第13話 回る車輪
「で、これはどういう訳だ?」
オレは無理やり馬車の中へと放り込まれたことに不満の表情を浮かべながらファナリアを問い詰める。
「そ、その……」
ファナリアは何か言いにくそうにしているがここまでやったからには何か目的があるのだろう。オレはファナリアが言葉をひねり出すまで無言で待つことにする。
「……」
ファナリアはどういっていいのか分からないのか困った表情をしてう~んと、うなっている。
「はぁ~~」
仕方ないのでオレから話を振ることにした。
「高そうな馬車に乗っているんだな」
「え……? そ、そうね……」
「それになぜか護衛まで居る」
オレは窓の外を見て馬車の前を走っている武器を装備した人たちを見る。
「この辺りは危険なのか?」
気になったので一応聞いておく。
「……治安は悪くないわよ。でも、トシユキも知っての通り超級の魔物のドライガーが出たからには貴族なら最低はこのくらいの冒険者は雇うのよ」
「なるほどな……」
やはり、超級の魔物はそれぐらい危険な存在なわけか。今、思うとよくそんな化け物を倒せたなオレ。
「ん? まて、貴族?」
ファナリアの言葉に気になる単語が引っ掛かった。
「そういえばトシユキには話していなかったわね……」
ファナリアはしまったという表情をうかべると次の瞬間には真面目な顔つきをしてから話し出す。
「改めて名乗らしてもらうわね。私はラーズベル王国、カーティスト家長女、ファナリア・カーティストよ」
名乗った後に貴族だぞ、どうだという顔つきになるが貴族と言われてもピンとこないのでオレは黙ることしかできない。
「何か言うことはないの?」
貴族だから一般庶民はへりくだれってか? 冗談じゃない。そんなことしたくもないな。だから、オレの返事は簡潔に――。
「ふ~ん」
とだけ返しておいた。
別に貴族様が最高とか凄いとか何かに貢献しているとか聞いてもオレは同じ反応を返すだろう。
「えっと……他には?」
「いや、ほかにと言われてもな……」
ファナリアは予想していた答えと帰ってきた反応が違う様子に戸惑っているのか何時もの自分は凄いんだぞという調子が崩れている。そんな反応にオレも何を返していいのか分からず取り敢えずこの馬車に乗せられた理由を聞く。
「その……お礼というか、招待というか……」
「どういうことだ?」
ファナリアが言葉にしにくそうなのでオレの方で要約するとつまりこういうことだ。
ファナリアの親父さんが管理を任せられている領地に超級の魔物という危険な化け物が出現。緊急で対策が取られ、そこから発生するお金やら人件費やらは膨大であった。
更に助けに間に合わなかった村は多くの死人が出てその人的、金銭的被害はかなりの規模になった。そこをドライガーを倒したことによって貢献したオレにお礼をしないといけない。という訳でファナリアがオレを馬車に引きずり込んだということだ。
「なるほどな……」
微妙にしか納得していない。正直オレはそこまで素直にお礼と言われて、はい、そうですかと信じる人間ではない。何か裏があるのではないかと疑ってしまう。まあ、ファナリアがそんなことをしそうな性格には見えないが。
「とにかく、トシユキは屋敷に来てもらうことになったわ、分かった?」
「いや、オレは降りさせてもらう」
「え……? ま、待ちなさいよ!」
オレは走っている馬車から飛び降りようと扉を開けるがファナリアに袖を掴まれてしまったせいで止められてしまう。
「トシユキは私以外に言葉が通じる人はいないでしょ」
その核心をついた主張にはオレも一考の余地がある。確かに言葉が伝わるのと伝わらないのではかかる苦労が違うというものだ。
もし、言葉が通じず相手の言うがままにしてしまうといつの間にか借金をしてしまっていて気がつけば奴隷とかになっていてもおかしくない。
だからといっておいそれと返事をすることにオレは納得いかないのでまた身を乗り出して出ていこうする。だが、急にファナリアが付けていた腕輪を装備させられて動きを止めてしまう。
「何の真似だ?」
オレは突然、意味不明な行動をしたファナリアに真意を問いただした。
「これを貸してあげるからついてきて。それなら納得してくれる?」
ファナリアは口を噤んでオレの答えをゆっくりと待つ。
「分かった。付いていってやる」
「そうよね! なら、急いで向かいまし……きゃ!」
突如、馬車が揺れてファナリアが俺の方へと倒れてくる。オレはそれを受け止めたりするのではなく冷静に判断して避けた。
「いたっ!」
ファナリアが椅子の先っぽにある角の部分に頭を盛大にぶつける。
痛そうにさすっているとオレにじとっ、とした視線を向けて抗議の声をあげた。
「女の子が倒れそうになっているんだから受け止めなさいよ!」
「いや、普通自分が危なくなったら避けるだろ」
「そうじゃなくて! トシユキには思いやりとかそういうものはないの!?」
「ない」
「即答しないでよ!」
取り敢えずオレは馬を操っている人に何が起こったのか聞いてみると、街道に魔物が現れたので雇っている冒険者たちが倒すまでは足止めだという。
「なら、ちょうどいい」
冒険者と呼ばれる人たちの一般的な強さを知ることが出来るいい機会なのでオレは扉を開けて飛び降りると冒険者たちが一生懸命戦っている姿を眺めることにした。
「ちょっと! 何しているのよ!?」
「ん? いや、どれくらい強いのか見ておこうと思ってな」
ファナリアが慌てた様子で尋ねてきたのでオレは素っ気なく返すと戦っている冒険者たちの動きを観察する。
五人いる冒険者はそれぞれ前衛と後衛に別れてそれぞれの役割をしっかりとはたしている。剣を使うものは綺麗な太刀筋で魔物に攻撃し、それを受け止められると横から大男がその手に持っている巨大な斧を振り落とす。それで魔物は致命傷を受けてしまうが最後の抵抗とばかりに隙が出来た大男に攻撃を仕掛けようとする。だが、それは横から飛んできた弓によって塞がれてしまい、最後には魔法であっけなくその命を散らせる。
その後、は呆気なく進んでいく。剣で切り付け、弓で急所を狙い、またある時は魔法で倒していた。
「見事だな……」
余りにもきれいな連携に思わず見惚れていた。
だが、俺にはあることが分かってしまった。
「なあ、おまえはこいつらの強さはどれくらいだと思う?」
オレはファナリアに一般的な意見を求める。
「多分だけど……もうすぐで上級の冒険者のパーティになるぐらいだと思うわ」
「やはりか……」
オレの感覚で述べさせてもらうが間違いなくこいつらとオレとで戦ったらギリギリの勝負になるが勝てると断言できる。
確かに連携は見惚れるほど上手だろう。だが、個の力が強いわけではない。ドライガーぐらいの知能の回る相手になってくるとこんな少人数のメンバーでは勝てないはずだ。
「いいものが見れた」
オレは馬車の中へと戻っていく。
再び進む馬車に揺られながらオレはのんびりとファナリアの親父が管理している町へと向かうのだった。
★★★
「あれか……」
場所は変わってオレが訪れようとしている町――ウェストの前まで来ていた。
ここまで来るとこれまでいなかった多くの人が見え、やっと人がいる町にやってきたんだと実感させられる。
馬車の窓を開けて外を見てみるとたくさんの人たちが門の前で町に入ろうと長蛇の列を作っているのが見えた。
オレは長蛇の列を作っているのに並んで町の中へと入っていくのかと思っていたのだが、オレとファナリアが乗っている馬車はもう一つの人が並んでいない門の前で止まる。
詰所の中から鎧を付けた門番が出てきて馬車の運転手と少し話した後に、門が開き馬車は中へと進んでいく。
暗い暗い門の中を抜け、次第に明かりが見え始める。
いよいよ、町に来るんだと思うとオレにしては珍しく少し興奮してしまっていた。何とか落ちつこうと頭の中では冷静に、冷静にと繰り返しているとついにウェストの町並みがその姿を現す。
――祭りみたいだ。
沢山の人たちがひしめき合い、時には商売の競争に勝ち抜こうと言わんばかりの勢いで店の主人たちが大声を出して、客を集めようとしている。
ふと、一人の女の子と視線が合った。
だが、オレを見たのは一瞬で次の瞬間には横の人物――ファナリアを見て満面の笑みが浮かぶ。
「ファナリア様!」
女の子はファナリアの姿を見つけるとゆっくりと走っている馬車へと駆け寄っていく。
「あれ? メータじゃない。お母さんは元気にしてる?」
「うん! ファナリア様がくれたお薬のお陰でもうすっかり元気だよ!」
「そう、よかった」
ファナリアとメータと呼ばれる少女が話しているとファナリアが返ってきたという話が広まったのかあちこちから声が上がってくる。
「ファナリア様が返ってきただって!」
「あんた見な! あそこにファナリア様が!」
「おお!」
口々にファナリアへと尊敬や歓喜の声が響いてくる。
「人気者なんだな」
「別にそんなこと……はないとは言えないわよね……」
ファナリアはオレの言葉に何も言い返すことが出来ずに難しい顔をしていた。だが、オレはただの貴族の長女がここまで人に親しまれていることに少し驚く。オレのイメージでは貴族は民から税を搾り取るだけの存在だと勝手に決めつけていたからだ。
「あそこにいる男は誰だ?」
「うっ! まさかファナリア様のご結婚相手とかかもしれないぞ!」
「ええ!? お姉様の結婚相手!?」
馬車の中を見た領民たちは今度はファナリアから横にいるオレへと視線を向けて、オレが何者なんだろうかと次々に推測を述べていく。その中で結婚相手ではないのかという言葉が領民たちの中で拡散していく。
オレはうるさくなっていく周りに耐え切れなくなり窓をパタンと閉める。
ふと、ファナリアの方をみると彼女は顔を赤くして俯いていた。
そして、耐え切れなくなったのかオレの反対側にある窓を開けて叫ぶ。
「こんな最低な奴! 結婚相手なんかじゃないわよ!!」
「おい、本人が真横にいるのに最低な奴はないだろ?」
「最低よ! この数日私を雑に扱って、なおかつ貴族と知ってもさっきだって私を受け止めずに避けたでしょ!」
「まだ恨んでるのかよ……」
オレはやれやれと肩をすくめながらファナリアと言い争っているとついに屋敷へと辿り着く。
屋敷の前にも門番らしき人がファナリアの姿を見ると一瞬だけ嬉しそうな顔をした。しかし、今は仕事中でもあるので直ぐに表情を戻してから馬車へと一礼。
馬車は門の中へと入っていき、少し長い庭を抜けてから大きな屋敷の前で止まる。
「帰ってきたのね……」
馬車から降りたファナリアはその眼に複雑な感情を乗せるように屋敷を眺める。
オレもファナリアと同じく複雑な思いを抱えながらも屋敷を視界に入れる。
屋敷はレンガや石を敷き詰めた巨大な屋敷だった。茶色や灰色のバランスが会わないような色にもかかわらず職人技なのだろうか二色が綺麗に混ざり合っていた。そのあまりの圧倒する凄さと二色の建物に目が釘付けになっていると、正面にあるこれまた大きな扉が開きそこからダンディな人が出てきた。
茶髪の髪、心の底まで覗き込みそうな黒い瞳。だが、何よりも着ているフロックコートがダンディな印象を更に強くする。
そこにはかっこよさを追求した何かがあった。
だが、そのかっこいい印象も一瞬で崩れてしまう。
ダンディな人はファナリアを見ると今にも泣き出しそうな顔になり、というか、泣いたまま走ってきた。
「うぉぉおおおぉぉぉぉぉぉぉ!!」
凄い絶叫が屋敷全体に響き渡る。
そして、ダンディな人はファナリアに向かって抱き着くと、
「リア! 無事なのだな!?」
と、ファナリアが生きているのかを確認した。
「あ、あの……お父さん……」
ファナリアはとても気まずそうな表情をしてどう言葉を発したらいいのか分からずに困惑していた。
「いいのだ……これ以上私も何も言わなくていい……」
ダンディな人はファナリアが何か言いたそうなことを察したのかこれ以上は何も言うなとだけ述べる。
「でも、私……黙って出て行っちゃったから……」
ファナリアまでダンディな人の感情に影響されたのか泣きそうになっている。
「ごめんさない……」
ファナリアが何に関して誤っているのかは知らないし、悲しい雰囲気に口を出そうとも思わない。
だが、オレはこの状況でそうすればいい?
オレはファナリアとダンディな人が泣きそうな場面にどうしていいか分からず困っていると、屋敷の中から出てきたもう一人のダンディな人に似ているが爽やかな顔の茶髪のひとが近づいてきて声をかけてきた。
「トシユキさんですよね?」
ん? 初対面の人間に急に名前を呼ばれたのに警戒したオレは身体強化を使い、今すぐに戦えるように準備する。
「あ、そこまで警戒しなくても大丈夫ですよ、事前に冒険者の方々から話は聞いていますので」
オレが殺気を出したのに気付いた爽やかな人はすぐにオレの名前を知った経緯を説明する。
「なるほどな……あの冒険者たちは六人パーティだった。一人は急いでファナリアの生存を報告するために屋敷に戻っていたと」
そういえば最初は六人だったかもしれない。オレが意識したのが戦いだしてからなので一人いなくなっていることには気づかなかったのか。
「そういうことです。後、妹と父がこんなところですいません」
爽やかな人は申し訳なさそうに頭を下げる。どうやら、爽やかな人はファナリアの兄のようだ。
「そんなことはもうどうでもいい。とにかく、うるさいあいつらを止めてくれ」
オレは視線をファナリアとその父に向けると早くしてくれと兄に目で促す。
「お父さん!! ごめんなさいぃぃ!!」
「いいのだ!! もうこれ以上言わなくていいぃぃ!!」
ファナリアの兄は苦笑いを浮かべると二人を落ち着けるために間に割って入っていく。
「えっと、そろそろ……」
「お兄ちゃんもごめんなさいぃぃ!!」
「えっと……分かったからとにかく……」
「本当にごめんさない!!」
「うん、分かったからここで泣くのは止めてくれるかな!!」
兄のツッコミが青い空の下で盛大に響き渡った。
★★★
「さっきは本当にすまなかったね」
ファナリアとその親父が泣き止んだ後、屋敷の中へと案内されたオレは応接室に通され、そこでファナリアの父から謝られていた。
「終わったことはどうでもいい。それよりも話を進めてくれ」
オレの言葉にファナリアの親父はゴホンと一つ咳ばらいをすると姿勢を正し、真剣な顔になる。
「では、まずは私から自己紹介をさせてもらおう。――ファナリアの父ダーディ・カーティスト。今はここウェストで領主をさせてもらっている」
「トシユキ・アカミチだ」
まずはお互いに自己紹介をして話を進めていく。
「娘から少し話は聞いたのだが、トシユキくんがリアのことを助けてくれたようだね」
「気にするな。オレもこの辺りのことに詳しくなかったから話を聞きたくて助けただけだ」
「それでも、娘を助けてくれたことに変わりはない。この通りお礼を言わしてもらいたい」
ファナリアの親父はオレに頭を下げる。
「後、これはお礼の気持ちとして受け取ってくれると有難い」
「これは……」
渡された袋を持ち上げてみると小さな見た目に反して意外と重たかったので何が入っているのだろうと、中身を確認すると中には目を思わず目を瞑ってしまいそうになるくらいの大量の金色のコインみたいなのが入っていた。
これは本物の金なのか? とオレは触ったりして確認してみるが間違いなく金が入っていることだけは分かった。
「それはこの国の貨幣の金セルティウスだよ」
「金セルティウス、ね……」
分かりにくいと思うがオレは言葉に反してこの大量の金貨に動揺している。
前の世界にいた頃は少ない小遣いさえ貯金に回していたのでそんなに持っていないのだが、その金額を余裕で超えそうな金があるのだから動揺しない奴なんていないと思う。
簡単に言うと、百万円をポンと渡された感じだ。
「いや、流石にこの量は……」
いつもならぐいぐいと行くのだが、何かこの金には裏を感じ取り受け取るのを拒否しようと思っているとダーディはオレの言葉を塞ぎにかかる。
「本当は娘を助けてくれた恩人には少ないと思うのだが、超級の魔物の討伐に関しては少し色を付けておいただけで、それは正式な報酬と変わりない」
つまり、これはコネとかを得るためとかに渡す金ではないということか。
「受け取っておこう」
オレはダーディから渡された金貨を自分の側に引き寄せてオレが座っているソファーの横に置く。
「さて、ならお礼はここまでにして正式に話しておきたいことがある」
またしても、応接室の空気が変わる。
先ほども真剣にオレにお礼を述べていたが今はそれを超えるぐらい真剣な顔をしている。
オレは今からこのダンディな人の口から何が漏れ出すのか身構えた次の瞬間、オレは驚愕の表情を晒すことになる。
「まず、トシユキくんは――異世界人だね?」




