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幕間 ファナリア・カーティストの振り返り

 

 私、ファナリア・カーティストは成人式を終えて十五歳になった地方貴族の長女。


 貴族というと何かと関係を気にして婚姻が来たりと面倒なことがたくさんありますがお父さんであるダーディ・カーティストは私の意思を尊重してくれているのかそういう話は一切私にしてきません。


 だから私はそれに甘えてしまい本当なら同年代の人なら結婚したり冒険者に成ったりと何かを決断するはずなのになぜか家にいます。


 だから、私は迷っていた。


 結婚をして幸せな暮らしを送るのも、冒険者として活躍して自分の力で幸せになること両方とも達成が可能な立場と力がある。


 私は今日も剣を振り続ける。


 一振り一振りに私の意志を込めて真っ直ぐに振り下ろす。


「だめ……これじゃあだめ」


 私の太刀筋は今の迷いを表すようにぶれすぎている。素人が見た程度では分からないかもしれないが一流の剣士と言われるぐらいまでの到達した人には直ぐに見破られてしまう。


「私に何かできることはないのかな……」


 剣を振り終わり休憩の間に何か私にやれることはないかと探すが何も見つからない。


「冒険者をやるのもね……」


 冒険者は活躍できれば稼ぐことも可能だし楽しそうではあるのだけどその分危険はつきもの。毎年何千、何万の冒険者が死亡していると耳にする。


 私ももしかしたらその中の一人に入るかもしれない。そう思うと身体が動かなくなり、何もできなくなってしまう。


「それで結婚ってのもね……」


 見ず知らずの男の人と結婚して幸せな生活を過ごせるも結局運次第だし、お父さんがどこの貴族と精通しているのかもよく分からないし、どうしたらいいんだろう……。


 こうやって私は悩んで迷って過ごしていく内に時間が過ぎていき一か月が経った。


 そして、今日私の運命を変える出来事が起こることになる。


 私が家の中を歩いているとお父さんの部屋の中から話し声が聞こえてきた。


「そうか……あの村が襲われてしまったのか。あそこの村はリアもよく遊びに行っていた村なんだがな」

「はい……妹と仲が良かったアグネスもモニカも既に……」

「もういい。そのことは私からリアに伝える。それよりも例の魔物……ドライガーの探索はどうなっている?」

「冒険者を雇ったりして村々の警護をさせたり目撃情報が会ったらすぐにこちらに情報を回すようにいっているのですが、分かったことはワーブル森林から出てきたかもしれないということだけで……」


 兄とお父さんの話を聞いて私の頭の中は真っ白になった。


 し、死、ん……だ? 


 アグネスが……? モニカが……?


「お、お父さんどういうことなの……!?」


 私は感情の赴くままに行動しドアを行き良い良く開くとお父さんに詰め寄ります。


「聞いていたのか……」


 お父さんは気まずい表情をしていましたがすぐに何時もの顔に戻ると私に一通りのことを話してくれた。


 最近、お父さんの領で超級の魔物が発見されたと報告があり、調査させたところドライガーと呼ばれる超級の魔物だった。お父さんは急いで警告を出したのだけど既にいくつかの村が襲われていて大勢の死人が出てしまった。その中には私がよくお世話になった村も含まれていた。


 私は最後の方の話が耳に入ってこなず考えていたがこの時一つの決意を胸に秘めていた。


 私がドライガーと呼ばれる超級の魔物を倒すことを。


 すぐに準備を整え、家に書置きをして家を飛び出した。


 目指すは冒険者が探索しているであろうワーブル森林に近いエリアを。


 急いで駆けつけた私は冒険者に話を聞き、同じ冒険者として雇われたと嘘をついて探索に加わった。


 そして、以外にもすぐにドライガーと呼ばれる魔物を発見する。


 私よりも大きいからだ、真っ白い毛、人を餌としか見ていない瞳。私が初めてドライガーと相対したときはそのように感じた。


 冒険者の人たちと協力して私はドライガーに挑んだ。


 結果は酷かった。


 私以外の冒険者は全て死んでしまい、残っている私も魔力は残っているが体力がもうない状態まで追い込まれていた。


「ファナリアが願う、火を司る精霊よ、願いをここに叶え、大いなる魂を呼び、汝が敵を穿つ、火よ目を覚ましたまえ……『大火球オーバーファイアーボール』!」


 魔力を消費し私が使える超級魔法の二つの中の一つ大火球オーバーファイアーボールをドライガーに飛ばす。


 でも、ドライガーは私が十人分の大きさがある火球を避けると逆に私に見せつけるように更に大きな火球を作ってきた。


「きゃぁぁぁ!」


 私は火球の爆発に巻き込まれ川の中に落ちてしまう。


 川の中から抜け出そうと暴れるが……だめ、もう力が出ない。


 私このまましんでしまうのかな……。何もやっていないのに……。


 お父さんごめんなさい。


 必ず帰るって書いたのに帰れそうにないかもしれない。


 ごめんなさい……本当にごめ、ん……な、さ、い。


 だんだんと意識がなくなっていき私はついに目の前が真っ暗になってしまうのだった。



 ★★★




 翌朝、私は何時ものように目を覚ます。


「う、う~~ん。ん、ん、ん!? …………だ! だれ!?」


 起きたのと同時に男の人が横にいたのを見て慌ててしまう。


 男の人は黒と白が入り混じった髪に片方の目に縦に傷がついているとかなり特徴的な人だった。


 違うわ! そんなことはどうでもいいのよ!


 ベットの横に男の人と二人……。このことから私は一つのことを考えてしまう。それはその……こ、この人に襲われたのかもと。


「dt、げるfでるつyっゆb? えdなgtじぇfvgふぇ」


 男の人が何を言っているかわからない。


 そうだ! こういう時にお父さんが多言語翻訳がついた腕輪を渡してくれていたのを思い出す。


 辺りを見回すと私の横にその腕輪は置いてあったので急いで回収すると腕に装着する。


 そして、私は男の人に一発くらわしてあげるわ! と手を握り拳にするとその顔を殴りにかかる。


 私を襲ったかもしれないヘンタイには制裁が必要なのだ。


 だが、男の人は私の拳を回避すると逆に私に向かって拳を突き出して目の前で寸止めする。


 う、うそ……私は学園の中でも首席で卒業したはずなのに。


 なのに彼のパンチが見えなかった。


「何の真似だこれは?」


 男の人が声を低くして言葉を発した。


「――そ、そっれはこっちのセリフよ! なんで私の前に男の人がいるのよっ! ……も、もしかして私を連れ去ってそのまま食いものにしようとしているんじゃないの!」

「はあ? 何言ってんだ?」


 男の人がとぼけて私の話を逸らそうとしている。そんな手には引っかからないわよ。


「それよりもオレの話を聞け」

「そ、そう言って私を脅そうとしているんでしょ! そんな事には騙されないんだから!」

「あのな、話をき――」

「もし、私に、い、い、いやらしいことなんてしていたら魔法でぶっ飛ばすわよ!」


 と、こんな感じに私とトシユキと名乗る旅人の出会いは最悪だった。


 い、いやらしいことはされてなくて安心した。どうやら私の早とちりだった。


「ち、違う。下を見ろ下を」


 彼が私の剣を取っていてそれを返して貰おうとしていたら突然私から視線を逸らして私の顔の下の辺りを指さしていた。


 私は言われるがまま下を見て自分の恰好に驚愕した。


 ……服を着ていない。


 …………っ!


「な、な、な、な、な、何で私、裸なの!? やっぱりあんた私にい、いやらしいことしたんでしょ!」


 私は急いで布団代わりの布で体を隠すと彼を家の中から追い出した。


 最低! やっぱりあいつは私に何かしたんだわ! そうよ絶対に何かしたに決まっている。


 私は次に彼がここに来たら絶対にいろいろ言ってあげると考えていたのだが彼が私の服を置いて行ってからすぐさま離れていったときに気付いた。


 私の服は川から落ちて濡れているはずだったのに乾いているのだ。更に、私がドライガーと戦った時に汚れていたはずなのに何処を見ても汚れが全くないのだ。


 そこで私は理解した。


 彼は私に別にいやらしいことをしようとして服を脱がせたわけじゃないことを。彼は私の服が汚れていて濡れていて風を引いたりするかもしれないから脱がせたのだと。


 で、でも! それで服を何も着せないいのはおかしいわよ!


 彼の親切心と私の中での恥ずかしさがごちゃ混ぜになる。


 結局、彼はこれ以上私の裸を見たことも何も言わなかったし一応、誤ってもくれたので取り敢えずなかったことにしてあげた。


 でも、私は彼が裸を見たってことに関しては絶対に許すつもりはない。


 彼が用意してくれた食事を食べながら私たちは話を進めていく。


 先ずは彼が何者か聞いたのだがただの旅人としか答えずそのまま話を流されてしまう。今のご時世に旅人何て珍しいと思うが冒険者で縛られたくないという人は偶にいるので旅人ってのも不思議ではないかもしれない。


 だが、彼の話を聞いていく内に彼が世の中に詳しくなくあまり常識というものを知らないということを知った。彼がいろいろ聞いてくるので私にもできることがあるんだと思いながらも彼の質問に答えていく。本当は私の方が彼のことをもっと聞いておきたかったのだがそれはまた今度聞くことにする。


 そして、私は彼が私よりも強い意味が分かった。彼は身体強化フィジカルアップを無詠唱で使用することができ、そのおかげで普通の人よりも物凄い強いことに。


 私はそれを聞くと戦いたくなった。


 私の攻撃を軽々と避ける身体強化フィジカルアップが気になったのだ。


 私は早速彼と戦うことになった。


 私は彼の実力が見たかったので最初は何もせずに攻撃をしてくるのを待った。


 キィンと甲高い音が彼に渡したダガーと私の剣から鳴り響く。


 強い。


 私よりも力は圧倒的だった。彼に正面から挑まれていたら学園首席で卒業した私でも勝つことが不可能だろう。


 でも、私には長年剣を振り続けたことによる技術があった。私は彼の攻撃を軽々とさばいていく。


 結果、私は彼に勝った。


 かなり強い相手だった。


 私本来の力では彼に勝つことはできないことを悟り同じく身体強化フィジカルアップの魔法を使ってギリギリのところで勝てた。多分彼の身体強化フィジカルアップの強化割合がかなり高いのだろう。そうじゃないと私がここまで押されることに説明がつかない。


 私は近くの川で水浴びをして今回の戦いでの悪かったところや良かったところを分析してから彼の元に戻った。




 ★★★





 トシユキと名乗る旅人は不思議な人だった。礼儀はなっていないし、口調も荒い。私のことなどどうでもいいと言っているかのように適当な扱い。なのに、彼は時々見える優しさや弱さがあった。


 私は多分彼と数日過ごしたことで彼のことが気になる始めていたんだと思う。


 べ、別に好きとそんな意味じゃないわよ! 私!


 私自身に彼はつい先日からドライガーを倒すためになった協力関係だけと言い聞かせてから剣の指導をする。


 彼が言った契約の中に私から戦い方を教わりたいとお願いをしてきたので私はそれを受けたのだが……。彼の戦い方はかなり歪んでいた。


 一方的に力でねじ伏せて殺す戦い方と背中を向けて相手が力を使い果たすまで逃げ回る戦い方に分かれていたのだ。それもその戦い方が私との模擬戦の途中からコロコロ変わり始めるのだから尚更驚かされる。


 だから私は一言言ってやった。


「あんたの戦いぶれすぎているわ。スピードで翻弄して戦うか攻撃一点で戦うかはっきりしなさい」


 と。


 しかし、この時彼は何も答えが返すことができずにドライガーとの戦いが始まった。


「ゆるさない……みんなを、みんなを殺して私まで、私までばかにして!」


 私は暴走した。


 ドライガーは超級の魔物で知能があるせいなのかわざわざアグネスとモニカの死体を持っていて、そして二人の死体を私の目の前で食べた。


 この時、私の中で何かが壊れた音がした。


 それは黒くてモヤモヤしていて触れたらたちまち取り込まれてしまうそんなものだった。


「しね! しね! しねぇぇぇぇ!」


 私は剣を振った。


 自分の体が傷つこうとも自分がもしかしたら死んでしまうかもしれなくても。


 ただただこいつを殺したかった。


 私は私であることを忘れて殺すためだけに剣をまた振るう。


「しねぇ! しねぇ! 地獄におちろ!」


 綺麗な腕に傷がつく、血が舞って私の服を真っ赤に汚していく。それでも私は剣を振る。


 殺す、殺す、ころす、コロス!


 気付けば私は足を滑らしドライガーの爪に切り裂かれそうになっていた。


 私は死ぬんだ。


 そう意識したのも一瞬の内、私の死の運命は彼によって阻まれた。


「っ! くそったれがっ!」


 木々の中から飛び出した彼は私を抱えるとドライガーから瞬時に距離を置く。


「離しなさい! 私は! 私はっ!」


 ――あいつをころさないといけないの!


「落ち着け。何があったか知らないが戦闘の時に感情的になってはならないとオレに教えたのはおまえだろう。それなのにおまえが感情的になってどうする」


 彼の言葉に私が彼を指導していた時に教えた心構えを思い出す。確かに私は彼にそう言ったそれでも……。


「でもっ! でもっ! 私はやらないといけないの! だから離して!」


 彼の腕の中で暴れて必死に抜け出そうとする。しかし、私は彼の身体強化フィジカルアップに勝てるはずもなく彼の腕から抜け出すことは叶わない。


「おまえが誰のことを言ってるか知らねぇがまじで落ち着け」

「離して! 離してよ!」


 私はもう叫ぶしかなかった。彼の力に勝てない私は彼にただ見捨ててほしい助けなくていい私のために救わなくていいといろんな意味を込めて離して! としか言えなかった。


「嫌だね、離したっておまえは何の考えもなしに突っ込むだろう」


 彼は私の考えなんて見透かしているとでもいうようにそういった。確かにそうだった。私は何の考えもなしにドライガーに戦いを挑んでこうしてボロボロになっている。それなら、私にもまだ可能性があることを彼に伝える。


「私には魔法があるの! 超級の魔物でも倒せる魔法が!」


 私は後悔した。超級の魔物は超級の魔法で倒せると話は聞いたことがあるのだが私が使える超級魔法の一つである大火球オーバーファイアーボールではドライガーは倒せなかったのだ。もう一つの超級魔法でも倒せるかもしれないが可能性はかなり低かった。


「なるほど、おまえの言い分は分かった。なら、その超級の魔物でも倒せるっていう魔法を使ってくれ」

「それは……」


 やっぱり無理と言おうとしたのだが彼の次の言葉に対して私が返した言葉は違った。


「無理なのか?」


 彼は私に何もできない役立たずだと言われた気がした。実際には気のせいなのだがこの時私は彼に向かってこう返す。


「わ、分かったわよ! けど、魔力を捧げるのに時間がかかるから暫く耐えてもらうわ」


 彼に対して私はなぜか素直になれなかった。


 もっと甘えたりして日々を自堕落に過ごしていた私のはずなのに。


 彼は私を下すとドライガーに向かって突っ込んでいく。


 彼は強かった。私ですら対応が難しい攻撃をその高い身体能力で避け、なおかつ攻撃を与えているのだ。多分今の私が彼と戦ったら勝つことは不可能だ。それぐらい彼は私の指導を真剣に聞き物凄い短時間でものにしていた。普段は口調が悪くて、真面目に聞いているとは思えないのに。


 私が彼の戦闘を見て色々考えているうちに彼はドライガーにダメージを与えることに成功した。そして同時に超級の魔法を発動できる魔力も捧げ終わった。


 今なら確実にドライガーに攻撃が当たる。


 私はそう確信して彼を射線から逸らすと私が使える超級魔法のもう一つを使う。


「ファナリアが願う、火を司る精霊よ、願いをここに叶え、私の幻想をここに呼び覚ます、あるのはただ真っ直ぐな道のみ、火を一点に集めたまえ……『熱光線ヒートレーザー』!」


 私が使える最強の魔法、熱光線ヒートレーザーがドライガーに向かって打ち出される。


 痛みで私の攻撃を見ていないドライガーは真正面から攻撃を受けると土煙が巻き上がった。


 やった! と私が喜ぼうとするが次の瞬間私は動揺してしまう。


「う、うそよ! 超級の魔法を使ったのよ!」


 ドライガーは毛の表面に過ごし焦げた跡が残っただけでそれ以外はどこにも傷がなかった。


「ガアアアアアアアアアァァァァァァアアアアァァ!!」


 ドライガーは今までよりも大きい咆哮を上げるとその周りに数十もの火の玉が出現した。


 しまった。学園に行っていた時に超級以上の魔物が魔法を使うことが可能な存在だと習ったはずなのに今まで魔法を使ってこなかったせいでドライガーが魔法を使えることを忘れていた。


 私は何とか避けたり剣で逸らしたりしたが魔力を大量に使用したせいで動きが鈍ってしまう。そして、私がドライガーに注意を逸らしていたせいでい気が付いたらすでに目の前まで接近されていた。


 ドライガーの牙が私を噛み砕こうと開かれる。


 ああ、私は死ぬんだ。


 結局、私は何もできなかった。彼に魔法でドライガーを倒せるといったのに。


 悔しかった。


 私はいつもそうだ。何もしなくて何もできなくて何も決められなくて、ただただぼーっとしているだけの存在だったんだ。


 こんな私の命が亡くなったってどうでもいいかもしれない。この世界から役に立たない一人が消えるだけなんだから。


 もういい、私は助からなくても、救われなくても。


 だけど、だけどね……私は最後に、最後でいいからドライガーと一緒にあの世に行こうと思う。


 これ以上彼を戦いに巻き込むのはいけないことだ。彼がドライガーにつけられた傷があり復讐のために戦おうとしてもだ。


 もう彼は傷ついてはいけない。


 口調が悪かった、目つきが怖かった、誰にも心を開けようとしなかった。だからだろうか、私は彼に親近感を持った。私にも似たような経験があったのだ。学園に通っていた時、私も彼と同じ目をして一人でいた。誰も関わり合いになりたくなくて、世界に絶望してどうでもよくなった。


 だけど私には家族がいて、助けてくれる人がいた。


 だから……だから私はこの剣をドライガーに突き刺す!


 私の最後の覚悟を乗せた剣はドライガーに吸い込まれて行き喉に突き刺さり命を奪おうとした未来を彼の声が切り裂いた。


「『雪魔法スノーマジック』!」


 彼の手から雪の玉が凄い速さで生成され、彼の手からまたしても高速で雪の玉が打ち出された。


 綺麗だと思った。私は本でしか雪というものを見たことはないが、彼が生み出した雪は私の心にある靄を吹き飛ばすそれぐらいの綺麗さがあったのだ。


 ドライガーは目に雪が入ったのだろうか私を食べることを止め暴れ始める。その間に彼は私を肩に担ぐとドライガーから少しでも距離を離そうと走り出す。


「はぁ……はぁ……はぁ……」


 彼はもう息をしているのがしんどいくらいに全力で走っている。そんなことをしなくてもいい私がおとりになれば彼は逃げることができるのだ。


「はぁ……はぁ……くそっ、もっと運動しておけばよかった」

「ち、ちょっと! 何で私、肩に担がれているわけ! こんな時ってお姫様抱っことかじゃないの!」


 私の本音が少し漏れてしまう。


 ち、違うの。私が見た絵本のお話では勇者とか英雄とかがお姫様を抱っこしたりしてそれで……って私はいったい彼に何を期待しているのよ! もう忘れよう……。


「ねぇ……」


 暫くは彼が走ってから声をかける。どうしても聞いておきたかったことができた。


「なんだ?」


 彼が真剣な声で私の言葉に返事を返してくる。


 私は意を決して彼に言った。


「どうして私を助けたのよ……」


 私なんて生きていても何もできなくて、役に立たなくて、どうにもならない人だ。だからそんな私を彼はなぜ助けたのかそれが知りたかった。


 もし、彼が私のためとか見捨てていられなかったとか言ったら強引にでも降りるつもりだった。


「どうしてだろうなぁ……オレにも分らん」

「分からないっ! あんたそんなどうでもいい理由で私を助けたわけ!」


 予想外の答えに私は思わず叫んでしまう。


「まぁあえて言うなら……」

「いうなら?」


 これ以上彼は私に何を言うつもりなのだろうか。私はもうどうでもよくなりつつも彼の言葉に耳を傾けたのだが次の瞬間には何も言い返せなくなってしまう。


「自分のためだ」


 それだけ言うと彼はもう喋ることはないと言いたいのか黙って走る。


「ずるいわよ……」


 私はこう返すことしかできなかった。


 私のためじゃなくて自分のため。私なんてどうでもいいと思っている彼らしかったが、その回答は私にとって正解となりえた。


 そうだった、彼は自分のことを一番に考えて誰でもない自分のために必死で生きている。何事にも恐れず引かず今もこうして私を肩に担ぎつつも自分のために走る。


 それは私が目指した姿なのかもしれない。だから私は彼を……トシユキが気になっていたんだ。


 そう思うと心が軽くなって私の中で巣を作っていた黒い靄はあっけなく消えた。


 決めた。


 この戦いが終わったらトシユキの旅についていこう。たとえトシユキが無理だといっても私は強引にでもついていく。


 だから今は……トシユキの背中の暖かさを感じていてもいいよね。


 私が生まれて初めて尊敬した人の背中の暖かさを。




 ★★★




 ドライガーとの戦いはトシユキと前に話した七色キノコを使って決着がついた。


 トシユキは私もドライガーを倒したかったはずなのに取るような真似をしてしまったと誤ってきたのだが、私は別にそんな事どうでもよかったし、トシユキの役に立つことができたので満足だった。


 今思えば、長い長い冒険だったと思う。トシユキと過ごしたのは数日間だけなのにまるで学園で何年も過ごしているくらい長く感じた。


 そして翌朝、私はトシユキとこれからをどうするか話そうと思っていたのだが、起きた時にはすでにどこかに行ってしまった後だった。


 心配しているわけではないが数時間もの間近くを探したのだがいなかったのでどこかに行ったのは間違いない。


 結局、私もその日の内に森を抜け出すのを目指して歩きだす。もしかしたら、トシユキと遭遇できるかもしれないと思いつつ。


 森を駆け抜け、時には魔物を倒しその肉を食べて飢えを凌いで二日と少しでワーブル森林から抜け出すことに成功した。


 馬車か何か通ったら交渉して乗せてもらおうと思いつつ私は街道を歩いていた。そして、数時間もしないうちに私は馬車に乗ることができた。


 それはなぜか。


 実はお父さんが私を探すようにと冒険者に依頼していたそうだ。そして、今乗っている高そうな馬車も娘のためだと言ってお父さんが用意したものらしい。この話は私と今一緒に乗っている冒険者の人たちが話してくれた。


 馬車に関してはありがたかった。旅でだいぶ歩いていたので疲れていたからこういう高級馬車は非常に助かる。揺れが少ないし中も綺麗でのんびりすることもできるので。


 ただ、早くお父さんに報告をしないといけないらしく物凄い速さで馬車を走らせることになった。


「きゃ!」


 バランスを崩して私が前のめりに倒れた一瞬外で見覚えのある姿が見えた。


「とめて!」


 私は馬を操っている冒険者の人たちに言うのだがその冒険者は急がないといけないの一点張りで私のことなんてどうでもいいのか馬車のスピードを落とすことなく進んでいく。


「ああ! もう!」


 私はその冒険者に馬車を見えた陰に近づけるようにすると手を伸ばしてその人の首根っこを掴む。


「あんたを連れていくわよぉぉぉ!」


 私はトシユキを馬車に引きずり込もうと全力で引っ張る。


「グッ! おい離せ! 首がしまるだろうがぁぁぁぁぁ!」


 絶対に嫌。


 もう絶対にトシユキを逃がさないんだから。



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