自己満足とお休みなさい
途中で和帷人視点に変わります(お兄様の本名、和帷人と言う名前をただただ使いたい)
家に帰るとお兄様からこっぴどく叱られた。最初はしっかりと聞いていたけど何時間もたってくるとさすがに精神に来るので隙をついて逃げた。
部屋に戻ると、文月さんがヤバい奴に呼ばれていた名前が何なのか気になっていたことを思い出した。あ、でも昔そんな名前の有名人がいた。子役だったけど。
最近見ないし、多分彼女が本物の風月佐奈なんだろうな。
あの時は気になってたけどそれどころじゃなかったし聞けなかったな。まぁ明日文月さんから詳しく話を聞くつもりだけど。
と言うか本当に何であのとき花影さんがいたんだろう。何かたくらんでいると言う訳でも無さそうだし、放っておくか。
文月さんがあのまま屋上から飛び降りていれば、彼女は死んでいたのかもしれない、と言うか確実に死んでいただろう。それに、文月さんと関係がありそうなヤバい奴に会うことだってなかった。だから、彼女の自殺を止めた私には責任がある。命ってものはそれほど重大なものだから。
私は事情が何であれあの時の文月さんが少し前の私とかなさって見えたのかもしれない。もしあのまま私が死んでいたら今の幸せも何も知らなかっただろうし、心に蓋を閉めたまま人生が終わっていた。
けど、私は碧斗に助けられてから人生が変わった。家族の暖かさを知った。友達ができた。そのままの私を受け止めてもらえた。全然好きではないが少し馬鹿なライバルだって出来た。笑う事が出来た。お兄様と仲良くなった。
そして、この先に残される未来の時間が、限られてしまっていることも知った。死と言うのはいずれ来るものだし、その時がくれば冷静に受け止める。
けど、まだ私には時間が残されている。それならば、残された時間を有効に使って悔いのない人生を送ろう。そう、思えるようになったのだ。
かつては命を投げ捨てた私が、今、精一杯生きているのだ。この私の考えの中に、綺麗なところなど1つもない。綺麗事を言うつもりも更々ない。
嫌いなものだって沢山ある。この弱い体だって、本当は好きではない。誰にも言うつもりはないが。
ただ、普通に私は死ぬ前に文月さんの話が聞きたかっただけなのだ。一旦、記憶を振り返って欲しかっただけ。少し落ち着いて欲しかっただけ。そして、最終確認がしたかっただけなのだ。そこには、少し同情も入っていたかもしれない。でも、あのまま一人で死んでほしくなかった。
話を聞いて、記憶を振り返って、落ち着いて、それでも死にたいのなら、止めるつもりは何もなかった。結局は他人の意見なんてちっぽけでしかない。でも、そこで文月さんの意見が生きるに変わるかもしれない。そんな事を少し期待しながら私は彼女の自殺を止めてしまった。
単なる自己満足で。
とっさに体が動いてしまったのだ。碧斗も、こんな気持ちだったのかもしれない。
私の気持ち1つで生死を変えてしまったんだから、明日の話し合いでは気を引き締めて、彼女の気持ちに耳を傾けて、少しでも心を軽くしてあげたいのだ。
花影さんのように何も無しに手を差し伸べてあげることなんて出来るほど私は器用じゃないし、綺麗じゃない。
偽善者は、嫌いなのだ。
さっきの言葉は本当だけど、結局は私が我が儘で面倒さがりなだけかもしれない。何もないのに笑顔なんて作れないし、作りたくない。優しさを向けることも得意ではないし、不器用だ。
優れすぎて逆に要らない頭脳だけが取り柄の、人間能力がかけてしまっている、つまらない私なのだ。昔に比べたら人間らしくなってきたし、頭脳の使い道もおぼえた。けど、人間すぐには変わらない。
だから、文月さんに私が犯した罪を、勝手に償っているだけ。そこには善も悪も何もない。あるのは責任と自分勝手な気持ちだけだ。
こんなんだから、私は花影さんと合わなかったのかもしれない。まぁ、私を否定するわけではないけど、少しだけそう思っただけだ。
今日は結構体力の限界を突破して…いわゆる限界突破をしたせいか体がダルいし重い。明日学校に行きたいのならば、おとなしく寝ることが正解だ。さっきから部屋をこそっと覗くお兄様の目が怖いし、ちゃっちゃと寝てしまおう。
私は電気を消して、ベットに入り布団を深く被った。次第に眠くなってきて、意識が朧気になってくる。お休みなさい。
◇◆◇
カチャリ
ドアをなるべく静かに開けると、亜莎紀の寝ているベッドに近寄る。今日も亜莎紀は無理をしたらしい。あまり来ることのない亜莎紀からメールが届いた時には驚いた。
書斎でしていた仕事も放り投げて、急いで亜莎紀に会いに行った。知らない男が亜莎紀を抱き上げていたのを見たときは冷静さに欠けてしまった。
雪野木くんも油断は出来ないようだ。亜莎紀に向けるあの目は確かに……。いや、考えるのはよそう。亜莎紀はまだまだお嫁には出さない!
ただでさえ亜莎紀は体が弱く長く生きられないと言われてるのに、そんな大切な亜莎紀との時間を他の人に取られたくない。でも、それで亜莎紀が笑っていられるのなら百歩譲って許すけどね。彼は悪い人ではないようだし。
まぁ、どれだけの時が過ぎようとも、亜莎紀は僕の大切な妹だけどね。別れの時の事なんて、考えるものではないね。
目を瞑っている亜莎紀の頬を撫でる。目を瞑っている時は目は死んでいないけど、目の下の隈が凄い。前に比べると良くなったんだけど、もっと健康な体になって欲しいなぁ。
「……おにぃ…さま?」
あちゃぁ、亜莎紀を起こしてしまった。舌足らずな声で僕を呼ぶ亜莎紀はとても可愛い。やっぱり目は死んでるけどね…。
「ごめん、起こしてしまったね。まだ寝ておきなさい」
それを聞いた亜莎紀は寝ぼけているせいかふにゃんと笑って
「いつも、ありがとーございま、す…」
と言うとまた寝てしまった。ん?さっき亜莎紀の目に一瞬光が宿った気がしたのは、気のせいだろうか。いや、確実に亜莎紀の黒い瞳は本来の輝きが戻っていた。
このまま行けば彼女は……本来の輝きを取り戻してくれるのだろうか。僕は口元を緩めながら亜莎紀のサラサラとした髪をすくって軽くキスをした。
「お休み、亜莎紀。いい夢を見るんだよ」
亜莎紀にお休みの挨拶をすると、僕は静かに部屋をあとにした。はぁ、僕の妹は可愛いなぁ。
お久しぶりです。最近更新を怠ってばかりなので、これから頑張って更新を早めていけたらなと思っております。2020年までに完結出来ることが目標です!亜莎紀ちゃんと碧斗くん達を温かく見守っていただくと共に、応援よろしくお願いします!!




