じゃ。それに、女子ならなおのこと、そういうことには気を付けねばならぬだろう』

「たしかに……」


 僕はいま、脱衣所で服を脱ぐことをためらっていた。

 確かに、女子にとってお風呂は大切なことだろう。僕もお風呂は好きだし、体を綺麗にすることは気持ちがいい。

 でも、心は男、体は女の子。

 その事実がどうしても僕を留まらせてしまう。


「……やっぱり《浄罪》でいいんじゃ」

『ダメじゃ! そんなことで身体を綺麗にしたとは言わん!」

「はぁぁ……仕方ない、のか……」



 ――とりあえず、女の子の体はいろいろと大変だったということだけ僕は絶対に覚えておこうと思うのだった。



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