第15話 旅立ち
翌朝、オレは太陽が昇る少し前にふかふかのベッドの上で目が覚める。
前までは学校が始まる2時間前辺りに起きていたのだが、ここ数日で木の上で寝ることに慣れてしまったのだろう……逆にふかふかすぎるのと辺りを警戒していてあまり寝ることができなかった。
オレはベッドから降りると、昨日ダーディが用意してくれた黒と白が良い感じに調和した冒険者が使うらしい服を着る。
確かにこの服は動きやすいな。中も通気性がよくて涼しい。まあ、今は朝だから寒いが。
オレは扉を開けて廊下に出るとそのまま庭を目指して歩く。
そして、庭に出ると立てかけてあったオレお手製の木刀を取り、素振りをする。
この数日間ファナリアとの訓練で毎日素振りをしていたせいなのか昨日は少し落ち着かなかった。
だから、昨日の契約をする時、ダーディにこうして素振りをする所はないのかと尋ねたら、ここでしていいという許可を取ることができた。
しばらく素振りをしているとオレが出てきた場所からファナリアが出てくる。
「……」
「……」
互いに視線が合い、しばし無言になる。
先に口を開いたのはファナリアだ。
「なんであんたがここにいるのよ!?」
オレを指差して驚愕の声を上げる。
「いや、何でここにいると言われても聞いてなかったか?」
朝、ここでファナリアがいつも剣の訓練をしているとオレはダーディから聞いて使っていたのだが、どうやらファナリアには話が行き届いていなかったらしい。
それらのことをファナリアに話す。
「そんなこと聞いていないわよ……でも、トシユキだったら別にいいかも……」
「オレだったら……?」
「い、今のは、なしよ!?」
「なしって何がだ?」
「いいから忘れなさい!」
ファナリアが急に木剣を振り下ろしてくる。
「何すんだ、よ!?」
オレはファナリアの剣戟を受け止めると、すぐにはじき返して距離をとる。
「忘れなさいって言っているでしょ!」
ファナリアがまたしてもオレの頭を狙って切りかかってきた。いや、刃はないから気絶を狙っているのだろう。
「おまえの思い通りになると思うなよ」
オレもむきになってファナリアと剣戟をぶつけ合う。
こうして朝の訓練はファナリアとの模擬戦という形になってしまった。
こんな予定ではなかったのだがな……。
★★★
「「はぁ、はぁ、はぁ……」」
互いに仰向けに倒れて空から差し込む光を浴びる。
「トシユキ……やるように……なったじゃない」
「ああ……だが……お前な方がオレよりも……」
クソっ、ここまでやってまだ勝てないのかよ。
「二人ともおつかれのようだね」
オレ達が倒れている所にファナリアの兄が現れる。
「二人ともどうぞ」
どうやら、ファナリアの兄はオレ達にタオルと飲み物を私に来たらしい。それを受け取るとオレは汗を拭きとり水分を取る。
「それで、父さんから話を聞いたのだけどトシユキさんは今日にでも旅に出るって本当かい?」
「ああ、昼前には出ていく予定だ」
「寂しくなるね……」
「寂しいって……オレは来てからまだ一日もたっていないぞ?」
「それでもだよ……妹があそこまで楽しそうにしているのを見るのは久しぶりだったからね」
楽しそうって……どう見ても必死に剣を振っていたようにしか見えないのだが。
オレがそう言うとファナリアの兄はこう返してくる。
「説明するのは難しいんだけどね……いつも必死にやっている剣の練習が何だがいきいきとしているんだよね……」
「生き生きか……」
オレと兄は遠くで素振りをし始めたファナリアを見る。
相変わらず、真っ直ぐとした迷いを感じない剣筋だ。
オレに剣について分かるかと言われれば、あまり分からないがファナリアのは全く分からないオレでも何かを感じる。
こう……やっていてこれが生きがいというのが伝わってくるのだ。
ただ死なないために、強くなるために剣を振っているオレとは違う。
それをファナリアの兄も感じ取っているのだろう。
「さあ、そろそろ朝食の時間だしトシユキさんも、妹もそろそろ戻るように。では、ぼくはこれで……」
ファナリアの兄が家の中へと戻っていく。
庭に俺とファナリアだけが残される。
剣が楽しいか……。
オレは今も剣を振り続けているファナリアをみて何となく思う。
きっと、オレは剣が楽しいものとかそんなのを感じることはできないのかもしれないな。
だけど、オレと同じところもある。
それは――。
それが自分自身にとってなければならないものだからなんだろう。
★★★
朝食を食べ終えてからしばらくしてオレとファナリアは装備を整え門の前まで来ていた。
オレの服装は朝に着ていた白と黒が混じった服と似た動きやすい服だ。オレは意外と髪の色と似たこの服装が気に入っている。
一方、ファナリアはオレが最初に彼女を拾った時と同じ服装だ。服の色が白と赤というが最初拾った時と違うが。
ゴロゴロと車輪が転がる音が聴こえる。
昨日のうちに手配してもらっていた馬車が来たようだ。
オレとファナリアは馬車の中に荷物を詰め込むと馬車へと乗り込もうとする。だが、オレはすぐに乗ったのは良いのだが、ファナリアが町の住人と別れの挨拶をするためかなかなか乗り込まない。
「ファナリア様……どうか、元気で」
「ダーンも元気でね」
「ふぁなりあ様! いかないでよ!」
「ごめんね、私も私の行く道を見つけたの。だから、トールも自分の進む道を見つけるのよ」
「……う、うん。わかった! ふぁなりあ様のいうとおりじぶんのみちをみつける!」
「ファナリア様! 今まで言えなかったが……好きだ!」
「ごめんなさい……嬉しいけど友達としてなら私も好きよ」
「そんな……ぐすっ」
と、こんな感じで次々にそれぞれの見送りの言葉をファナリアに送る。
オレが少しイライラしていると気をつかったのか近くにダーディが寄ってくる。
「すまないねトシユキくん……娘はこの通り町では人気者なんだよ」
「そうみたいだな」
「もう少し時間がかかりそうだし、トシユキくん。代わりと言っては何だか気になることがあるなら言ってほしい。私の応えられる範囲で答えよう」
「なら、次の町の情報をくれ」
と、いうことでダーディの話を聞きながら次に向かう街をどこにするか考える。
ダーディの話によるとここの近くではウェストよりも大きな町はないみたいだ。だから、しばらくは時間がかかるだろうから商業が発展している町、エンウィクロンをお勧めされた。
王都に近くてそこなら商業の都市ということもありたくさんの情報が集まるだろう言われた。
まあ、それ以外に選択肢もなさそうなのでエンウィクロンという都市を目指すことにする。
「他には聞きたいことはあるかね?」
「そうだな……」
もう時間もないだろうし一番気になっていることを聞くことにしようか。
「なら、固有魔法、または身体強化について教えてくれ」
「固有魔法に、身体強化かい?」
「ああ、そうだ。固有魔法が他に使える奴がいたのならどんな固有魔法かが知りたい」
「ふむ……なら、まず私が知っている限りのトシユキくん以外の固有魔法について話そう」
そうしてダーディはほかの固有魔法使いに関してのことを教えてもらう。
まず、有名なのは精霊国と呼ばれる精霊都にいる固有魔法使いについてだ。
精霊国には五つの魔法を司る精霊を奉る協会があり、その一つの固有魔法の教会の教祖をやっている人が固有魔法を使えるとのこと。だが、ダーディが知っているのはそこまでだった。固有魔法の教会の教祖をやっている人が固有魔法を使えることは分かっているらしいのだが、(というか固有魔法を使えないと固有魔法の教会の教祖はできないらしい)詳しい魔法名までは誰も知らないようだ。
だが、固有魔法を使える人ならほかに有名な人が多くいるらしい。
西の方に行くと、光源魔法を使うエーリヒ・タルナトと呼ばれる人物が有名らしい。まあ、オレは東の方に行くから会う機会はないだろうな。だが、驚くのはその後に聞いた発言だった。どうやら、そのエーリヒ・タルナトいう奴はオレと同じで異世界から来た人間らしい。外国人か? と思い、どこの国から来たが聞いたが分からないと返ってきた。流石にそこまで詳しい情報を把握しているわけはないか。
他にはこの辺で最近名を挙げているらしい重力魔法の使い手であるトムー・ジェイソンと呼ばれる人物が有名らしい。
その他にいろいろと固有魔法について聞いたのだが、その中に日本人と思われる人物はいなかった。まあ、地球から見たら日本なんて小さな国なのだからここに来る確率なんて低いよな……。
「ああ……それで、最初に聞いたエーリ……なんとかだったけか? そいつが行方不明ってどういうことだ?」
話は最初の方に戻り光源魔法の使い手であるエー……何とかの話に戻り、オレはダーディから聞いた話から急に深刻な話に変わったので聞き返す。
「うむ……これはあまり知られていない話なのだがな……」
ダーディがまたしても言いにくそうにしているが固有魔法の使い手が失踪するということはオレにも関係があることなのだろう。
「トシユキくん……前に固有魔法の使い手が最後にどういう結末を辿るかは覚えているかね?」
「ああ……確か、固有魔法の使い手は王族の傀儡に成り下がる話だったな」
「簡潔にまとめるとそういうことになる。だが、これには続きがまだあるのだ」
「続きっ? おいおい、奴隷になってからもまだあるのかよ」
「まあ、そんなに嫌がらないでほしい。これはトシユキくん……君にきっと関係のあることだ」
やはりか……いい話ではなさそうということで余り聞きたくないが、もしもの最悪を回避するためにも聞かないといけないのだろうな。
「乗り気ではないが、そういうことなら聞かせてくれ」
そして、オレはダーディから固有魔法の使い手の最後について語られる。
「最初に結果だけ告げるとこの世界に来た異世界人やこの世界で固有魔法を獲得してきた人たちはなぜか消えてなくなるという最後を遂げるのだよ」
消えてなくなるか……。
「トシユキくんが信じられないのは分かっている。急にこんな話をして現実を理解できる人もいないだろう。だが、これは真実だよ。紛れもない」
ダーディがオレの目を覗き込み、一言一句オレに聞かせるように話す。
「なら、根拠は何だ? 確かにそういうことがあるのは分かった。だが、普通人間は消えてなくならないだろう?」
「もちろん、ちゃんとした根拠はある。これは私が伝え聞いた話なのだがね……固有魔法使い以外にもその周りの人たちが一緒に消えてなくなるということがあるのだよ。そして、ちょうど、巻き込まれて消えてしまうのを逃れた人が見たと言っていたのだよ――穴の中に吸い込まれて行ったと」
それから、色々とダーディに話を聞いていったオレだが結局は理解できなかった。唯一言えることは異世界だからそういう現象があるのかもしれないということだ。
「なら、なぜあいつを連れて行く? わざわざ自分の娘を危険にさらすことはないだろ?」
オレは穴の話を聞いてから気になっていたことをダーディに聞き返す。
「もちろん、私も娘を旅に連れて行くことは心配だ。だけど、それ以上に娘の意志を私は大切にしたいと思っているのだよ」
まあ、親の教育は人それぞれか。それに文句を言う資格もオレにはない。ここは分かったことにしておこう。
「後、トシユキくん……か――」
「遅れちゃってごめんなさい」
ダーディが何か口を開こうとしたところでファナリアが馬車へと駆け寄ってくる。
「リア、もう町の人たちとの挨拶はすんだのかね?」
「うん、これ以上長いこと話してたらここに残りたくなってきちゃうかもしれないからもう行くね」
「そうか……」
ダーディの表情に影が差す。やはり、自分の娘と離れるのは寂しいのだろう。
「すまないねリア。これ以上、私は力になってあげることができないようだ」
「ううん、いいの。お父さんは今まで私のために何でもやってきてくれたよね……私、すごくうれしかった。だから、今後迷惑をかけないためにも私は行くね」
「困ったことがあったらいつでも帰ってきなさい。それとこれを受け取ってもらえないか」
そうして、ダーディはオレに話しかけてきた時から後ろに隠していた真っ赤な鞘を渡す。
「お父さんこれ……」
「抜いてみなさい」
ダーディか進めるがまま、真っ赤な鞘から持ち手を引き抜くと、そこには鞘以上に真っ赤な真紅の剣が現れた。
「私からのお守りだ。どうかその剣を使ってほしい。きっと、リアの旅に役立つものになるはずだから」
「お父さん――ありがとう。絶対大事にするね」
ファナリアは言葉の通り本当に大切に剣を抱き締めた。剣に託された想いを受け継ぐように。
「それじゃトシユキ、私は先に馬車に乗るわね」
ファナリアがオレの横を通り過ぎ馬車の中へと消えていく。
「トシユキくん……娘のことをよろしく頼む」
そう言ってダーディは前にファナリアが見せたように土下座をしようとするがオレは急いでそれを阻止する。
なんで前にあれだけ言ったのに土下座しようとするんだ……。
「契約だからな」
オレはダーディに背を向けてファナリアと同じように馬車の中へと入っていく。
そして、オレはダーディが事前に雇ってくれていた御者に行くように伝える。
馬車が少し揺れてからゆっくりと動き出した。
いよいよ、オレとファナリアの旅が始まる。
ふと、オレは視線をファナリアの方に向ける。
そこには馬車の後ろから顔を出して見送りをしてくれている人たちに大振りで手を振っている少女がいた。
そして、それは町の人たちが見えなくなるまでずっと続いた。




