プロローグ
道路の雪はほぼ溶けきっていてもうほとんどアスファルトの色で道が埋まっていた。
コートを脱ぐにはまだ少し肌寒く、私はお気に入りのクリーム色のコートをなかなか手放せない。
駅前で1番大きなこの道も通勤の時間を過ぎた今となっては、普段賑やかな駅前も静かなものだった。
夜の賑わいに向けて今は昼前の小休止を挟んでいるお店が多いのだろう。
ふと、フライドチキンのお店の前に警官が集まっているのを見つけた。
「なにか事件でもあったのかな」
眺めてみるとお店の象徴であるヒゲのおじいさんの人形が立っていないのに気付いた。
まさか盗まれたのだろうか。
世の中には奇特な人もいるものだ。
そんな事を思いながら、私は地図アプリを開いたスマートフォンを見ながら案内されるままに足を進める。
大通りを抜けて小道に入り、また更に小さい路地に入り、更に2回曲がった所で、私は小さな看板を見つけた。
「忘れ猫」と書かれたその看板は掠れていてとても読みづらかった。
「ホントにあった…」
驚き、声を漏らした。
藁にもすがる思いでここまで来たが、この看板を見て私は少し安心した。
期待と不安が入り交じったドキドキに後押しされ、私は古ぼけた木製のドアに手をかけた。