魔帝陛下、異世界へ旅立ちを決意する
地球と瓜二つの星、大海に囲まれ資源や自然に恵まれた列島に3000年近く続く魔族の国家、光魔帝国。
その第128代魔帝ヤツヒトを知らぬ者は周辺国家には居ない。周辺諸国から微笑む狂気と称され恐怖の代名詞である魔族を統べる覇者であり、若干14歳で帝位を継承したという事実によるものが大きかった。
だが、その治世も6年で未曾有の繁栄から奈落の底へと突き落とされたのである。
それから1年、物語はここからはじまる。
魔帝歴2677年秋 帝都帝宮
「余は魔族臣民の耐乏を憂いておる。故に臣民を救うため異世界に出稼ぎに行って参る」
心地よい秋風が帝宮に吹き込んでくる……窓にあるはずの美しいステンドグラスは何処かに持ちされられ隙間風どころではない……ある日、余は前々から考えていたことを臣下に伝えた。
「陛下、異世界だなどと恐ろしい世界に陛下をお一人向かわせるなど出来ませぬ、何卒お考え直しください」
「そうです。陛下が居られぬなど臣民が動揺致します」
忠臣たちは口々に反意を唱える。想定通りだ。
「では、卿らは臣民の艱難辛苦に如何に報いる?述べてみよ」
忠義篤き者と言えど、光魔帝国の現状を知らぬ訳がない。この国難を彼らとて是認しておるわけではない。むしろ、この国難に立ち向かいよく働いてくれている。
「恐れながら、我らの働きを持ってしても国難を覆すに至らず……」
「卿らの働きはよう知っておる。故に卿らは我が帝国に残りその身の為すべきことを果たせ」
「陛下お一人は我らとしては認められません。私めをお連れください」
「ならばアカツキ卿、卿のみを連れて行くとしよう、ついて参れ」
「ははっ」
近衛師団長であるアカツキ卿トモシゲを連れて行くことにしたが、だが……。コイツ、何か役に立つのだろうか?確かに近衛師団長を任せているだけあってその統率力、個人武力は抜群であるが……。
「陛下、出立される前に地下迷宮の賢者の元へ参られては如何でしょうか?」
「ふむ……。だが、奴は誰にも会おうとせぬ。余も一度も会ったことがない、会ってくれるだろうか?」
地下迷宮の賢者……建国以来永遠の生命を得て地下迷宮に篭っているそうだ。全く何をしているんだか?建国の英雄の片割れならばこの国難を救ってなんぼだろうが。
「……陛下、賢者はあの一件以来度々帝都へ出向かれているとか……」
「賢者は何をしておるのだ?」
「……なんでも布地などを買いに出掛けているとか……」
賢者が布地?妙なことだ。それも引きこもりが何をしているというのだろうか……。
「まぁ、よい。彼の者に聞けばよいであろう。卿らは職責を果たせ、行くぞアカツキ卿」
マントを翻し地下迷宮へ向かうことにした。