異常が正常
○ 異常が正常
――次山くんは狂っている。
麻薬を広めているうちに、きっと好奇心に負けて手を出してしまったのだろう。……それが始まりで、終わり。
次第に狂い始め、麻薬なしでは精神を安定させることはできなくなり――やがて、麻薬を売って麻薬を手に入れるという悪巡回を引き起こし、こうして……麻薬に溺れる廃人ができあがってしまった。
「あ、あひっ……ひひひっ」
「……」
僕はそれを見て、にぃっと意地の悪い笑顔を浮かべていたと思います。だって、明らかに考えうる最高のシチュエーションで……、これ以上ないほどのタイミングだったからで……
「ふ、ふふっ。治されて狂うなんて――可哀想だよねえ……《治癒》」
「あ、がぁっ!? え、あ、アアアア!! や、やめっ、アアアアア!!!!」
「あ、あはは!! 最ッ高! あははは!!」
初めは、こいつの売っている麻薬を使って、薬漬けにしてやろうかと思っていた。
でも、そんなことをする必要はなくて……とっくのとうに、溺れてしまっていたのだ。
「く、くすり……くすりぃぃ……!」
なんだっけ。こいつは確か、未成年にも拘らず、喫煙にはまっていて……ニコチン中毒だったんだっけ? おかげで知りたくもないたばこのにおいなんてものまで覚えてしまって……一度、喫煙しているのでは? なんて疑われてしまったこともあった。
……そう、いま思い出したけど……僕は辱められただけではなかった。
煙を吸わされたり、たばこの火を押し付けると脅かされたこともあったのだと……僕は思い出したところで、次山くんの懐を探って……お目当てのものを取り出す。
「ああ、やっぱりまだ持ってたんだ。……ライターと煙草」
麻薬にはまったとはいえ、そう簡単に手放すとは思えなかったので予想通りすぎて笑えてくる。
僕は箱から一本取り出して、ライターで火を点ける。
当然だが、僕が吸うためじゃないし……こいつに吸わせるつもりもない。
「さて、じゃあ、……ここに君の持ってた薬がありまーす」
「あ、あがっ……よこ、セッ!」
「いやでーす……条件を呑まないとあげませーん」
「じょう、けん?」
「うん。簡単だよ……煙草の灰と一緒に呑み込むこと。これが条件」
「ひ、ひひっ。ふざけんな!! いますぐよこ――ぎゃあああ!」
僕は文句を垂れるそいつに煙草の火を頬に押し付けて、絶叫で黙らせる。
思いの外、火傷の跡がついてびっくりしたけど……まあ、どうせあとで殺すしどうでもいいかと、僕はさらに押し付けていく。
「ほら、どうするの? 薬、ほしくないの?」
「――~~っ。や、やる! やるから、早くしてくれっ!」
「はぁい」
といって、紙の上に粉と灰を混ぜ込んだ特性麻薬を作って、次山くんに渡す。
「ひ、ひひひひっ。こいつさえあれば――!」
といって、躊躇なく呑み込んだ。
まあ、吸い殻は即効性の毒ではないし……いますぐってわけではないとはいえ、それでも僕は絶対に毒を飲むなんてしたくはない。
まあ、それだけ依存性の強いものってことで……怖いね、麻薬って。
「ふぃ……って、お前よくもやってくれたなぁ!」
「ああ、ほんと変だよね。異常が正常だなんて」
「あ? なにを――」
「《治癒》」
「ひ、ぎぃ……あゃ……」
煙草の毒だけ治さないようにして、再び麻薬の成分だけ中和する。
……僕も今度から、ご飯食べるときはこうやって、悪いところだけ治すようにしようかな。
なんて、どうでもいいことはさておき。
「さ、どうする~? ここに麻薬と煙草入りの特性薬物があるけど?」
「く、くれぇ! そいつをくれぇ!」
「あはっ」
まあ、よくもこんな醜態を晒せるよね。
駄々っ子のように、頂戴頂戴なんて……なんて、情けなくて清々しいんだろう。これでこそ、復讐の醍醐味ってもんだ。
……まあ、今回は前ほどの甘い味は感じない。
そもそも、復讐したいほど――ではあっても、そのうち破滅している相手をこちらから出向いて殺してにかかっているんだ。
そんな労力をかけてまで、甘美を味えるとは思えない。
やはり、自分で場を整えてこそ……最高の復讐なると思うんだ。
「だから、さっさと死んでくれない?」
「あひぃ……くす、くすりぃぃぃぃ!!」
もはや、薬がなければ生きていけない。
そんな廃人相手に、煙草の灰という毒を盛ったのは――計、三十回。もう、いつ死んでもおかしくないし、お腹の中には使い終わった吸い殻も混じっている。
……これで苦しまないのは、きっと麻薬が生じさせる快楽物質のせいだろうか。
「そんな状態は不自然だ――不自然であるべきなんだ。《治癒》」
「ひぎゅっ!? あ、あああ……な、んで……気持ちよくない!?」
「そりゃ、麻薬の気持ちい部分だけ中和して、治したからね」
「あ、ああぁぁぁぁぁ……」
そうして、麻薬の害悪によって……そして大量の毒素の摂取によって、その廃人――次山くんは死亡するのだった。




