部屋に憑りついた不思議な同居人
この作品にはホラー(?)の要素が含まれています。
ホラー系の言葉が出ただけでも気絶するような人はブラウザバックをお勧めします。
小さいころから人には見えない何かが視えていることにはなんとなく気づいていた。
顔に目と鼻と口が存在しないのっぺらぼう。その姿を見た人は死ぬと言われている八尺様。世間一般的には都市伝説とされている妖でも視える側の人からしてみれば決して脅威ではない。
彼らだって人並みの心は持っているし人間と共存していくには申し分ないほどに優秀だ。
中には人に悪さをする困った妖もいるが、それはほんの一部。大抵の妖は俺たちのことを歓迎してくれるし、実際に話してみても気さくな人たちばかりで仲良くなるのにそう時間はかからなかった。
今では裏山に住んでいる鬼の宴会にも呼ばれる始末。自慢ではないが、人間の知り合いよりも妖の知り合いが多い自信がある。
「あの、そろそろ出ていってくれませんかね。ここは僕の家なんで」
「いやよ、ここは私の家でもあるんだから。私が先に住み着いていたんだし、あなたが出ていきなさい」
だが、まさかここに来て一番やっかいな妖に会うことになるとは思ってもいなかった。
最初はただの幽霊かと思って相手にしていなかったが、一向に成仏する気配もない。もしかしたら地縛霊の類なのかと思っていれば平気で夕飯の買い物についてくる。
知り合いの妖に話を聞いてもらってもそんな妖は聞いたこともないっていうし、幽霊というよりも実体のない人間と言った方が当てはまっているようにも思えた。
そんなおかしな幽霊と同居を続け始めてすでに半年が経っているのだが、未だに彼女は成仏しようとしないし出ていく様子もない。
別に彼女がこの部屋に住み着いているからといって困ることはなにもないが、ここで会ったのも何かの縁。
彼女がこの世界に居続けている元凶を一刻も早く取り払って、清々しい気持ちで成仏してもらうのが当面の目標だった。
「……分かった。それならこっちにも考えがある。おまえがどうしても出ていきたくならこっちから強制的に追い出してやる」
「強制的にって……、私を成仏させようとか考えてるわけ? やめときなさい、時間の無駄だから」
「そんなのやってみないと分からないじゃないか。逃げ出すなら今のうちだぞ」
「はいはい。やれるもんならやってみなさい。私はずっとあんたに付きまとい続けるわよ」
挑発じみた言葉についつい乗せられ、俺は様々な方法で彼女を成仏させようと試みた。
幽霊には塩が効くらしいと聞いたことがあるので彼女に投げつけてみた。
後片付けが面倒だから今すぐやめろと怒られた。
厄払いで有名なお寺まで御札をもらいにいった。
テーブルの上に置いてたら幽霊が代わりに張ってくれた。
お経を唱えたら勝手に成仏すると聞いて本屋でお経の本を購入してみた。
漢字しか書かれていないこの本をどう読めばいいのか分からなかったので彼女にふり仮名を振ってもらった。
他にも除霊師さんを呼んでみたり部屋にお香を焚いてみたり、インターネットに書かれている嘘かホントかも分からないよな除霊方法も試してみたが、全て失敗に終わった。
いくら彼女を成仏させようとしてもまったく成仏してくれそうにない。完全にお手上げ状態だった。
「くそ。いつになったら成仏するんだよ」
「だから言ったじゃない。無駄だって」
「ならどうやったら成仏するのか教えてくれよ。お前だって早く成仏したいだろ」
「別に。このままここに憑りつくのもありだと思うけど。なんならあなたが死ぬまで憑りついてあげようか」
「勘弁してくれよ……」
その後、部屋に憑りついていた幽霊は彼の最後が訪れるまでずっと憑りついていた。
これは、とある御礼によって生まれた幽霊の物語。