第7話 未来へと進むための道
昼食を食べ終えたオレ達は場所を小屋の中に変えてさっき中断してしまった話の続きをする。
「そういえば、最初に聞いておかないといけないことだと思ったんだがお前のつけているその腕輪か? それを付けた途端に言葉が分かるようになったんだが、何かとてつもない力でも備えているのか?」
オレはファナリアが右の腕に付けている物に指さして確認する。
「これのこと? 他言語理解が付与されている腕輪よ」
「多言語理解って言葉から読み取ると外国の言葉も理解できるようになるようなものか?」
「その通りよ。実際には自分の声から出ている魔力や相手の声から出ている魔力を腕輪で変換して相手に伝わるようにしたものよ」
うん? 分かったような分からないような……。
「魔力って何だ?」
「えっ!? あんた魔力も解らないわけ!?」
魔力ってあの魔法の世界に出てくるような奴だよな。
「聞いたことはあるがどのようなものかは知らん」
「……分かったわ。教えてあげる」
ファナリアはそういうと魔力のことについて語りだす。
「まずね魔力っていうのはね生まれつき誰でも持っているものなの。それでその魔力っていうのはね個人差があって生まれてから今に至るまで魔力の量っていうのは決まっているのよ」
少し間が空く。気になることがあるなら何か質問しろと言いたいのだろう。特に今の所ないので黙っておくことにする。
「そして、その魔力を使って人は魔法を使うことが出来るの。例えば……」
と、ここでファナリアが目を瞑った。オレは何をするのだろうと黙って見続ける。
「ファナリアが願う……火の精霊よ……指先に火を灯したまえ……『火種』」
中二病のような事を言ってこいつ実はやばい奴なのではと一瞬思ってしまうが次の光景にそんな考えなど吹き飛んでしまう。
ファナリアの指先に小さな火が現れたのだ。
「どう? びっくりした? これが魔法よ」
ファナリアが胸を張って自分の火が灯った指先をほらほら凄いだろ~って感じで見せてくる。
「…………これは凄いな」
流石にオレもこんな異常事態を目にして言葉を失ってしまう。
「まあ、こんなのは基礎の中でも基礎だけどね。あんたも使おうと思えば魔法を使えるはずよ」
「ほんとか?」
「う……うん……」
いけないな。余りの嬉しさについ前のめりに突っ込んで行ってしまった。ほら、見てみろよ。さっきまであんなに自慢していたファナリアが魔法を使って驚いたオレのように言葉を失っている。
「ゴホンっ……あ~魔法はオレにも使える話というがどうやって使うんだ?」
気を取り直してさっきのことはなかったことにしてオレはファナリアに質問を返す。
「……あっ、えっと魔法は精霊に語り掛けるの。それで精霊から力を借りて詠唱通りに魔法を発動すること出来るのよ」
ふむ……精霊に語り掛けるか、なかなか興味深い話だ。
「質問だ。精霊に語り掛けるのはいいが、なら魔力の話はどうなったんだ?」
「そのことね。魔力ってのは精霊に捧げる供物みたいなものよ。捧げてもらった量に合わせてそれに見合った魔法が使うことが出来るの。ちなみに私が使ったのは村人でも使える初級魔法の『火種』よ」
「なら、早速魔法を使ってみたい。火種の使い方を教えてくれ」
「教えるも何も私と同じように詠唱をすれば誰でも使えるわよ?」
「そうなのか? ……やってみるか」
中二病みたいで嫌だけど力が手に入るのならやるしかない。
「あ~確か……利幸が願う……火の精霊よ……指先に火を灯したまえ……『火種』」
……………………。
………………。
…………。
……。
「おい、何も起こらないぞ」
めっちゃ恥ずかしい……。
「う、うそよ……魔法が使えないなんて……村人以下じゃない」
村人以下じゃない……村人以下……村人……。
ファナリアの最後に放った言葉が心に突き刺さる。
要するに村人でも使える魔法がオレには使えないということは一生魔法は使えないということだよな。
「待って、今のはたまたまミスしただけよ。違う魔法を使ってみましょう」
ファナリアは一瞬で思考を切り替えて別のことが原因だと考えたようだ。
いや、これどう見てもオレに魔法の適性がないってことだよな。オレ異世界人ぽいし……。
「今度はこれよ。ファナリアが願う……水の精霊よ……水の恵みをここに……『水球』」
ファナリアの手から突如手のひらサイズの丸い水の玉が現れる。
「ほら、あんたもやってみて」
「断る」
「何でよ!? さっきまであんなに乗り気だったわよね!」
「断る」
「はぁ……そこまで嫌なら無理強いはしないわ」
良かった、これで黒歴史になってしまうことをしなくて済む。すでに一度恥ずかしい台詞を言い放ってしまったが。
「さて、オレに魔法の適正がないと分かった所で一つ確かめたいことがある」
オレは一つ間を置く。今から話すことは出来れば隠しておきたかったけど力を得るためには黙っていては損するだけだ。だから、オレは尋ねた。
「あんたは身体強化の魔法を知っているか?」
そう、オレはファナリアに身体強化の秘密を探るために魔力の話をしていた。だが、聞いてみて魔法を実際に使おうとしたが結果は失敗。余計に身体強化について分からなくなってしまった。だって、魔法が使えないのなら身体強化の魔法は使えないはずなのだ。
だから、自分の力の一部を開示したとしても次のレベルに進むためにどうしても聞いておきたい。
「身体強化って上級魔法のあれよね、知ってるわよ」
ファナリアから驚きの答えが返ってきた。どうやら、身体強化の魔法はあるようだ。
「なら詳しく教えてくれないかどんな能力なのか?」
「どうしてよ?」
「もちろん、オレが使えるからだ」
「へ? …………あんた魔法使えないくせに身体強化は使えるっていうの?」
「その通りだ」
嘘を付いていると思われると余計にややこしくなるので、オレはなるべく真面目に答える。すると、ファナリアは剣を持って立ち上がった。
「なら、私と少し勝負をしましょ」
そういってファナリアはドアを開けるとそのまま外に出て行ってしまった。
「おいちょっと待て」
オレも扉を開けて出ていくと放物線を描いて何かが飛んできた。ファナリアが投げた物っぽいのでオレはそれを手にする。
それは銀色に輝くダガーだった。
「あんたが身体強化を使えるっいうなら私と勝負しなさい。そして、勝つことが出来たのなら身体強化について教えてあげていいわよ」
急に何を言い出すんだ? 勝負?
「それなら、オレはこの通り怪我をしているんだ。戦うなんて無理だぞ」
オレは腕の袖をまくって破いた服で巻かれた傷を見せる。
血で真っ赤に染まった服は見ているだけで痛々しいのであまり晒したりはしたくないのだが、勝負ということなら腕の怪我が結果に響く。
「ちょっとみせて」
だから、勝負は出来ないと言おうとしたところでファナリアが近づいてきてオレの腕を引っ張り、服を破いて結んでいる箇所を解く。
「これは、ひどいわね。かなり深くまで傷が付いているわ」
「ああ、一応言っておくが処置とかはしたし自然に待てば回復するはずだ」
「そんなの待たなくて大丈夫よ……ファナリアが願う、精霊よ、彼のものに祝福を与え、命の息吹を吹き返し、生命を活動したまえ『聖治癒』」
ファナリアが魔法を使うとたちまち腕の傷の辺りが光ったのと同時に傷が目に見える早さで塞がっていく。
「やば、これ……」
あんだけ酷かった傷が跡形もなく綺麗に消え去っている。これが魔法か……。
「特別よ。あんたが本気で戦えないと私には意味がないの」
「余計に意味が分からん。お前がオレと勝負して何の意味がある?」
「そのことは後よ。取り敢えず私と勝負しなさい。勝ったら私の知っている全てを教えてあげるわ」
「ほぉ……勝ったら全てか……」
急に戦いたいと言い出した意味は解らないが全て答えてくれるというなら好都合だ。ぼこぼこにしてオレには逆らえないと教えるのも良いかもしれないな。
「なら……行くぞ」
オレは身体全体に身体強化を浸透させてからファナリアに急速に接近する。
まずは様子見のため正面からダガーを振り下ろす。
ファナリアは軽々とオレの攻撃を受け流すと返す反動で逆に攻撃を仕掛けてくる。
それをオレはバックステップをしてかわしつつ距離をとる。
「ちっ……強いな」
今の一瞬でオレの力の方が上だということは分かったが、技術の差のせいか攻撃が当たるイメージが出来ない。
どこに攻撃しようとも全てを受け流し、抑え込み、逆に攻撃に利用されてしまう未来しか見えない。
だからといってこのまま何もしないわけにはいかないで今度はジグザグに動いて接近する。
また、ダガーを振り下ろす。
キィンと金属同士がぶつかり合う音が聴こえる。
完全にオレの動きを捉えてやがる。
オレはダガーを引っ込めると今度は逆の拳で攻撃を仕掛ける。だが、ファナリアは剣の鞘をオレの拳の方へと持っていき軽く受け流す。
「あんた、フェイントとか混ぜてないでしょ。攻撃が単純すぎるわよ」
「うるせぇ、そんなの分かってんよ!」
オレはもう一度ダガーで攻撃を仕掛ける。
オレはファナリアの言葉通りフェイントを混ぜながら攻撃を繰り出す。あいつの言葉通りにするのは癪だがオレの攻撃が前よりも通りやすくなり始めた。
右にダガーを振り下ろし拳で殴ると見せかけて左足で顎の下を狙う。腕で足を止められいったん下がろうと思ったが隙が出来たのを見て身体強化で腕力を向上させその場所に拳を叩き付けようとする。しかし、ファナリアはオレの攻撃を受け止め今度はこっちに隙が出来てしまう。
しまったと思った。ファナリアもオレと同じようにフェイントを仕掛けてくることを忘れていた。オレは身体強化を全身に使い強引にファナリアの前から離れる。
「チッ……」
強い。
オレの攻撃を簡単に受け流し、時には体の全体の動きを使って防ぐのもきついぐらい重い一撃を繰り出す。これで身体強化を使っていないというのがこいつの強さを表しているのだろう。
力は確実に俺の方が上だ。だが、それを超えてこいつの剣技はオレが思っていた以上に上だ。
「これか……」
こんな戦いの途中だがオレはあのライオンの化け物に勝てない理由を理解した。
やっぱり、戦闘経験の差や技術の差なのだろう。それをこいつとの戦いで実感することが出来た。
なら……あとは。
「おまえを倒せばいいだけだな!」
オレは身体強化を全身に送り込みファナリアへと近づく。
「ファナリアが願う、火の精霊よ、火の魂をここに生み出したまえ……『火球』」
突如、ファナリアの周りに拳サイズの火の玉が生まれオレへと突撃していく。
「オラァ!」
ダガーを一振り。オレの焼き尽くそうと襲ってきた火の玉を切る。
だが、それはおとりだ。
魔法を使ったファナリアは既にオレの横へと接近しており、手に持っている剣を振り下ろす。
それは既に予測済みだ。すぐにダガーを剣の前へと持ってくるとさっき、ファナリアがやったとの同じ方法で受け流す。
「え……?」
ファナリアから間抜けな声が漏れた。
もちろん、オレがその隙を見逃すはずもなくオレは一気に反撃を仕掛ける。
「オラァ!」
身体強化を腕に全て集中して高速の一撃を繰り出す。
だが、次の瞬間、オレの攻撃はあっさりと受け止められてしまう。
「やるわね。でも、この程度じゃまだまだよ……ファナリアが願う、精霊よ、我が身を依り代に、稀代の英雄を纏う、力を与えたまえ『身体強化』」
「くっ……!」
さっきよりもファナリアの持つ剣から伝わってくる力の強さが変わる。
オレは急な変化に一瞬だけ、剣を放しそうになったがなんとか耐える。
運がいいのか、悪いのか分からないがファナリアが身体強化をしたようだが力はまだ俺の方が上だった。
けど、このままだとオレは勝てない。
「はぁ……!」
ファナリアが一瞬でオレの横に出現し、剣を振り下ろす。
「クッ……!」
剣が重い。
さっきまでは攻撃を仕掛けることが出来るくらいの余裕があったが今は防御に回るのが精いっぱいだ。
そして、ファナリアは攻撃になった途端、剣筋が鋭く、早くなる。
ファナリアが剣を振り下ろす。それだけで、一つだけしか無かったはずの剣が三つにも四つにも分かれて見える。いや、実際には一瞬の間に何回も剣を交差させているだけだ。
それからの戦いは一方的だった。
オレがファナリアの攻撃を防ぎ、彼女がオレに攻撃を何回も何回も繰り出し続ける。
だが、いつまでもそうしているわけにはいかずファナリアが距離をとると魔法の詠唱を始めた。
「ファナリアが願う、火の精霊よ、火の魂をここに生み出したまえ……『火球』」
オレはファナリアの詠唱を止めに入ろうとしたがあまりにも距離をとられ過ぎていて近づく前に詠唱が終わってしまう。
ファナリアの前に手のひらサイズの火の玉が浮かぶと、次の瞬間には一斉にオレの方へと襲いかかってくる。
さらに、その後ろをファナリアが身体強化をした体で追いかけオレへと接近する。
「オラァ!」
正面から襲いかかってきた火の玉を切り裂く。
「『火球!』」
だが、いつの間にかもう一度詠唱を終えていたらしいファナリアが火の玉をオレに向けて飛ばしてきた。
オレは何とか火の玉を身体強化で強引にその場を脱出し、ファナリアに攻撃を仕掛けようとしたが、オレの行動を予測していたのか気付けば首元に剣の切り裂きが向けられていた。
「オレの……負けだ」
負けた……その事実がとてつもなく悔しい。
「ふぅ……あんた、なかなかやるわね。正直ここまで苦戦させられたのは久しぶりよ」
スッキリとした顔でファナリアはそういうがオレは逆に負けてイライラする。
「おまえの方が技術は上だった……」
「でも、力での勝負だったらあんたが上よ」
「確かにそうだが……」
チッ……負けたやつがこれ以上文句を言っても気を遣わせるだけか。
オレは潔く負けたことを認め、今回の戦闘で足りなかったことをいろいろ頭に思い浮かべながら反省する。
「で、おまえは何のためにオレに戦いを挑んだ?」
ここでふと思い出し、戦う前から気になっていたことを聞く。
「そ、それは……ち、ちょっと気になったことがあっただけよ!」
「なぜ、そこで大声を出す」
「っ! う、うるさいわね! 気になったことがあっただけよ本当に! あ、汗を少しかいてしまったから水浴びをしてくるわね。絶対に除かないこと!」
ファナリアは顔を真っ赤にして自分の言いたいことだけを言うと川の方向に歩きだしていった。
「一体なんだったんだ……」
オレは唖然とした状態でファナリアの後ろ姿を見てその背中に疑問をぶつけた。