第12話 最後の奮闘
「はぁ……はぁ……はぁ……」
オレは森の中を走り化け物からの逃走を続ける。
「はぁ……はぁ……くそっ、もっと運動しとけばよかった」
悪態を吐きつつも足だけは動す。
「ち、ちょっと! 何で私、肩に担がれているわけ! こんな時って普通お姫様抱っことかじゃないの!」
背中を軽く叩いている感じが伝わってくるが無視する。というかこんな時に我が儘とかどういう神経しているのか。
しばらくファナリアがぎゃあぎゃあ騒ぐのを気にせず森の中を駆ける。
「ねぇ……」
「なんだ?」
ファナリアのがだいぶ落ち着いたようなので返事をした。
「どうして私を助けたのよ……」
ファナリアの顔が見えない場所にあるから表情を伺い知ることはできない。だが顔が見えていたらきっと彼女は悲しそうな顔をしているのだろう。そう思いつつも彼女の言葉に返答する。
「どうしてだろうな……オレにも分らん」
「分からないっ……! あんたそんなどうでもいい理由で私を助けたわけ!」
再び後ろがうるさくなった。
「まぁあえて言うなら……」
「いうなら?」
そうだな、やっぱりあれだな。
「自分のためだ」
それだけ言うと後はもう話すことはないので黙って走る。
「……ずるいわよ」
小さく彼女の声が聴こえたが聞かなかったことにしておく。
「ガアアアアアアアアアァァァァァァアアアアァァ!」
「どうやらお出ましのようだ」
激怒している化け物がオレ達に向かって弾丸のような速さで迫ってくる。油断する一瞬で追いつかれそうだな。
「おい、魔法はまだ打てるか?」
「私? ……まだ魔力は十分あるからいけるわよ」
「なら頼む。あと言い忘れていたけど前に言っていたあれ決めたぞ」
「あれって何よ?」
「戦い方の話だ」
ファナリアがあの時オレにゆっくりとでいいから答えを出せと言われたが案外すぐに回答は出た。
「それであんたはどうやって戦うのよ?」
ファナリアが聞いてくる。あんたの生き方もしくはあんたの心の在り方は? と。
それは――。
「オレは逃げて逃げて逃げてその先に答えを求めることにしたよ。だから実際に今、逃げているわけだしな」
もう迷いはない。
オレは昔のオレも今のオレも受け入れることに決めた。
昔のオレはその当時でいいことだってあったし、今のオレだっていいところは色々ある。
だから、答えはどっちの自分も本当の自分だったということだ。
「さあ、あんたに見せてやるよ。オレの戦い方をなっ!」
準備は整った。今こそあの化け物……ドライガーを倒す!
「『雪魔法』!」
ファナリアを担いでいるのと反対の手で雪を生み出し、進路を妨害する形で小さな雪の山を作る。
「ガアアアアアアアアアァァァァァァアアアアァァ!」
小さな雪の山に突っ込む直前。ドライガーの周囲に浮かぶ炎を高速で生み出すとそのまま進路を塞ぐ小さな雪の山に突っ込んでいく。
ジュウと雪を溶かす音が聞こえた次の瞬間、ドライガーは雪の山を突き破って駆け出していた。
「ちっ、オレの魔法だと全然効果がないな……妨害頼むぞ!」
「まかせなさい! さっきは役に立たなかったけど今度こそ目にもの見せてあげるわ!」
いや、十分に凄い魔法をみせてもらったのだがな。
「ファナリアが願う、火の精霊よ、火を呼び汝を妨害したまえ……『火壁』!」
ドライガーの目の前に真っ赤に燃え盛る三メートルはあるであろう壁が出現しする。だが、ドライガーは横に移動すると簡単に避けてしまう。
「おい! 森が燃えたらどうするんだ! もっと別の魔法を使え!」
流石に落ち着いたから周りに被害を出す魔法は使わないと思っていたんだが、まさか使うとは思っていなかった。
今、使ったのが壁を出すだけの魔法だったのが良かった。もし火玉みたいな魔法を使われたらまさに地獄絵図になっていただろう。
「わるかったわね! 私だって使い慣れている火の魔法を使わないと魔力の消費効率が悪いのよ!」
「くそっ! おまえがぐちぐち言うからかなり近づかれたぞ! ……『雪魔法』!」
「魔法の照準がずれているわよ! あんたがいろいろ言うからこうなったんでしょ! ファナリアが願う、水の精霊よ、水の恵みをここに……『水球』連射!」
今度はオレの雪魔法とファナリアの水の魔法がドライガーの進路を妨害しにかかる。
「ガアアアアアアアアアァァァァァァアアアアァァ!」
ドライガーはオレの雪魔法での妨害をその高い身体能力で避けると、ファナリアの攻撃に関しては火の玉をぶつけることで相殺する。
「もうすぐそこまで来ているわ! もっと速く走りなさいよ!」
「分かってるよ! オレだって身体強化をした状態で全力で走っているんだ! これ以上無茶言うな!」
「言うわよ! じゃないと私たち死んじゃうのよ!」
「ああ! 分かってるよ! なら、身体強化に集中するから更に魔法で足止めしてくれよ!」
オレは雪魔法を発動することをやめると、雪魔法に回すはずだった魔力を全て足に集中させて強化する。
「しっかりと捕まってろよ!」
オレは一応ファナリアに確認を取ると全力で駆け出す。
「きゃっ!」
森を駆け抜ける。
時には邪魔になる枝をダガーで素早く切り、道がなかったら壁蹴りの要領で木を蹴って無理やり道を作ってひたすら走る。
「はぁ、はぁ、はぁ……おい、ドライガーとの、距離は、どれくらいだ」
「少し不味いわよ、だんだん近づいてきているわ。私の魔力はまだまだ持つけどあんたはどうなの?」
「結構やばい。後二十分ぐらいで魔力がつきそうだ」
「なら、ここで私を降ろして。私がドライガーを引きつけておくからその間にあんたは逃げて」
逃げてと言ったところでオレは首をかしげる。
「逃げろって……オレがそんなことするわけないだろうが」
「だってあんた逃げて逃げて逃げるって言っていたじゃない」
確かにそう言ったがファナリアは意味を勘違いしている。
「あのな、オレの逃げるとあんたの思う逃げるの意味は違うぞ。オレは逃げるとは言ったがそれはあんたを見捨てて逃げることじゃない」
「でも、逃げるってのは明るいことで使う言葉じゃないわよね」
「確かにそうだが……ちっ、話はここまでだ」
化け物が更に接近してきたので走ることに集中する。
「ファナリアが願う、土の精霊よ、土の手を呼び寄せたまえ『土の手』」
地面から大小さまざまな手がドライガーの毛を掴んで引っ張る。ドライガーは足を止め、圧倒的な力で土の手を破壊した。
「初見の魔法は対応に時間がかかるか……あと、どの位の種類が使える?」
「火の魔法を除いたらあと数種類だけしか使えないわ」
「そうか、それだけあれば十分だ……『雪魔法』」
ファナリアが使ったみたいな方法でオレも雪の手を多く作りドライガーの毛を掴ませる。だが、ドライガーは雪の手に反応することすらなく走った風圧だけで軽々と粉々にしてしまう。
「オレの魔法弱すぎだろ……」
魔法を貰えると期待したのになぜオレはこんなにも弱い魔法を貰ったんだ。
「ねぇ……あんたの使ってる魔法ってもしかして固有魔法?」
「ああ、そうだ。それが何か?」
なんだかオレの魔法弱すぎだと笑われているように思えて最後の言葉は少し怒気が混ざってしまう。
「そう……分かったわ」
ファナリアはそれだけ言うと黙ってしまった。
何だったんだ?
「はぁ……はぁ……はぁ、ちっ、オラッ!」
遂にドライガーに追いつかれてしまいオレはダガーでの戦闘に移行する。
「『雪魔法』」
固有魔法のお陰で魔法を使わなかったと時よりも戦いやすかったが、やはりファナリアを抱えた状態では戦いにくい。
「あんた離しなさいよ。抱えていたら邪魔になるでしょう」
「いや、まだ離さん」
オレはドライガーの攻撃の威力を利用して後ろに下がり時間を稼ぐがそろそろ身体強化の効果がなくなりそうになり段段と追い詰められていく。
もう少しだ。
もう少しで勝つ方法が見つかるんだ。
「ぐっ! ゲホォゲホォゲホォ」
ドライガーの攻撃を正面から受けてしまい宙を一回転してから地面に叩き付けられる。叩き付けられるのと同時にずっと離さずにいたファナリアを離してしまう。
違うな離してしまったのではなく離したんだ。
「さて……そろそろ終わりにしようじゃないか化け物」
オレは近くに生えてあったあるものを掴んで立ち上がる。
「おい、あんた見とけよ。これがオレの最っ高の戦い方ってやつをな」
オレはファナリアにそう言い残すとドライガーに向かって走り出す。
これはオレが死ぬか、ドライガーが死ぬかの運命を決する勝負。
「絶対負けるわけにはいかねぇな!」
「ガアアアアアアアアアァァァァァァアアアアァァ!」
ドライガーが周囲に火の玉を浮かべオレに向かって一斉に発射してくる。
「オラッ!」
オレは身体強化で強化した拳で火の玉を打ち落として距離を詰めていく。
「ガアアアアアアアアアァァァァァァアアアアァァ!」
今度は火の玉を一つに集中させオレに照準を定めてから打ち出される。
「邪魔だぁ!」
ここで逃げるわけにはいかない! オレは残りの魔力のほとんどを身体強化に使い巨大な火の玉にダガーを打ち付ける。
「グッ! グッッッッッッッッッ――!」
何とか止めることには成功したがドライガーはオレが抑えている間に魔力を更に火の玉に注ぎ込んでいるのか受け止めた時よりもさらに巨大になってオレは少しづつだが元の場所に戻されそうになる。
まだだ! 魔力はまだある。まだ終わっていない!
「オラァ!」
ダガーを正面からぶつけるのではなく少し角度をずらすことにより巨大な火の玉は空の彼方へと飛んでいく。
「ガアアァァァアアアアァァァ!」
「オラッ!」
ドライガーの正面まで来たオレは鋭い爪から繰り出される連撃を避けてさらに目の前まで近づく。
「ガアアァァァアアアアァァァ!」
牙が届く範囲にまでオレが接近したからなのかドライガーは口を大きく開けオレを飲み込もうとする。
「この時を待っていたんだ!」
オレはすかさず手に持っていたあるものをドライガーの口の中に放り込む。しかし、ドライガーの口の中に吸い込まれるはずだったあるものは空中で突如方向を転換すると地面へと落ちていく。
「なっ!」
まだ足りないのか……。
ここまでやってまだ……。
「なら! 最後の魔力をもっていけ!」
オレは魔力を絞りに絞り出しドライガーに向けて最後の言葉を口にする。
「『雪魔法』!」
オレが放り投げたあるもの――紫色のキノコが雪の威力に押し出されるとそのままドライガーの口に入っていく。
「ガアアアァァアアアアァァァ!」
間一髪の所でドライガーの牙を避けたオレは紫のキノコを飲み込んだのを確認すると少しだけ後ろへと下がった。
…………。
……。
ビクッとドライガーの身体が跳ねる。すると、ドライガーの目に光が消えていき身体を支える力がなくなりそのまま崩れ落ちていった。
「……」
オレはドライガーが死んだのを確認する。
「…………呼吸はなし、脈も止まってる」
ドライガーはオレが近づいてきても何の反応も示さなくなっていた。
「お、終わったの……?」
遠くで見ていたファナリアが恐る恐るオレに聞いてくる。
終わった、か……確かにその通りなのかもしれないな。
「ああ、終わったぞ……全てな」
オレはドライガーの死体に背中を向けるとファナリアに向けてそう言った。
★★★
ドライガーとの対決が全て終わりオレは一週間以上世話になった小屋から旅に必要なものを整えて朝早くから出ていく。
「もう、ここには戻ってくることはないんだろうな」
おんぼろの何もない小屋だったが返ってシンプルで良かったのかもしれない。そんな感想を思ってから小屋から徐々に離れていく。
ふと、朝何も食べていなかったのを思い出し懐からいかにも毒が入っているだろうと思われる緑色のキノコを取り出すと一口で食べる。
説明していなかったのでこのキノコについて説明しておこうと思う。オレがこの世界に来た当初に見つけたこのキノコ……実はかなり貴重な素材だったのだ。七色キノコと言われており赤は魔物を呼び寄せる効果を、青は魔物を遠のける効果を、今、食べた緑は魔力を回復する効果を持っているのだ。
そして、オレがドライガーに食べさせた紫のキノコは即効性の毒があり食べて数秒で死んでしまうのだ。
ファナリアを抱えて逃げていた時に彼女から事前に七色キノコのことを聞いていたからこそ、この作戦が思いついた。
一番後悔した点は紫のキノコが危なそうだと思ったので収穫するのをやめてしまった点だな。そのせいでオレはドライガーを七色キノコが生えていたあの場所まで連れていく羽目になってしまったのだし。
まあ、終わり良ければ全て良しだな。
オレはドライガーを殺すことで満足することも出来たしファナリアもドライガーが死んでスッキリとした表情をしていた。ドライガーが何をしたのかは知らないがファナリアがあそこまで恨むほどの相手ということはよっぽど醜いことをしたんだろうな。オレには関係ないしどうでもいいが。
ちなみにファナリアはあの小屋の中に置いていった。
契約も終わったのだしオレとこれ以上一緒にいるのも意味がない。なので付いてくると言われる可能性もふまえて早朝に……彼女が寝ている間に小屋から出ていくことにしたのだ。
ファナリアなら一人でもこれからどうにかなるだろう。
オレよりもこの世界のことを知っているし、自分が置かれている状況くらいはしっかりと分かっている人間だしな。
「…………」
道なき森を方角を確認しながら進んでいく。ファナリアから町までの距離は遠いがこのまま北に行くと二日ぐらいあれば街道に出れるということらしい。
森の中で生きていくのもありだと思ったがやっぱり人里があるところに出てもう少しこの世界で情報を得たい。これからどうするとか何も決めていないのだし気楽に旅をするのもいいかもしれないな。
★★★
三日が過ぎた。
ようやくオレはファナリアに聞いた通り街道と思われる場所に出ることになった。
二日ぐらいで見つける予定だったのだが彼女の案内なしに一人で探していたので一日タイムロスをしてしまった。
「さて……どっちに進もうか」
途中の森から抜け出してきたので道は二つある。右に行くか左に行くかが。
「左にするか」
何となくで選ぶとオレは街道をのんびりと歩く。
取り敢えず服とかを購入したい。
この世界に来た時の恰好のまま二週間も過ごしてきたのだがいろいろ困っているのだ。
ファナリアの服装を基準にしてオレの恰好を分析するが旅をするには向いてない服過ぎる。
だから、馬車か何か通るかもしれないし、もし見かけたら商人とかに話をしたい。
最悪、オレには身体強化もあるので油断さえしなければ強奪も可能だ。出来れば穏便に済ませるし迷惑もかけないように必要最低限の物しか奪わないようにするがな。
「……」
数時間ぐらい歩いていると後ろからゴロゴロと何かが転がる音が耳に響いてきた。
「ん?」
後ろを見ると一台の馬車が物凄い速さでオレのいる所へと迫ってきていた。よく目てみると貴族とかが乗っていそうな高そうな馬車だった。
「おいおい、こんな所でスピードを上げすぎだろ」
どういう理由かは知らないが迷惑なのでやめてほしいな、と思いつつも街道の端によることにより道を譲る。
「ん? 何か近づいていないかあれ?」
二頭の馬が片方が間違いなくオレに近づいてきている。
身体強化でもして止めてやろうかなと考えたが突如横に取り付けられていたドアがバタンと開き中から出てきた人物を見て考えを改めた。
「あんたを連れていくわよぉぉぉ!」
ドアを開けた人物――ファナリアがオレの首根っこを離してたまるものかというぐらい力強くつかんでくる。もちろんそうしたら馬車が物凄い速さで進んでいるのでオレの首はしまってしまう。
「グっ! おい離せ! 首がしまるだろうがあぁぁぁぁぁぁ!」
どうやらオレとファナリアとの関係はまだ終わらないらしい。




