第2話 蘇る転生者
まだ、少し寒さが残っているが僕の意識は次第に覚醒していく。そして、重たい目蓋をゆっくりと開けていくと……。
「えっ……」
なぜかさっきまでいたはずの雪山と違った場所にいた。
それも驚愕するには十分だが一番気になるのは僕が遭遇している状況だ。何故か僕の周囲の木が燃えている。そして、今にも僕の所に倒れてきそうで――。
「っ!」
僕はすぐに体を起こしてその場から離れる。すると、先程まで僕がいた場所に燃えている木が凪ぎ倒れてきた。
あ、危ない……。反応がもう少しでも遅れていたのなら本当に死んでいた。
……ん? 死んでいる?
「あっ!」
僕は慌てて自分の体を確認する。どこも怪我をしていないし、今はとても健康だ。少し体に何かが侵入する痛みをチクリと感じるが動くことはできる。
さっきまでの凍えるような寒さが全くといっていいほどなかった。
……可笑しくないだろうか。僕はさっきまで雪山で死んでいたはずなんだが……。
よく思い出せ。たしか雪の中で埋もれていてそれから目の前が真っ白になって……だめだ、ここから思い出せない。考え方を変えるんだ。あの時は冷たくてそれで……。
「いや、そのことよりも……」
今はここを離れないと不味い。
こんな所に居続けたら命がいくつあっても足りない。
僕は急いで離れようと辺りを再び見渡すがやはりどこも燃えていてどう抜け出せばいいかに迷う。けど、待っていても死ぬということは分かっているので進むことにした。
本当にここはどこなのだろうか。森の中なのは遭難していた時と変わらないが明らかに様子が違う。まず、ここは暖かすぎる。まるで春を迎えようとするかのような感じがする。次にここまでの火事が起こるのは本当におかしい。雪山で火事何てことあり得るはずがないし、ここはもしかしたら僕が元居た場所と違う所かもしれない。とにかく、優先するべきことは人と接触することだ。そこから情報を得て帰る算段をつけないと。
「それにしても……どこまでこの火事は続いているんだろう?」
近くにある炎を上げている木を見上げて僕はふと呟いていた。
「ここまで火事が広がっているのってひょっとして僕が思っていたより不味いことになっているのかな?」
幸いなのは僕が何とか歩ける道が確保できていることかな。偶に木が倒れてきたりするけどそれも注意して進んでいるしこのままいけば何とか抜けだせそうなんだけど。でも、油断大敵だ。一瞬でも気を抜いたら死ぬかもしれない場所にいるんだ。
「急ごう」
僕は少し歩くペースを上げる。時に火を我慢して突き抜けたり、煙で苦しくなったりしたが僕は火事の中から抜け出すことができた。
「ふう……ここまで来れば大丈夫だろう」
僕は切り立った崖の上から火事を見下ろしながら呟く。
あと、高い所から眺めたから気付いたことがあるんだがこの火事本当に危ない。僕が一、二時間歩いたところでも中心部辺りからかなり離れていたのだ。もし、発生源の近くになんかに居たりしたら丸焦げになっていたはず。
「さて……ここから見えるものといったら」
火事のお陰で見晴らしはいいし町か村でも発見できれば良かったのだが生憎、でかい滝とでかい鳥しか目立ったものはない……。
「でかい鳥?」
目を凝らしてもう一度よく見てみる。
「う~ん……。鳥?」
何かとても危険そうな雰囲気しか感じないしあんな生物、日本にいただろうか。一体ここで何が起こっているのやら。何かおかしなことが続けざまに起こるから返って冷静になる。
「取り敢えず滝に向かってみるしかないか」
最悪川があるだろうしそれを辿っていけば町に着くだろう。
「でも、夜だし今日はこの辺りで寝るしかないかな」
見晴らしも良いし無駄に動いて方角を間違ったりするのも大変だ。それに今日は結構な距離を歩いたからもう眠い。
僕は寝やすい所を探しそこで眠った。
★★★
視点変更 真雪
私と兄さんは修学旅行で雪山に来ました。早速兄さんと一緒に滑ろうと約束しましたがほかの人たちに誘われてしまい、断りにくくしぶしぶ付き合うことにしました。けれど、私は諦めません。しばらくしたら用事があると言って抜けることにしたのです。他の人との付き合いも大事でしょうがやっぱり兄さんと一緒に遊びたいです。
「兄さんがいない……」
最初に会う場所を決めていましたから急いで駆けつけましたが兄さんはいませんでした。やっぱり、約束を破ったから呆れてどこかに行ってしまったのかもしれません。すぐに兄さんに謝りに行かないと。
私は周囲の同級生たちに兄さんを知らないか聞いてみましたが見掛けてないよと答えが返ってくるばかりです。兄さんがいないなんて一大事です。
私は普通のコースを探すのを止めて上級者用のコースにいきます。兄さんはスキーはやったことがないですけどもしかしたらここにいるかもしれません。
しばらく探していると兄さんと同じクラスの工藤さんを見つけました。何時も一緒にいる二人もいます。
「あの、工藤さん……」
「……赤路の妹か? 何の用だ?」
「兄さんをこの辺りで見掛けませんでしたか?」
「あいつに何か用事でもあるのか?」
「一緒に滑る約束をしていて……遅れてしまったので謝ろうと思っているんです」
「そうか……あいつはここにはいないな。別の所を当たってくれ」
「そうですか……工藤さん時間を取ってしまってすいません」
「俺らはもう少しここにいると思うから困ったことがあったら来てくれ」
「はい、ありがとうございます。それでは失礼しますね」
やっぱりここには兄さんはいませんでしたね。
「……ちっ、あいつもいつかは……」
最後に工藤さんが小さく呟いたのが私に聞こえたけど、あいつ? ……気にしていても仕方ないですね。兄さんを早く探さないと。
あれからいろんな所を探して時間は過ぎていき夕方になりました。兄さんは結局見つけることができませんでした。夜になる前には集合しないといけないのでもうそろそろ戻らないといけません。兄さんに会ったらしっかりと謝らないといけません……。
「まゆき~~! はっはっは!」
突然、遠くで私を呼ぶ声が聴こえました。振り返ってみると小さい人影が段々と近寄ってきています。あれは……。
「みみちゃん!」
私の友達の加藤岡 美実ちゃんです。無駄に変な笑い方をよくしますが、昔から私とは仲良しのいい人なのです。
「まゆき探したんだよ。どこ行ってたの?」
「兄さんを探していました」
「まゆきのお兄さん?」
「はい。みみちゃんは兄さんを見なかった?」
「う~~ん待って。今思い出す…………」
みみちゃんは片手で頭を押さえると思い出そうとしているのかう~~ん、う~~んとずっと言っています。
「あ! 思い出した! そういえば解散になった直後に工藤くんに連れていかれてたよっ!」
「工藤さんにですか?」
「そうそうイケメンの工藤くんに!」
工藤さんに連れていかれていた? でも、私が会ったときは兄さんはいないと言っていました。なら、兄さんはどこに行ったのでしょうか? いや、それよりも……。
「工藤さんもイケメンかもしれませんが兄さんの方が断然かっこいいです!」
「出た! ブラコン! 本当まゆきはお兄さんのことが好きだよね」
「当然です!」
兄さんはいつでもかっこよくて私を守ってくれる自慢の兄さんです。
「けど、もう少しで集合時間だしそろそろ戻らないと不味いよ~まゆき」
「そうですね。もしかしたら兄さんも先に戻っているかもしれません」
「なら、早く戻ろうまゆき。なんだか寒くなってきたし」
結局、私は兄さんが戻っていることを信じて集合場所まで向かうことにしました。道中みみちゃんが心配し過ぎだよ~と言ってくれますが私は今日一日兄さんを見れていませんから不安で胸がいっぱいです。
「兄さんは……」
集合場所に着いたところで兄さんを探してみましたが見つけることはできませんでした。まだ、戻っていないようです。もう少し時間がありますからしばらく待てば戻って来るはずです。
「兄さん……兄さん」
時間ぎりぎりになっても兄さんが現れません。心配で私はもう一度外に出ようとしますが、みみちゃんに止められてしまいます。
「ほら、少し道に迷っているとかだよ」
「でも、兄さんが……」
そろそろ時間なのに兄さんが戻ってこない。一大事です! 兄さんなら早めに戻ってきていても不思議ではないはずなのですが……。
「ぐっぐぐっ! まゆき~~。行かせないよっ!」
「みみちゃん放してください! 兄さんを迎えに行かないと!」
「行かせないよ! ……そうだ! ねえまゆき」
「何ですかみみちゃん!」
「知ってる? いい女ってのは男が帰ってくるのを静かに待つものなんだよ」
静かに待つもの?
「だからね、まゆきもここで信じて帰ってくるのを待つほうがいいよ。お兄さんもそこまで子供じゃないんだし」
…………言われてみればその通りですね。私も少し急ぎ過ぎたかもしれません。
信じて待つこと……私の心にグッとくる言葉ですね。
「すいませんみみちゃん。私、少し焦りすぎました」
「分かってくれたらいいんだよ分かってくれたら」
みみちゃんが少し疲れた顔で二回同じことを言いました。みみちゃんには迷惑をかけっぱなしですね。今度何かお礼でもしましょう。
何て事を考えていると焦った表情の工藤さんが帰ってきました。
何かあったのでしょうか?
工藤さんは先生と何か話した後いつもの二人と会話をしていました。私はこれを見て何か嫌な予感がしました。何かこうモヤモヤした感じでしょうか? うまく表現できません。
そして、時間になっても兄さんは戻ってきませんでした。心配になって私は近くにいた先生に兄さんのことを尋ねると学年主任に聞きに行けと言われましたので向かいます。
「先生。あの、私に話とは何でしょうか?」
誰にも聞かれなさそうな個室に訪れた私は早速用事を聞いてみます。
「……赤路、単刀直入に言うが今から言うことは他言無用で頼む」
「はい」
「わたしからも言いにくいのだがな……」
先生はそういうと本当に言っていいのだろうかとためらいます。私が早く言ってくださいと急かすと先生は衝撃の言葉を口にします。
「――お前の兄が行方不明になった」
……えっ? …………今、先生は何を? 兄さんが……?
「すいません。良く聞こえなかったのでもう一度言ってもらっていいですか?」
「分かった。改めて言うぞ……お前の兄、赤路 利幸が行方不明になった」
「どういうことですか!? 兄さんが行方不明って!」
私は椅子から身を乗り出して先生に詰め寄ります。
「お、落ち着け赤路。詳しく話すから」
それから先生は兄さんが行方不明にどうしてなったのか私に教えてくれました。
話の流れはまず兄さんが工藤さんと、ある女性が落としたペンダントを探すところから始まります。兄さんと工藤さんは外に落ちていないか探していたらしいです。そして、気付いたら立ち入り禁止の場所を超えてしまっていたそうです。
そして、そこで悲劇が起こりました。
突如、兄さんが消えてしまったそうです。
工藤さんが兄さんを探しましたが、兄さんは見つかることはなく先生に報告する流れになったようです。
「というわけだ。警察を呼んだりして全力で探しているが今の所発見したとの報告はないんだ。……生徒への説明は後でしようと思っているのだが、赤路おまえは妹ということで先に教えておくことにする。くれぐれもこのことは――」
「っ! 兄さん!」
「おい! 待て!」
私は先生の言葉も聞かず部屋を出ていきます。
「兄さん兄さん兄さん」
兄さんが行方不明。嘘です嘘です。兄さんがそんな――。
「まゆき~先生との話なんだっ――まゆき?」
私は思わず近くにいたみみちゃんの胸の中に飛び込んでいました。
「にいざんがぁにいざんがぁ!」
「まゆきどうしたの!? と、取り敢えず落ち着いて」
もう何も考えることができません。涙が止まりません。兄さんがいない。そう思うと私は……。
「まゆき。ゆっくりで言いから先生から聞いたこと話してくれる?」
「にいざんがぁにいざんがぁ……ゆぐえふめいってぜんぜいぃがぜんぜいぃがぁ!」
「うん。うん……わかったよまゆき」
そのままみみちゃんは私を抱きしめたまま落ち着くのを待ってくれました。みみちゃんに抱き着いたまま私は兄さんのことを考えます。
兄さんは何時もかっこよくて私を守ってくれるとても素敵な兄です。でも、その反面ネガティブな所があって一度自分の責任だと感じ取ると最後まで引きずってしまいます。思えば七年前の事故も兄さんがいなければ私は助かっていなかった。兄さんが泣きながらも私を助けようとしていたのを覚えています。あの時に見た涙は私の記憶に今も色濃く残っています。だからこそ、今度は私が助けなければいけないのに私は今みみちゃんの胸の中で泣いています。兄さんは本当に凄いです。今の私と同じ気持ちになりながらも助けようとしたのですから。
今の私はどうしていいか分かりません。兄さんを探すべきでしょうか? それともこのまま待っていればいいのでしょうか?
兄さんなら私と立場が逆になったらどうするのでしょうか。
…………兄さんなら探索に強引に加わって探すでしょう。
そうでした。
兄さんはこんな時諦めずに自分で重みを背負いながらも一生懸命動きますよね。なのに、私がこんなところで立ち止まっていたら妹失格です。
私はみみちゃんの胸から顔を上げます。もう私は大丈夫だとみみちゃんの目を見て伝えます。
「まゆき……取り敢えず場所変えよっか」
「はい」
私とみみちゃんは一旦、場を取り直すために部屋に戻ることにしました。
戻る途中で私は窓から外を眺めると凄い吹雪が吹いています。でも大丈夫です、兄さんならきっとどこかで生き延びているはずですから。
★★★
視点変更 利幸
「う、う~~ん…………朝か」
翌朝、太陽が昇ると同時に僕は起きだした。少し起きるのが早いが一度目覚めてしまったものは仕方ないからこのまま起きることにする。
自分の体調を確認するが特におかしな所はない。あえて挙げるなら筋肉痛で足が痛いことだな。こんなことになるなら運動でもしとけばよかったと後悔する。
僕は昨日と同じように崖の上に立って辺りを見回してみる。昨日は火事の火でしか見えなかったが今日は太陽の光ではっきりとどこに何があるか捉えることができた。それにいつの間にか火事も収まっていた。
「あった……あれだな」
想像以上に大きい滝だが、あれなら見失うことはないだろう。
昨日寝る前にいろいろ考えたのだが、水のあるところに人がいると思い、一つの目標としてあの巨大な滝を目指すことにした。
「そういえば……一つ忘れてた」
昨日は色々あって意識していなかったが僕はお腹が凄い空いている。
「食べ物を探しながら進むしかないか……」
途中で木の実とかがあればいいのだけど、それだと焼け野原を通っていくわけにはいかないな。少し遠回りになるかもしれないが焼けていない所を通っていくしかなさそう。
「喉も乾いて来たし行こう」
僕は滝を目指して崖を降りる。
あと、昨日見た鳥なんだが今日見たら居なくなっていた。何か嫌な予感がしたからいなくなってくれるのは良かった。
欝蒼とした森の中を僕は休憩をすることなく歩く。偶に疲れでバランスを崩してこけそうになったりしたが、それ以外は問題なくさくさく進む。
そして、僕はついに念願の食べ物を発見した。
「えっと……」
だが、どこからどうみても食べ物ではあるが食べられそうにない。
だって、赤や青、白や明らかに毒があると思われる紫のキノコなどがそこら中にはえていたからだ。
「食べれるのかな?」
流石にこれは食べたら不味いだろう。でも、もうそろそろ限界が……近い。思わず手が伸びそうになったが何とか押さえつける。
グっ~~。
「っ!」
そろそろ限界のようだ。
「幾つか持っていくってことでいいかな?」
まあ一応持っておいて本当にヤバいときの非常食のためにいろんな色のキノコを? を持っていくことにした。ただ、紫色の明らかに毒があるキノコだけは採るのをやめておく。
「行こう」
再び僕は歩を進める。
歯切れが悪いので今日はあと、22時と23時に2話分更新します。