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第14話 これからの行方


 なぜ知っている? 最初に頭に思い浮かんだ言葉はこれだ。


 ダーディは今も真剣な表情でオレの答えを待っている。その眼には何か確信を持っているようで嘘をついたらすぐにばれてしまうことが分かる。


 だから、オレは正直に話すことにした。


「そうだ。オレはそっちでいう異世界人とかなんだろう」


 異世界人――単語から別の世界の人のことを表す言葉なのだろうと推測してからダーディの言葉に肯定する。


「やはり、娘の思った通りだったか……」

「ん? あいつはオレが別の世界から来ていたことを何となくわかっていたという訳か?」


 オレは一回もファナリアに元の世界のことなど話してなどいないのだが。


「リアはもしかしたらそうかもしれないと言っていた。私も娘から話を聞いてそうなのだなと納得もした」


 ダーディはオレをなぜ異世界人だと確信していたか。という疑問について応えようと話を促してくる。


「リアから聞いたのだがトシユキくんは――『固有魔法オリジナル』が使えると聞いている。それは間違いないないのだね?」

「否定はしない」

「それだけでも十分異世界人だと推測できる」

固有魔法オリジナルだけでか?」

「まあ、それだけが全てというわけではないのだがトシユキくんがこの辺りに詳しくなく、着ている服もこの辺りでは見ない珍しいものだ。それに、君が金貨を見た時の反応で確信を深めることができた」


 次々にオレが異世界人ではないか思った根拠を述べているが地味に金貨を渡すことにしても複数のことを同時にやってのけることからこの人は只者ではないということだけは理解した。


 そして、何よりもダーディが異世界人のことについて知っているということはオレにとって一つの嬉報をもたらすことになる。


「つまり、オレ以外にも異世界人がいるというわけだな」


 オレはさっきの驚かされたことの仕返しに数段飛び越えた先のことを尋ねた。


 ダーディは今の話の中でオレがここまで考え付いてくるとは思っていなかったのか少し目を見開いた後、笑い出す。


「ハハハ! トシユキくんは私の推測を聞いただけでそこまで繋がってくるのか!」


 ダーディはソファから身を乗り出すとオレに詰め寄ってきて嬉しそうに聞いてくる。


「ああ……というか近いから座れ」

「あ……すまない。少し興奮してしまった」


 ダーディは申し訳なさそうに座り直す。


「話が脱線してしまったね。まあ、事前の説明はここまでにしてトシユキくんには『固有魔法オリジナル』の権威と危険について知ってもらいたいと思っているのだよ」

固有魔法オリジナルが危険?」


 あんなどうにもならなくて、役にもたたない糞魔法がか?


「どうやら、トシユキくんはまだ固有魔法オリジナルをよく理解していないようだね」

「まあ、そうだな」

「それなら、固有魔法オリジナルがどういうものなのかという所から話そう」


 そういうとダーディはオレに固有魔法オリジナルのことについて語った。


 聞いた話はファナリアがオレに一度説明してくれた通りの内容と変わりはなかった。だが、ひとつだけ気になることがあった。


「要するに、固有魔法オリジナルは通常の魔法と違って、詠唱を必要としないうえに、強力な魔法というわけか……」

「おおまかにいうとその通りだね。だが、トシユキくんが使っていた雪魔法スノーマジックはかなり特殊なようだ……」


 と、ここでダーディは喋るのを止めてしまう。


「なんだ? まだ言うことがあるなら言ってくれ」


 オレも良い所で話が止まってしまったのでダーディに話の続きを促すのだが、次の言葉にオレは頭を悩ますことになる。


「トシユキくん……これは実に言いにくいことなのだが……正直に言わせてもらうと――――君の固有魔法オリジナルはどの固有魔法オリジナルの中でも最弱だと言わざる終えない……」

「やはりか……」


 さっきまで話で盛り上がっていた応接室が幻だったかのように静かになる。


「まあ、もうオレが手に入れてしまった力だ。こっちで使えるところまで使いぬいていくまでだ」


 もう、固有魔法オリジナルを変えることなんて、できないのだろ? と付け加えて話を戻すように促す。


「ゴホッン、トシユキくんがそこまで理解してくれたのなら後は簡単な話だ。トシユキは固有魔法オリジナルを持った人がどんな人生を歩んでいっているかは知っているか?」

固有魔法オリジナルをもって人の人生ね……知らんな」

「だいたいは、国の特別魔術師となるか、冒険者で活躍するのだが、その人生は波乱と混乱であふれている。私の予想では君も固有魔法オリジナルに選ばれたからにはそれなりの波乱と混乱に巻き込まれることは充分あるだろう。事実、君は私の所に訪れて来なかったら王族に奴隷として買われていたのかもしれないしね」


 奴隷ね……。それだけ固有魔法オリジナルには価値があるということか。それもかなりの権威を持つこともできると。


「ということは、オレに何か求めているととらえていいわけだな?」

「まさか、娘の命の恩人にそこまで酷いことを頼むわけではないよ」


 否定はしない。つまり、オレに何か頼みがあるというわけか。


「分かった聞いてやる。王族に差し出されるのも嫌だしな」


 ダーディが貴族ということは後ろには必ず王族がいる。つまり、強制はしないが話を聞いてくれないと国に引き渡すというわけだな。


「なに、話は簡単だ。君はこれからこの世界で何をしていくつもりかね?」

「やることも特にないし、しばらくは旅でもするつもりだ」

「なら、その旅に娘を連れて行ってくれないだろうか?」

「何?」


 ファナリアを旅に連れて行くだと? 一体何を考えている?


「理由を教えろ」


 取り敢えず、ダーディに裏がないか聞いてから受けるか引き受けないか決めよう。もちろん、今は引き受ける気などさらさらないが。


「まあ、簡単に説明すると、娘が君についていきたいといったのが一番の理由なのだよ」

「あいつがついて行きたいだと?」

「今まで我が儘一つも言わなかった娘の頼みだ。私としては意地でも君に引き受けてほしいわけだ。もちろん、それ相応の報酬も与えるつもりだ」

「報酬ね……具体的には?」

「今、君が付けている翻訳の腕輪……それは私が娘に与えたものでね……それを君に譲るというのはどうかね?」


 ダーディはこれなら引き受けてくれるだろうという感じでオレの次の言葉を待っている。


 ちくしょう……向こうはオレが異世界人でこの翻訳の腕輪? がないと言葉が通じないことを理解している。


 オレにこれを断るすべはない。


 オレが一方的に損をするわけでもないのだから。


 だが、ここで引き下がってはオレとしても納得がいかないのでふと、思いついたことを述べる。


「なら、本人を呼んできて、直接俺にお願いしろ。そうすればオレは……引き受ける」


 負けた……。


 オレの言っていることはどこからどう見ても負け惜しみだ。


 完全に相手の掌に乗せられて踊らされた。たぶん、ダーディは事前にオレの情報を手に入れてからどうするかいろいろ考えていたのだろう。それに対してオレは相手のことも何もわかっていなくて、急に応接室に呼び出されてからのいきなりの交渉だ。


 これで、オレが勝てと言われても難しすぎるとしか言えない。


「娘をすぐに呼んでこよう」


 ダーディはソファから立ち上がると、扉を開けて出ていく。


 数分間待っていると、扉が開きダーディが入ってくる。


 その次にダーディの後ろに続いて、私服に着替えたファナリアが入ってくる。ちなみに私服は村人が着ていそうな何の特徴もない普通の動きやすそうなものだ。


「お父さん話って何よ?」


 どうやら、ダーディはファナリアに説明することなく呼び出したようだ。


「ああ、リア。さっきも話した通り彼が異世界人であることは分かった。そして、リアの希望も分かっている。それを踏まえて彼に……トシユキくんに直接お願いしてくれないかな?」

「えっ……?」


 ファナリアはダーディからそんなことを言われると思っていなかったのかしばし、体が硬直したように動かなくなる。


 そして、次に顔が真っ赤になる。


「ほ、本当にお願いしないといけないのよね………」

「ああ、後はリアがお願いしてくれたら希望通りに事が進む」

「わ、分かったわ……」


 ファナリアはまだ顔を赤くしたまま扉の前からオレの前へと移動する。


 互いに視線が交差する。


 すると、オレはファナリアが今にも泣きだしそうになっているのに気付いた。


 そんなに嫌なのか?


 オレがここからどうしようか迷っていると、ファナリアが動き出す。


 まず、膝を折り曲げて膝から足首まで地面へと接して座る。


 一度、気を引き締めるためかファナリアは背筋を一回ピィンとするとそのままの状態を崩すことなく地面へと頭をつける。それと同時に両手は前の方に移動させていた。


「……」


 土下座だ……。


「私を……一緒に旅に連れて行ってください……お願いします」


 今、見た光景が信じられなくてオレは目をこすってからもう一度ファナリアを視界に納めるが変わらず土下座の状態でいる。


「は、早く……」

「なんだ? よく聞こえないぞ?」


 ファナリアが言いにくそうにしているので耳をすませる。


「だから、早く……」

「うん?」


 もう一度、耳を近づけてみるがよく聞こえない。


「早く踏みなさいよ!!」


 は? …………は?


 待て、よく考えろオレ。これはいったいどういうことだ。今、目の前ではファナリアが頭を下げている。それも土下座で。さらにオレに踏めと言ってきている。


 ……何がどうなっているんだ?


 取り敢えず、ファナリアが踏めというので頭をグリグリと踏みつけておく。


 だが、すぐに本当にこんなことをやっていいのだろうかと感じ足を退けた。


「いや、待て! いったいこれは何だよ!」


 オレは思わずこの状況にツッコミを入れて立ち上がる。


 それに反応して返してくれたのはダーディだ。


「何をと言われても……トシユキくんたち異世界人がお願いをする時はこうするものだと聞いていたのだが……何か不満でもあっただろうか?」

「不満とかそんなことじゃねぇよ!」


 誰だよ! こんな変な文化を教えた奴は!


「はぁ、はぁ……これ以上叫ぶのもばからしい……。分かった、おまえを旅に連れて行くのは認めよう。だが、オレの邪魔をするなら容赦なくおいていくからな」


 オレはソファに深くもたれかかりながら座る。


「では、もう少し細かい所を詰めていくことにしようかトシユキくん」


 なぜか、ダーディが笑顔でいるのがうざいと思いつつも契約の細かい所を話し合った。


 話し合った内容はまず、旅に連れて行く期間、これは二年間がちょうどいいということで話が付いた。今から二年後にもし、ファナリアがいたらここに連れて戻ってくるという予定だ。


 だが、これには更に条件を盛りこんだ。


 もしも、ファナリアとオレ、両人がこれ以上一緒に旅をしたくないとなった時、契約はそこで終了。報酬はファナリアが戻った後に、オレの元に届くということになる。


 金に関しては前金に報酬の半分をオレに渡し、契約完了後に残りの報酬を渡すことになった。


 その他に関しては話したら長くなるのでここでは割愛する。


「そういえば……トシユキくんはもう宿泊する宿屋は見つけたかね……?」

「いいや、まだだ」

「なら、ちょうどいい今日はもうこんな時間になってしまったし泊まっていくといい」


 そう言ってダーディが外を見ると既に夕日が沈もうとしていた。


 契約の内容を話し合っているうちにあっという間に時間が過ぎてしまったようだ。


「そうだな……」

「ついでにもうすぐで夕食の時間だからトシユキくんを食事に招待しようと思っているのもある、どうかね?」


 オレがどう返答しようか迷っているとダーディは断られるとでも思ったのかものすごい勢いで進めてくる。


「ああ、分かった。今日はその言葉に甘えさせてもらう」


 オレは断る理由がなかったのでダーディの申し出を受け入れる。


 こうして、オレがこの町――ウェストに着いた初日が終わろうとしていた。




 ★★★

 視点変更 ダーディ




 暗い世界の中にぽつぽつと光輝く星明りと月の明かりが窓から私を照らす。


 私は机の上に置いてあるグラスを取ると、綺麗な星や月を肴にワインを喉に通す。


「ようやくこの時が……」


 ふと、ぽつりと私の口から言葉が漏れた。どうやら、酔ってしまっているようだ。


 だが、仕方ないことだ。今、私の胸の中は途轍もない歓喜で満たされているのだから。


 ――固有魔法オリジナルの使い手。


 まさか、私がいる領地にこの世界から来たばかりの異世界人がここにくるとは思わなかったのだから。


 こんな幸運、もう一生こないだろう。


 もしも、彼が私の所に来なかったらきっと他の貴族たちが嬉々としてもてなしてから王族に紹介するだろう。そして、固有魔法オリジナルの使い手は王族に取り込まれてしまう。


 だが、実際に固有魔法オリジナルの使い手は私の元を訪れた。行方不明だった私の娘を連れて……。


 もしかしたらこれは幸運とかではなく、運命なのかもしれない。


 真面目で、誰に対しても優しくて、なのに深くは関わろうとしてこなかった娘があんなにも心から感情を表に出しているのだから。


 思えば、娘があんなにも感情を出さなくなったのは七年前からだった。


 当時、元々患っていた病気が悪化して寝込んでいた妻が亡くなった時から娘はどこか必死に生きている様子だった。


 私も心配して、色々配慮したが……結果はさっきも思った通り行方不明。


 もう、私では娘の面倒を最後まで見ることはできないのだろうと実感させられた。だから、私は娘が彼の旅に一緒に行きたいと言った時、進んで話をしたのだろう。


 そう、ここまでは私が個人的にやったことだ。


 本当の目的は別にある。


 それが娘が旅に行きたいと思ったことと思惑が一致してしまった。


 娘を巻き込むのは親としては失格だと思う。だが、私にもやらないといけないことがあるのだ。


 恩に報いるためにも――。


「そう、私はやらないといけないのだ――――全ては主様のために」


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