ヒロインだけど、ヒロインじゃない。
いつしか頑張るのも、嬉しいと思うことも、悲しいと思うことも、泣くことも忘れていた。感情がめんどくさいとダルい以外なくなっていた。嗚呼、毎日がつまらない。私の名前は鈴野亜莎紀。
突然ですが、今から私は死のうと思います。
こうして私が心のなかで色々と考えている場所も、学園の屋上の端っこだったりする。
なんで死にたいのかって?もう生きるのにうんざりしたからだよ。お父様とお母様がくれた大切な命とか思ってないこともないけど、人はいずれ死ぬんだし、別にいいでしょ?
それに、私の体は弱いしね。もう、嫌になっちゃう。
たとえ自殺した未来が地獄だって、私は構わない。
ただ、2回目の人生になっても楽しいことがなかったと思う。
私は転生者だから。それに転生によくある乙女ゲームの中のヒロインに転生した。
どうしてヒロインなのに死のうとしてるんだって?
聞きたいなら聞かせてあげるよ。ここまでの私の人生を。そんなに長々と聞きたくないだろうから手短に、ね。
どうせ死ぬんだし、今までの事を思い返してみるのもいいかもね。
私がこの世界に生まれたときから、私は私の記憶があって、自我があった。自分の名前を聞いて、すぐに現状を理解した。
前世で誰とも関わりたくなくて引きこもりがちだった私に姉は必死に乙女ゲームについてを語った。私は記憶力がよくて、何回も言われたせいでそのゲームについて姉と同格に詳しくなってしまっていた。
その乙女ゲームの名前は「私が進む花の道」と言う。主人公は私、鈴野亜莎紀。鈴野グループの令嬢で、初等部から入学していながらも病弱なせいで高等部まで学園にこれなかったと言う設定だった。世間知らずで、いつももう突進で、無垢で純粋な少女。今までずっと家のなかで過ごしてきたせいで、外の世界に憧れていると言う設定もあった。
ゲームでの私は病弱が治っているけど、現実の私は、まず病弱は治っていない。最初から理解はしていたが、やっぱり乙女ゲームの世界と言えどこの世界は乙女ゲームとは違うのだ。でも、そこはゲームと同じであってほしかった。
そんな世界の中に1人、この世界を乙女ゲームだと信じきった人がいた。
このゲームには、最近では珍しい悪役令嬢が出てきて、ヒロインよりも家柄のいい悪役令嬢が、攻略対象と仲がいいのが気にくわなくて苛める系の悪役令嬢だった。攻略対象のうちの1人が悪役令嬢の婚約者で、そのルートに行くと絶対に悪役令嬢が死ぬと言う終わりかただった。死んだところでどうでもいいんだけど。その他は全て学園を退学だった。
話が戻るけど、私が何を言いたかったと言うと、その悪役令嬢も転生者だったと言うことだ。彼女は見ていてイラつくほどのお人好しで、優しい性格で、慈愛溢れる人だった。でもちょっとずれているところもあって、そこが可愛いと周りからは言われていた。私の苦手なタイプだ。周りからはお転婆女神様とか、ドジッコ聖女とか言われていた。そんなのいるわけないだろう。まあ、彼女は知らないみたいだけど。
なんで転生者だと分かったかと言うと、私が高等部に入ったときに彼女が、
「やっぱりヒロインが来たのね…絶対に破滅は回避しないと…でも、彼女が来ることによって私の友達がとられていくのね……友達をとられない方法はヒロインと仲良くなることだと思うわ!!なら…よし、友達になればいいのよ!」
と大きな一人言を言っていたのを聞いたからだった。なんでそんなに大きな声で一人言を言うのか分からなかった。
周りから女神だの聖女だの言われている彼女と私は仲良くなりたくなかった。誰とも関わりたくなかった。
乙女ゲームでは私がヒロインだが、ヒロインのような行動をとれなんて言われていない。私は私だ。めんどくさいことはしたくなかった。
彼女は無地覚で攻略対象の5人のうちの4人を攻略していた。
でも、それはそうだろう。彼女は乙女ゲームでは悪役令嬢でも、今は悪役令嬢でも何でもないのだから。でも、別にそれはよかったのだ。私を巻き込まなければ何でもよかった。1人でフラグ回避とか言うやつをしていればいい。でも、彼女は私を巻き込んだ。
高等部になってすぐに彼女は友達になりましょうと何度も言ってきた。「嫌」と何度も言ったのに何度も言ってきた。
正直彼女は単純過ぎると思っていた。
ある日「どうして友達になってくれないの?」と聞いてきた。そう言うところが嫌いなんだ。正直に「貴方の事が好きではないから」と言ったら、「友達になってから分かるところもあると思うの」と言ってきた。どうして彼女は私が友達になったからと言って彼女の事を理解してくれると思ったのだろうか。それをそのまま彼女に言ったら「亜莎紀さんって、最低だわ!」と言って去っていった。「お前がな」と言わなかった私を褒めてほしかった。
彼女の影響力は凄まじく、「恵利華様が友達になろうと言っていたのにそれを断って恵利華様を傷つけた人」と言う噂が広がるのは早かった。断ろうが断るまいが私の自由だと思った。悪役令嬢の名前は恵利華だった。呼びたくないから彼女で通す。彼女は「やめて、私が悪いの」と言っていた。皆の気持ちを煽ってどうするのだ。それからはダルいの一言だった。
上履きが捨てられていたり、汚されたり、制服が破られたり、捨てられたり、バッグが水浸しになっていたり、呼び出されて調子に乗るなと言われて叩かれたり、目につかないところを殴られたり教科書やノートが破られたり…。悪役令嬢もそこまでしていなかった。彼女がやめてといったせいで表立っていじめられることはなくなったが、裏でひっそりといじめられた。
何も抵抗しなかった私がいけなかったのかもしれない。でも大事になるのが面倒で、親にも言わなかった。
けど、私にも神経はある。殴られたら痛いし、叩かれたりするのも痛い。上履きや制服だってお父様とお母様が買ってくれたものだ。教科書やノートもただじゃない。けど、もう体が限界なのだ。休みの日は家でずっと寝ていた。最近は休みの日じゃなくても休むこともある。体育の授業なんて無理して出なくてよかったのに。出ないと言ったら「ズル休みはダメよ」と先生に言われたから。皆は私の病弱が治っていると思っているらしい。でも今まだ病弱と言っても面倒なことしか起きないだろう。
そこで私が考えたのが、屋上から飛び降りる事だった。ここからの距離なら確実に死ぬだろうし、彼女に会うこともない。唯一の心残りが親の事だが、跡取りならお兄様がいるし大丈夫だ。でも、私が死んだらどう思うのだろうか。……考えるのはやめよう。
楽になりたい。
私は屋上から飛び降りた。
あれ?どうして私は落ちていないんだろう。私は屋上に引き戻された。何かと思って後ろを見ると、そこには唯一彼女に攻略されていなかった攻略対象。雪野木碧斗がいた。
お読み頂きありがとうございます。これから完結まで頑張ります!!