ひとつ私も恋というものを創ってみることにしよう。
異世界〔恋愛〕短編が流行ってるらしいと聞いたので挑戦!
昨今、やれ恋だの愛だの恋愛などとわけのわからぬことを抜かす者が増えておる。
私にはそんなものはわからぬ。そもそも魔法学校に来て魔法以外の事を学ぶ必要がどこにある? 魔法で子供を作りに来たのか?
そんな事を同じ調合部の金髪のいけ好かない男に話したところ、「その歳で恋をしたこともないんすか」などと言いおった。
さて、ひとまずそいつにくっさい解熱ポーションを投げつけ、私は一つ考えた。
ひとつ私も恋というものを創ってみることにしよう。
この世に恋魔法などというものはないが、薬で恋が創れるだろうと考えた。
まずはリサーチである。おいサボってる金髪男。女に惚れる時はどんな時だ?
「おっぱいでけー女を見た時っすね」
死ね。
しかしこれで一つ方向性が見えた。私の胸を大きくする。
「なに作ってるんすかー先輩」
「胸をでかくする薬だ」
ふぅんと金髪男は私の身体を舐めるように見つめてきた。
一つ蹴り飛ばすと金髪男は脛をさすって片足立ちで言ってきた。
「でも先輩。色気ないじゃないっすか」
死ね。
また一つ課題ができた。色気ってなんだ。
「おっぱいでけー女は色気があるんじゃないか?」
「おっぱいでけー女でもゴブリンみたいな女は無理っすよ」
はぁん。今、全世界のゴブリン女子を敵に回したぞてめえ。
しかし言いたいことはわかった。私をちんちくりんと言いたいのだな?
こいつは私の事を舐めている。
「背を伸ばして胸をでかくする。これでどうだ」
「顔が」
私はそいつの顔面を殴り飛ばそうとしたが、届かなかったので再び蹴りで勘弁してやる。
しかし顔と来た。こいつ私の顔面もゴブリンとでも言いたいのか?
だが私は比較的かわいがられている方だ。女子に。
「童顔じゃないっすか」
「はあん? 切れ長目の面長のぷっくり唇になってやるよ」
近頃流行りの南方系ギャルってやつだ。
顔は骨格改造し、唇には毒を刺して腫れさせる。
「でも先輩」
「まだ文句あるのか」
「髪ボサボサじゃないっすか」
「なんだとてめえ。いや、そんなに? 酷いか?」
私は三編みにしていた髪をほどいて見せた。ぶわさと肩口に黒い髪が広がる。
手を通してみると髪が指の間にぎしっと詰まった。
「先輩。いいのあるっすよこれ。どうぞ」
「なんだこれは。髪がつやつやになるポーションか?」
「油っす」
「油……」
瓶の蓋を開けてみると、匂いが鼻をツンと突いた。
「我々は調合部だ。こんな普通のやり方で綺麗になってどうする」
「髪がつやつやになる薬が作れたら売れそうっすね」
「金の問題じゃあない!」
私は机をドンと叩いた。危うく調合器具が倒れかけ、私は慌ててそれを抱くように支えた。危ない。
「いいかよく聞け。恋なんて感情が引き起こす事象だ。私が美人になり、今まで私に興味がなかったものを惚れさせてそれを証明する!」
「惚れ薬作った方が早くないっすか」
「はっ!?」
なんてことを考える男だ。そんなの、そんなの、手っ取り早いじゃあないか。
「おい、恋をした時とはどんな感じになるんだ」
「心臓をゴンと殴られた感じっすね」
「なるほど。心臓を早めるか。トリカブトだな」
「それ止まるんじゃないっすか?」
生物は生命の危機に瀕すると、子孫を残す行動を取るらしい。これは使える。
方向性はわかった。
「三日ほど待っておれ」
「毒薬作るんすね」
毒じゃねえ。
そして三日後。薬の調合が完成した。
「どうだ!」
「そうっすね。先輩の目の隈酷いっす」
「顔の事ではない」
胸がでかくなる薬。
背が伸びる薬。
顔が伸びる薬。
目が切れ長になる薬。
唇を腫らす薬。
髪をつやつやにする薬。
心臓を早める薬。
「まずは髪をつやつやにする薬からだ」
「これが成功したら金持ちになれるっすね。ちょっと一口噛ましてくださいよ」
「金のためではないと言っておるだろう」
私はそれを頭にかける。
「おい、髪を揉んでくれ」
「うぃーっす」
もみもみされて10分。そして櫛を通して10分。
銅鏡の前に映った私の髪は、見違えるように綺麗になった。
「どうだ!?」
「いやまじで先輩すげーっす。量産しましょうよ」
「はっはー。もっと褒めてよいぞ」
次に私は心臓を早める薬を手にとった。
「それが例の毒っすか」
「毒性は極限まで薄めてある。生命に別状はないし、問題が起きても解毒ポーションを飲めば大事ない」
「それ飲むような事が起きた時点で大事っすよ」
男が薬瓶を手にし、鑑定魔法を使って材料を確認しドン引きしている。
「ところで先輩。これ誰が飲むんすか?」
「そりゃあ、私に決まってるだろう」
「え?」
頭の悪い男だ。
私は理解できていない男を無視し、惚れ薬を呷った。
「私に惚れさせるのは美人になる薬で良い。惚れ薬の効果は自分で確かめなくてはな」
「でも先輩。誰に惚れるつもりなんすか?」
「そりゃあ、その辺の男だ」
はぁ。はぁ。胸が苦しくなる。顔が暑くなり紅潮している。手に汗をかく。思考が鈍っている。
ちゃんと薬の効果が現れている。成功だ。
「その辺の男って俺じゃないっすか。先輩、俺に惚れるつもりなんすか?」
「え……?」
しまった。これではダメだ。私がこいつに惚れるわけがない。早まった。
「失敗した……」
「そうなんすか? 顔赤いっすけど、大丈夫っすか?」
「やめろ! 私に触るな!」
ふむ。なるほど。少し認めよう。
生命の危機に瀕すると子孫を残す行動に出る、か。子供……行動……。
「危険だこの薬は! こんなものは作ってはいけなかった!」
「先輩。落ち着いてください先輩。他の薬の検証はまた後日っすね?」
そこで私はピンと来た。
この苦しみをこいつにも味わわせる。私が美人になり、狼狽させてやろう。
「今から私はお前好みの女になる。それで惚れるか確かめてみろ」
私が胸が大きくなる薬に手を伸ばすと、男は私に手を重ねて、止めた。
「でも先輩。そのままでかわいいっすよ」
どきっ。
このタイミングで、おま、ちょ、止めろて。
なんだこれは……。なんなんだっ!
「もしかして先輩。ちょろくないっすか?」
「ちょろくなど、ない!」
私は慌ててくっさい解熱ポーションを飲んだが、薬の効果が現れなかった。
イラッとしたのでおっぱい大きくなる薬を男に飲ませたい。