復讐、その神意
○ 復讐、その神意
――復讐。
それは僕にとって、何度望んだことなのだろう。
なんど、この手であいつらを葬り去りたいと願ったことか。
でも、いつだって僕はそれを実行してこなかった。なぜなら――
「む、無理ですよ。僕になんて……復讐なんて」
『そうかの? 言ったじゃろう、そう卑下するなと』
「でも……僕にそんな勇気も、力もない」
そう。
実行できない、捕まってしまう、報復が怖い――結局のところ、それが理由なのだ。
僕が問題を起こせば、僕の両親は容赦なく僕を見捨てるだろう。だって、そういう人たちだ。だから、僕には復讐なんて……
『なんじゃ、そういうことなら……簡単じゃ。妾が力をやろう』
「え?」
『ほれ、さっきの体を綺麗にしてやったような……神の奇蹟を授けてやる』
「え、ぼ、僕に使えるんですか?!」
『うむ。……といっても条件がある』
「そ、それは……?」
ごくり、と息を呑むと……神様はそう荘厳に言い放ったのだ。
『それは――純潔の乙女であること! じゃ』
「……あ、もしかして、僕が女の子になったのって……」
『うむ。察しがいいのう……そういうことじゃ』
というか、僕を女の子にした犯人はあなたですか。
『なんじゃ? アフターケアもばっちりじゃろう?』
「それは……確かに」
僕が女の子になってパニックにはなっていなかったのはたしかに不思議に思っていたけど。というか、そうやって簡単に世界をひっかきまわしていいんだろうか?
『構わん。だって、妾邪神じゃし』
「あ、そうですか」
『――で、どうする? 妾の手を取り、復讐するか?』
…………
「私は――当然、復讐、できるなら……したいです」
……私の決意は固まった。
『よしっ、ならばこの妾――復讐神ネメシアに任せておけ! お主が罪に問われることなく、万全の支援を施してやろうではないか!』
神様――ネメシア様はそういって、私をどこかへ連れ去るのだった。
***
「ようこそ妾の神殿へ!」
「ここは……あ、もしかしてネメシア様ですか?」
「うむ。いかにも、邪神にして、復讐神! ネメシアとは妾のことじゃ!」
褐色の肌に、黄金の瞳。
墨のように、真っ黒な髪の毛は影すら取り込みようなほど真っ黒だ。
そして、小さい。
「む、失礼じゃぞ。レディの扱いがなっとらん」
「あ、ごめんなさい。……でも、どうして僕をここへ?」
「言ったじゃろう。神の奇蹟を授けると。ここじゃないとできんのだ」
「なるほど」
そういって、僕の目の前に、半透明のボードを出現させるのでした。
「まず、初めに言っておく。神の奇蹟は人の身にはあり余る力じゃ。故に、制限……というより段階を踏ませてもらう」
「えーっと、つまり?」
「序盤は、弱い。しかし、位階――ようはレベルじゃな、それを上げることでより強力な神の奇蹟を手にすることができる……というわけじゃ。あ、あと位階を上げても限界があるからな」
つまり、スキルを得るためにはレベルを上げなければいけない……ということか。まるでゲームの育成みたいだ。
「無論、神の奇蹟同士の組み合わせなんかもあるぞ! こういうの、男ならワクワクするじゃろう?」
「まあ、今は女ですけどね」
そういって、取得可能な神の奇蹟の一覧を眺めていく。
============
・黒井未央 位階1
・ソウルポイント 3/3
・神の奇蹟
《浄罪》 ポイント1(不浄を払い、身を清める)
《滅心》 ポイント1(心を押し殺し、動じない)
《保管》 ポイント1(道具を3つ亜空間に収納する)
《神具》 ポイント2(神の武具を取り寄せることができる。ただしランダム)
《自傷》 ポイント2(自ら傷つけることで身体能力を増す)
《治癒》 ポイント2(傷を癒す。病には効力はない)
《真贋》 ポイント3(手に持った物体の偽物を作り出す。ただし本物一つにつき一つまで)
《活眼》 ポイント3(道理を見抜くことができる。弱点や行動予測が可能となる)
《誘惑》 ポイント3(性差問わず、対象を魅了する。ただしそれに応じた行動を取らなければならない)
============
「とりあえず、《誘惑》はないなぁ」
「む、便利じゃぞ。まあ、お主は嫌か」
「ええ。いやです」
「まあ、悩んだらとりあえず1ポイントの奴を総取りじゃな。応用が利くからのう」
「ですかね。……神の奇蹟の交換って、ここじゃないとダメなんですよね」
「うむ、そうじゃのう」
なら、まあ……こうかな。
============
・黒井未央 位階1
・ソウルポイント 0/3
[《浄罪》]
[《滅心》]
[《保管》]
============
「無難じゃの~。ま、お主の好きにするとよい」
「ありがとうございます。ネメシア様」
「気にするでない。こちらにも、訳あってのことじゃからの」
「? そうですか」
一瞬だけ物憂げな顔を浮かべるネメシア様だが、すぐに飄々とした表情に戻ったのできっと気のせいだったのだろうと僕は結論付ける。
「使いかたは何となくで理解できるじゃろ?」
「はい。頭に浮かんできますね」
「よし、じゃあ、さっそく……行動開始といこうかの!」
「はいっ」
ああ、楽しみだなあ。いったい、どうやって復讐しよう。
痛めつける? それとも、同じことを仕返し手やる? どれも、これも、面白そうで思わず笑みが漏れそうになる。
「あ、そういえば。一つ質問したいことが」
「む? 何じゃ?」
「位階ってどうやってあげればいいんですか?」
「ああ、簡単じゃよ……人を殺して、妾に捧げる。それだけじゃ。これは神の奇蹟を使う上での条件でもあるから、気にする必要はない」
「ふっ、ふふふ……なぁんだ、そんなことでいいんですね」
「ああ、そうじゃよ。……楽しみにしておるからな」
僕はネメシア様の手によって、地上に戻されるのだった。