化け物と呼ばないで
目の前には職員室へ入るための扉がある。これを開けると危険地帯。
「ちゃんと猫被れよ」
それくらいできる。一応令嬢だし。まあ、今までがあれだったせいで評判は全然良くないけど、挽回するし。
「分かっていますよ、碧斗さん」
にっこりと笑った私。多分今は笑えても、職員室では笑えないだろうな。心を許した人にしか笑えないのかもしれない。うーん。でも何か他の事で笑っていたことがあった気がする…。もうどうでもいいや。こんなこと考えても何にもならないしね。
「変わり身早いな鈴野」
碧斗の口調は通常運営らしい。亜莎紀から鈴野に変わっているけど。
「ふふっ、ありがとうございます」
私が笑って(笑ったつもりで)お礼をすると、碧斗の顔が強張った。どうしたのだろう。
「鈴野…目が死んでるぞ」
駄目だ…職員室でボロが出てしまう。もうこうなったら無愛想ななクールキャラでいこう。
「もう笑うのはやめます」
私も通常運営でいいかな。意識しなくても私は悲しいことに無愛想なクールキャラに見られてしまうし。と言うか変わる前のあだ名人形だし。
「取り敢えず職員室に入りましょう」
「ああ、そうだな」
ガラリ
私はドアを開けると、
「失礼いたします。先ほど放送で呼ばれた1年の鈴野亜莎紀です。どういったご用件でしょうか」
ニコリともしない私に職員は目を鋭くした。そして隣にいる碧斗に驚き、直ぐに媚を売るような笑顔に変わった。そういう奴は嫌い。
彼、一応理事長の息子だからなぁ…。もしかして私が酷いこと言われないように来てくれた?でも意味ない気がするな。教員は私達が友人だと知っているのだろうか。いや、知らないかもしれない。周りを見渡してみたけど森岡先生はいなかった。やっぱり保健室か。と言うことは今この中に私の味方は碧斗だけになる。私の人脈…。
「どうして雪野木さんが職員室に?」
「俺は鈴野の友人だから、なにもしていない鈴野が職員室へ呼ばれていったのが心配でついて来たんだ。鈴野を傷つけたら口出しするがそれ以外は口出ししないので気にしないでくれ」
教師に敬語を使わないって…。やっぱりこう言う時に彼が理事長の息子であることを改めて感じるな。次期理事長だしね。
「そ、そんな…鈴野さんにはちょっと気になることがあって…別に悪いことも言わないので雪野木さんは一旦席を外していただけると…」
学年主任がいったけど、悪意しか感じないのは私だけだろうか…。多分碧斗が席を外した途端に私への一方的な職務質問的なものが始まるだろう。やってないとか違いますとか言っても信じてもらえなさそうだ。私は職務質問を受けに来たのではなくこれからは本気を出して頑張りますと言いに来ただけなのに。
「別に悪いことを言わないなら俺がいても大丈夫だろう?何かやましい事でもあるのか?」
職員室にさっきからあった不穏なオーラがその発言によってさらに増えてしまった。
「な、ないですけど…いくら鈴野さんの友人と言ってもこれは鈴野との話なので雪野木さんは…」
粘るな学年主任。とても嘘臭いんだけど。
「次期理事長がここにいても駄目なのか?」
これはこの学園にとってののチート発言だ。彼は次期理事長らしいし…、そっちも色々大変ね…。あぁ、こんな話してないか。
「いやっ、いいです。大丈夫です!好きなだけいてください!」
好きなだけは駄目な気がするな…。そんなどうでも良いことを私が考えてしまうくらいに学年主任は慌てていた。
「それで、さっきもお聞きしましたけど、ご用件は?」
早く家に帰りたい。ぐだぐたしすぎだ教員達よ…。
「一応、確認何だけど…鈴野さんは前のテストでは中間くらいでしたよね?どうしていきなり1位になるなんて可笑しいと思わない?」
「それにテストギリギリに退院しただろう?他の生徒からカンニングだとの声があがっているんだ」
そんな事だろうと思った…。めんどくさいなぁ…。
「私はそんな不正行為していません。と言うか私は全て10分で終わらせましたし、持っていたのはシャーペンではなく、普通の鉛筆です。先生がたは見ていたはずです。10分で終わらせて解答用紙を裏返したのを」
こんなことが言われるだろうと思って対策はしてきたのだ。わざわざ鉛筆を持ってきて、消しゴムは持ってこなかった。終わったら直ぐに裏返したし、それを先生は見ていた。ガン見していた。
「そっ、それでもカンニングを」
…しつこい!!
「そんなにカンニングだと疑うなら、今ここでテストに出なかった問題を出してみてください。全て答えます」
教員が無理だろうと言う目で私を見てきた。そして絶対1年生では答えられないであろう問題ばかり出してきた。性格が悪い。私は全部答えたけど。
「う、嘘だ…。前回の成績は何だったんだ…」
年のいった男の先生が頭を抱えていた。他の先生も苦い顔。こんなことになるなんて思ってもみなかったのだろう。横にいる碧斗とどや顔だ。何で碧斗がドヤッてるんだ。
「私は今まで本気を出していませんでした。目立ちたくないし、面倒だったので。けど、雪野木さんに出会って私は変わりたいと思いました。これが本当の私の成績です。寧ろ前の成績を取る私が可笑しかったんです。私はある人に勝ちたいんです。自分で言うのも難ですが、私は3年生よりも頭が良いです。大学生よりも。先生よりも良い自信があります。自惚れではありません」
「ば、化け物だ…」
1人の教師がそう言った。今世でそんなこと言われたの初めてだな。少し心が痛かった。けど、味方がいるから大丈夫、大丈夫…。
「今化け物って言ったのは誰だ」
碧斗が低く冷たい声で言った。そして思いっきり教員達を睨んでいた。
「鈴野は1人の人間だ。訂正しろ」
その言葉が、とてつもなく嬉しかった。味方がいるって、こんなにも安心するんだな。もう1人じゃ、ないから。
「ここは居心地が悪い。行こう、亜莎紀」
私は碧斗に腕を引っ張られた。何気に名前呼びに戻っている。
「ちょっと待て!鈴野は何故体育をよく休むんだ。運動神経はいいだろう!サボるのは良くない。苦情が来ているんだ」
最後にそれを言うか。つくづく面倒な教師だ。
「それは亜莎紀のっ…」
「碧斗さん黙って」
私の体の事について知っているのは碧斗だけだ。知られたら弱点になってしまう。次からは何がなんでも必ず授業に出よう。
「すみません、これからは出ます。お騒がせしました。失礼します」
私は碧斗と一緒に職員室を後にした。
すみません、昨日更新出来ませんでした。ブクマや評価、ありがとうございます。これからも頑張ります。




