第16話盗賊道中
オレとファナリアが馬車での旅に出発してから三日が経った。
特に問題なども起こることはなく明日にはエンウィクロンへとたどり着こうとしている。
そんな中、オレは馬車から足を空中へと投げ出して座った状態で外を眺め続ける。
馬車の車輪がコロコロと回る音、綺麗な緑色で統一され日光を浴びて輝く森。たまに肌に当たる風がなぜかとても気持ちよく感じる。
心は自然と一体化している感じでとても心地よかった。
そうして、のんびりと景色を楽しんでいると急に馬車が止まった。
目的の町まではまだついていないのに何事だと御者に声をかけるとどうやら森の中から初級の魔物が現れて道を遮っているらしい。
「おかしいですね……街道に魔物が現れるなんてあまり聞いたことがありませんよ。……とにかく、邪魔ですね。すぐに倒してきますので少し待っていてください」
御者は腰につけている剣を鞘から抜き放つと魔物を討伐しに馬車から降りようとしたがそれをオレは肩を抑えて止める。
「やらなくていい。代わりにオレがやる」
「それはありがたいです」
ちょうどいい。オレは先日まで中級や上級の魔物しか相手をしていなかったので初級の魔物の実力を見るいい機会だ。ここで一般的な強さを知っておくことも大事だしな。
オレは御者を押しのけて馬車から降りるとその道を邪魔する初級の魔物と相対する。
最初、オレは相手が道の真ん中にいると思って馬車の正面へと立つ。だが、目の前にあるのは少し大きめの石しかない。
魔物はどこだ? と周囲を見回すが相手らしき存在はいない。
御者の言ったことは嘘だったのかと疑問に思ったのもつかの間、突如正面にある大きめの石が動き出す。
「おお……」
まさか、目の前にある石が動き出すとは思っていなかったので少し驚愕してしまう。だが、すぐに意識を切り替えてその初級の魔物らしきものを観察する。
よく見てみると、石だと思っていたものには不思議な点があった。見た目はそこらへんに落ちている石より大きいから少し注意がいくが何よりの特徴は正面についている目。その一つだけある目がこいつは魔物なのだと証明していた。
警戒しつつもオレは徐々に石の魔物へと接近していく。だが、石の魔物はコロコロと転がりゆっくりと近づくだけでそれ以外のことはしてこない。
互いにだんだんと距離が縮まり次の瞬間、石の魔物が動いた。
急に石の魔物は地面から跳ねるとオレの顔めがけて迫ってくる。
まずは、相手の攻撃力を知るために身体強化をした腕で石の魔物の攻撃を受けたのだが、軽い痛みが走っただけでそれ以上のことはなかった。
もう一度、石の魔物がオレに向かって跳ねてくる。
あまりにもゆっくりな動きだったためにオレは石の魔物を手でキャッチ。
そして、じっくりと体の仕組みを観察する。
「……ただの石ころだな」
特に外見に変わったことはないので身体強化を解除して石の魔物を素の力で潰すことができるか試してみる。
オレにギュッとされた石の魔物は急な圧迫に抜け出そうと身体を暴れだすがなかなか抜け出せず、目をぱちぱちとさせている。
そして、力で勝てないなら情に訴えようとしたのか石の魔物の目がウルウルとしてくる。
そうか……そんなにも死ぬのが嫌なのか。
オレはゆっくりとゆっくりと石の魔物を地面に置く。
そして、石の魔物はこいつ引っかかったなと急に殺意をむき出しにするとオレを襲おうと飛び上がろうとする。
「おっと」
だが、そんな行動は油断していないオレの前では意味がない。
身体強化をした足で踏みつけると石の魔物は粉々になってしまった。
……弱わ。
オレはこれ以上、用はないので馬車の中へと戻り、御者に馬車を進めてもらう。
「で、トシユキは何してたのよ?」
どうやら、ファナリアはうとうとして寝かけていたのでオレが石の魔物と戦っているのを見ていなかったらしい。まあ、戦いと言えるものでもないが。
ファナリアに石の魔物をらくらく踏み潰して天に帰っていったのを説明する。すると、石の魔物の名前が分かった。
「それって、コロストじゃない」
「コロストか……」
変な名前だな。
「そのコロストだが初級の魔物ってあんなにも弱いのか?」
「確かに弱いわね。村人でも魔法一発で倒せるくらい」
魔法一発で倒せるって……石ころにそんな大げさなことする必要あるのかよ。
ファナリアに更に話を聞くと初級の魔物コロストは本当に弱い魔物で魔物の中では一番弱いと言われているらしいことが分かった。
そうして、馬車を進めていくとやがて夜へとなった。
街道の逸れたところに泊まるために開けられている隙間に馬車を止めると夕食の準備をするべく動き出す。
そして、夕食を作り終えてから食べた後、近くにいたほかの商業者がオレに話しかけてきた。
「お兄さん、冒険者でしょ。どうですか、うちの商品を見て行ってください。ああ、別に見たからといって買ってくださいとは、いいません。ただ、欲しいものがあるかもしれないですしどうですか?」
物凄い熱弁と勢いでオレに迫ってくる商業者はオレが返答をする前に目の前に様々な品物を並べていく。
折角だから、どんなものがあるかだけ見ていこうということでいろいろ視線を向ける。
あるのは様々な種類の液体が入っている瓶、紙に円を描いてその中に変な模様が入っていたりするものがあった。
「これは何だ?」
その中でオレは変な模様が書いてある奴を指さして聞いてみる。
「それはですね、火の魔法陣ですよ。中には『炎槍』が入っています」
商業者に魔方陣が何の意味があるか分からなかったので更に深く尋ねてみる。
「こんな魔法陣か? 本当に役に立っているのか?」
「役に立っていないなどとんでもない! 魔法陣は魔法を唱える必要がなく、魔力を流すだけで発動することができるのですから冒険者なら必要なものですよ。どうやら、お客様は魔法陣を持っていないご様子。一枚どうですか? いざという時の強い味方ですよ?」
魔法陣か……確かに魔法を使えないオレからしたらかなり貴重なものになるだろう。
特に一瞬の命のやりとりの場面ではかなり有効になるだろう。
だが、オレには固有魔法がある。
「いや、いらん」
オレは見るだけ見てから行商人から離れていく。
そして、今日は馬車の中で寝ることになり、その中に簡易の寝具を敷いてから寝る。
そうして、段々と夜が更けてきた頃、突然地震が起きたような揺れが俺を襲う。
「なんだ……?」
すぐに外へ出ようと垂れさがっていた布をどけて顔を出すと馬車が猛スピードで走っていた。
「おい、一体何が起こった?」
オレは馬を必死になって操っている御者になぜ今、こんな状況になっているのか尋ねる。
「今、山賊に追われている最中なのですよ!」
「さんぞく?」
さんぞく……山賊か。つまり、あそこの休憩ポイントで休んでいる行商たちを狙って襲撃を仕掛けてきたというわけか。
オレは心を落ち着け現在の状況を客観的に捉えることにした。
今、オレとその周りを走っている馬車は山賊たちに追われている。どういう理由で襲撃から抜け出したのかは知らないが山賊たちから逃げ出した。だが、それで安心していいわけがない。山賊たちだって命がけなんだ。こんな簡単に逃げすはずがない……?
それなのに山賊たちが後ろから追いかけてきている様子も挟み撃ちにしようとしている様子もない。この先からは街道が複数に分かれていて逃げられたらもう追いかけることは不可能に近い。何か他に作戦でもあるのか……? いや、それとも無能である可能性も……。
色々現状について考えるがここで一つ気になる点が出てくる。
「おい、あいつがいないぞ?」
そう、ファナリアがこの馬車の中にいないのだ。
「お嬢様は『私が足止めをするわ!』と言って勝手に馬車を降りてしまいました!」
御者の人が今にも泣きそうになりながら大声をあげる。
「ちっ、あいつ勝手なことをしゃがって」
だからだ。今この周りにいる馬車たちが逃げられているのはファナリアが時間を稼いでいるのと道をどうにかして切り開いたからなのだろう。
「山賊の数は?」
「確か百はいました……」
もう、助からないと思ったのだろう。御者の人は悔しそうに溢す。
そりゃそうだ。自分よりも若い少女の命を犠牲にして生き延びているのだ。罪悪感を感じたとしてもおかしくはない。
「なら、馬車を先に進めておいてくれオレは降りる」
「……え? ちょっと……!?」
オレは馬車から身体強化を使った状態で飛び降りると馬車が進んでいる方向とは逆の向きに向かって走り出す。
くそっ……契約してから数日でこんなことになるとは。
正直言ってオレはファナリアをこのまま見殺しにして、なかったことにして行きたい。今もオレはファナリアに関しては旅についてくることを良く思っていない。ただ邪魔なだけだ。
だが、それでもオレにも譲れないものがある。契約をした……約束を交わしたのだから。
どんなに冷徹になろうと思っても……変わろうと思ってもオレが変えることのできなかった部分だ。それだけは今も昔も変わっていなかった。
だから、走る。
数分間走り続けるとやがて、遠くでで火花が散っている様子が見られた。それもたくさん。
「どけ!」
オレは円状に広がって背中を向けている山賊たちを殴り飛ばして中に入っていく。
円の中では今も戦闘が行われていて数十人が倒れている中をファナリアは一人、戦い続けていた。
「おい! 何をしてる! 離れるぞ!」
ファナリアの横に移動して簡潔にこれからすることだけを伝える。
「この数だと無理よ! それに……」
ファナリアが言いよどむが何を言いたいのかはすぐに分かった。
ファナリアが剣を振り下ろす。振り下ろされた剣は目に見えない速さで覆面をつけたやつへと迫ったが軽々と受け流されて攻撃を返されてしまう。それをファナリアが防御してからの攻撃。それでも、また受け流されカウンターを食らってしまっている。
「どけ! オレがやる! おまえは逃げ道を確保しろ!」
ファナリアと戦っている相手は相性が悪すぎる。だから、オレがファナリアの代わりに戦うことで少しでもこっちに状況を有利に進めようとする。
体全体を身体強化で強化してダガーで攻撃。覆面野郎はオレの攻撃を簡単に軽々と流してからカウンター。だが、そこで片手にもう一つ持っていたダガーで防ぐ。
なるほど……確かにどこにも隙はなさそうだ。どんな攻撃も受け流してから攻撃してきそうな気配がひしひしと感じる。
それでも、今は時間を稼ぐためにも相手をしないといけない。
オレは再び身体強化した状態でダガーを振り下ろす。もちろん、軽々と受け流させそうになるがここでダガーを離す。そして、空いた手をグーの形に握ると覆面野郎の鳩尾に一発叩きこむ。
正面から攻撃を食らった覆面野郎は剣を持ったまま吹き飛んでいき木にぶつかる。だが、それでも完全に気絶していないのかふらふらと立ち上がった。
くそっ……これでも倒れないのかよ。
「トシユキ!」
後ろからファナリアの声が聞こえてくる。どうやら逃げ道の確保が完了したのだろう。オレは覆面野郎とその他山賊たちの攻撃を警戒しつつもファナリアと共に相手の包囲網から抜け出す。
だが、相手がこのまま易々と見逃してくれるわけがない。
後ろから大量の魔法や矢が飛んでき、走って逃げているオレ達の背中めがけて襲ってくる。
「防げ!」
「まかせなさい! ファナリアが願う、水の精霊よ、大いなる滝を呼びよせたまえ……『水壁』」
ファナリアの詠唱によりオレ達と飛んでくる矢や魔法の間に水でできた滝が現れる。
だが、それだけでは相手の攻撃を全て防ぐことは叶わず、矢は全て水で威力を減少して抑えたが、風の魔法や土の魔法が水の滝を切り裂いてオレ達目掛けて襲いかかってくる。
「『雪魔法』」
オレは一旦足を止めて命中しそうな攻撃に的を絞り雪魔法によって残りの全ての攻撃を無効。再び逃走する。
しばらく走り続けたオレ達だが、またしても魔法の攻撃が飛んでくる。
「『身体強化』!」
オレは身体強化で最初よりも少なくなった魔法攻撃をぎりぎりの所で避け、ファナリアは剣を上手に扱い魔法を切ったりして自分へ命中するのを防いだ。
そして、相手の影が見えなくなるくらい距離を離し、オレ達は休むことなく先に行った馬車を追いかけた。
気付けばオレ達は数時間は走っており、朝日が昇ってしまっていた。
結局、馬車との合流を果たしたのはエンウィクロンの町の入り口の前だった。




