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復讐とは腐った果実

○ 復讐とは腐った果実


 ――戻ってきた場所は、女子トイレで人気はなく……先程の現場そのままだった。


「……《浄罪》」


 僕は掃除なんてしたくない……が、このままにしておくのは気が引けるので、トイレに向けて《浄罪》を使う。

 すると、たちまち汚れなどは取り除かれていき……僕の口に入れられたモノも消えていた。


「ふっ、くふふ……」


 ああ、いい感じにイライラしてきた。

 胸の内に宿った薄暗い炎は色褪せず、むしろ僕の気持ちを昂らせていく。


「あ、でも教室に戻らないと……」


 ネメシア様の話だと時の流れは地上と神殿では違うらしく……地上の一秒が神殿の一時間らしい。

 それと神殿に戻るには人目がなく、それを5秒維持できれば転移できるらしい。


「まあ、今は教室に戻ることが先決だよね」


 僕はトイレを出て、ホームルームが始まる前の教室に戻ってくることができた。

 僕が身綺麗なのを見て、すごく不信がる峰崎さんたちだが……まあ、それは無視する。一応、怖がっているふりはしておく。

 まだ、私に余裕があることを悟られてはいけない。


 だから、今は――我慢の時だ。


***


 昼休み――私は、誰かに捉まる前に、急いで屋上に向かっていた。

 昼食なんて、そんなものはどうでもよくって……じゃないとできないことがあるからだ。


 当然それは……復讐だ。


 もちろん主犯は、白崎くんや峰崎さんだ。

 だが、……それに乗じて日ごろの鬱憤を晴らされることもあった。「あいつが虐めているから、自分でも大丈夫だろ」みたいな軽い気持ちで僕を脅して来たり、暴力を振るってきたことだってある。


 ……そいつらは――本当に、一時期は友だちだと思っていた人たちだ。

 現実に嫌気がさして、二次元に逃避していたころに似たような人種と話していたことがあったのだ。


 でも、裏切られた。

 別に助けてほしかったわけじゃない。ただ、虐めとは無関係であってほしかった人たちだったのに……「このキャラ不遇すぎですな」「ね、まったくこういう輩とは関わりたくないわ」とか言っていたくせに。

 結局、上辺だけで、楽なほうに流されていった裏切り者。

 別に、危険に晒されていたわけでも強制されたわけでもない。……きっと、ただ魔が差しただけなんだろう。


 僕は、そんな薄っぺらい関係に縋っていた。その事実に打ちのめされて、余計に引っ込み思案になってしまった。


「あはっ、こんな風にしたあいつらを許して置けるわけないよねえ?」


 僕は筆箱にあったはさみとカッターナイフ……それに、コンパスと武器になりそうな文房具を持って、屋上にやってきた。

 こんなもので殺せるとは思っていない。だから、もう一つ、確実に殺せるようなものがあるが……それはあとで調達する。



「……久しぶりにきたなあ」


 屋上は基本立ち入り禁止だ。

 だが、ひょんなことで合鍵を作ることに成功した、そいつらは――屋上を秘密の集会場にして、お昼休みによくたむろしている。

 そこに僕もいたころがあって……その名残りで、合鍵を持っている。


 ――かちゃり、と鍵を開けて屋上へと続く扉を開く。


「む、おお。黒井氏でしたか……いまさら何の用ですかな?」

「あ、未央じゃん。どの面下げて私たちに会いにきたのよ」


 そこには、幼なじみの二人の男女が、仲睦まじく手を握っていた。そこそこ美人な犬山さんとふとっちょな志波くんだ。

 衣服が乱れているところから、情事に至る寸前だったみたいで、少し不機嫌だった。


「……」


 そう、こいつらは付き合っている。

 まるでマンガのように長年の想いが結ばれたのだ――ある意味僕のおかげで。





「志波! 助けて!」

「む、どうされましたか犬山氏」

「あ、あいつが……黒井が、わ、私のことを――」


 なんて感じで、僕が犬山さんを襲ったとデマを流して……正義感だけはあった志波くんにタコ殴りにされ……お互いの気持ちが通じ合ったとか、くだらない三文芝居だ。

 まあ、幸せならそれでいいさ。……どうせ、僕がぶち壊すからね!


「で、何の用? ここには来るなら、今度こそ訴えるって言ったはずだけど?」

「そうですな。まったく、こりないですなあ」

「うん。そうだね。……でも今日で最後だから――君たちと会うのはね」


「え? ――ッ!? キャアアア!!」

「ひ、ひぎゃああ!? い、痛い!! 痛いよおおお!!」


「ふ、ふふふ……僕だって痛かったんだよ? あの時殴られたとき、骨折しかかってたんだからね?」


 僕は、思い切り志波くんの膝を打ち抜く。

 非力な僕の脚力でも、折ることくらいはできたみたいで……苦悶の表情を浮かべて、汗だらだらでこちらを見ている。


 ……ところで、この悲鳴、誰かに聞かれてないよね?


『安心せい。防音にしといたからな、そこら一帯は』


 何て手厚いサポートなんだろう?

 まるで理想の神様そのものじゃないか?


『ふっ、照れるわい』


 まあ、そんなわけで遠慮せずやっていこう。


「えーっと……よいしょ」

「ちょ……なにしてるのよ!?」

「なにって、ベルトをはずしてるだけでしょ?」


 僕は当然のことのように、そう犬山さんに言うが……まあ、きっとえっちな彼女のことだ。きっとこう勘違いしているんだろう。


 ――見せしめに大事な人を奪ってやると。


 そんなことするわけないのに。

 だって、心は男だし……復讐だからって、そこまでしたくない。けど、ベルトはいい拘束具になる。


「よしっ、じゃあ――」

「ひぃっ――ッ!」

「ま、待つでござ――ひぎぃぃぃぃ!?」


 僕は志波くんの膝を踏みつけて、さらに粉々にしていく。


「うるさい。僕は君よりも、この女に一番怒っているんだ」


 ベルトを持ち上げて、彼女に向けて鞭のようにヒュンと振り回す。

 犬山さんは必死に逃げようとするが……その前に、制服の襟をつかんで、前のめりに転ばさせる。


「ぶべっ!?」

「ふふっ、いい気味」


 鼻血を出して、情けない声をあげる。

 ああ、本っ当にいい気味だ。僕を裏切り者に仕立て上げて……挙句の果てには、自分だけ幸せになろうだなんて。

 ああ、よかったね。一時でも二人きりで幸せな空間を送ることができて。


「あ、あのこと!? あのことなの!? ご、ごめんなさい! 謝るから許し――ぎゃああああああ!!!??!!」

「どの、口、が……そう言ってるのかな?」


 僕は《保管》から、コンパスを取り出すと彼女の右耳に突き刺した。

 鼓膜まで突き破る感触を感じながら、僕は「ふんふん♪」と小気味良く、リズミカルにねじ込んでいく。


「や、やめ……ひぎゅうううう!?」

「いーいぃ? このままぐりぐりされるか、……それとも大声であのことを謝るか? どっちがいい?」

「ひぃっ、ぐりぐりやだぁ……」

「だよねえ? じゃあ、どうするの?」

「……さい」

「なに!? ぐりぐりしてください?!」

「ひぎっ!? あ、ぁぁ……お、襲われるって、嘘ついて……ごめ゛ん゛なざい゛ー!! アアアアア――!!」

「ふぅ……さて、と」


 僕は彼女の足を折って、念のため足首にベルトを巻いておき……志波くんに近づいていく。


「な、なにをするつもりで……ひぐっ!?」

「さ、これなぁ~んだ?」

「……は、はさみ?」

「そう、はさみ。どこにでもあるちっちゃいはさみだけど~これを、舌にはさむことで~――」

「が――~~?!」


 ぶちん、と舌を切って……あふれ出る自分の血で窒息していく。

 その苦しむ表情を楽しむのもいいけど……そうだ!


「ふんふ~ん」


 僕は、犬山さんを志波くんの前まで引きずっていき……彼女のスカートを下着ごと引きずりおろす。

 あ、志波くんを仰向けにすることも忘れない。


「なにひゅるつもり……?!」

「えっとね……あ、ベルトベルト」

「ガアッ――!?」


 露出した下半身をいまにも窒息しそうな彼の顔に当てて、さらに息を塞いでいく。

 そして、僕はというと、首にベルトを巻いて……彼女が倒れないように、支えてやった。


「あっ――グっ――」

「――!」


「あは、あはは! よかったね! 二人は最期まで愛し合って、そうして同じ死に方をする!」


 こんなひどい、結果を生み出しておきながら僕の口の中は――熟れた果実を更に熟したような、甘い味が広がっている。

 これが、復讐の甘美。美酒というやつだろう。


 酸欠なのか……それとも、感じているのか。

 顔を真っ赤にしてる二人を見送りながら……僕は、満足するまでそのベルトを支えていくのだった。



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