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第4話 戦闘の果てに

 

「う゛う゛う゛……う゛う゛う゛」


 洞窟がカタカタと揺れている。地震が起きている……? いや、そんなのではない。これはオレが拘束を外そうと力を込めている影響で起きていることだ。


 じゃあ、この獣のような声は? もちろん、それもオレだ。


「う゛う゛う゛……う゛う゛う゛」


 洞窟の揺れがカタカタと揺れていたのが、ガタガタと揺れ出す。洞窟が限界を超えて崩れ落ちてオレが埋もれるのが先か、それともオレが脱出するのが先か。ちょっとでも気を抜いたら終わりなこの時、なぜかオレは抜け出すことができる自信を持っていた。


 根拠とかはない。ただ言わせてもらうなら第六感的なものが働いているのかも知れないな。


「う゛う゛う゛……!!」


 手足の拘束具にひびが入る。ピキピキと徐々に広がっていき、そして――。


「う゛う゛う゛……オラッァ!!」


 洞窟が壊れるよりも先に拘束具が壊れた。


「どこだ……あいつはどこだぁぁぁ!!」


 体が自由になったオレは血やら唾液やらで異臭を放っている服をそのままにあの化け物を探す。


 しかし、洞窟の中を探しても化け物の姿は見当たらない。外に出ているのか。


「どこだぁぁぁ!!」


 入り口から左右に二本しかなかった道の片側から出てきたオレはそのまま洞窟の外に出て、化け物に聞こえるように咆哮をあげる。


「グァァァァァ!!」


 同じように咆哮をあげた白い毛並みに赤い目を持ったライオンのような、いやそれよりも巨大な図体をした化け物は森の中から王者の風格を滲み出しながらゆっくりとこちらへと歩み出してきた。


「そんな近くにいたのか。なら、もっと早く出てこい」


 出てきた化け物の姿を見て、俺自身が冷静になっていく。


 身体を動かし、戦闘の準備をする。白い化け物はそんなオレをわざわざ待ってくれているのか襲ってくる様子はない。咆哮だけはうるさいが。


「さて……待たせたな」


 化け物の前へと進んでいく。一歩一歩互いの間合いを図るように慎重に進む。どんな攻撃がこようと対処できるように警戒しつつ。


「ここまで舐められるとはな」


 ついには化け物の真正面まで来てしまった。


 熱すぎる吐息に、獣臭い身体。正面から襲ってくるプレッシャーは強大でこいつがどれだけ化け物なのかをオレの本能が訴えてくる。


 逃げろ。危険だ。こいつには勝てないと。


「うっせぇ」


 すでに逃げるのは不可能だ。危険でもここで逃げたらオレ自身が許せない。それに――。


「まだ、負けたとは決まってない」


 オレの心臓に手を当てる。


 ドクドクと確かに生きている証拠を示すように鼓動が早くなっていく。


 緊張しているのだろう。当たり前だ。


 これからオレはオレ自身の意思で生きている生物を殺すのだ。怖くないわけがない。


 身体だってガチガチでこの化け物と戦闘に入ったらしっかりと思う通りに動いてくれるかも分からない。


 それでも――。


「やらないといけないんだよな」


 化け物の顔を見上げる。さっきよりも近づいたことによりきれいな白い毛並みが戦闘態勢に入ったのか鋭く尖っていた。


「見せてやるよ。オレの本気をな」


 身体中に力を籠める。すると、血の流れを感じることができる。さらに感覚を鋭くしていく。そうすると、血が流れている場所に別の器官のようなものがあり血でない別の何かが流れているのを感じる。


 ――これだ。


 意識を集中させていく、その間にも不思議な何かは身体中を駆け巡りオレに新たな力を分け与える。


 これをするのにわずか一秒。


 そうしてオレは自身の奥底から引きずり出した不思議な何かの名前を出す。


身体強化フィジカルアップ


 化け物の前に立っていたオレの姿が一瞬にして消えた。


「死ね」


 そして、一瞬で化け物の後ろへと回りこむと身体強化フィジカルアップで強化した足によって化け物を蹴り飛ばす。


 それだけで化け物は軽々と吹っ飛んでいき、木をいくつかなぎ倒しながら森の奥へと見えなくなっていく。


「こんなもんか」


 蹴り飛ばした足を見るが、化け物を蹴り飛ばした足には見えない細い足だ。どこにこんな力が出てくるのかは分からないが身体中に流れる何かを強く意識すると力が出ることだけは知っている。


 これがオレの新しい能力――身体強化フィジカルアップだ。


 実は洞窟を脱出するときからこの力を持っていた。お陰で力尽くで抜け出すことができた。


 まぁ、どうゆうわけで手に入れたのかとか、どうして簡単に使えてしまうのかとかは使っているオレ自身理解に苦しむが、とにかくここを切り抜けために必要な力なのなら有効利用する。副作用とかが後で襲ってこないか怖いが、まあどうにかなるだろう。


「ガアァァァァ――!!」


 遠くから化け物の怒りの遠吠えが聞こえた。それもかなり起こっている様子だ。それりゃさっきまで弱くて散々いたぶっていた奴に急に仕返しされたら怒るか。


「かかって来いよ。舐め腐れ切ったおまえの根性を俺がぶっ潰してやる」


 オレは再び身体中に力を意識して身体強化フィジカルアップを使用。それを目に集中させ視力を強化したオレははっきりと遠くで態勢を立て直している化け物を睨み付ける。


 化け物とオレの視線が合う。向こうもオレのことが見えているのだろう。さっきまであった余裕はすでに消えてなくなり、今は早く殺さないといけない相手だとして見られている。


 そうだ、それでいい。オレはおまえに対して敵意を抱け。ここにいるのは前までの食料だったオレじゃない。赤路 利幸という人間を止めて化け物の領域へと手を伸ばそうとする奴だ。


「ガアアァァァ――!」


 互いににらみ合いが続く中先に動いたのは化け物の方だった。


 居ても経ってもいられなくなったのか、四本の足で駆け出し、オレの元へと即座に接近してくる。


「だから、あまいって言ってんだよ」


 それに対してオレも身体強化フィジカルアップで足を強化。化け物と変わらないスピードで迫っていき、互いの拳と爪がぶつかり合う。


「ガアアァァ――!!」

「オラァァァ――!!」


 力と力の勝負。オレと化け物は互いに拳と爪をぶつけたあった状態から互いの手を掴み、組合になる。どちらも相手を押し返そうと全力で前のめりに力を籠める。


「ガアアァァァ――!!」

「オラよ!」


 まあ、俺がそんな勝負に真面目に取り合う必要などない。ある程度力と力をぶつけ合い、前に体重が乗ってきたのを確認するとオレは唐突に体重を斜め後ろにかける。


 それだけで前に体重を持ってきていた化け物は力の行き場を失い、前のめりに倒れていく。その間、オレは隙ができた化け物の背中へと回りこむと、足を振り上げ盛大に蹴り落してやる。


「ガァァ!?」


 化け物の腹全体が地面に打ち付けられそこそこ良い大きさのクレーターができ上がる。


「威力はばっちりだな」


 さすがにこれであの化け物も倒れただろう。


 そう決めて化け物が死んでいるのを確認して近づいていくのだが……。


「クッ……!」


 どうやら、死んでいなかったようだ。


 化け物はオレが近づいてくるのを狙っていたのか、ある程度の距離まで進むと唐突に腕を振り回してきた。


 最初に銀色の長い爪が目玉ギリギリを通り過ぎていった。チクリと痛みを感じる。どうやら目の周りにダメージを負ってしまったようだ。


 次に咄嗟に反応したのはいいものの急に来るのは予測できていなかったオレは腕をクロスにし、お腹に直撃するのは防げたのはいいものの衝撃を消し飛ばすことは失敗し、愚かにもさっきオレがやったことを再現するように幾つかの木々をなぎ倒しながら吹き飛ばされる。


「ガハァ――!!」


 背中の強い衝撃で肺を圧迫される。口から血を垂れ流し意識が飛びそうになるのを、近くに折れていた木を引き剥がし、尖っているところを自身の腕に突き刺すことによって痛みによって意識を保つ。


「やってくれるじゃねぇか……」


 まさか、オレと同じことをやられるとは……。向こうもそれだけ癇に障っているのだろう。けどな、オレも癇に障っているんだよ。


 このままやられているほど甘い根性はしていない。


 化け物が木々の間をくぐり抜けてオレへと襲いかかってくる。


「速いな」


 身体強化フィジカルアップで視力と反射神経などを強化していてどうにか対処できてはいるのだが、木々の間に隠れられてなおかつ速く動き回られるとどうにもならない。


「早くどうにかしないとな……」


 化け物が木々の間を縦横無尽に駆け回るせいでどこから来るか予測がつかない。現れては消え、また現れては消えを繰り返しているので、追いかけようにも難しい。


 それに身体強化フィジカルアップだけでどうにか倒すことができると踏んでいたのだが、あの化け物には身体強化フィジカルアップだけでは通用しそうにない。正面から殴り合った感じからしてまだ何かが足りないのだ。


「ガァァ――!!」

「上か――!!」


 いつの間に移動したのだろう。オレが気が付いたころにはすでにオレが吹き飛ばされてもたれていた折れかけの木の上から落下してきてオレへと襲いかかってくる。


「危ねぇなぁ!」


 地面に落ちている落ち葉をなるべく大量に掴み化け物へと舞い上げ、オレは横へと転がる。


「ガァァ――!!」

「間一髪か……」


 さっきオレがいた場所へと化け物が牙を突き立てていたが、そこにオレはいない。


 落ち葉によって視界を防いでいたおかげで狙いを変更せずに真っ直ぐと降りてきてくれたおかげで助かった。


 だが、問題はここからだ。


 いつまで経っても化け物の攻撃を避け続けていてもいずれは疲れがくる。その間にどうにか打開策を見つけないといけないのだが……。


「考える時間はくれないよな……」


 地面に深く突き刺さって、少し抜くのに苦戦していた牙を化け物が引き抜くと、今度は逃がさないとオレに視線を集中させて飛び掛かってくる。


「今度はこれだ」


 しばらく時間を稼ぐ必要がある。そう考えたオレは近くに使えそうなものがないかを捜してさっきオレが吹き飛ばされた時に一生に飛ばされて横で転がっている太い巨木たちを発見する。


 そして、俺はその中で比較的巨大な木を身体強化フィジカルアップで急いで持ち上げると化け物の攻撃を防ぐべく、体の前へと持っていく。


「ガァァ――!!」


 化け物はオレが巨大な木を盾にしていることを分かってはいるはずなのだが、そんなのは関係とないばかりにスピードを落とさず突っ込んできて、木ごと噛み砕こうとして――失敗する。


「あ、危ねぇ……」


 間一髪すれすれの本当に奇跡としか言えないぐらい危なかった。


 最初にオレが防ぐために使った木は易々と噛み砕かれて、ボロボロに砕け散ってしまっていた。もちろん、オレはそこまでこの森にある木の耐久力に期待していない。


 なら、どうするか。そんなの質がだめなら数でどうにかするしかない。


 幸運なことにオレの近くにはまだ何個かの木が転がっている。


 今度は転がっている二つの木を拾って化け物の攻撃を防ぐのだが、牙一つで最初の木は粉々に砕け散り、二つ目の木でようやく威力が軽減し、ちょうど服に牙が突き刺さるかというところで止まった。


 その間にオレは持っていた木々を放棄し、化け物に背中を見せて走り出す。


「ガァァ――!!」


 化け物は木々に深く牙を突き刺さって抜けない状態になりどうにか抜け出そうと暴れる。それだけで周囲に風圧が発生し、オレはバランスを崩しそうになりながらも態勢を立て直して走る。


「チッ! しつこい!」


 なるべく距離を離すために相手の目を誤魔化す仕掛けを使いつつ全力で最短距離と思われるルートを走るのだが、化け物は全て正面突破で突き進んでくる。化け物の速さが落ちることもなく無限にスタミナがあるとしか思えないほどずっとオレの背中に向かって。


 そして、ついには――。


「まじか……」


 オレは下を見下ろしていた。そこには今にも崩れ落ちそうな崖の上だった。


 オレが見下ろした先には大量の木々が生えていて遠くにはオレが目指していた場所の滝がかなり近くにまであるのが視界に入る。


「急いで引き返さないとな」


 崖と言ってもこの崖はかなりヤバい高さだ。ざっと見た感じで50メートルはあるのではないだろうか。


「ガアアァァァ――」

「どうやら手遅れのようだな……」


 崖の下から視線を外し、声が聞こえた場所へと振り向く。


 そこにはオレをようやく追い詰めて止めを刺そうと徐々に迫ってきている化け物がいた。


「クソッ……今回はオレの負けのようだな」


 悔しい。


 実力が足りなかった。時間がなかった。戦いに慣れていなかった。力の扱いが完璧では無かった。相手のことを知らなすぎた。


 考えれば考えるだけ反省点はいくらでも出てくる。


「次こそはおまえをぶっ倒してやる」


 まあ、色々と考えるのは止めてとにかくオレはこいつを倒してたい。純粋な思いを化け物へとぶつける。そして、その答えがオレを殺そうとゆっくりと恐怖を煽るように迫ってくる化け物なわけだが……。


「なんだ? そんな不思議そうにして?」


 どうして恐怖を感じないのか。怖くないのかという感じで化け物が不思議そうにけれど警戒を落とさないようにしてまた一歩迫ってくる。


「ああ、なんでオレが余裕かなのかってか――?」


 そんなの簡単だ。ここにたどり着いた時点でオレはそうすることに決めていた。まあ、この化け物との戦いは延長することになり、オレが負けを認める形になってしまうのだが。


「またな、化け物」


 オレは化け物に背を向けると、そのまま崖の下へと飛び込む。さすがにこんなことをするとは化け物も思っていなかったのか追いかけてくる様子はない。


 よし、それでいい。


 今のオレにこいつを殺すことはできない。なら、オレがすべきことは決まっている。


「まあ、それよりも問題は――」


 崖下で無事に生きているかってことか。


 オレは崖の下を見据え、どうやって生き延びるか命の全てをかけて思考を続け落下していくのだった。


まだ固有魔法が出ない……。

次は明日の23時頃に更新します。

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